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第五章 獣人国編

第142話 反乱分子

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開戦間近

ソウはヒナ達をゲラン軍から脱出させるための計画を練ったが、その計画はヘレナ側に漏れていた。

宮廷医師のラナガがヒナの心を探り、脱出計画をヘレナに伝えたのだ。
レン達から脱出計画を知らされたツネオは疎遠になっていたリュウヤを誘う。

ツネオのリュウヤに対する感謝の気持ちをリュウヤも素直に受け取り、リュウヤも脱出計画に加わるが、集合場所に向かう途中、アキトとヘレナに捕まってしまう。

ヘレナが陣頭指揮を執る。

「さぁ捕獲に行きますよ。アキトさん。兵を指揮してあの山を包囲して下さい。それとリュウヤさん。ソウと出くわしたら、貴方も戦うのですよ。そのゴミ虫君の為にもね。」

「わかった。・・・」

ツネオはリュウヤに付き従っている。

騎馬に乗ったアキトがヘレナに近づく。

「ヘレナさん。包囲完了しました。」

ラナガが兵に号令をかける。

「松明点せ、ソウに気をつけろ。」

一斉に松明が灯る。

目の前の開けた場所にヒナたちの姿を見つけた。
レンが剣を抜く。

「おや、おや、レン君。その剣で僕と戦うつもりですか?良いですよ。でも貴方は犯罪者なので手加減しませんし、僕のファイヤーボールは他の人にも当たると思って下さいね。フフフ。」

レンは、ためらいつつも手に持った剣を下ろした。

「そうそう。賢いですね。さて後はソウ君ですが、どこに隠れているんですか?」

アキトは無闇に巨大なファイヤーボールを投げつけた。
轟音と共に周囲の立木がはじけ飛ぶ。

その間に兵士がレン達全員を縄にかけた。

兵士がヘレナに駆け寄る。

「脱走者の捕縛完了。周囲には誰もおりません。」

「わかったわ。一度指揮本部へ引き上げましょう。周囲の警戒を怠らないでね。アキトさん。捕虜の側を離れないでね。」

「了解しました。」

アキトはヒナとイツキの後ろに付く。

「逃げないでね。捕虜君。♪」

レンはヘレナのすぐ後ろを縛られたまま歩かされている。
ヘレナの横には自由に歩くリュウヤとツネオが居る。

「ツネオ」

レンがツネオを呼ぶ。
ツネオが振り返る。

「ツネオ、お前よくも裏切りやったな。オイ。」

ツネオは裏切ってはいない。
それでもレン達の目から見ればツネオとリュウヤは裏切り者だ。
レン達の目にはツネオとリュウヤがアキトとヘレナを連れてきたように見える。

「ツネオじゃねぇ。俺だよ。レン。」

リュウヤがレンに言い返した。

「リュウヤ、なんで裏切る。」

「裏切る?俺は元々お前達の仲間じゃねぇ。お前達が勝手にそう思っただけだ。俺は生き残りたい。だからツネオを利用しただけだよ。」

リュウヤにも今の状況がツネオにとって相当不利なのはわかっていた。
リュウヤはどうせ嫌われ者の自分だから、せめて友情を取り戻したツネオのために悪役に徹しようと決心したのだ。

「リュウヤ。」

ツネオがリュウヤを見上げる。

「いいから、お前は黙っていろ。」

レン達はゲラン軍指揮本部へ連行された。

指揮本部にはゲラン第二師団師団長「テンポル将軍」第一大隊長「ユガル大佐」第二大隊長「シュンダイ大佐」第三大隊長「ミハイル大佐」が待っていた。

ヘレナは一歩進み出た。

「テンポル将軍、先に話したとおり反乱分子を確保致しました。」

テンポルがレン達をねめつける。
テンポルは人族だが、その姿はオーク族に近い。
軍服を突き破りそうな程に腹が出て、木製の椅子が今にも壊れそうにギシギシと音を立てている。

