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ニンゲンはブルブル体を震わせながらもソレの赤い目をしっかりと見上げてきた。
「お子様には一刻も早く水を」
ソレはあまりの怒りにニンゲンの胴に触手を巻き付け、宙吊りにした。
「役立たずめ! トムは何もかも吐いてしまうといっただろう! 水を飲んだとて吐く! 飲んだ以上に吐いてしまうというのに! トムの中身がこれ以上無くなったらどうしてくれる?!」
「そっそれでも! たとえ吐いてしまうとしても水は人間の体に必要なのです! 既にお子様は脱水を起こしております!」
「いい加減なことを言うな! 吐き出してしまうのにどうやって飲ませるというのだ!」
「摂取してから吐き出すまでの僅かな間で、少しでも水分は体に残ります! 吐かれても何度も水分を与えるのです!」
ソレの腹には未だ怒りが渦巻いていたが、それでも他にトムにしてやれることが分からなかったので言うことを聞くことにした。
「いいだろう、お前の言う通りにしよう」
やることはわかっが、トムを連れて川へ向かおうとしたら、再びニンゲンに触手を掴まれた。
「いけません! 今、お体を動かすことはお子様の負担になります!」
宙吊りにされたまま、腹をぐるぐる巻きにしているソレの触手を強く握りしめている。
その大きいニンゲンの必死な様子に、ソレはトムを抱き上げるのを止めた。
「……」
そうなると、ソレはその場から動けなくなった。
トムに水を飲ませるため、清水が流れる川へ行きたいのに。
今日見つけたばかりの大きいニンゲンとトムを二人きりにさせたくなかった。かと言って、獣への対抗手段持たないトムをーーしかも今は弱ってもいるトムをここ場に一人残すことも出来ない。大きいニンゲンを水を汲みに行かせようとしても、こんなに怯えているのだから野を走る生き物のように逃げていってしまうだろうと思えた。
トムを一刻も早く治したいのに、この場から動けなくなったソレは、川がある方と宙吊りのニンゲンを何度も見比べた。
「……渓谷と森の王である貴方様の差し支えがなければ、どうぞ私が持っている水をお子様に差し上げることをお許し下さい」
ニンゲンの言葉は当に渡りに船で、ソレは何度も頷いた。
「許す! 今すぐ許すからトムに水を飲ませろ!」
「畏まりました」
ソレはニンゲンを地面に下ろし、触手を解いた。
ニンゲンの膝は大きく笑っていたが、それでも崩折れることなく自分の荷物から水の入った革袋を取り出した。
トムの傍らに膝を付いたニンゲンは、水袋口を小さな口に寄せたが、おもむろに引き戻した。
「?! 何をしている?! トムに水を飲ませないといけないのだろう!? まさかでまかせを?!」
「違います! 水分の吸収を良くするために塩を混ぜようと思ったのです!」
ニンゲンは木の器を取出し、そこに白い粉を少量入れた。
「……何だ? それは……もしや毒などではないだろうな! トムを傷付けたらどうなるか!」
「毒ではありません!」
ニンゲンは震えながら白い粉を一摘みし、自ら口に含んでみせた。
「塩辛いだけで毒ではありません」
ソレはトムをチラチラ見ながらも自分も触手の先に粉を付け、大きな牙だらけの口の中の二又の舌に乗せてみた。
「しょっぱい!」
「はい、塩ですので」
「……」
ソレは塩という名前を聞いたことがなかったが、いい匂いの粉と一緒に入っていたものと同じだと気付いた。
この粉ならば、自分もトムも今まで口にしてきた。毒ではないという言葉に安心し、ソレは立ち上がりかけていた無数の脚から力を抜いた。
「分かった。トムに飲ませてやれ」
頷いたニンゲンが更に別の粉を取り出したので、今度こそ毒かといきり立ったが、「お子様の口に飲みやすいよう甘みの粉を加えるだけです」と言われ、塩と同じように自分も口にして確かめ、ソレはもう黙ることにした。
おそらく、頭と顎に毛皮を持つニンゲンはトムに危害を加えようとはしない。
目の前でソレが一挙手一投足を監視しているのだ。ソレの鋭い鉤爪と牙を、自分の頭と顎の毛だけで弾けるとはいくらなんでも思って居ないはずだ。強者の怒りを買うよりは、同族の子供を治すことに一生懸命になるだろう。
ニンゲンは塩と甘い粉ーー砂糖とニンゲンは言ったーー混ぜた水をトムに飲ませた。
薄目を開けたトムは、見知らぬニンゲンに一瞬だけ戸惑ったが、自分の頭の上にある大きな赤い三つの目を見つけた途端、安堵に小さく微笑んだ。
