不死鳥は歪んだ世界を救わない

凛音@りんね

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営み

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 夜になると未玖はダニールと共に、倒壊した教会の中に潜り込んだ。
 蛇のクロはずっと未玖の右腕に巻きついている。

「大丈夫? 寒くない?」

 答える代わりにクロはこくりと頷いた。

「やはり教会ここは落ち着くね」
「――うん」

 ダニールが転がっていた蝋燭に燃える翼で火を灯し、二人と一匹の影が崩れた壁へいびつに伸びる。

「お腹は空かないかい?」
「たくさん林檎を食べたから大丈夫」

 未玖は宇宙と一体化した夢を見てから、林檎しか食べられなくなった。
 前はあんなに好きだった唐揚げもハンバーガーも、今では味や食感を想像しただけで吐き気を催す。

「じきに何も食べなくとも平気になるよ。それまで僕が未玖みくの為に禁断の果実林檎を創り出そう」
「ありがとう、ダニール」

 服はいつの間にか消えてしまい、二人は裸同然の格好をしていた。

 ダニールの胸部に小さな二つの突起がある。
 未玖と同じ、淡い桜色。
 だがそこに膨らみは無い。

 対して未玖の胸は前よりも大きくなっている――ような気がした。

「気のせいではないよ。君はもう高次元の存在となりつつあるのだから」

 微笑みながらダニールが私の胸に触れた。

「……っ」

 初めて他人に触れられ、変だと感じる。

「とても綺麗だよ、未玖」

 両手で包み込むように胸を掴むと、ダニールはそっと手を動かした。

「んっ……」

 体が熱い。
 突起部分が硬くなる。

「ここが気持ちいいのだろう?」
「あっ!……だめ、ダニール……!」

 未玖は思わず身を捩らせる。

「このままが、今はまだその時ではないからね」

 そう言うとダニールは胸から手を離した。

「ほら、こちらへおいで。一緒に寝よう」
「うん……」

 未玖はどこか物足りなさを感じながら、ダニールの隣で横になる。
 クロは瞼の無い目を開けたまま、すやすやと眠っていた。

「おやすみ、僕の大切な未玖」
「おやすみなさい……」

 目を閉じたダニールは天使のように美しい。
 長いまつ毛に白くなめらかな肌、艶のある黒髪。
 唯一違うのは、翼が燃えていることだけである。

「天使のような悪魔……」

 そんなフレーズが思い浮かんだが、ダニールは悪魔ではない。
 ただ悪魔に仕えているだけで、彼等は決して無慈悲な存在ではないと分かりつつあった。

 少し前の未玖なら激しく否定しただろう。
 そうだと理解できるようになったのは、夢の中で宇宙と意識を共有したからだ。

 あの時、未玖は確かに見た。
 不死鳥フェニックスたちの歴史を、営みを。

 悪魔に強要され、否応無しに子どもを産み育てる姿を。


 ――だから私たちに対して、同じように接してしまうんだ。


「もう大丈夫よ、ダニール」

 未玖は優しくダニールの頭を撫でる。
 艶やかな黒髪からほのかに良い香りがした。

 鼻腔をくすぐられ、まだ下腹部がジンジンしていた未玖は自身の手で陰部にそっと触れる。

「あっ……」

 その夜、未玖は初めて自慰をした。
 ダニールの香りを、温もりを全身で感じながら。

 密かな行為にダニールは気づいていたのだろうか。

 十字架に磔にされた神様の成れの果てが、虚ろな眼差しをこちらに向けている。

 未玖はある程度、満たされると蝋燭の火を吹き消し、今度こそ眠りについた。
 静かに寝息を立てる、ダニールの背中に寄り添って。
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