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「うわああああああ!」
逃げられないよう手足を後ろに回して触手で一纏めにし、己の前に宙吊りにする。
「ひいいいいっ」
ブルブル震えている大きなニンゲン構わず、ソレは腹の下からトムを出した。
「フンと吐くことしかしなくなった。治せ!」
「は?」
大きいニンゲン。
乾いた岩色の毛を頭と顎の下に生やしたニンゲンは、皺が刻まれた肌を一瞬だけ伸び切らせるようにしてきょとんとした。
ソレはトムが心配で、間抜けな顔をしている頭と顎に毛を生やしたそのニンゲンに腹を立てた。
「何をしている! はやくトムを元気にしろ!」
「……」
「お前はトムと同じニンゲンだろう!」
「そう言われましても……」
良い返事をしない大きいニンゲンにソレは牙をむき出しにして見せる。
「治さなければ、お前の身体を千々に引き裂いてこの平原に撒き散らしてやる!」
「ヒイ! やります! やりますから! まずはお子様の体に触れることをお許し下さい!」
大きいニンゲンは物分かりよく、触手から解放されると速やかにトムへと近寄った。
ニンゲンはトムを包む尻尾と触手に一瞬だけ怯んだ様子を見せたが、震えながらも子供のまぶたに手を伸ばした。
下瞼を開けたり、口を開けさせて中を見たり、生き物の弱点である首を触ったり、手首を握ったり。
大きい人間が何故そんな事をするのか、ソレにはさっぱり見当がつかなかった。しかし同じ種族である大きいニンゲンがしているのならば、それが体を治すことに必要なのだろうと納得する。
ニンゲンは下瞼を押し下げてみることで体の具合が良くなるのか、と長く生きてきて初めて知った知識に驚愕しつつも、トムの様子を窺う。
「……」
グッタリとしているままだ。
下瞼を押し開けたのに、全然良くなる兆しが見えない。
ソレは大きいニンゲンが己を欺いたのだと思った。
そんなに八つ裂きになりたいのならばしてやろう、と鉤爪を振り上げようとして思い留まる。
このまま四肢をちぎり取ったら地面に横たわっているトムに血飛沫が掛かってしまう。こんなに弱っているのに冷たい川の水で洗ったりしたらもっと弱ってしまうだろう、とソレは考えた。
トムを自分の腹の下に隠さなければ、と触手で引き寄せようとして、大きいニンゲンの手に阻まれた。
震えつつ、骨張った皺だらけの手がソレの触手を握っている。
「恐れながら申し上げます」
逃げられないよう手足を後ろに回して触手で一纏めにし、己の前に宙吊りにする。
「ひいいいいっ」
ブルブル震えている大きなニンゲン構わず、ソレは腹の下からトムを出した。
「フンと吐くことしかしなくなった。治せ!」
「は?」
大きいニンゲン。
乾いた岩色の毛を頭と顎の下に生やしたニンゲンは、皺が刻まれた肌を一瞬だけ伸び切らせるようにしてきょとんとした。
ソレはトムが心配で、間抜けな顔をしている頭と顎に毛を生やしたそのニンゲンに腹を立てた。
「何をしている! はやくトムを元気にしろ!」
「……」
「お前はトムと同じニンゲンだろう!」
「そう言われましても……」
良い返事をしない大きいニンゲンにソレは牙をむき出しにして見せる。
「治さなければ、お前の身体を千々に引き裂いてこの平原に撒き散らしてやる!」
「ヒイ! やります! やりますから! まずはお子様の体に触れることをお許し下さい!」
大きいニンゲンは物分かりよく、触手から解放されると速やかにトムへと近寄った。
ニンゲンはトムを包む尻尾と触手に一瞬だけ怯んだ様子を見せたが、震えながらも子供のまぶたに手を伸ばした。
下瞼を開けたり、口を開けさせて中を見たり、生き物の弱点である首を触ったり、手首を握ったり。
大きい人間が何故そんな事をするのか、ソレにはさっぱり見当がつかなかった。しかし同じ種族である大きいニンゲンがしているのならば、それが体を治すことに必要なのだろうと納得する。
ニンゲンは下瞼を押し下げてみることで体の具合が良くなるのか、と長く生きてきて初めて知った知識に驚愕しつつも、トムの様子を窺う。
「……」
グッタリとしているままだ。
下瞼を押し開けたのに、全然良くなる兆しが見えない。
ソレは大きいニンゲンが己を欺いたのだと思った。
そんなに八つ裂きになりたいのならばしてやろう、と鉤爪を振り上げようとして思い留まる。
このまま四肢をちぎり取ったら地面に横たわっているトムに血飛沫が掛かってしまう。こんなに弱っているのに冷たい川の水で洗ったりしたらもっと弱ってしまうだろう、とソレは考えた。
トムを自分の腹の下に隠さなければ、と触手で引き寄せようとして、大きいニンゲンの手に阻まれた。
震えつつ、骨張った皺だらけの手がソレの触手を握っている。
「恐れながら申し上げます」
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