18 / 54
吹雪
しおりを挟む
「ねぇ、ファロム。世界中を回ったけれど、あとどれくらい乙女っているの?」
「そうだね、もうそんなに多くはないはずさ」
凍てつく灰色の空を寄り添うように飛ぶ、全身血みどろの二人。
眼下には崩壊した街並みがどこまでも続いている。
「紗南、お腹は空かないかい?」
「さっき豚の丸焼きを食べたからお腹いっぱい。ファロムこそあんなに不死鳥の心臓を食べて気持ち悪くならないの?」
不死鳥は通常の攻撃では決して死なない。
唯一殺す方法は生きたまま心臓を抉り出し、それを食する。
つまり共喰いするのだ。
ただしこれは同族である不死鳥か、主従関係を結んだ悪魔にしか適応されない。
それ故に不死鳥は悠久の時を生きることを強いられている。
「あれは仲間を弔う大切な儀式だからね。気持ち悪くはないよ」
「ふうん。それより早く体を洗いたいわ。もう何日もお風呂に入っていないんだもの」
紗南も年頃の娘なので、身だしなみには人並みに気を使っている。
たとえ人類が自分一人だけになろうとも、それは変わらないだろう。
――邪魔な存在はファロムがみんな始末してくれる。
私はファロムと二人で新たな世界の神様になるの――
「どこか湯浴みできる場所を探そう」
「温泉だったら貸切ね。考えただけでワクワクしちゃう」
紗南は無邪気に笑った。
ファロムもつられて優しく微笑む。
灰色の空からしんしんと白い雪が降り出した。
♢♢♢
「雪が降ってきたね」
倒壊した教会から出てきた未玖とダニールは、どんよりと曇った空を見上げる。
昨夜、寝る前までは裸同然だった二人だが、目を覚ますと古代ギリシャ人が着用していたキトンとよく似た服を纏っていた。
「これ……もしかしてクロが作ってくれたの?」
未玖の髪の毛から生まれた黒蛇のクロが、答える代わりにこくりと頷く。
「ありがとう。サンダルもとっても履き心地がいいわ」
二人の両足は革の靴底に革の紐を通して親指と人差し指の間に通し、足首で固定された茶色いサンダルを履いていた。
「やはりこの格好は落ち着くね」
ダニールは体つきから男性だと見做されたのか、左肩のみ留められて右胸が完全に露出している。
初めて彼と会った時もほぼ同じ姿をしていた。
長く艶やかな漆黒の髪の毛に、赤い瞳、燃える翼。
人ならざる姿に畏れを懐く一方で、その美しさに驚嘆したのを遠い昔の出来事のように思い出す。
あれからまだ一ヶ月も経っていないはずなのに、まるで何十年も前のようーー
夢の中で宇宙と意識を共有してから未玖の時間の概念が変わりつつあったが、その事実にまだ彼女は気づいていない。
「どこかで体を清めよう」
「――うん。おいで、クロ」
母親である未玖に呼ばれ、クロは甘えるような仕草で首に巻きついた。
そしてダニールの背中に乗り、炎の翼に触れた雪を溶かしながら吹雪く寒空を高く高く舞い上がっていく。
「そうだね、もうそんなに多くはないはずさ」
凍てつく灰色の空を寄り添うように飛ぶ、全身血みどろの二人。
眼下には崩壊した街並みがどこまでも続いている。
「紗南、お腹は空かないかい?」
「さっき豚の丸焼きを食べたからお腹いっぱい。ファロムこそあんなに不死鳥の心臓を食べて気持ち悪くならないの?」
不死鳥は通常の攻撃では決して死なない。
唯一殺す方法は生きたまま心臓を抉り出し、それを食する。
つまり共喰いするのだ。
ただしこれは同族である不死鳥か、主従関係を結んだ悪魔にしか適応されない。
それ故に不死鳥は悠久の時を生きることを強いられている。
「あれは仲間を弔う大切な儀式だからね。気持ち悪くはないよ」
「ふうん。それより早く体を洗いたいわ。もう何日もお風呂に入っていないんだもの」
紗南も年頃の娘なので、身だしなみには人並みに気を使っている。
たとえ人類が自分一人だけになろうとも、それは変わらないだろう。
――邪魔な存在はファロムがみんな始末してくれる。
私はファロムと二人で新たな世界の神様になるの――
「どこか湯浴みできる場所を探そう」
「温泉だったら貸切ね。考えただけでワクワクしちゃう」
紗南は無邪気に笑った。
ファロムもつられて優しく微笑む。
灰色の空からしんしんと白い雪が降り出した。
♢♢♢
「雪が降ってきたね」
倒壊した教会から出てきた未玖とダニールは、どんよりと曇った空を見上げる。
昨夜、寝る前までは裸同然だった二人だが、目を覚ますと古代ギリシャ人が着用していたキトンとよく似た服を纏っていた。
「これ……もしかしてクロが作ってくれたの?」
未玖の髪の毛から生まれた黒蛇のクロが、答える代わりにこくりと頷く。
「ありがとう。サンダルもとっても履き心地がいいわ」
二人の両足は革の靴底に革の紐を通して親指と人差し指の間に通し、足首で固定された茶色いサンダルを履いていた。
「やはりこの格好は落ち着くね」
ダニールは体つきから男性だと見做されたのか、左肩のみ留められて右胸が完全に露出している。
初めて彼と会った時もほぼ同じ姿をしていた。
長く艶やかな漆黒の髪の毛に、赤い瞳、燃える翼。
人ならざる姿に畏れを懐く一方で、その美しさに驚嘆したのを遠い昔の出来事のように思い出す。
あれからまだ一ヶ月も経っていないはずなのに、まるで何十年も前のようーー
夢の中で宇宙と意識を共有してから未玖の時間の概念が変わりつつあったが、その事実にまだ彼女は気づいていない。
「どこかで体を清めよう」
「――うん。おいで、クロ」
母親である未玖に呼ばれ、クロは甘えるような仕草で首に巻きついた。
そしてダニールの背中に乗り、炎の翼に触れた雪を溶かしながら吹雪く寒空を高く高く舞い上がっていく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる