マイニング・ソルジャー

立花 Yuu

文字の大きさ
4 / 48
section 1

No.003

しおりを挟む
 ヴェインは仮想の宇宙空間から落ちたようで、映像が横になっていた。
 起き上がって視界を正常位置に戻した。
 乱暴に放り込まれた場所には、錆だらけの古い鉄製の大型飛行船が船舶修理施設に停められていた。しかもこのドックは大昔に廃棄され、あちらこちらが崩れかけ、一部の崩壊した天井から、太陽光が射していた。
 埃っぽいのか、光の梯子はしごが、いくつも射していた。幻想的だが不気味な静けさがあった。

「突然、こんな所に放り出されるのかよ」

 その時背後から、金属の管にギターの低音を響かせたような、重厚な呻き声が轟き、ヴェインは影に覆われた。
 ゾクリと全身に鳥肌が立ち、前のめりになりながら振り向いた時には、うねうねと軟体金属生物が触手をくねらせ、山のように巨大化した。

「うわああああっ!」

 と思わず声を上げたヴェインは、貰ったばかりのレーザー銃をとにかく撃ちまくった。
 ぎゅううと変な奇声を上げたエイリアンは口らしき穴をガバっと広げた。

「なんだ、なんだ!」

 金属製の触手をぱっぁ――と広げて、威嚇攻撃が来ると悟った時だった。
 もうやられる、と悟った刹那、数弾のライフル弾がエイリアンに撃ち込まれた。
 エイリアンの動きが止まった時、ハッと我に返ったヴェインも、レーザー銃を撃ちまくった。
 
 触手を粉砕されたエイリアンは奇声を発した後、爆ぜるように砕け散った。
 エイリアンが消えた跡には、何かカードのような物が宙に浮いていた。
「何だこれ」と眺めていると、ライフル弾を撃ち込んだ主が、対物狙撃用ライフルを片手で抱えながら、やって来た。

「マジ、ていうか、すげぇカッコイー」
 
 久しぶりにお目にかかるな。
 ようは、アンチ・マテリアル・ライフル対物ライフルだ。やっぱデカイしいかついなぁ。

「あれ、君、ルーキー?」

 攻撃対象が人間や動物では無く、戦車や装甲車を対象にした火器だ。さすがにデカい。
 140センチはあるだろう。重量級にもかかわらず、肩に立て掛けた方の腕だけで楽々抱えていた。プレイしてきたシューティング・ゲームでは重量ペナルティで、歩くスピードが遅くなった。

 まぁVR空間なので、現実の本人に銃の重さまでは伝わらないが。
 にしてもリアル感が凄い。ガス式のセミオート・ライフル、ピカティニーレイルに特殊スコープ装備の特殊アルミ合金製レシーバー、見た目的なごつさには、リアルな迫力がある。

「ああ、これか。ちなみに50口径、フル装備ながらも14キロと軽量だけど、俺ははっきり言って銃向きじゃないんだよなぁ。でもこいつのスキルさえ習得すれば、遠距離からマイニングできるよ」

 ヴェインの視線の先に気付いたようで、わざわざ丁寧に説明してくれた。
 ライフルを地に突き立てた男は、宙に浮くカードをタッチして、腕時計と一体になった端末にかざすと、カードは消えた。

『新ブロックがチェーンに追加されました。エイリアン・レベルD5。報酬0.55ユードが生成されます』

 その腕時計が何を言っているのか、意味が分からなかった。

「あの状況で咄嗟に銃を撃てるなんて、初めてにしてはなかなかの反応だよ。にしても、デビュー早々、難易度の高いエリアに落とされるなんて、不運だね、君」

 大物のアンチ・マテリアル・ライフルに寄り掛かかり、ヴェインに苦笑いを向けた男は、ヴェインの姿を上から下まで眺めるというより、よくよく確認していた。

「受付のアンドロイドに嫌われてるのかも。渡されたのレーザー銃、一丁だけだし」

 手に握るレーザー銃を眺めながら、これから先どうしようかと思い、ヴェインは口端を引き攣らせた。
 皆が同じようにスタートしていると思うと、稼げるようになるのは、やはりセンスなんだと、早々に思い知らされた。

「初期装備は皆同じだよ。手っ取り早く成長するには、ソロよりも、パーティに入るのが良い。どのフィールドにも、町はある。コミュニティ本部に行けば、メンバーを募集してるパーティが掲載されてるよ」
「なるほどな、ありがと。助けてもらった上に、色々教えてくれて」

 長身で耳が長い、琥珀色のぼさぼさの短髪に黒檀色の瞳がやけに目立つ、いわゆるエルフタイプだ。広げれば人より大きそうな翼が背中に生えていた。腰ベルトにはハンドガン・ホルダーが二丁、ぶら下がっていた。
 銃は苦手とか言いながら、意外と持ち合わせている。

「君、何の下調べもなく飛び込んで来たんだな」
「皆、そうなんじゃないの? やっぱり、調べてくるもん?」

 ぼさぼさ頭の翼の生えた男は、フフッといかにも見下すように鼻で笑った。しかも、完全にアホだと思われた笑いだ。
 少し苛っとして、ヴェインは唇を尖らせた。

「笑ってゴメン。俺もそうだったな、と思って。俺、レインツリー、君は」
「俺は、ヴェイン。見ての通り、来たばかりのルーキーだ」
「――ーーマジ、ーーーー君、じゃなくて、お前、男だったの?」

 出たお決まりの科白。どいつもこいつも、猫タイプは女だと、思い込み過ぎだ。この際、マイニング・ワールド内のコスチュームは思い切って、女兵士風にするか。

「見飽きたリアクションだよ。じゃあ、取り敢えず、町に行ってみるよ。武器屋もあるだろうし。ちょっと待て、そういえば、武器購入って、ユード支払いか?」

 暗号通貨ユードのウォレットには大した金が入っていない事実に気付き、こめかみが冷やりとした。
 金が溜まるまで、レーザー銃一丁で戦わなければならないのかと思うと、頭痛が起きそうになった。
 ヤバい、もう挫折しそう。
 バーチャライザーに映るメニュー画面から、所持ユード額を確認して泣きそうになった。
 
 武器の相場がいくらするのか分からないが、何をやるにしても初期投資には金が掛かる。何かを始める場所がVR世界であっても、同じだったか。
 バイク屋を作るために購入した家と、店に改造した工事費がまだ払い途中だ。もしここで失敗したら、やっぱり博打だったかと、諦めかけた時だった。

「まあ焦るなって、武器の前に、先ずは、これだ」
 
 とレインツリーは手首に付けた、腕時計みたいな端末をヴェインに見せた。
 さっきカードにかざした端末だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...