地女に恋した俺は夢を見ていた

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第19話

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 俺があまりに折れない為、諦めたのかカエさんはスッと離れるとまた横にちょこんと座った。

 内心ホッとしたと同時に申し訳ないやら残念やらで複雑だった。

「なんだか私空回りしてますね」

 カエさんの表情が暗くなっている。

「そんな事ないですよ。期待に応えられずにすみません」

「私に魅力がないのは分かってます。でもどうしても焦っちゃって‥‥」

「前にも言いましたけど焦らなくて大丈夫じゃないですか?普通はもっと関係をゆっくり築いていって初めてそうゆう気持ちになるもんですよ」

「普通‥‥。私は今まで誰とも付き合った事すらないんですよ。だからそれが普通かどうかなんて分かりません」

「言い方が悪かったですね。俺の場合は、ですね」

「私、今日は帰りますね」

「じゃあ俺のスウェットでも履いて帰って下さい。スリッパも貸すので」

「ありがとうございます」

 カエさんは俺が渡したスウェットを履くと、部屋にあったスリッパを履いて出て行った。

 カエさんはなんでそんなに焦るのだろう。

 そればかり考えていた。

 翌日は朝から役所に向かう。
 今日はギョプの事を調べよう。

 そう思っていたところで、上司から声をかけられた。

「アニさんはパソコンとか出来る?」

「はい、一通りは」

「よかった。今日は何故か休みが多くてね、手伝ってくれるかな?」

「分かりました」

 俺は上司に言われた通り書類を見ながらデータを入力していた。

 これって何の名簿なんだろう。
 俺が入力していたものは恐らく名前からして今のところ全て男性のようだった。

 その日の勤務も終盤に差し掛かった時、名簿の中に見覚えのある名前があった。

 ギョプだ。

 こんな形で見つけられるとは。
 ますますなんの名簿なのか気になったが、まずは住所を確認し、それを誰にも気付かれないようにメモ書きしたものをポッケに素早く隠す。

 思わぬギョプの情報ゲットに俺はテンションが上がっていた。

 今の俺って探偵みたいだなぁなんて思ったりもして浮かれたまま、時間になり退勤する。

 その足でメモを見ながらギョプの家を探そうと思ったが、そういえば住所を見た所で土地勘がない俺は迷子状態になるだけだ。

 こんな時カエさんに頼れたらいいのだが、ギョプや地下の事は秘密にしている為、説明が出来ない。ましてや個人情報を盗んだとは言えないし色々面倒だ。

 俺はカエさん以外にこの地上で唯一の知り合いのトンさんに報告を兼ねて手伝ってもらう事にする。

 トンさんはまだ現場にいるだろう。
 俺は急いで現場に向かう。

 役所からそれ程遠くない為すぐに着いた。

「トンさーん!」
 トンさんが見えた所から呼びながら近づく。

「どうしたそんなに慌ただしそうに」

「早く来ないとトンさん帰っちゃうと思って急いで来たんですよ」

「何か進展でもあったのか?」

「それがギョプの住所ゲットしたんですよ!」

「おー!中々やるじゃねぇか!」

「まあ偶然ですけどね!だから早速行きたいんですけど、俺よりトンさんの方が地上生活長いし俺だけじゃ迷子になりそうで」

「そうだな!よし、行こう」

 トンさんは作業着、俺は唯一家にあった服で一番まともな服を着て出勤していた為割と綺麗めだ。

 俺はメモをトンさんに渡し、着いて行く。

「ここは電車で行かねぇと歩きじゃキツイな」

「そうなんですか?電車ってまだ乗った事なくて‥‥少し怖いですね」

「なんだ子供みてぇな事言って、全然怖くなんかねぇよ、着いてこい」

「はい」

 あの物凄くうるさい箱に乗るのかぁ。
 俺は不安で不安で仕方なかった。
 
 まずは駅という電車乗り場に行き、切符を買う。そして階段を降りて行くと、少し地下と雰囲気が似ている場所に出る。

「地下となんだか似てますね」

「おぅ、ここも一応地下だからな」

 少し懐かしい気分を感じてぼーっとしていると、向こうの方から段々とガタンゴトン、ガタンゴトンという音が近づいてくる。

 きた。

 丁度俺たちが待っている前で止まり、プシューとドアが開いた。

「すごい人ですね」

「今はまだ少ねぇ方だよ」

 そう言いながらトンさんはズケズケ進んでいく。
 俺も置いていかれないようにトンさんの後ろをピッタリくっついて進む。

 こんなにぎゅうぎゅになってるのにみんな平気な顔をしている。

 すぐドアは閉まり、出発した。
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