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音色
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地上に舞い降りた天使、サミュエルとセオドアの兄弟は、あまりの惨たらしさに虹色の涙を流した。
「ああ、私たちが遅れてしまったばかりに」
「こんな事が許されてなるものか……」
ぽとり、と涙が地面に落ちると、みるみるうちに白い薔薇が一面に咲き誇る。
「生き残っている人間だけでも救わなければなりません」
「そうだ、彼女たちは不死鳥とともにいる」
二人は頷き合うと、他の天使と合流すべく薄明の空へと羽ばたいた。
♢♢♢
「ん……」
瞼が重い。
このまま、ずっと寝ていたい。
「悪に選ばれし乙女よ、目を覚ますがいい」
高く澄んだ声が脳内に響くと、未玖は操り人逆のように起き上がる。
目を開けると艶めく漆黒の髪を腰まで伸ばし、燃えるように赤い瞳をした少年とも少女とも見分けのつかない人物が、未玖を見つめていた。
「やあ、良い夢が見れたかい?」
「あ……ここは……」
夜が明けて弱々しい太陽の光が辺りを照らしている。
未玖と不死鳥のダニールは教会の中にいた。
(あれ、悪魔って教会に入れたっけ……?)
「僕たちは悪魔の使いであって悪魔じゃない。それにこんな場所は人間が作り出した偽りの聖域さ」
色鮮やかなステンドグラスに描かれた神様たち。
(――ここ、前に来たことがある)
同級生に信仰している子がいて、去年のクリスマスに一緒に行こうと誘われてミサに参加したのだった。
神父がステンドグラスに描かれているような服装をしていて、初めて来た未玖に対し、優しく微笑みかけてくれた。
パイプオルガンの荘厳な音色に合わせてみんなで讃美歌を歌い、ご馳走とケーキを食べた。
最後に母親から渡された五千円札を、神父が礼拝者のそばで持って歩く白い袋の中に投げるように入れたのだ。
「全く、人間というのは実に愚かだ。祈ろうと祈るまいと神は平等に裁きを下すというのに」
ダニールは立ち上がると、祭壇の方へと歩いていく。
そしてパイプオルガンの椅子に腰掛けると、慣れた様子で演奏を始めた。
初めて聴く曲なのに、とても美しく切ない旋律に未玖は息を呑む。
――残酷なことを平気でする彼が、どうしてこんなに綺麗な音を奏でられるのだろう?
「ほら、未玖もこちらにおいで」
未玖の方を振り向きながら、ダニールが優しく微笑んだ。
その顔はクリスマスの日に見た神父そっくりで、未玖はよろよろと歩き出す。
途中、首のない死体が二つ、寄り添うように横たわっていた。
きっと神父と伴侶のものだろう。
未玖はダニールの横に座った。
ピアノとパイプオルガンは似ているようで大きく違う。
どちらも鍵盤楽器だが、音質は全く異なる。
ピアノはハンマーで弦を叩く打弦楽器、パイプオルガンはパイプに風を送る管楽器だ。
だから未玖は弾けないはずなのに、どういうわけか弾き方が分かった。
指がひとりでに動くのだ。
ダニールと一緒に、見知らぬ曲を重奏する。
その音色はどこまでも澄んでいて清らかだった。
未玖はどうにも心の内を見透かされたような気分になり、頬を伝う涙が鍵盤に触れると静かに散った。
「ああ、私たちが遅れてしまったばかりに」
「こんな事が許されてなるものか……」
ぽとり、と涙が地面に落ちると、みるみるうちに白い薔薇が一面に咲き誇る。
「生き残っている人間だけでも救わなければなりません」
「そうだ、彼女たちは不死鳥とともにいる」
二人は頷き合うと、他の天使と合流すべく薄明の空へと羽ばたいた。
♢♢♢
「ん……」
瞼が重い。
このまま、ずっと寝ていたい。
「悪に選ばれし乙女よ、目を覚ますがいい」
高く澄んだ声が脳内に響くと、未玖は操り人逆のように起き上がる。
目を開けると艶めく漆黒の髪を腰まで伸ばし、燃えるように赤い瞳をした少年とも少女とも見分けのつかない人物が、未玖を見つめていた。
「やあ、良い夢が見れたかい?」
「あ……ここは……」
夜が明けて弱々しい太陽の光が辺りを照らしている。
未玖と不死鳥のダニールは教会の中にいた。
(あれ、悪魔って教会に入れたっけ……?)
「僕たちは悪魔の使いであって悪魔じゃない。それにこんな場所は人間が作り出した偽りの聖域さ」
色鮮やかなステンドグラスに描かれた神様たち。
(――ここ、前に来たことがある)
同級生に信仰している子がいて、去年のクリスマスに一緒に行こうと誘われてミサに参加したのだった。
神父がステンドグラスに描かれているような服装をしていて、初めて来た未玖に対し、優しく微笑みかけてくれた。
パイプオルガンの荘厳な音色に合わせてみんなで讃美歌を歌い、ご馳走とケーキを食べた。
最後に母親から渡された五千円札を、神父が礼拝者のそばで持って歩く白い袋の中に投げるように入れたのだ。
「全く、人間というのは実に愚かだ。祈ろうと祈るまいと神は平等に裁きを下すというのに」
ダニールは立ち上がると、祭壇の方へと歩いていく。
そしてパイプオルガンの椅子に腰掛けると、慣れた様子で演奏を始めた。
初めて聴く曲なのに、とても美しく切ない旋律に未玖は息を呑む。
――残酷なことを平気でする彼が、どうしてこんなに綺麗な音を奏でられるのだろう?
「ほら、未玖もこちらにおいで」
未玖の方を振り向きながら、ダニールが優しく微笑んだ。
その顔はクリスマスの日に見た神父そっくりで、未玖はよろよろと歩き出す。
途中、首のない死体が二つ、寄り添うように横たわっていた。
きっと神父と伴侶のものだろう。
未玖はダニールの横に座った。
ピアノとパイプオルガンは似ているようで大きく違う。
どちらも鍵盤楽器だが、音質は全く異なる。
ピアノはハンマーで弦を叩く打弦楽器、パイプオルガンはパイプに風を送る管楽器だ。
だから未玖は弾けないはずなのに、どういうわけか弾き方が分かった。
指がひとりでに動くのだ。
ダニールと一緒に、見知らぬ曲を重奏する。
その音色はどこまでも澄んでいて清らかだった。
未玖はどうにも心の内を見透かされたような気分になり、頬を伝う涙が鍵盤に触れると静かに散った。
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