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父親
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灰色の空に雷鳴が轟く。随分と近い。
瞬間、眩い閃光が怒り狂う龍のように駆け抜けた。
悪魔であるジョシュアが、呂色の鋭い瞳でダニールを睨め付ける。
「不死鳥よ、名は何と申す?」
「……ダニールです」
いつもの飄然とした態度は影を潜め、完全に怯えきったダニールの様子に未玖はすぐさま理解した。
不死鳥は悪魔に対する強い恐怖を刷り込まれているのだと。
宇宙と一体化する夢の中で垣間見た、彼らが悪魔や悪魔の子に虐げられる姿。
逃れたくとも不死身であるが故に、永遠の時を苦痛に耐えながら生きるしかない彼ら。
「ふむ、ダニールか。お前がヨクサルの父親であるのだな?」
「……はい」
主人に牙を剥くことなく、従順であるよう厳しく躾けられている不死鳥。
これまで体験してきた数多くの辛い出来事を思い出し、ダニールの自尊心はすっかり萎縮してしまう。
「乙女を乗せてどこへ向かっていたのだ?」
「それは……」
ダニールは口籠る。
何としても未玖を守らなければ、という思いと主人である悪魔に対して忠実でなければ、という思いが心の内でせめぎ合う。
同時に愛するヨクサルを前にして、ダニールは気が気でなかった。
およそ十三年前、雌の天馬との間に儲けた子ども。
不死鳥と天馬、両方の血を引く忌み子。
母親である天馬は口うるさかったので首を刎ねた。
脳みそと目玉は生臭かった。
贖罪の念に苛まれながら生きてきたダニールだったが、天馬を殺したことは混血のヨクサルを守るためだと信じて疑わなかった。
ダニールの愛情だけを一身に受けて育ったヨクサル。
彼のあどけない中性的な顔立ちが幾分女性らしくなっているのを見て、悪魔の子を宿したのだと悟る。
「不死鳥よ、なぜ黙っている?」
「あの、ご主人様……」
「お前は口を出すな、ヨクサル」
「も、申し訳ありません……!」
父親のダニールと同じ様にすくみ上がるヨクサル。
ジョシュアの服を掴む手が震え、寒いはずなのに汗が滲む。
「まあ良い。天使はどこだ?」
「……北の方角に」
それを聞いたジョシュアはダニールを一瞥すると、ヨクサルを背中に乗せたまま飛び去った。
「ねえ、ダニール、大丈夫?」
未玖が話しかけるも、ダニールは返事をしない。
代わりに蛇のクロが答える。
(今はそっとしておいた方がいい)
ダニールの背中から降りると、未玖はそっと抱きしめる。
彼はまだ震えていた。捨てられた哀れな子犬のように。
♢♢♢
まさかヨクサルの父親である不死鳥と出会うとは。
ジョシュアは激しい嫉妬心をどうにか抑え、ヨクサルに問うた。
「ヨクサル、父親が恋しいか?」
「その……よく、分かりません」
「ならば会ったことは忘れ、私だけをその目に映しておくれ」
「……はい、ご主人様」
他種族との間に設けた不死鳥の子どもは悪魔に仕える数週間前、父親によって女性性に目覚めさせられる。
当然、我が子であるから優しく施す。
悪魔の暴力的な行為とは全くの別物。
その際、子どもは父親に対して恋にも似た感情を抱くことがある。
家族愛と異性に対する強い憧れを混同してしまうのだ。
ヨクサルも先ほどのダニールという不死鳥によって女性性に目覚め、求めるように肌を重ねたに違いない。何度も何度も。
生まれて初めて感じる快楽に身を捩りながら、歓喜の涙を流すヨクサルの姿を想像すると、ついにジョシュアは理性を失った。
「ああっ!」
ヨクサルを軽々と持ち上げると、自身の下腹部に座らせる。
先ほど注がれた愛情によって痛みはほとんど感じないが、あまりの激しさにヨクサルはすぐに達してしまう。
それでもジョシュアの動きは止まることなく、再び奥深くに愛情を注がれ、ヨクサルは体を痙攣させた。
「愛しているよ、私のヨクサル」
「……はい、ご主人、さま……」
ポコッ、ポコッ
「――ああ、これは」
繋がったままの状態で初めて胎動を感じ、ジョシュアは目を細めながらヨクサルを抱きしめた。
「お腹の子は何と名付けようか」
「……ご主人様がお決めになってください」
「そうか、では良い名を考えておこう。さあ、おいで」
ジョシュアの背中に乗り、北の方角へと飛んでいく。
凍てつく風にヨクサルはジョシュアの服に顔を埋める。
愛しているはずなのに、どうして心が落ち着かないのだろうか。
(僕はまだ父様のことを……)
これ以上は考えてはいけない。
言葉にしてしまうと、ジョシュアに対する愛情が砂で作った城のように崩れてしまいそうだった。
