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section 1
No.022
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「おい、秦矢!」の声で秦矢は我に返った。
「ユグドのニュースには、何も載ってねえし。笹部の親が、あいつは【マイニング・ワールド】にダイブしてる時に倒れた、って。あいつ、福岡で一人暮らしだろ。職場を何日も無断欠勤してたから、上司がアパートまで見に行ったらしいぜ」
笹部の不幸を想って康は今にも泣きそうな顔で、額を押さえた。
カウンターに丸椅子があったので、康に座らせた。
「俺、あいつに会ったの、あのバイク・レースが最後だぜ」
「俺もだ」と呟き返した。
ごめん、見ていながら何もしなかった――とは、とても言えなかった。
「秦矢。お前も、もうマイニング止めろよ。今度、お前に何かあったら、俺が一人になっちまうだろ」
男泣きかよ。周りに友達は沢山いるくせに、そういう奴に限って、一人ではいられない。
そんな康に対して、秦矢はまったく真逆な人間だった。バイクさえいじ弄っていればそれで良いと、自ら殻に籠っていた。一人でも生きていけると思い込んでいた。
そんな人間に、しつこく付きまとってくれた友人を、これ以上は泣かせられない。
「俺、しばらく店休む。その間、【マイニング・ワールド】でやることがある」
「へ?」と康の口から間の抜けた声が漏れた。
「俺は自営だぜ。サラリーマンのお前じゃあ、どうしようもねえだろ」
涙を乱暴に拭った康は、「なんだよ! 会社員を舐めんな」と拳で腕を殴られた。
「かと言って、俺がどうこうしたからって、笹部の意識は戻らないままかもしれない」
「分かってる、そんなこと。それでもお前になら、できることがあるかもしれないんだろ。向こうの世界で」
康の真剣さを初めて見た。面と向かって言われると、背筋がむず痒くなった。
何かのドラマみたいで、「やめよろ」と康の腕を叩き返してやった。
「俺、知ってたぜ」
康は半笑いしながら、カウンターに寄り掛かり、肘を突いて、姿勢を崩した。
「ガキの頃、テレビゲームでどうしてもお前に勝てなくて、何回も勝負して。あんまりしつこいから、お前、俺に勝ちを譲ったんだろ」
一瞬、サァッと蟀谷から血の気が引いた。康は自分が勝った瞬間から気付いていた。
気付きながら、秦矢の前では勝ったとはしゃいでいたフリをしていたのだ。それ以来、テレビゲームを二人ではしなくなった。
子供なりに最善策を考え、お互い自分の意地より友情を選んでいた。
「ごめん」と口にしようとした時、康がわざとらしく「だからさぁ」と声を張った。
「秦矢ならササッと片付けて、絶対帰ってくるだろ。早く、バイク・レース行こうぜぇ」
最後にバシッと平手で、腕を叩かれた。
「言われんでも、さっさと片付けてくる」
* * *
店をしばらく休む文言を、顧客にはメールでお知らせした。
事務的な作業だけは、マイニングの合間にもできるので、あらかた休める状態に入った秦矢は、レインツリーにはすぐさま知らせず、未来都市の色々な場所を回った。
マイニングばかりで、ろくに未来都市を観ていなかった。
工具や部品エリアを見つけて、バイクや銃は自分でもカスタマイズできるんだと思い出した。
基本的に中身も揃っている、工具ツール・チェストさえ購入すれば、直ぐにでもカスタマイズが始められた。
工具ツール・チェストにもスキルが内蔵されていた。
「へぇ、意外と細かくできるんだ」
スキルのステップを踏んでいけば、高度なカスタマイズにも応用が効くシステムだ。作業する場所も、ピットを貸してくれるので、ヴェインは早速、始めた。
「本当に、現実世界みたいに改造できるんだな」
話を聞いた時は半信半疑だった。実際に工具を持ち、仮想世界のバイクのパーツに触れて、作業ができた。
基本は現実世界のバイクと似たような造りだ。しかもガソリン・エンジンをモデルにしているので、ヴェインには打ってつけだった。
パワーアップなら、ヘッド付きのボアアップ・キットを取り付ければいいか。
部品を売る店も果てしなく出店しているので、できるだけ多くの店を回った。エンジン部品を重点的に観て回り、今のバイクと最も相性が良さそうな部品を選んだ。
ピットで皆がやっているカスタマイズは、主に見た目重視の改造だが、やるなら本格的なチューニングだ。構造さえ掴めば、後はいつも修理している要領で改造した。
一週間はピットにこもってカスタマイズを徹底的に研究した。改造完了のボタンさえ押さなければ、何度でもバラして組み立てる作業ができた。
商売のためではなく、好きなだけバイクに没頭したのは久しぶりだ。
「で作業を完了させると、内蔵されたスキルが自動的に再構築するとか言ってたけど――」
バイクからエンジン音みたいな効果音が響くと、ディスプレイに再構築されたスキルが表示された。
「どれどれぇーー、生まれたてのスキルななんだーー」