ソレは腹の下の急所の奥が、見えない手によって引き絞られたように感じた。
「お子様には一刻も早く水を」
ソレはあまりの怒りにニンゲンの胴に触手を巻き付け、宙吊りにした。
「役立たずめ! トムは何もかも吐いてしまうといっただろう! 水を飲んだとて吐く! 飲んだ以上に吐いてしまうというのに! トムの中身がこれ以上無くなったらどうしてくれる?!」
「そっそれでも! たとえ吐いてしまうとしても水は人間の体に必要なのです! 既にお子様は脱水を起こしております!」
「いい加減なことを言うな! 吐き出してしまうのにどうやって飲ませるというのだ!」
「摂取してから吐き出すまでの僅かな間で、少しでも水分は体に残ります! 吐かれても何度も水分を与えるのです!」
ソレの腹には未だ怒りが渦巻いていたが、それでも他にトムにしてやれることが分からなかったので言うことを聞くことにした。
「いいだろう、お前の言う通りにしよう」
やることはわかっが、トムを連れて川へ向かおうとしたら、再びニンゲンに触手を掴まれた。
「いけません! 今、お体を動かすことはお子様の負担になります!」
宙吊りにされたまま、腹をぐるぐる巻きにしているソレの触手を強く握りしめている。
その大きいニンゲンの必死な様子に、ソレはトムを抱き上げるのを止めた。
「……」
そうなると、ソレはその場から動けなくなった。
トムに水を飲ませるため、清水が流れる川へ行きたいのに。
今日見つけたばかりの大きいニンゲンとトムを二人きりにさせたくなかった。かと言って、獣への対抗手段持たないトムをーーしかも今は弱ってもいるトムをここ場に一人残すことも出来ない。大きいニンゲンを水を汲みに行かせようとしても、こんなに怯えているのだから野を走る生き物のように逃げていってしまうだろうと思えた。
トムを一刻も早く治したいのに、この場から動けなくなったソレは、川がある方と宙吊りのニンゲンを何度も見比べた。
「……渓谷と森の王である貴方様の差し支えがなければ、どうぞ私が持っている水をお子様に差し上げることをお許し下さい」
ニンゲンの言葉は当に渡りに船で、ソレは何度も頷いた。
「許す! 今すぐ許すからトムに水を飲ませろ!」
「畏まりました」
ソレはニンゲンを地面に下ろし、触手を解いた。
ニンゲンの膝は大きく笑っていたが、それでも崩折れることなく自分の荷物から水の入った革袋を取り出した。
トムの傍らに膝を付いたニンゲンは、水袋口を小さな口に寄せたが、おもむろに引き戻した。
「?! 何をしている?! トムに水を飲ませないといけないのだろう!? まさかでまかせを?!」
「違います! 水分の吸収を良くするために塩を混ぜようと思ったのです!」
ニンゲンは木の器を取出し、そこに白い粉を少量入れた。
「……何だ? それは……もしや毒などではないだろうな! トムを傷付けたらどうなるか!」
「毒ではありません!」
ニンゲンは震えながら白い粉を一摘みし、自ら口に含んでみせた。
「塩辛いだけで毒ではありません」
ソレはトムをチラチラ見ながらも自分も触手の先に粉を付け、大きな牙だらけの口の中の二又の舌に乗せてみた。
「しょっぱい!」
「はい、塩ですので」
「……」
ソレは塩という名前を聞いたことがなかったが、いい匂いの粉と一緒に入っていたものと同じだと気付いた。
この粉ならば、自分もトムも今まで口にしてきた。毒ではないという言葉に安心し、ソレは立ち上がりかけていた無数の脚から力を抜いた。
「分かった。トムに飲ませてやれ」
頷いたニンゲンが更に別の粉を取り出したので、今度こそ毒かといきり立ったが、「お子様の口に飲みやすいよう甘みの粉を加えるだけです」と言われ、塩と同じように自分も口にして確かめ、ソレはもう黙ることにした。
おそらく、頭と顎に毛皮を持つニンゲンはトムに危害を加えようとはしない。
目の前でソレが一挙手一投足を監視しているのだ。ソレの鋭い鉤爪と牙を、自分の頭と顎の毛だけで弾けるとはいくらなんでも思って居ないはずだ。強者の怒りを買うよりは、同族の子供を治すことに一生懸命になるだろう。
ニンゲンは塩と甘い粉ーー砂糖とニンゲンは言ったーー混ぜた水をトムに飲ませた。
薄目を開けたトムは、見知らぬニンゲンに一瞬だけ戸惑ったが、自分の頭の上にある大きな赤い三つの目を見つけた途端、安堵に小さく微笑んだ。
ソレは腹の下の急所の奥が、見えない手によって引き絞られたように感じた。
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