上 下
18 / 52
本編

影に潜む者たち

しおりを挟む
「矛をお収め下さい。勇者様」

 忽然と黒霧が立ち込めるとともに、黒きローブ姿をし、立ち膝を突いた者が現れる。

「そんなに自殺志願者が多かったとはな」

 疾くに大剣の鋒を、案内人の首筋に添える。

「此処での争いは無益です」

「下賤な輩に誅罰を下すまで。邪魔立てするなら、お前が最初に血に染まることになるぞ……」

「……貴方は勇者様に他ならないお方。このような場に於いて、私情に流されるまま誉高き剣を無闇に振るうなど、決してあってはなりません」

「あれが勇者に訊くべき、問い掛けか!?」

 空を切り裂くような怒号が飛ぶ。

「北諸国は貴方様を愛しております。どうか、矛をお収めください」

「……」
「……」

 勇者は首筋に寄せた刃を渋々、退かせる。
 
「肩書きを愛でることを愛とは呼ばない」

「いやはや、流石は案内人。導くべき場所が解っているようですな」

「邪教信者風情が……ッッ!」

 案内人はフードから垣間見える血走った眼差しを、饒舌に口走り続ける一人の信奉者へと向けた。

「そう事を荒立てていては、これからの道行きに同行者様方が苦労するでしょう。まぁ、貴方の案内はもう時期、終わりでしょうが」

「貴様!」

「先の問い、特別にお答えしよう」

 一触即発の寸前、静寂に亀裂が走っていく最中、勇者から出た思わぬ一言が、その場をシンと水を打ったように静まり返らせた。

「俺は…親族だ。ただの血縁者に過ぎない」

「ノース家に次子は居られないと聞きましたが?」

「……。忘れたか?」

「ハハハ。流石は勇者様。ですが、貴方様は過去も然る事乍ら、私怨を燻らす者たちも蛆のように湧くでしょう。どうか五体満足で魔王城へと辿り着くことを祈っておりますよ」

「あぁ、言われなくともそのつもりだ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したらビッチ悪役令息だったので

BL / 完結 24h.ポイント:731pt お気に入り:3,889

こんな恋があってもいい?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:334

【BL小説短編集】『執愛』『親友と予行練習』

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:460

殺人兵器が溺愛する戦場の天使

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:575

異世界モンスターに転生したので同級生たちに復讐してやります

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,252pt お気に入り:6

比翼連理

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:959

処理中です...