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逸れ者と受付嬢
第2話
しおりを挟む「今日もあの人いるね」
隣でギルドの隅の方を見て話すルージュを見て、シルヴィアはその視線の先に目を向けた。
受付から見えるギルドの隅っこで、先日会ったエルフの女性は1人で座り、向かいの壁をフードの奥から覗いていた。その影の中に光る瞳は、壁というよりは貼りつけられた1枚の依頼書に向けられている。もちろん、彼女が依頼したものだ。
「一日中あそこにいるけど…そんな難しい依頼なのかな?」
「書面には、生命の泉の巫女を探して欲しいと書かれていました」
「生命の…?何それ」
聞いた事のない壮大な単語に、ルージュは手を止めて怪訝な表情を見せた。
シルヴィアは後ろの棚にある本棚に行き、1番端にあった小さい本を渡した。駆け出し冒険者のための魔物や魔法についての本が並ぶ中で、彼女が選んだものだけがそれらとは無縁な物だった。
「こんな本あったっけ?」
「昔から伝わる、ある泉の話です」
「ふ~ん…」
ルージュは興味があるのかないのかわからない返事をしながら、軽く目を通した。だがすぐに本を閉じため息を漏らす。
「これは…依頼を受ける冒険者がいないわけだわ」
本を閉じて、ルージュは女性に気の毒だと言わんばかりの表情と共に呟いた。
「どうぞ」
「…ありがとう」
夕暮れのギルドで、シルヴィアは初めて会った日と同じように女性に紅茶を淹れた。
女性は紅茶に口をつけ、依頼書を一瞥してから目の前に座るシルヴィアを見た。
「なぁ」
「何でしょうか?」
「このまま誰も依頼を受けてくれなかったらどうなるんだ?」
少し目を伏せて話す女性に、シルヴィアは例の依頼書を見ながら軽い説明をする。
「1ヶ月以上依頼を受ける冒険者の方がいない場合は、その依頼は取り消しになります」
「1ヶ月か…」
「何か問題がありましたか?」
淡々と告げるシルヴィアを見て、女性はただ悩む。この数日で依頼を受ける者がいないあたり、今日以降もあの依頼を受ける冒険者はいないだろう。
「はぁ…取り消しにしようかなぁ…」
「何故ですか?」
女性は馬鹿にしてるのかと思い目の前の受付嬢を睨んだが、彼女はただ純粋にわからないという顔をしている。
なんだか疲れてしまい、頬杖をついて視線だけ依頼書に向けた。
「どうせあの依頼を受ける冒険者なんて現れないと思うからだよ。それくらいわかるだろ」
「何故ですか?」
「いやだから…。冒険者からすれば、あんたがこの前言ってた『明らかに無謀な依頼』ってやつになるんだよ、私のした依頼は」
「なるほど」
シルヴィアはそう言って小さく頷いたが、不意に席を外して壁の方へと歩いていった。そして依頼書をじっと眺め、そっと剥がして受付へと歩いて行く。
女性は目が点になったが、帰ってきた彼女の手には、受理済みのハンコが押された依頼書が握られていた。
「あなたの依頼、お受けします」
「は…?依頼内容知ってて言ってるのか?っていうかあんたは受付嬢だろ?」
「はい。生命の泉の巫女を探すと承っております。それと、私はCランクの冒険者でもあります」
「そうなのか…」
「では、明日から探しに行きましょう」
困惑する女性をよそにシルヴィアは依頼書を綺麗に折り畳むと、二階へと消えていった。
翌日、ダークエルフのクロカはギルドの前で依頼を受けた冒険者を待っていた。依頼書にも書いてあるのだが、今回の依頼は依頼者のクロカも同伴となっているのだ。
早朝のギルド前で待つ事数分、扉の開く音と共に受付嬢の制服を着た女性が姿を現した。これから依頼に行くというのに、その格好で大丈夫なのかと少し心配になる。
「おはようございます。では、行きましょうか」
「…あぁ」
クロカは小さく頷き、先を行くシルヴィアの少し後ろを歩いて行った。
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