「ほう。こいつらが敵と通じた反乱分子か。まだあどけない顔をしておるのにのぅ。恐ろしい。」

レンもイツキもヒナも、「反乱分子」という言葉に反応した。

「反乱分子だなんて・・・」

イツキが反論をしようとした。
そのイツキをラナガが思い切り殴った。
イツキは口から血を吹き出しながら、その場に崩れ落ちる。

「誰がしゃべっていいと?」

「イツキ!!」
「イツキ君!!」

ラナガがヒナに平手打ちをした。

「発言許可は与えていませんよ。」

ヒナはラナガを見返した。

「ラナガ先生。・・なぜ。」

ラナガは豹変していた。

「私はゲラン国宮廷医師であり、ヒュドラ教の信者です。異教徒に軽々しく呼ばれたくないですね。」

ヘレナがラナガに向く。

「ラナガ、お手柄です。よくこの反乱の芽を見つけてくれました。ラグニア様もお喜びでしょう。」

「はい。聖なるヘレナ様。」

ヘレナは師団長に歩み寄る。

「師団長殿、これらの反乱分子はジュベルと内通するソウ・ホンダと示し合わせて、ゲラン国やヒュドラ教徒への反乱を企てておりました。証拠はここに。」

ヘレナがラナガに合図するとラナガはレンから取り上げた「手紙」を師団長に手渡した。

「その手紙によれば、ソウ・ホンダはヒュドラ教の敵対勢力となるべく、人員を集めております。ここにおる者は、その反乱分子に加わるべく画策しておったのです。」

師団長は立ち上がった。

「なるほど。よくわかった。それでは戦時下における即決裁判を開始する。」

各大隊長、ヘレナ、ラナガ、アキトが直立不動になった。

「では判決を申し渡す。」

レン達は全員師団長を見た。

「判決って?」

つぶやいたレンを衛兵が殴った。

「黙って聞け、馬鹿者。判決を言い渡す。全員死罪、以上。」

判決を聞いた二組のヤマダが師団長に詰め寄る

「ちょっとまって。」

ヤマダの勢いに衛兵が持っていた引き綱が手から離れた。
と、第三大隊長のミハイル大佐がサーベルを抜き、ヤマダを一刀のもとに斬り捨てた。

ヤマダの胸から血しぶきが吹き上がる。
ヤマダは自分の身に何が起こったかわからないようだ。

「え?何?・・・」

ヤマダはその場に崩れ落ちた。

「キャー!!」

ヒナが叫ぶ。
そのヒナの口をラナガが塞ぎテントの外へ引きずり出した。

「ミハイル君。テント内が汚れるから外で始末しなさい。」

ミハイルは師団長に敬礼した。

「はっ、失礼致しました。」

ミハイルが衛兵に合図をすると残ったレン達も外へ連れ出された。
テント内に残ったヘレナが師団長に近づき何かを手渡した。

「師団長殿、恒例によりまして死刑囚をヒュドラ教が購入したく存じます。よろしくお願い致します。」

「うむ。心得ておる。ヒュドラ様の供物にするのであろう?これとは別に代金は国庫へ納めるように。」

師団長は重みの有る革袋をポンポンと手玉にした。

「はい。ありがたき幸せ。罪人の一部は実験に使います。一部は奴隷と致します。」

「金を払えば、お前達の物だ、自由にするがよい。」

テントの外ではレンが衛兵にあらがっている。
リュウヤとツネオは何も出来ず、その様子を見守っている。
レンが衛兵相手に暴れた時、野球ボールのような球がレンの懐から転げ落ちた。
リュウヤは自分の足下に転げてきたその球を拾い、そっと自分の懐にしまった。
レンはなおも暴れる。

「いきなり死刑なんて、おかしいだろう。ちゃんと裁判にかけろ。オイ!!」

ヘレナがテントから出てきた。

「うるさいわね。裁判ならさっき済ませたでしょ。文句言わないの。」

口から血を流しながらイツキがヘレナを睨む。

「あんなの裁判じゃ無い。弁護もなければ本人の陳述さえないじゃないか。」

「あら、頭のよろしいイツキさん。軍事法典をよく読みなさい。戦闘行動中の兵士の非行については、その隊の責任者と大佐以上の階級に有る者、3名の合議によって即決とする。という一文があるでしょ。今は部隊行動中、正式裁判なんてやってられないのよ。わかった?死刑囚のイツキ君。」

