だって、君は210日のポラリス

大庭和香

文字の大きさ
6 / 11

4."今日" のこと

「おまえ、今、どこにいんの?」
 耳元の理央の声が、一気に意識を呼び戻した。

 背後で次の搭乗手続きを知らせるアナウンスが流れる。

「いや、あの、さ。両親が海外で――旅行先で事故ってさ」
 あまり目立つ格好で持ち運ぶのも憚って、別に包んで連れて帰った、その重さに視線を落とす。 

「運ばれたときは生きてたんだけど、結局ダメでさ」
「ダメ? ダメってなに?」

 状況が飲み込めていないらしい理央の声。

「亡くなった。
 ……それで。今、えっと。日本に戻ってきたところで……こういう時って、改めて日本で葬儀するもんなんかな? 向こうで火葬してもらったから、もう骨の状態なんだけど」

 口をついて出る言葉にまとまりがなく、伝わっているか不安になる。

「今、どこ? とにかく行くから」
 長くはない沈黙の後、理央はそれだけ言った。冗談ではないと、わかってくれたらしい。

「実家に帰るつもりなんだけど、俺、実家のカギを持って出てなくてさ。一旦、そっちのアパート寄るよ」
 スマホの充電器も持っていなかったもんだから、空港でお前からの連絡がすごいことになっててさぁ――と軽口が止まらない。

「俺がアパート寄って取ってくるよ。直接実家に向かう方が楽だろ?」
 大学の住まいのカギを互いに預けていた。両親の死の実感はまだ薄いが、疲労は感じていたので、その申し出はありがたかった。



 やっと実家の最寄り駅に着くと、ロータリーに車を停めた理央が待っていた。

「この車、どうしたん?」
「レンタル」
「なんだ。お前のことだから、買ったとか言いだすかと思った」

 下手な冗談で笑わせようとしたが、滑った。俺の手にある荷物──外からはそれとわからないようにして抱えていた一つを見た理央は、眉尻を下げてそっと助手席のドアを開いた。

 そこから実家へ向かうまで、無言の時間が静かに流れる。
 シャワシャワと、どこからか虫が鳴いていた。



 実家に到着すると、荷物を抱えた俺の代わりに、理央が玄関の鍵を開けてくれた。
 数週間、閉め切られていた熟んだ空気。
 部屋のドアを開けると、静まり返った空間が出迎える。両親の姿はない。空っぽのリビング。

 理央が、マグカップにお茶を淹れてくれた。
「冷たいのがいいか?」
「いや……ありがと」
 差し出されたマグカップを受け取り、手のひらに温もりが移る。

「……お帰り」
 隣に腰を下ろした理央の小さくつぶやく声に、自然と肩の力が抜ける。

 うん。
「ただいま」

「疲れただろ?」
「……まあ、少しね」

 机の上に置かれた骨壺を見ながら、ゆっくり息を吐いた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

そんな拗らせた初恋の話

椿
BL
高校生で許婚の二人が初恋拗らせてるだけの話です。 当て馬と受けが一瞬キスしたりします。 Xのツンデレ攻め企画作品でした! https://twitter.com/tsubakimansyo/status/1711295215192121751?t=zuxAZAw29lD3EnuepzNwnw&s=19

落ちこぼれオオカミ、種族違いのため群れを抜けます

椿
BL
とあるオオカミ獣人の村で、いつも虐げられている落ちこぼれの受けが村を出ようと決意したら、村をあげての一大緊急会議が開催される話。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

魔法の言葉

すずかけあおい
BL
ずっと仲良くしていた幼馴染の実凪が突然よそよそしくなり、弦矢を避けるようになった。いつも隣にいた実凪がそばにいない毎日は寂しい。 *外部サイトでも同作品を投稿しています。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………