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また明日からトムを守ろう、と良い気分で元来た方を振り返った。
「ぐるるるるる」
そこには、喉を鳴らして口から涎を垂らしている茶色い毛に覆われた獣が居た。
元いた牙を持つ獣達はソレが狩ったので、おそらくは他所の土地から来たのだろうと推測する。
「グワアウッ!」
獣は吠え声を上げて後ろ足だけで立ち上がった。大きなニンゲンの3倍あるかもしれないほど、獣は大きかった。しかしソレには到底及ばない大きさだ。
「グルぅ……」
おそらく今まで自分を恐れない生き物は居なかったのだろう。獣は少し戸惑ったようだった。しかし訪れた緑濃い森を己の縄張りにするためには、元居た縄張りの主を倒さなければならない。獣は自然の掟に従って、肉を食べる獣が居らず草や木のみを食べる獣が至るところにいる楽園のような森を己のものにするべく、鋭い爪が生えた手でソレの鼻面を叩いた。
ギャリギャリ! と爪が硬いものを引っ掻く嫌な音が夜の森に響き渡る。
獣の爪はそれの外殻を上滑りし、黒いソレの殻にも鱗にも傷一つ与えられなかった。
「グルルルるる!」
「お前は逃げずに攻撃してくる獣なんだな」
ソレにとって獣はなんの影響もないただの獣だった。
むしろ今まで見たことがない立つことが出来る獣だったので、ソレは出来るならいつでも眺められるよう洞穴の近くに持って帰りたかった。しかし、ソレは目の前の珍しい獣を狩ることに決めた。
「お前はトムを傷つけるかもしれない。このままには出来ない」
獣は前脚を地面について四つ足に戻ったが、ソレは構わず触手を獣の脳天に突き刺し、顎の下まで貫いた。
獣は一度大きく痙攣し、その後は動かなくなった。
「……心配するな。お前の死骸は無駄にせずちゃんと全部食べるからな」
ソレは触手を引き抜き、獣を地面に横たえると、腹を割いた。
鋭い鉤爪で毛皮を剥ぎ取る。
「この皮をトムの寝藁の上に敷いてやろう」
寝心地が良くなればトムは機嫌を良くし、駄駄を捏ねることをやめるかもしれない、とソレは少しウキウキした。
割った腹から飛び出た臓物を掻き集めるようにして大口に放り込む。いい匂いのする粉もまぶさず、焼きもしていない内臓は生臭く美味とは思わなかったが、粉が少なくなってきていたので、自分の食事に使用することをやめていた。かつて独りで生きていた時はこうしていたのだから、とソレに不満はなかった。
グチャグチャと口の中のものを咀嚼し、あふれる血を啜る。さして美味しくはないが生きるためだ。何より殺した生き物の死骸は無駄にしたくなかった。
「赤い肉はトムに持って帰ろう」
頭を頭蓋骨ごと噛み千切ると、ソレは大きな肉塊と化したものを山水で洗い、洞穴に持って帰った。
「ぐるるるるる」
そこには、喉を鳴らして口から涎を垂らしている茶色い毛に覆われた獣が居た。
元いた牙を持つ獣達はソレが狩ったので、おそらくは他所の土地から来たのだろうと推測する。
「グワアウッ!」
獣は吠え声を上げて後ろ足だけで立ち上がった。大きなニンゲンの3倍あるかもしれないほど、獣は大きかった。しかしソレには到底及ばない大きさだ。
「グルぅ……」
おそらく今まで自分を恐れない生き物は居なかったのだろう。獣は少し戸惑ったようだった。しかし訪れた緑濃い森を己の縄張りにするためには、元居た縄張りの主を倒さなければならない。獣は自然の掟に従って、肉を食べる獣が居らず草や木のみを食べる獣が至るところにいる楽園のような森を己のものにするべく、鋭い爪が生えた手でソレの鼻面を叩いた。
ギャリギャリ! と爪が硬いものを引っ掻く嫌な音が夜の森に響き渡る。
獣の爪はそれの外殻を上滑りし、黒いソレの殻にも鱗にも傷一つ与えられなかった。
「グルルルるる!」
「お前は逃げずに攻撃してくる獣なんだな」
ソレにとって獣はなんの影響もないただの獣だった。
むしろ今まで見たことがない立つことが出来る獣だったので、ソレは出来るならいつでも眺められるよう洞穴の近くに持って帰りたかった。しかし、ソレは目の前の珍しい獣を狩ることに決めた。
「お前はトムを傷つけるかもしれない。このままには出来ない」
獣は前脚を地面について四つ足に戻ったが、ソレは構わず触手を獣の脳天に突き刺し、顎の下まで貫いた。
獣は一度大きく痙攣し、その後は動かなくなった。
「……心配するな。お前の死骸は無駄にせずちゃんと全部食べるからな」
ソレは触手を引き抜き、獣を地面に横たえると、腹を割いた。
鋭い鉤爪で毛皮を剥ぎ取る。
「この皮をトムの寝藁の上に敷いてやろう」
寝心地が良くなればトムは機嫌を良くし、駄駄を捏ねることをやめるかもしれない、とソレは少しウキウキした。
割った腹から飛び出た臓物を掻き集めるようにして大口に放り込む。いい匂いのする粉もまぶさず、焼きもしていない内臓は生臭く美味とは思わなかったが、粉が少なくなってきていたので、自分の食事に使用することをやめていた。かつて独りで生きていた時はこうしていたのだから、とソレに不満はなかった。
グチャグチャと口の中のものを咀嚼し、あふれる血を啜る。さして美味しくはないが生きるためだ。何より殺した生き物の死骸は無駄にしたくなかった。
「赤い肉はトムに持って帰ろう」
頭を頭蓋骨ごと噛み千切ると、ソレは大きな肉塊と化したものを山水で洗い、洞穴に持って帰った。
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