どんな武器でもステップアップ方式でスキルを修得していくのだが、このバイクの最終修得スキルに、一瞬では理解し難い項目があった。
「これは、まさかーー」
「ユグドのニュースには、何も載ってねえし。笹部の親が、あいつは【マイニング・ワールド】にダイブしてる時に倒れた、って。あいつ、福岡で一人暮らしだろ。職場を何日も無断欠勤してたから、上司がアパートまで見に行ったらしいぜ」
笹部の不幸を想って康は今にも泣きそうな顔で、額を押さえた。
カウンターに丸椅子があったので、康に座らせた。
「俺、あいつに会ったの、あのバイク・レースが最後だぜ」
「俺もだ」と呟き返した。
ごめん、見ていながら何もしなかった――とは、とても言えなかった。
「秦矢。お前も、もうマイニング止めろよ。今度、お前に何かあったら、俺が一人になっちまうだろ」
男泣きかよ。周りに友達は沢山いるくせに、そういう奴に限って、一人ではいられない。
そんな康に対して、秦矢はまったく真逆な人間だった。バイクさえいじ弄っていればそれで良いと、自ら殻に籠っていた。一人でも生きていけると思い込んでいた。
そんな人間に、しつこく付きまとってくれた友人を、これ以上は泣かせられない。
「俺、しばらく店休む。その間、【マイニング・ワールド】でやることがある」
「へ?」と康の口から間の抜けた声が漏れた。
「俺は自営だぜ。サラリーマンのお前じゃあ、どうしようもねえだろ」
涙を乱暴に拭った康は、「なんだよ! 会社員を舐めんな」と拳で腕を殴られた。
「かと言って、俺がどうこうしたからって、笹部の意識は戻らないままかもしれない」
「分かってる、そんなこと。それでもお前になら、できることがあるかもしれないんだろ。向こうの世界で」
康の真剣さを初めて見た。面と向かって言われると、背筋がむず痒くなった。
何かのドラマみたいで、「やめよろ」と康の腕を叩き返してやった。
「俺、知ってたぜ」
康は半笑いしながら、カウンターに寄り掛かり、肘を突いて、姿勢を崩した。
「ガキの頃、テレビゲームでどうしてもお前に勝てなくて、何回も勝負して。あんまりしつこいから、お前、俺に勝ちを譲ったんだろ」
一瞬、サァッと蟀谷から血の気が引いた。康は自分が勝った瞬間から気付いていた。
気付きながら、秦矢の前では勝ったとはしゃいでいたフリをしていたのだ。それ以来、テレビゲームを二人ではしなくなった。
子供なりに最善策を考え、お互い自分の意地より友情を選んでいた。
「ごめん」と口にしようとした時、康がわざとらしく「だからさぁ」と声を張った。
「秦矢ならササッと片付けて、絶対帰ってくるだろ。早く、バイク・レース行こうぜぇ」
最後にバシッと平手で、腕を叩かれた。
「言われんでも、さっさと片付けてくる」
* * *
店をしばらく休む文言を、顧客にはメールでお知らせした。
事務的な作業だけは、マイニングの合間にもできるので、あらかた休める状態に入った秦矢は、レインツリーにはすぐさま知らせず、未来都市の色々な場所を回った。
マイニングばかりで、ろくに未来都市を観ていなかった。
工具や部品エリアを見つけて、バイクや銃は自分でもカスタマイズできるんだと思い出した。
基本的に中身も揃っている、工具ツール・チェストさえ購入すれば、直ぐにでもカスタマイズが始められた。
工具ツール・チェストにもスキルが内蔵されていた。
「へぇ、意外と細かくできるんだ」
スキルのステップを踏んでいけば、高度なカスタマイズにも応用が効くシステムだ。作業する場所も、ピットを貸してくれるので、ヴェインは早速、始めた。
「本当に、現実世界みたいに改造できるんだな」
話を聞いた時は半信半疑だった。実際に工具を持ち、仮想世界のバイクのパーツに触れて、作業ができた。
基本は現実世界のバイクと似たような造りだ。しかもガソリン・エンジンをモデルにしているので、ヴェインには打ってつけだった。
パワーアップなら、ヘッド付きのボアアップ・キットを取り付ければいいか。
部品を売る店も果てしなく出店しているので、できるだけ多くの店を回った。エンジン部品を重点的に観て回り、今のバイクと最も相性が良さそうな部品を選んだ。
ピットで皆がやっているカスタマイズは、主に見た目重視の改造だが、やるなら本格的なチューニングだ。構造さえ掴めば、後はいつも修理している要領で改造した。
一週間はピットにこもってカスタマイズを徹底的に研究した。改造完了のボタンさえ押さなければ、何度でもバラして組み立てる作業ができた。
商売のためではなく、好きなだけバイクに没頭したのは久しぶりだ。
「で作業を完了させると、内蔵されたスキルが自動的に再構築するとか言ってたけど――」
バイクからエンジン音みたいな効果音が響くと、ディスプレイに再構築されたスキルが表示された。
「どれどれぇーー、生まれたてのスキルななんだーー」
どんな武器でもステップアップ方式でスキルを修得していくのだが、このバイクの最終修得スキルに、一瞬では理解し難い項目があった。
「これは、まさかーー」
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