だって、君は210日のポラリス

大庭和香

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4."今日" のこと

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「おまえ、今、どこにいんの?」
 耳元の理央の声が、一気に意識を呼び戻した。

 背後で次の搭乗手続きを知らせるアナウンスが流れる。

「いや、あの、さ。両親が海外で――旅行先で事故ってさ」
 あまり目立つ格好で持ち運ぶのも憚って、別に包んで連れて帰った、その重さに視線を落とす。 

「運ばれたときは生きてたんだけど、結局ダメでさ」
「ダメ? ダメってなに?」

 状況が飲み込めていないらしい理央の声。

「亡くなった。
 ……それで。今、えっと。日本に戻ってきたところで……こういう時って、改めて日本で葬儀するもんなんかな? 向こうで火葬してもらったから、もう骨の状態なんだけど」

 口をついて出る言葉にまとまりがなく、伝わっているか不安になる。

「今、どこ? とにかく行くから」
 長くはない沈黙の後、理央はそれだけ言った。冗談ではないと、わかってくれたらしい。

「実家に帰るつもりなんだけど、俺、実家のカギを持って出てなくてさ。一旦、そっちのアパート寄るよ」
 スマホの充電器も持っていなかったもんだから、空港でお前からの連絡がすごいことになっててさぁ――と軽口が止まらない。

「俺がアパート寄って取ってくるよ。直接実家に向かう方が楽だろ?」
 大学の住まいのカギを互いに預けていた。両親の死の実感はまだ薄いが、疲労は感じていたので、その申し出はありがたかった。



 やっと実家の最寄り駅に着くと、ロータリーに車を停めた理央が待っていた。

「この車、どうしたん?」
「レンタル」
「なんだ。お前のことだから、買ったとか言いだすかと思った」

 下手な冗談で笑わせようとしたが、滑った。俺の手にある荷物──外からはそれとわからないようにして抱えていた一つを見た理央は、眉尻を下げてそっと助手席のドアを開いた。

 そこから実家へ向かうまで、無言の時間が静かに流れる。
 シャワシャワと、どこからか虫が鳴いていた。



 実家に到着すると、荷物を抱えた俺の代わりに、理央が玄関の鍵を開けてくれた。
 数週間、閉め切られていた熟んだ空気。
 部屋のドアを開けると、静まり返った空間が出迎える。両親の姿はない。空っぽのリビング。

 理央が、マグカップにお茶を淹れてくれた。
「冷たいのがいいか?」
「いや……ありがと」
 差し出されたマグカップを受け取り、手のひらに温もりが移る。

「……お帰り」
 隣に腰を下ろした理央の小さくつぶやく声に、自然と肩の力が抜ける。

 うん。
「ただいま」

「疲れただろ?」
「……まあ、少しね」

 机の上に置かれた骨壺を見ながら、ゆっくり息を吐いた。

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