甘衣さんは「声」以外完璧

大地ノコ

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高嶺

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 オタクなら、いや、オタクじゃなくても、ときどき「高嶺の花」なんて言葉を耳にする。
 手の届かないほど高いランクにある人物。
 特に、ラブコメ作品におけるヒロインの高嶺の花率は異常だ。主人公とはどう考えても不釣り合いな高嶺の花と付き合う様を読者に見せびらかし、読者は現実で経験することができなかった幸せを感じられる……つまり儲かる!Win-Winだし、商売として素晴らしいと思う。
 
 いやまぁそうは言っても、僕はときどきこう思ってしまうのだ。
「いや、流石にこいつとこいつが結ばれるのは無理あるだろ……」
「こいつとこいつ……って何?」
「うわぁ!?なんだバケモノかと思っ……ごほんごほん」

 あぁ、高嶺の花と付き合いたいとは言わない……。せめて、ちゃんとした高嶺の花を見てみたかった……。
 目の前の彼女は、間違いなく【高嶺】ではあっても【花】では無い。
 
「あっ、甘衣さん……なんでもないよ。僕の独り言」
「そう?ていうか、休み時間くらいは、そんなの読んでないで友達とかと話したらどう?」
 甘衣さんは純真無垢な目線で僕に話しかける。あぁ、眩しい!そして悪意がないからこそ心の孤独な部分に染みる!
 僕の友達、全員他の奴と過ごしてます……。

「甘衣さんも酷だよねー……」
「何が!?私、酷いこと言っちゃった!?ごめん!!!」
「いや、いいんだ……」
 顔の前で手刀を作る甘衣さん。非常に可愛らしい……のだが、『ごめん』の声で台無しだ。

 教室の片隅、窓際。僕1人なら誰にも見向きされない場所。だけれど、隣に甘衣さんが居るとなると話は変わる。
 生徒からの、特に男子からの熱い視線が注がれるのだ。ダメだ、僕には耐性がないんだ!気絶しちゃう!

「ねぇ!」
 僕がラノベ本に落とした視線に、何とか移ろうとしゃがみこむ甘衣さん。
 甘衣さんの茶色い髪が宙に舞う様に、思わず見惚れてしまった。あぁ……黙れば可愛いんだよな……。
「どうしたの甘衣さん?今日はよく話しかけてくるね……?」
「いや?住谷君が可哀想だな~って」
「じゃあほっといてくれると嬉しいかな」
「ええええ!?話そうよ!?」
 やめてよ!話してるとどうしても笑いそうになるんだよ!
「図書室でも行こうかなぁ……誰かさんに話しかけられなくなりそう……」
「ひっど!!!」
 甘衣さんが手脚をばたつかせるのを横目に、席を立つ。
「え!?ほんとに行っちゃうの!?」
「それじゃ~」

 甘衣さんは可愛い。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、という言葉が良く似合う。
 だけど……声はラフレシア。食虫植物の方がまだマシかもしれない。
「なぁなぁ!」
 昼休憩、男子学生の声が廊下にも響く。
「甘衣さん見にいかね!?」
「やめとけよ……甘衣さんは写真じゃないと輝かない……」
 高嶺の花……と言われるポジションの彼女は、まぁ残念な呼び名が付いている……。
 
「あーあ、ほんと甘衣さんって『高嶺の草』って感じだよね」
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