ポコッ、ポコッと元気な胎動がしてヨクサルはどうしていいのか分からず、泣きたくなるのを必死で堪えた。
瞬間、眩い閃光が怒り狂う龍のように駆け抜けた。
悪魔であるジョシュアが、呂色の鋭い瞳でダニールを睨め付ける。
「不死鳥よ、名は何と申す?」
「……ダニールです」
いつもの飄然とした態度は影を潜め、完全に怯えきったダニールの様子に未玖はすぐさま理解した。
不死鳥は悪魔に対する強い恐怖を刷り込まれているのだと。
宇宙と一体化する夢の中で垣間見た、彼らが悪魔や悪魔の子に虐げられる姿。
逃れたくとも不死身であるが故に、永遠の時を苦痛に耐えながら生きるしかない彼ら。
「ふむ、ダニールか。お前がヨクサルの父親であるのだな?」
「……はい」
主人に牙を剥くことなく、従順であるよう厳しく躾けられている不死鳥。
これまで体験してきた数多くの辛い出来事を思い出し、ダニールの自尊心はすっかり萎縮してしまう。
「乙女を乗せてどこへ向かっていたのだ?」
「それは……」
ダニールは口籠る。
何としても未玖を守らなければ、という思いと主人である悪魔に対して忠実でなければ、という思いが心の内でせめぎ合う。
同時に愛するヨクサルを前にして、ダニールは気が気でなかった。
およそ十三年前、雌の天馬との間に儲けた子ども。
不死鳥と天馬、両方の血を引く忌み子。
母親である天馬は口うるさかったので首を刎ねた。
脳みそと目玉は生臭かった。
贖罪の念に苛まれながら生きてきたダニールだったが、天馬を殺したことは混血のヨクサルを守るためだと信じて疑わなかった。
ダニールの愛情だけを一身に受けて育ったヨクサル。
彼のあどけない中性的な顔立ちが幾分女性らしくなっているのを見て、悪魔の子を宿したのだと悟る。
「不死鳥よ、なぜ黙っている?」
「あの、ご主人様……」
「お前は口を出すな、ヨクサル」
「も、申し訳ありません……!」
父親のダニールと同じ様にすくみ上がるヨクサル。
ジョシュアの服を掴む手が震え、寒いはずなのに汗が滲む。
「まあ良い。天使はどこだ?」
「……北の方角に」
それを聞いたジョシュアはダニールを一瞥すると、ヨクサルを背中に乗せたまま飛び去った。
「ねえ、ダニール、大丈夫?」
未玖が話しかけるも、ダニールは返事をしない。
代わりに蛇のクロが答える。
(今はそっとしておいた方がいい)
ダニールの背中から降りると、未玖はそっと抱きしめる。
彼はまだ震えていた。捨てられた哀れな子犬のように。
♢♢♢
まさかヨクサルの父親である不死鳥と出会うとは。
ジョシュアは激しい嫉妬心をどうにか抑え、ヨクサルに問うた。
「ヨクサル、父親が恋しいか?」
「その……よく、分かりません」
「ならば会ったことは忘れ、私だけをその目に映しておくれ」
「……はい、ご主人様」
他種族との間に設けた不死鳥の子どもは悪魔に仕える数週間前、父親によって女性性に目覚めさせられる。
当然、我が子であるから優しく施す。
悪魔の暴力的な行為とは全くの別物。
その際、子どもは父親に対して恋にも似た感情を抱くことがある。
家族愛と異性に対する強い憧れを混同してしまうのだ。
ヨクサルも先ほどのダニールという不死鳥によって女性性に目覚め、求めるように肌を重ねたに違いない。何度も何度も。
生まれて初めて感じる快楽に身を捩りながら、歓喜の涙を流すヨクサルの姿を想像すると、ついにジョシュアは理性を失った。
「ああっ!」
ヨクサルを軽々と持ち上げると、自身の下腹部に座らせる。
先ほど注がれた愛情によって痛みはほとんど感じないが、あまりの激しさにヨクサルはすぐに達してしまう。
それでもジョシュアの動きは止まることなく、再び奥深くに愛情を注がれ、ヨクサルは体を痙攣させた。
「愛しているよ、私のヨクサル」
「……はい、ご主人、さま……」
ポコッ、ポコッ
「――ああ、これは」
繋がったままの状態で初めて胎動を感じ、ジョシュアは目を細めながらヨクサルを抱きしめた。
「お腹の子は何と名付けようか」
「……ご主人様がお決めになってください」
「そうか、では良い名を考えておこう。さあ、おいで」
ジョシュアの背中に乗り、北の方角へと飛んでいく。
凍てつく風にヨクサルはジョシュアの服に顔を埋める。
愛しているはずなのに、どうして心が落ち着かないのだろうか。
(僕はまだ父様のことを……)
これ以上は考えてはいけない。
言葉にしてしまうと、ジョシュアに対する愛情が砂で作った城のように崩れてしまいそうだった。
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