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堕天使
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神に愛されし天使であるジョシュアの背中に生えた、白く清らかな翼が黒く染まっていく。
ゆっくりと、だが確実に。
――ああ、父なる神よ。
どうか愚かな私をお赦しください――
ジョシュアの青い瞳から涙が溢れたが、もう虹色に輝くことはない。
「一体どうしたのだ?」
兄であるサミュエルが、ジョシュアのただならぬ様子に怪訝な顔をした。
「兄上、私は天界を追放されるのです」
「追放? 純粋で汚れを知らないお前が、なぜ――?」
サミュエルの青く澄んだ瑠璃色の瞳が揺れた。
中性的な顔立ちに纏う勇ましさに、思わずうっとりしてしまう。
――ああ、父なる神よ。
こんな時でさえ、私は兄を愛してやまないのです――
「仲間であるセオドアを妬んだからです」
「セオドアを――?」
サミュエルは首を傾げる。
「兄上と親しいセオドアを密かに羨ましいと思っていました。ですが昨日別れの口づけを見た時、私の中で嫉妬心が芽生えたのです」
「ああ、何ということだ。ジョシュア――」
嘆き悲しむようにサミュエルは項垂れた。
そんな兄の姿を見て胸が痛むと同時に、瞳がより一層燃えるように熱くなる。
――もうすぐ、私は。
「兄上」
ジョシュアはサミュエルの形の良い唇に、自身の唇を重ねた。
「っ……!」
決して赦されない、禁断の愛。罪深き所業。
だからこそ余計にもっと、と欲してしまう。
背徳感に酔いしれる中、ジョシュアの翼は完全に漆黒へと染まり、瞳が黒く変容する。
ついに堕天使となったのだ。
唇を離すと、サミュエルを真っ直ぐ見つめた。
「兄上、あなたを愛しています。ずっとずっと」
「ジョシュア――」
地獄への入り口が開け放たれ、ジョシュアを捉えると暗く冷たい闇へと引き摺り込んでいく。
――ああ、堕ちていく、どこまでも、どこまでも。
兄上が私の名を呼んでいるが、二度と会うことは叶わないでしょう――
ジョシュアは目を瞑り、頭から闇の中へと落下していった。
♢♢♢
どのくらい経っただろうか。
気がつくとジョシュアは、蛆のように蠢く人々を見下ろしていた。
永遠の炎に焼かれ、終わりのない苦しみによってもたらされる終わりなき悪夢。
ふと不死鳥の存在に気がつくと、ジョシュアは手招きをした。
「何でございますか、ご主人様」
あどけなさが残る、少年とも少女とも見分けのつかぬ不死鳥に加虐心が頭を擡げる。
「不死鳥よ、名は何と申す」
「ヨクサルと申します」
まだ汚れを知らない赤く燃える瞳で、ジョシュアを見上げるヨクサル。
在りし日の誰かと重なったが、どうにも思い出すことができない。
――私はいつから悪魔になったのだろう?
なった?
では、前は何者だったのか――
「あの、ご主人様……?」
ヨクサルが心配そうに顔を覗き込んでいる。
「お前、私が怖くないのか?」
「はい。ご主人様はとてもお美しいのでちっとも怖くありません」
その返答にジョシュアの中で何かが弾ける。
ヨクサルが欲しい、と本能が告げていた。
「こちらへおいで、ヨクサル」
「はい、ご主人様――」
ジョシュアはヨクサルのか細い手首を掴んで奥の部屋へ姿を消すと、彼を一方的に愛する。
大切にしたいのに、傷つけてしまう。
ヨクサルが苦痛に涙を流し叫び声を上げる度に、欲望が膨れ上がっていく。
「愛しているよ、ヨクサル」
ジョシュアは荒々しく呼吸をしながら、耳元で優しく囁いた。
「ご主人、さま……」
そして再び、彼を弄ぶ。
深く深く、果てることのない快楽を貪る為に。
ゆっくりと、だが確実に。
――ああ、父なる神よ。
どうか愚かな私をお赦しください――
ジョシュアの青い瞳から涙が溢れたが、もう虹色に輝くことはない。
「一体どうしたのだ?」
兄であるサミュエルが、ジョシュアのただならぬ様子に怪訝な顔をした。
「兄上、私は天界を追放されるのです」
「追放? 純粋で汚れを知らないお前が、なぜ――?」
サミュエルの青く澄んだ瑠璃色の瞳が揺れた。
中性的な顔立ちに纏う勇ましさに、思わずうっとりしてしまう。
――ああ、父なる神よ。
こんな時でさえ、私は兄を愛してやまないのです――
「仲間であるセオドアを妬んだからです」
「セオドアを――?」
サミュエルは首を傾げる。
「兄上と親しいセオドアを密かに羨ましいと思っていました。ですが昨日別れの口づけを見た時、私の中で嫉妬心が芽生えたのです」
「ああ、何ということだ。ジョシュア――」
嘆き悲しむようにサミュエルは項垂れた。
そんな兄の姿を見て胸が痛むと同時に、瞳がより一層燃えるように熱くなる。
――もうすぐ、私は。
「兄上」
ジョシュアはサミュエルの形の良い唇に、自身の唇を重ねた。
「っ……!」
決して赦されない、禁断の愛。罪深き所業。
だからこそ余計にもっと、と欲してしまう。
背徳感に酔いしれる中、ジョシュアの翼は完全に漆黒へと染まり、瞳が黒く変容する。
ついに堕天使となったのだ。
唇を離すと、サミュエルを真っ直ぐ見つめた。
「兄上、あなたを愛しています。ずっとずっと」
「ジョシュア――」
地獄への入り口が開け放たれ、ジョシュアを捉えると暗く冷たい闇へと引き摺り込んでいく。
――ああ、堕ちていく、どこまでも、どこまでも。
兄上が私の名を呼んでいるが、二度と会うことは叶わないでしょう――
ジョシュアは目を瞑り、頭から闇の中へと落下していった。
♢♢♢
どのくらい経っただろうか。
気がつくとジョシュアは、蛆のように蠢く人々を見下ろしていた。
永遠の炎に焼かれ、終わりのない苦しみによってもたらされる終わりなき悪夢。
ふと不死鳥の存在に気がつくと、ジョシュアは手招きをした。
「何でございますか、ご主人様」
あどけなさが残る、少年とも少女とも見分けのつかぬ不死鳥に加虐心が頭を擡げる。
「不死鳥よ、名は何と申す」
「ヨクサルと申します」
まだ汚れを知らない赤く燃える瞳で、ジョシュアを見上げるヨクサル。
在りし日の誰かと重なったが、どうにも思い出すことができない。
――私はいつから悪魔になったのだろう?
なった?
では、前は何者だったのか――
「あの、ご主人様……?」
ヨクサルが心配そうに顔を覗き込んでいる。
「お前、私が怖くないのか?」
「はい。ご主人様はとてもお美しいのでちっとも怖くありません」
その返答にジョシュアの中で何かが弾ける。
ヨクサルが欲しい、と本能が告げていた。
「こちらへおいで、ヨクサル」
「はい、ご主人様――」
ジョシュアはヨクサルのか細い手首を掴んで奥の部屋へ姿を消すと、彼を一方的に愛する。
大切にしたいのに、傷つけてしまう。
ヨクサルが苦痛に涙を流し叫び声を上げる度に、欲望が膨れ上がっていく。
「愛しているよ、ヨクサル」
ジョシュアは荒々しく呼吸をしながら、耳元で優しく囁いた。
「ご主人、さま……」
そして再び、彼を弄ぶ。
深く深く、果てることのない快楽を貪る為に。
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