【完結】無自覚最強の僕は異世界でテンプレに憧れる

いな@

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第二章

第35話 ナインテール

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「この子はナインテールね。キリングベアーごときにやられる奴では無いのだけど、んん神眼~、あらあら♪ ライ、お腹に赤ちゃんがいるわよ♪」

「おお~♪ そう言えばお腹がぽんぽこぽんだね♪ よしよし♪ お母さんなんだね、もう少しで治るから」

 だから、上半身だけ怪我してたのね。

 胸より後ろは一つも怪我してないし、よしよし。

 首を撫でると、こちらに向けていた大きな三十センチくらいある目を細め、気持ち良さそうにしてくれます。

「よし一番大きな傷はふさがったよ。あっ! 足も折れてるじゃん! ごめん、体を横に寝かせてくれる? ムルムル、お母さんの血を綺麗にしてくれるかな?」

 ぷるぷる

 戻ってきていたムルムルに掃除を頼んで、ゆっくり倒れて体の下になっていた手をさらしてくれる。

「ん~、どうやって真っ直ぐに引っ張ろうかな。ん~、土いじりでやってみよう」

 お母さんの折れた右手の下から土を盛り上げ、ちょうど手首と肘の間だから肘の方を固定して~、僕が引っ張ればいけるかな?

「お母さん、ちょっと引っ張って痛いかもだけど我慢してね」


 手首にロープをくくりつけ、綱引きの要領で引っ張る。

「行くよ、せ~の!」

 キャン!

「回復!」

 僕の肩からテラが指示をくれる。

「まだ駄目! もう少し引っ張りなさい! 私が良いって言うまで引っ張るのよ! 神眼!」

「分かった! お母さん我慢だよ! せ~の!」

 今度は呻き声も出さないで、我慢してくれています。

「少し左に! そのままだと曲がってくっついちゃうから! そのままそのまま、そこ!」

「回復!」

 十分ほど経っただろうか、痛そうに強く閉じられた目蓋が緩み、目を開ける。

「もう良いわよライ。ちゃんと引っ付いたわよ♪」

「ふい~、良かったぁ♪ お母さんまだ痛いところある?」

 お母さんは首を持ち上げ、確認しているようです。

「私の見立てでは大丈夫そうよ」

 きゅ~ん

「あははは♪ 良さそうだね。あっ! 夕焼けだよ! 早く戻らないとおじさん心配しちゃう! お母さんじゃあね。頑張って元気な子供を産んでね♪ ムルムルおいで」

 ムルムルを手のひらに乗せ、肩のテラもムルムルと一緒に。

「ダッシュで行くよ、せ~の!」

 シュン!

『なんとも優しい子ですね。うふふ。あっ! 産まれそうです。巣に戻りましょう』



「おじさんただいま、遅くなっちゃった」

「近くには無かったのだろ? ここは沢山の馬車が止まる所だからな」

「そうなのですよ、でも明日の分まで拾えたので。さあ暗くなる前に夕ごはんにしちゃいましょう♪」

 僕はおじさんにオークのお肉を提供して夕ごはんを済ませ、テントに潜り込みました。

「テラ、これ作ったんだけどどうかな?」

「なに?」

 僕は指輪のサイズの腹巻きをテラに見せる。

「腹巻き?」

「うん♪ トレント柄にしてみたんだ。どうかな?」

 テラは僕の手から腹巻きを手に取り、柄を見てうんうんと頷いています。

「上手いじゃない♪ これを私にくれるの?」

「うん♪ テラってたまにハンカチの布団を蹴っ飛ばしてる時があるから、お腹が冷えちゃわないようにね♪」

(うふふ。私はそんな事にはならないんだけどね)

「ありがたく貰っておくわ♪ うんしょ♪」

 テラは頭から腹巻きを着けるタイプのようです。

 僕は足から派なのです。

 ってか上手く着れましたが、足首までの髪の毛が腹巻きの中なのでちょっとおかしな事になってます。

「うんうん♪ ぴったりよ♪ ありがとうライ」

「どういたしまして♪ ムルムルにはムルムル用の布団って言うより座布団を作ってみたんだ、ほらこれだよ♪」

 手のひらサイズの正方形で、僕と同じゴブリン村長柄です。

 ぷるぷる!

 ムルムルは座布団の上に移動して、ぷるぷる震えて嬉しそうです♪

「良いわね。ライとお揃いの柄ね♪ くふふふ。そんなに揺れてると寝れないじゃない♪」

「良かった。気に入ってくれたみたいで、よし、寝ようか」

 僕も布団の上に寝転がり、薄いシーツを、体にかけます。

「じゃあおやすみ······」



 翌朝もスッキリ目覚め、今日は峠越えです。休憩を沢山取るので早めの出発です。

 昨日言われた事を守って、座席に座りながら前を覗いて行きます。

 僕の乗る馬車は、ちょうど車列の真ん中あたりなので、一番安全とされる位置だそうで、たまに前方の馬車を狙うゴブリンがいたり、最後尾を狙う魔狼が追いかけてきたりするそうですが、真ん中はいたってのんびり。

 岩山の裂け目を通るような場所に差し掛かり、両側が切り立った崖、上までは三十メートルくらいかなぁ?

 裂け目を越えると今度は山登りです。

 ここの九十九折つづらおりを越えた所が今日の夜営地です。真っ直ぐな道なら昼過ぎには着くのですが、これだけぐねぐねしていたらどうしても時間がかかってしまいます。

 それなのに馬車の速度が落ち、ついには止まってしまいました。

「お客さん達、前で何かあったみたいだ。ちょっくら待つ事になるかもしれない」

「ほお、何があったのか見てきましょうか?」

 ちょうど暇をもて余しかけてましたので♪

「あははは♪ そりゃ助かるが良いのかい?」

「はい♪ では行ってきますね♪」

 馬車を飛び降り、前方に走り出しました。

 前の馬車との間は余裕を持って開けていますので、そこそこ距離を走らないと行けません。

 二つの曲がり角を曲がったあたりで先頭を走っていた馬車が見え、車輪が外れ横倒しになり、道をふさいでいるのが見えました。

「あちゃ~、馬車が転けちゃってますね。あはは」

「馬は大丈夫かしら。それに乗っていた人達も」

「そうだね近くまで行ってみよう」

 そばまで行くと、荷物が散乱しているところを見るとこの馬車は貨物用の馬車のようで、車軸が真ん中で折れているのが分かりました。

 散乱した荷物を、近くの人達で拾い集めていますが結構な量がありますからそう簡単には終わらないですね。

 あっ!

「あの、荷物を避けるの手伝っても良いですか?」

 部下でしょうか、商人のようですから、お弟子さんになるのかな? その方達に指示をしながら避け終わった物が壊れていないか確認して、それが終わればまた馬車に走り、荷物を避けに行っていた人に声をかけました。

「おお! それはありがたいです! 皆様の通行の妨げになっておりますので、いち早く通れる様にしたいものですから」

「はい♪ ではやっちゃいますね♪ 収納です! ほいっと!」

 倒れた馬車の方を見て、ちょうど馬車からみんなが離れていたので、馬車以外を全部収納しました。

「へ?」

 商人さんは目の玉がこぼれ落ちそうなくらい目を見開き、口を閉じるのを忘れたように開いたまま止まっちゃいました。

「あははは♪ では、ここに出しますね。ほいっと!」

 街道の端に、通行出来るように荷物を出していき、ついでに、馬さんが外され、何も無くなった馬車を収納してそれも元のよう、こけてないように出しました。

「あっ、そうです、土いじりで馬車の後ろを持ち上げれば直しやすいですよね~、ほいっと!」

 馬車の後部を土でしたから少しずつ持上げ、良さそうなところで止めました。

「では商人のおじさん、僕はこれで♪」

 乗り合い馬車に戻ろうとしたのですが、商人さんに呼び止められました。

「あ! お待ち下さい! 本当に、本当に凄く助かりました! なんとお礼を言えば良いか」

 商人さんは僕の手を両手でつかみブンブンふります。あはは、大袈裟です。

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。気にしないで下さいね。後、あの馬車を持上げている柱は、簡単に壊せるようになってますから」

 大人の人が蹴ればポキッっと折れるはずです。

「見たところ冒険者とお見受けしますが、今は依頼の途中ですか?」

「いえ、乗り合い馬車での旅です。東の森に行きますから」

「おお♪ では私の依頼をけてくれませんか? 私共は東の森に一番近い村にも行くのですよ。ですから護衛依頼を頼みたいのです」

 ん~、どうしましょうか。

「ライ、請けても良いんじゃない。どうせそこまでは行き方も考えてなかったでしょ?」

 うっ、それはそうですね······うん!

「僕で良ければ護衛のお仕事を請けさせて貰います。報酬は、僕Eランクですから、安くても大丈夫ですよ♪ その代わり、その村までお願いします♪」

「あははは♪ ご自身からお安くと言う冒険者初めて見ました。今の横倒しの事故で怪我をした者がおりますので助かります。報酬は同じだけ出させて貰いますのでよろしくお願いいたします」

 おお、怪我した人が、よし!

「その方はどこにいますか? 僕で良ければ回復出来ると思うので」

「な、なんと! 本当ですか! お願いします。こちらです!」

 商人さんに付いていくと、革鎧を脱がされ、背中を強く打ち付けられたのか赤紫に変色した背中をあらわにしたごっついおじさんが座り込んでいました。
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