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吹雪
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「ねぇ、ファロム。世界中を回ったけれど、あとどれくらい乙女っているの?」
「そうだね、もうそんなに多くはないはずさ」
凍てつく灰色の空を寄り添うように飛ぶ、全身血みどろの二人。
眼下には崩壊した街並みがどこまでも続いている。
「紗南、お腹は空かないかい?」
「さっき豚の丸焼きを食べたからお腹いっぱい。ファロムこそあんなに不死鳥の心臓を食べて気持ち悪くならないの?」
不死鳥は通常の攻撃では決して死なない。
唯一殺す方法は生きたまま心臓を抉り出し、それを食する。
つまり共喰いするのだ。
ただしこれは同族である不死鳥か、主従関係を結んだ悪魔にしか適応されない。
それ故に不死鳥は悠久の時を生きることを強いられている。
「あれは仲間を弔う大切な儀式だからね。気持ち悪くはないよ」
「ふうん。それより早く体を洗いたいわ。もう何日もお風呂に入っていないんだもの」
紗南も年頃の娘なので、身だしなみには人並みに気を使っている。
たとえ人類が自分一人だけになろうとも、それは変わらないだろう。
――邪魔な存在はファロムがみんな始末してくれる。
私はファロムと二人で新たな世界の神様になるの――
「どこか湯浴みできる場所を探そう」
「温泉だったら貸切ね。考えただけでワクワクしちゃう」
紗南は無邪気に笑った。
ファロムもつられて優しく微笑む。
灰色の空からしんしんと白い雪が降り出した。
♢♢♢
「雪が降ってきたね」
倒壊した教会から出てきた未玖とダニールは、どんよりと曇った空を見上げる。
昨夜、寝る前までは裸同然だった二人だが、目を覚ますと古代ギリシャ人が着用していたキトンとよく似た服を纏っていた。
「これ……もしかしてクロが作ってくれたの?」
未玖の髪の毛から生まれた黒蛇のクロが、答える代わりにこくりと頷く。
「ありがとう。サンダルもとっても履き心地がいいわ」
二人の両足は革の靴底に革の紐を通して親指と人差し指の間に通し、足首で固定された茶色いサンダルを履いていた。
「やはりこの格好は落ち着くね」
ダニールは体つきから男性だと見做されたのか、左肩のみ留められて右胸が完全に露出している。
初めて彼と会った時もほぼ同じ姿をしていた。
長く艶やかな漆黒の髪の毛に、赤い瞳、燃える翼。
人ならざる姿に畏れを懐く一方で、その美しさに驚嘆したのを遠い昔の出来事のように思い出す。
あれからまだ一ヶ月も経っていないはずなのに、まるで何十年も前のようーー
夢の中で宇宙と意識を共有してから未玖の時間の概念が変わりつつあったが、その事実にまだ彼女は気づいていない。
「どこかで体を清めよう」
「――うん。おいで、クロ」
母親である未玖に呼ばれ、クロは甘えるような仕草で首に巻きついた。
そしてダニールの背中に乗り、炎の翼に触れた雪を溶かしながら吹雪く寒空を高く高く舞い上がっていく。
「そうだね、もうそんなに多くはないはずさ」
凍てつく灰色の空を寄り添うように飛ぶ、全身血みどろの二人。
眼下には崩壊した街並みがどこまでも続いている。
「紗南、お腹は空かないかい?」
「さっき豚の丸焼きを食べたからお腹いっぱい。ファロムこそあんなに不死鳥の心臓を食べて気持ち悪くならないの?」
不死鳥は通常の攻撃では決して死なない。
唯一殺す方法は生きたまま心臓を抉り出し、それを食する。
つまり共喰いするのだ。
ただしこれは同族である不死鳥か、主従関係を結んだ悪魔にしか適応されない。
それ故に不死鳥は悠久の時を生きることを強いられている。
「あれは仲間を弔う大切な儀式だからね。気持ち悪くはないよ」
「ふうん。それより早く体を洗いたいわ。もう何日もお風呂に入っていないんだもの」
紗南も年頃の娘なので、身だしなみには人並みに気を使っている。
たとえ人類が自分一人だけになろうとも、それは変わらないだろう。
――邪魔な存在はファロムがみんな始末してくれる。
私はファロムと二人で新たな世界の神様になるの――
「どこか湯浴みできる場所を探そう」
「温泉だったら貸切ね。考えただけでワクワクしちゃう」
紗南は無邪気に笑った。
ファロムもつられて優しく微笑む。
灰色の空からしんしんと白い雪が降り出した。
♢♢♢
「雪が降ってきたね」
倒壊した教会から出てきた未玖とダニールは、どんよりと曇った空を見上げる。
昨夜、寝る前までは裸同然だった二人だが、目を覚ますと古代ギリシャ人が着用していたキトンとよく似た服を纏っていた。
「これ……もしかしてクロが作ってくれたの?」
未玖の髪の毛から生まれた黒蛇のクロが、答える代わりにこくりと頷く。
「ありがとう。サンダルもとっても履き心地がいいわ」
二人の両足は革の靴底に革の紐を通して親指と人差し指の間に通し、足首で固定された茶色いサンダルを履いていた。
「やはりこの格好は落ち着くね」
ダニールは体つきから男性だと見做されたのか、左肩のみ留められて右胸が完全に露出している。
初めて彼と会った時もほぼ同じ姿をしていた。
長く艶やかな漆黒の髪の毛に、赤い瞳、燃える翼。
人ならざる姿に畏れを懐く一方で、その美しさに驚嘆したのを遠い昔の出来事のように思い出す。
あれからまだ一ヶ月も経っていないはずなのに、まるで何十年も前のようーー
夢の中で宇宙と意識を共有してから未玖の時間の概念が変わりつつあったが、その事実にまだ彼女は気づいていない。
「どこかで体を清めよう」
「――うん。おいで、クロ」
母親である未玖に呼ばれ、クロは甘えるような仕草で首に巻きついた。
そしてダニールの背中に乗り、炎の翼に触れた雪を溶かしながら吹雪く寒空を高く高く舞い上がっていく。
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