渓谷の悪魔と娘

ココナツ信玄

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 トムと暮らし始めて、ソレは大いに毎日翻弄された。
 腹が減ったら騒がしく水を出しながら鳴くので、森で獲物を捕らえ与えた。

「うああああん!」

 毛皮までちゃんと剥いてあげたのに、トムはそれには見向きもせず鳴き続けた。

「何故だ? そこに糧を置いただろう。はやく食べろ」

 顔の横に肉を置いてやっても鳴くばかりだった。
 ソレは困り果て、悩んで悩んで思い出した。空を飛ぶ生き物が巣の中の小さな分身に口移しで糧を与えていた姿を思い出したのだ。

「口移し……」

 ソレは己の口に生える鋭利な牙がトムの小さな赤い口に触れるのを恐れた。きっと自分の牙がその小さな口を切り裂くだろうと予感したのだ。

「口でなくとも、要は砕かれていればいいのだろう?」
「うぎゃああん!」

 トムとの会話は達成されず、爪ですり潰した肉には見事にそっぽを向かれたが、森で採取した果物や木の実ならば、ドロドロになるまで潰せば食べてくれることを発見した。
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