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第五章 獣人国編

第147話 男子禁制

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飛行機が墜落して一年半、離ればなれになっていた旧友達と、ようやく再会できた。
ライベルの戦場で、いまにも戦死するところだったツネオとリュウヤ、そしてレンとイツキ。

リュウヤは予定外だったがリュウヤだってクラスメートだ。
リュウヤに関しては、いろいろあって憎々しいとは思っていたが、やはり命が危ないとなれば話は別だ。

それに落ち着いて話を整理すれば、レンの窮地を救ったのもリュウヤのようだ。
リュウヤが機転を利かせて救命ボールのスイッチを入れなければレンは死んでいただろう。

俺達は大神村に設置したビルの一室に集まっていた。
リュウヤ、ツネオ、レン、イツキ、ドルムさんだ。

エリカ、ブルナ、ドランゴさん、テルマさんは戦場から運び込まれた怪我人の世話をしている。

これだけの同級生が集まるのは、俺にとっては久しぶりだ。
皆の顔を見渡しながら俺が言った。

「みんな久しぶりだ。いろいろあったが、なんとか無事再会できた。まだ救い出せてない同級生も多く居るが、今はここに居る者の無事を喜ぼう。」

レンとイツキが頷く。
ツネオとリュウヤは少し下を向いている。

「さてこれからの事だが、今後俺はヒナを探す。もちろんウタや他の同級生も出来るだけ救助しようと思っている。」

リュウヤがこちらを向いた。
「ウタ達は安全な場所にいるはずだが?」

ウタ達はゲラニの修道院に居ることは知っていたが、それでもヘレナの管理下にいることは間違いない。

「ああ、修道院にいることは知っている。でもヘレナの管理下だから、いつ命を奪われてもおかしくない。」

ツネオもこちらを向いた。

「どうしてヘレナがウタ達の命を狙うの?」

「神石だ。魔力の元とも言える。それを取り出すには殺すしか無い。ヘレナは、この世界に来て魔力の高くなった俺達に目をつけたんだ。いずれ神石を取り出すつもりでな。」

イツキが反応する。

「僕達は、自分の意思でゲラニまできたつもりだったけど、結局はヘレナに誘導されていたんですね。」

「そうだ。俺はブテラの教会でグンターとヘレナがお前達を殺すかグンターの兵士にする計画を知った。そしてダニクと戦ったんだ。」

レンが問うた。

「ソウがダニクを殺したのか?」

「いや、戦ったが殺してはいない。ダニクもヘレナの奴隷で、いやいや動いていたんだ。それを知った俺がダニクの奴隷化を解除した。そしたらヘレナがダニクを殺して神石にしたんだ。あとは皆が知ってのとおりだ。」

リュウヤが頭をさげた。

「スマン。知らなかったんだ。俺はてっきり・・」

「いいよ。済んだことだ。気にするな。」

リュウヤはヘレナに感化されて俺を敵視していたことを謝ったのだろう。

ドルムさんが黙って俺達を見ている。

俺はドルムさんを向いて言った。

「ここに居るのは、俺の仲間、家族とも言えるドルムさんだ。今まで助け合って生きてきた。仲良くしてくれ。」

レン、イツキ、ツネオ、リュウヤが一斉に頭を下げた。

「「「よろしくお願いします。」」」

ドルムさんは少し照れた。

「あ、ああ、よろしく。ドルムだ。気楽に呼んでくれ。アハ。」

「他にも紹介したい俺の仲間が何人かいるが、おいおい紹介することにする。」

それから俺達は今後の事を話し合った。
その結果、優先すべきはヒナやウタ達の救出だ。
一度ゲラニへ行ってヒナの行方を捜すと共にウタ達の救出をすることになった。

ウタ達を救出するにはヘレナが戦場にいる今がチャンスだ。
俺も皆も疲れてはいたが、このチャンスを逃すと、次はいつになるかわからない。
すぐに行動に移すことにした。

そう決まったがツネオが疑問を口にする。

「ウタ達を助けに行くのは賛成だけど、ゲラニまで遠いよ。どうやってここまで連れてくる?」

俺はニヤリと笑った。

「どこでもドア。空間移動できるゲートがあるんだ。さっきライベルからここまで来た時にくぐったゲートだ。」

ツネオが驚く。

「え?じゃぁここ、ライベルじゃないの?」

「ああ、ライベルからは数百キロ離れているぜ。ライベルどころかゲラニを通り越してブテラに近い。レニア山脈の南側だ。」

同級生は皆、驚いている。

「驚くのは無理も無いけど、俺はこの世界で高度な科学技術を持った種族、人狼族の遺産を引き受けたんだ。」

その時「ブオン」と音がしてタイチさんが現れた。

「ソウ。大事に使えよ。」

「わかっていますよ、タイチさん。ありがたく使わせてもらっています。」

「うむ。よろしい。うはは。」

タイチさんは音も無く消えた。
皆は益々驚いている。

「早速だが、まずウタ達を迎えに行こう。誰か案内してくれ。」

レンがすぐに反応した。

「ホイホイ。俺が行くぞ。オイ」

それを見たイツキがニヤニヤ笑う。

(何?どうしたの?)