イツキは頭の中の軍事法典を思い出していた。
確かにヘレナの言うとおりだった。

「それじゃ、僕らは・・・」

「そうね。今この場で死刑にしても良いし、奴隷兵として働いてもいいわよ。どうする?選ばせてあげるわ。ウフフ」

レン達は今しがた同級生の死刑を目前で見ている。
恐怖で心が縮んでいる。

アキトが進み出た。

「あ~あ。ヤマダ君、死んじゃったね。本田君なんかにそそのかされちゃってさ。可愛そうにね~。元同級生の僕からもヘレナさんにお願いしてあげるから。皆からもお願いしてみたら?奴隷にしてくださいとね。」

「アキト、お前って奴は・・・クソ」

「なーに?レン君。君も本田君と関わらなきゃウタさんと幸せになれたかもね。」

「・・・なんで・・」

「なんで知っているかって?そりゃ君たちの態度見ていればわかるさ。相思相愛でよかったね。もっとも、もう終わるけど。」

「アキトさん。そのくらいにしておきましょう。時間があまり無いです。さぁどうしますか?みなさん。」

レン達にとっては苦渋の選択だ。
今までレン達は奴隷の末路を沢山見てきた。
この世界において奴隷になることは死よりも辛いことかも知れない。
プラブハンの港からブテラの街まで船で運ばれる奴隷の姿や、塩田でこきつかわれる奴隷を何度か見かけた。

いずれの奴隷も生気なくただ生きているだけ。
主の命令によって自らの命をも捨てる場面さえあった。

「もう時間です。全員死刑でよろしいわね。」

「まって・・・待って下さい。」

3組のユキムラが手をあげた。

「なにかしら?」

「奴隷にして下さい。」

「聞こえないわ。フフ」

「奴隷にして下さい。どうか僕を奴隷にして下さい。」

「僕も」

「俺も」

2組のハゼヤマ、ナガノが手をあげた。

「いいわよ。」

ヘレナは3人の頭に手をかざして何かを念じた。
3人の外見に変化はないように見えた。
だが、腕には二本線の入れ墨が入っている。
その入れ墨を確認して3人の縄を解いた。

ヘレナはリュウヤとツネオに向いた。

「貴方達は・・・リュウヤさんと争うのは面倒そうだから、また次回にしましょう。でも私の言うことは聞いてもらうわよ。ウフフ」

ヘレナがレン、イツキ、ヒナに向いて問いかけた。

「さて、貴方達はどうするの?」

「殺せよ。」

レンは目を閉じた。

「レン君!!」

イツキが叫ぶ。

ヘレナが詰め寄る。

「まぁ、驚いた。死ぬのよ、貴方。本当に死ぬのよ。もうご飯も食べられないし、恋愛も出来ない。いいの?本当に?」

「ああ、かまわない。俺は奴隷として生きるより、死を選ぶ。誰か、誰か生き残ったら伝えてくれ。俺はウタが好きだった。それだけ伝えて欲しい。・・・盛大なフラグ立てちまったな。アハハ」

「わかったわ。でも希望を聞いてあげるのは、しゃくに触るわね。やっぱり気が変わったわ。後で殺すけどまずは奴隷ね。」

ヘレナはレンの頭に手をかざした。

「やめろ!!」

ヘレナが手を話して言った。

「レン、良いと言うまで黙っていなさい。」

レンは何もしゃべらなくなった。
「なんだ。何を言っても結局奴隷にされるんだ。・・好きにすれば?」

イツキが開き直った。

「ええ、好きにするわよ。」

ヘレナがイツキに手をかざす。
イツキにも二本の入れ墨が入った。

「さぁ、貴方が最後ね。ヒナさん。」

ヒナは何も言わずにヘレナをにらみ返す。

ヘレナがヒナの頭に手をかざす。
黒い魔力の触手がヒナの体全体を包み込んでいる。
なぜだかヘレナの顔が苦しげだ。

「む。・・・くっ・・・」

ヒナの腕は白く透き通ったままだ。
ヒナはヘレナの魔法に抵抗している。

「ヒナさん、さすがね。でも抵抗はやめなさい。私の魔力を素直に受け入れないならお友達が傷つくわよ。レン、イツキを殴れ。」

レンが右手でイツキを殴った。
イツキは地べたを何回か転げて、また元の位置に戻った。

「やめて。受け入れるから。お願いやめて。」

「そうですよ。素直になさい。」

ヘレナが再度手をかざす。

ヒナの腕に二本の入れ墨が入った。

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