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第二章:ゲヘゲラーデン、責任を感じてビダーヤ村を去り旅路に着くのこと。
第十七節:レイ・チン、正体である「アムネヒ」の姿に身を戻し村人を人質にとるのこと。
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「……人間にしては、なかなかできた方だと誉めて差し上げましょうか」
一体、また一体と魔物が斃れていき、結果魔物が字義通りの全滅をしたことによって追い詰められたのか、レイ・チンはついに自警団の壁際にもたれかかった。
「ちっ、魔女め。まだ奥の手を隠し持っているようだな」
吐き捨てるように罵るは自警団団長。部下を何人も殺され、その上食われたのだからその怒りも一入であっただろう。
「あまり魔女、魔女って言わないでくださる?私はこう見えて……」
と、レイ・チンはついに正体を現した!
「なっ……」
団長は絶句した。なぜならば、レイ・チンの正体とは……。
「私の名は「魔女」じゃなくて悪魔「アムネヒ」よ!くくくっ、驚いて声も出ないかしら」
「お前、男だったのか!!」
筋肉モリモリマッチョマンだったのだから!
「私は女よっ!!」
裏声でも隠し切れないほどのバリトンボイスで自身を女だと言い張るマッチョマン。それは、非常に奇妙な光景であった。
「どこが女だっ!!」
思わず裏拳を宙に叩き込む団長。無理もあるまい、眼前に立ちはだかるその容貌は魁偉であった。
「ああもう、そういう問題っ!?」
「そういう問題だ!いくら何でもこれでは、死んでいった者たちが、本当に浮かばれなくなる!」
いかに、魔物や悪魔と人間の美的センスが違うとはいえど、それを女性というには無理があった。それほどまでにそれが持っているのは見事な筋肉であった。
「あ、あのねえ……」
「団長、本当にそういう問題ではないと思いますが……」
さすがに、戦闘中であることを思い出し、団長の目を覚まさせようとするゼス。団長は、明らかに混乱していた。
「まっ、ボウヤはいい子ね。魅了の術かけてあげる」
「いりませんっ!」
キッ、と眼前の悪魔を睨み付けるゼス。いくら何でも、敵の術をわざわざ食らいたがる人間がいるはずもないことは言うまでもない。
「ゼス、団長さん、そろそろ準備いいかしら?」
顔にジト汗を浮かばせつつ、二人の腕を持つクヴィェチナ。さすがに、彼女も当初はぼうぜんとはしていたが、気を取り戻したようだ。裏を返せば、それだけの時間が経過したともいえる。
「あ、ああ。頼んだぞ、クヴィェチナ!」
「ええっ!!」
だが、アムネヒの戦い方とは……。
「ええいっ、そんなに無駄に筋肉があって、なぜ物理攻撃をしてこない!」
「あら、私の肉体美はあくまでも魅了するためのものよ?使っちゃ傷つくじゃない」
「それで魅了される奴は、誰もいないぞ!」
悪魔「アムネヒ」は巧みな魔術、妖術、呪術の類を使い、ゼスや団長を翻弄した。
「ちぃっ、いちいち軌道がいやらしいなこの術は!」
「団長、魔法の軌道は僕が逸らします!」
「おう、頼んだぞゼスっ!」
色とりどりの魔法が飛び交い、命中したとしてもそれ自体は大した威力ではなかったものの、いちいちいやらしい軌道をするホーミングや触れるか触れないかの広範囲爆発などといった、すなわち人間心理を衝いた魔法を使って戦いを有利に進めていった。
「……拙いわね」
だが、徐々に、本当に徐々にではあるが、ゼス達はアムネヒに近づいていった。そう、アムネヒの得意分野はあくまでも魅了や傀儡化などの類であり、正面戦闘はアイバキップに劣るほどであった。
「ゼスっ!」
「はいっ!」
……アムネヒまで、およそ十数段。魔法さえなければ、駆け込める距離であった。そして、それはアムネヒの焦りにもつながっていった。
「ちぃぃっ、あの子たち、なんでこんな状態でも心を折らないの!?」
「お生憎様!私たちの力を甘く見ない事ね!」
ほとんど、ゼスと団長の周りはアムネヒによる殺傷性のある魔法攻撃だらけであった。だが、ゼスが太刀筋で魔法をそらし、そしてクヴィェチナが補助魔法をかけ続けることによりその肉体能力を維持し、そしてゼスの父が魔法を片端から消し去ることにより、団長はついにアムネヒの手前までたどり着くことに成功した!
「団長殿!」
「おうともよ!」
と、団長がアムネヒを斬りつけようとした刹那のことである。
「あらぁ?今私を殺してもいいのかしら?」
と、アムネヒがあくどい表情を作り小指を口にを当てた。
「……どういう意味だ」
「私の洗脳した村人、十や二十では利かなくてよ!」
と、アムネヒが手を天にかざすや……。
「み、みんな!」
「ちぃっ、人質か」
「どう?これでも抵抗するつもり?今なら命だけは助けてあげるわ。それとも、村諸共滅ぶおつもり?」
「ぐっ……」
「パパ……!!」
眼前の悪魔は、存在そのものが軽犯罪法違反級の変態であったが、紛れもなく、人間の命を何とも思っていない悪魔であった。じり、としたひりつくような威圧感と共に逆に追い詰められ始めるゼス達。と、そこにある老爺が訪れた……。
一体、また一体と魔物が斃れていき、結果魔物が字義通りの全滅をしたことによって追い詰められたのか、レイ・チンはついに自警団の壁際にもたれかかった。
「ちっ、魔女め。まだ奥の手を隠し持っているようだな」
吐き捨てるように罵るは自警団団長。部下を何人も殺され、その上食われたのだからその怒りも一入であっただろう。
「あまり魔女、魔女って言わないでくださる?私はこう見えて……」
と、レイ・チンはついに正体を現した!