レンが少し顔を赤くしてイツキの胸を拳で軽く殴った。
イツキは大げさに胸を押さえて言った。

「レン君に殺される前に僕もお手伝いします。フフ。」

「わかった。じゃぁレンとイツキ。いっしょにゲラニへ行ってくれ。あっと、その前にその格好じゃ目立つね。」

レンもイツキも兵士の格好だ。
俺はマジックバッグから作業服を取り出して二人に渡した。

「ツネオとリュウヤは休んでろ。何か有ったら、そのドルムさんと相談して。」

ツネオもリュウヤも頷いた。

「ドルムさん。あとをお願いします。」

「ほいよ。気をつけてな。」

「はい。」

俺はレンとイツキを伴ってゲートをくぐり、キューブの地下室へ出た。
キューブから外へ出れば、そこはゲラニにあるキノクニの敷地だ。
イツキが周囲を見渡す。

「ここは、どこ?」

「ゲラニのキノクニ本社だ。」

レンがイツキを突っつく。

「キノクニ本社ということは貴族屋敷の近くだぞ。オイ。」

イツキの顔が少し赤くなる。

(何なの?さっきから)

しばらく二人と離れている間に、俺の知らない歴史が出来ているようだ。

「何なの?さきから二人共。」

レンがニヤニヤしながら言う。

「貴族街の屋敷には、ほら、あの人が居るんだよ。あの人。」

「あの人って?」

「ブテラ領主の娘。レイシアさん。なっ、イツキ。」

イツキが更に顔を赤くする。

「今、それどころじゃないでしょ。レン君。今はウタさん。ウタさんを助けに行きますよ。」

イツキはウタの名前に力を込めた。

「わ、わかってるよ。オイ」

(ふーん。そういうことね。)

「二人共、後でゆっくり聞かせろよ。昔みたいに。なっ。フフフ」

日本に居た頃のような雰囲気で少し心が軽くなった。

「まずはウタ達だ。俺はウタ達の中では殺人犯のままだろうから、お前達がウタ達を説得してくれ。行くぞ。」

「「うん。」」

俺達はキノクニ本社から歩いて10分ほどの場所にある修道院へ向かった。
修道院には門番こそいなかったが正面の門は固く閉ざされ、敷地は高い塀で囲われている。
しかしこの程度の高さなら軽く飛び越えられる。

建物の裏手に回り、まず俺が塀の上に跳び上がった。
塀の向こう側は裏庭だった。

誰も居ないことを確認して二人に手招きをした。
レンは軽くジャンプしたがイツキは、よじ登ることも出来ない。
しょうが無いので一度俺が下に降りてイツキを抱きかかえ塀を跳び越えた。

俺達はすぐに建物の横にある物置小屋の影に隠れた。

「じゃ、俺はここで待っているから、お前達行ってきて。」

「「わかった。」」

「危なくなったらすぐに戻るんだぞ。」

「「うん」」

二人は忍び足で建物の裏手へまわって勝手口から建物内部に入った。


建物に入った二人は恐る恐る内部の様子を探っている。

「レン君、ウタさん達のいる場所を知ってる?」

「知るわけないだろ。オイ。俺だってはじめだよ。」

「これって犯罪かな?」

「なんで?」

「だって。ここ女子寮でしょ?男子禁制。」

「そりゃ、そうだが。場合が場合だしな。ほらあれだ、よくドラマでもあるだろ。あれだオイ。」

「何?」

「ほら。正当防衛とかいうやつ。イツキ、こうゆうの得意だろ?」

「ああ、それを言うなら緊急避難ね。」

「それそれ。」

「急迫な危険を避けるためにやむを得ずにする行為。だね。」

「そうそう、それだ。オイ」

二人で二階の階段を上っている時に、階段の角から突如その人が出てきた。

「きゃっ。」

背の低い大人の女性。

「「キヨちゃん。」」

俺達の担任、大下清恵だ。

「レン君、イツキ君・・・どうしたの?ここへ来ちゃ駄目でしょ。男子禁制よ。」

イツキが説明する。

「ええ。わかっています。でも緊急なので、やむを得ず入ってきました。」

「何なの?緊急って?」

「僕、一度殺されました。」

「え?誰に?」

「ヘレナです。」

「え?なんですって?」

「ヘレナに殺されたんです。僕とレン君。」

「え?でも、生きてるじゃないの。貴方達。」

「嘘じゃ無いです。一度殺されてヒナさんが生き返らせてくれました。」

「そんな。そんなこと信じられないわ。」

キヨエは後ずさる。
その時、もう一人の女性が現れた。

「キヨちゃん。嘘じゃ無いわよ。イツキの言っていること。本当に一度殺されたみたい。」

キリコだ。
キリコは『真偽判定』のスキルを持っている。

キリコはイツキに詰め寄る。

「で、あんた達、ここへは何の用なの?見つかれば捕まるわよ。」

レンが前に出る。

「わかってる。危険を承知で来た。お前達を救出に。」

キヨエが話に戻る。

「救出って何?私達は安全よ。ここに居ればね。ヒュドラ様が守ってくれる。」

「そのヒュドラ教が危険なんだ。いずれ女性徒も殺される。俺達のように。」

「うそよ。そんなこと無いわ。だって、だってヒュドラ様は・・・」

キヨエの声がだんだんと大きくなる。
キリコがキヨエの口を塞いだ。

「キヨちゃん。黙って。落ち着いて話をしなけりゃいけないわ。」

キリコはキヨエの口を塞いだまま、キヨエを引きずるようにかかえ階段をあがった。
レン達もそれに付いて行く。

キリコは二階の居室のドアを足で蹴飛ばし、キヨエを部屋に引き込んだ。
レン達もそれに続く。

部屋の中には一人の女性が居た。

「レン君・・・イツキ君・・」

ウタだ。

「ウタ・・」
「ウタさん・・」
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