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第30話
しおりを挟むすっかり忘れていたのは死ぬ事だけじゃなかった。
俺はサイトを見つけた事で期待をしてしまっていたが、そもそも架空の世界だったと言う事。
トンさんは地上なんてない、全部嘘だったと言っていたが、それなら何故サイトがまだ存在してるんだ?
試験は終了したはずじゃなかったのか?
地上が架空の世界だとして、サイトがまだ残っている。いや、この前は確かになかった。
また試験が再開したと考えるのが普通だ。例え架空の世界でも俺は‥‥‥。
しかしどうやってまた行くか。
行ってもまた強制的に戻される可能性もある、でも何度戻されようと俺は何度も行く。そう決めていた。今になれば死ぬぐらいなら挑戦しないと損だ。
そう思い秘密基地にもう一度向かった。サイトが再開されていたなら秘密基地の穴も戻っているはずだ。
着いた頃には額に汗が滲んでいた。走ったからか息も少し切れている。しばらく部屋にこもっていたせいで体力がなくなっている。
っと、確かこの辺だったような‥‥。
やっぱり!
そこにはちゃんと穴が存在していた。
俺の読みは正しかったんだ、これで一先ずは地上に行ける!俺は早る気持ちを抑えながら穴に入り地上を目指す。
前通った時は不安で確信も持てないまま進むだけだったのが、今は違う。
こんなにもワクワクしてる。
3時間ほど休まず歩いていたら出口に出た。
今は晩か。外は暗くとても寒いが震える体さえも新鮮に感じる。
急いでカエさんの家に向かう。前回カエさんの家にお邪魔しといてよかったと心から思った。それにしても本当に寒い。気温はどんどん下がる一方だ。
体はどんどん冷えていき手や足の感覚もなくなっていた。なんせ地上がこんなに寒くなっているとも知らず俺は地下では最適な服装だったからだ。
ん?なんだこれ?
白いものが上から降ってきた。なんとも幻想的で綺麗だ。きらきら、ふわふわと舞っているようにも見える。
俺は歩きっぱなしで足も疲れていた為近くにあったベンチに座りこんでしまった。
本当に綺麗だ‥‥それにさっきまであんなに寒かったのに今は何故かふわぁっと気持ちがいい感覚と眠気が襲ってきた。
少しだけ休憩してからでもいいよな‥‥。
俺はいつも地上で起こるすべての事にいちいち感動している。地下にはないものばかりで退屈しない。地上に来る前は眩暈がして疲れそうだとばかり思っていたのに。
白いものはその後も降り続けていた。
ピンポーン。
「はーい‥‥‥。アニさん‥‥」
「カエさん」
「‥‥どこ行ってたの」
カエさんは俺を見るなり目に涙を浮かべ抱きついてきた。
「カエさん‥‥泣かないで。もうどこにも行かないから」
「私、すごく不安で‥‥一人で怖くて」
「ごめんね。急に居なくなって驚いたでしょ」
「うん。あの後街中探したし連絡する術もないからどうしたらいいのか分からなくて」
鼻水をすすりながらまるで子供みたいにしくしく泣いているカエさん。
「とりあえず落ち着いて。上がるよ?」
本当は会えた嬉しさで飛びつきたいぐらいだったが、カエさんの意外な反応に戸惑ってしまった。
カエさんを座らすと俺はことの経緯を話した。しかし、実際にカエさんは目の前にいるわけで、ちゃんと触れる事が出来る。トンさんの話とは矛盾している。まあトンさんの事だから適当な事を言っていてもおかしくはない。
一つ言える事は俺たちは今ここに存在しているという事だけだ。
「そのトンさんって人は一体何者なの?」
俺の話を聞いて少し落ち着き始めたカエさん。
「俺にもよくわからない。でも正直今はそんな事どうでもいいと思ってる。今考えないといけないのは地下に戻されないようにする事ただ一つなんだから」
「そうだね。とにかくアニさんが戻ってきてよかったぁ」
カエさんは安心したのか俺の肩に寄りかかったまま眠ってしまった。
さて、これからどうするかな。
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