「なっ……」
団長は絶句した。なぜならば、レイ・チンの正体とは……。
「私の名は「魔女」じゃなくて悪魔「アムネヒ」よ!くくくっ、驚いて声も出ないかしら」
「お前、男だったのか!!」
筋肉モリモリマッチョマンだったのだから!
「私は女よっ!!」
裏声でも隠し切れないほどのバリトンボイスで自身を女だと言い張るマッチョマン。それは、非常に奇妙な光景であった。
「どこが女だっ!!」
思わず裏拳を宙に叩き込む団長。無理もあるまい、眼前に立ちはだかるその容貌は魁偉であった。
「ああもう、そういう問題っ!?」
「そういう問題だ!いくら何でもこれでは、死んでいった者たちが、本当に浮かばれなくなる!」
いかに、魔物や悪魔と人間の美的センスが違うとはいえど、それを女性というには無理があった。それほどまでにそれが持っているのは見事な筋肉であった。
「あ、あのねえ……」
「団長、本当にそういう問題ではないと思いますが……」
さすがに、戦闘中であることを思い出し、団長の目を覚まさせようとするゼス。団長は、明らかに混乱していた。
「まっ、ボウヤはいい子ね。魅了の術かけてあげる」
「いりませんっ!」
キッ、と眼前の悪魔を睨み付けるゼス。いくら何でも、敵の術をわざわざ食らいたがる人間がいるはずもないことは言うまでもない。
「ゼス、団長さん、そろそろ準備いいかしら?」
顔にジト汗を浮かばせつつ、二人の腕を持つクヴィェチナ。さすがに、彼女も当初はぼうぜんとはしていたが、気を取り戻したようだ。裏を返せば、それだけの時間が経過したともいえる。
「あ、ああ。頼んだぞ、クヴィェチナ!」
「ええっ!!」
だが、アムネヒの戦い方とは……。
「ええいっ、そんなに無駄に筋肉があって、なぜ物理攻撃をしてこない!」
「あら、私の肉体美はあくまでも魅了するためのものよ?使っちゃ傷つくじゃない」
「それで魅了される奴は、誰もいないぞ!」
悪魔「アムネヒ」は巧みな魔術、妖術、呪術の類を使い、ゼスや団長を翻弄した。
「ちぃっ、いちいち軌道がいやらしいなこの術は!」
「団長、魔法の軌道は僕が逸らします!」
「おう、頼んだぞゼスっ!」
色とりどりの魔法が飛び交い、命中したとしてもそれ自体は大した威力ではなかったものの、いちいちいやらしい軌道をするホーミングや触れるか触れないかの広範囲爆発などといった、すなわち人間心理を衝いた魔法を使って戦いを有利に進めていった。
「……拙いわね」
だが、徐々に、本当に徐々にではあるが、ゼス達はアムネヒに近づいていった。そう、アムネヒの得意分野はあくまでも魅了や傀儡化などの類であり、正面戦闘はアイバキップに劣るほどであった。
「ゼスっ!」
「はいっ!」
……アムネヒまで、およそ十数段。魔法さえなければ、駆け込める距離であった。そして、それはアムネヒの焦りにもつながっていった。
「ちぃぃっ、あの子たち、なんでこんな状態でも心を折らないの!?」
「お生憎様!私たちの力を甘く見ない事ね!」
ほとんど、ゼスと団長の周りはアムネヒによる殺傷性のある魔法攻撃だらけであった。だが、ゼスが太刀筋で魔法をそらし、そしてクヴィェチナが補助魔法をかけ続けることによりその肉体能力を維持し、そしてゼスの父が魔法を片端から消し去ることにより、団長はついにアムネヒの手前までたどり着くことに成功した!
「団長殿!」
「おうともよ!」
と、団長がアムネヒを斬りつけようとした刹那のことである。
「あらぁ?今私を殺してもいいのかしら?」
と、アムネヒがあくどい表情を作り小指を口にを当てた。
「……どういう意味だ」
「私の洗脳した村人、十や二十では利かなくてよ!」
と、アムネヒが手を天にかざすや……。
「み、みんな!」
「ちぃっ、人質か」
「どう?これでも抵抗するつもり?今なら命だけは助けてあげるわ。それとも、村諸共滅ぶおつもり?」
「ぐっ……」
「パパ……!!」
眼前の悪魔は、存在そのものが軽犯罪法違反級の変態であったが、紛れもなく、人間の命を何とも思っていない悪魔であった。じり、としたひりつくような威圧感と共に逆に追い詰められ始めるゼス達。と、そこにある老爺が訪れた……。
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