【完結】シルビア・アノンは悔恨の念を抱く。この結婚は失敗だったと…

MEIKO

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第二章・夫婦の危機?

12・正直でいること

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 あれから私とケイトは、ドレスの注文どころではなくなり、後日出直すと言い残してブティックを後にした。クリスティンの浮気だと誤解しているケイトには、正直に見聞きしたことを話しておいた。クリスティンと一緒にいたのは、王太子妃殿下の侍女だったということ。どうも妃殿下からの注文が理由で、オーナーのミッシェルを紹介していたようだということを。結局あの三人が何を話していたかまでは分からない。それをミッシェルに無理やり聞き出すのは間違っていると思うし、キャサリン嬢が夫に対して、未だ恋心が燻っているのだとしてもそれをとやかく言うつもりもない。
 妻の余裕?そんなんじゃなくて、クリスティンがあの令嬢を相手にすることなどまずない…これは妻としての勘よ!

 そして私は一人夕食を取り、それから入浴を済ませて寝室でクリスティンを待った。今夜は帰ってくる…そんな確証はなかったけど、どこか自信があったように思う。私は寝てしまわないようにソファに座り、昔繰り返し読んでいた童話を開く。最近アノン家の書庫で見つけて、懐かしくてつい部屋に持ってきてしまった。久しぶりだわ…これを読むのも。お決まりといえる王子様とお姫様のお話なの。

 『魔女の嫉妬によって醜い姿に変えられてしまったお姫様は、人の視線を怖がり心を閉ざして塔に籠もってしまう。それを幼馴染である隣国の王子様が、あの手この手でお姫様の心を癒し再び笑顔を取り戻し、最後には愛を育みキスをする。その愛によって悪の魔法は解け、美しい容姿に戻ったお姫様。そして勇敢で優しい王子様と結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ!』

 よくあるお話のよくある展開…だけど子供の頃って、こういう勧善懲悪の分かりやすい物語に惹かれるもの…

 ──さしずめ私は、嫉妬に狂った魔女かしらね…

 子供の頃の感想とは違って、そんなふうに思ってしまう。昔は私だって、お姫様は自分だって思ってた。いつの日か素敵な王子様が私だけを愛してくれるのだと…クリスティン、あなたは私だけの王子様なの?ある筈のないことを思ってしまって、ふっ…と笑う。

 ──ガチャリ。

 「うん…クリスティン?」

 扉が開く音が響き、本へと落としていた視線を上げてそちらを見る。すると少し驚いた様子のクリスティンが目に入る。今ちょうど零時を回ったところ…こんな時間まで起きているなんて思ってもなかったようで…

 「どうした?何故こんな時間まで起きているんだ」

 クリスティンは疲れた様子で、アッシュブロンドの髪をスッと掻き上げる。最近ようやく分かってきたことだが、クリスティンのこの仕草は動揺している時にする癖。それがどうにも可笑しくなってきてしまって…

 「フフッ…ごめんなさい。話したいことがあって起きていたの。迷惑だった?」

 少し怪訝そうに眉を顰めたクリスティン。だけど怒っている訳でもなさそう。それからクルリと背を向けたと思ったら、シャツを脱いでサッとガウンを羽織る。そして大きく一度息を吐いてから私の方へと向き直り、私の隣にドカッと腰掛けた。えっ…それってどういう意味?

 「本を読んでいたのか。それで…何が聞きたい?」

 聞きたい?だなんて…私は話したいと言っただけ。だけど聞きたいことなら、正直山ほどある。だけど取り敢えずは…

 「昨日フェリシアから招待状が届いて、お茶会に誘われたの。だからドレスを新調させて貰います。構わない?」

 もしもあの時、私が居ることを気付いていたとしたら、こう言えば反応がある筈…それで先にそう聞いた。それにクリスティンは普段通りのポーカーフェイスで…

 「構わないよ。それに予算内だったら、好きに使って大丈夫だ。わざわざ断りを入れなくとも。それに足りなければ言ってくれ」

 どうにも興味はなさそう。ドレスのことを言われてもピンとこないのだろう。それなのに今日は何故?そう疑問が募る。

 「一つ聞いてもいいかしら。うちの商団は、王家と取り引きはあるのかしら?フェリシアに何かを頼まれることなんてある?」

 それには一転、勢いよく顔を向けるクリスティン…目を大きく見開いている。それは肯定と取っても良いのかしら?それなのに口から出た言葉は…

 「城に物品を収めることはある。だけどフェリシアから直接頼まれることなどまずない」

 ──まず…ないですって?なぜ今日のことを言わないの!どうして?

 頭がズキズキと殴られたように痛んだ。どうしてそれを秘密にする必要があるというの?アノン家はこのロードア国最大の商団を持つ家門。そしてこの大陸中に支店だってあるもの…手に入れられない物の方が少ない筈よ。それなのに個人的に頼まれることがないだなんて…その方が可怪しいわよ!

 ──それ程に隠したいの?フェリシアとあなたの繋がりを…

 もう泣きそうになる。本当に久しぶりに会えて、おまけに会話まで出来た。そんな嬉しさが一遍に吹き飛んでしまって…

 私は泣いているところを見られたくはなくて、「もう眠いから先に寝るわね…」と静かに呟いた。それからベッドの片側の夜具をそっと捲る。そして冷たいシーツにヒヤリとしながら脚を滑らせて、蹲るように身体を丸ませる。そしてまだ涙が滲む瞳をギュッと閉じた。

 背中にクリスティンの気配をありありと感じるけど、こんなに遅い時間だし…風呂で汗を流して、それから直ぐに眠るだろうと思う。そしてうつらうつらしだすと、突然ベッドが軋んで…

 ──えっ…お風呂に入らずに寝てしまうの?そういえばさっきガウンに着替えていたわね。遅い時間だし明日の朝にするのかも…

 そんなことを思いながらも、体温を感じて安心する。さっきのことはショックだし、また腹も立っているけど、もう寝てしまおう!と益々丸まって…
 
 「シルビア…寝たか?」

 身体がビクン!と跳ねる…そんなふうに耳元で囁かれて。そしてあろうことか、私の肩を優しく擦ってくる。肩先から首を…そして背中をスッと撫でられ、ゾクゾクと感じる。これはもしかして…誘われている?
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