【完結】シルビア・アノンは悔恨の念を抱く。この結婚は失敗だったと…

MEIKO

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最終章・私の願い

47・私の決断

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 あれから私達は、馬車に揺られて住み慣れたルリド邸へと帰った。話したいことも、聞きたいことも沢山あったけど、帰り着いた頃にはもう疲労困憊で…それで明日、全て話しますと約束して自室に入る。

 「ケイトや、あの時の御者…そしてお父様達は元気かしら?それに妊娠中だったプリシラはもう出産を終えているわね…私きっと、伯母さんになったんだわ!」

 一人そう呟くと…涙が溢れる。会いたい!きっと物凄く心配をかけただろう。そしてクリスティンのことだから、今頃はノートン家に、私の生存を知らせてくれている筈。次に会った時はきっと、叱られちゃうわね…

 そして考える…私はどうするべきなの?アノン侯爵家に帰るのか、それともこのまま…色んな感情が渦巻いて、直ぐには答えが出ない!考えないと…そう思うけど、眠たくて考えが纏まらない。そしていつの間にか眠りについて…


 +++++


 翌日、私は大切な人達を集めた。もう記憶が戻った以上、全てを話さない訳にはいかない。記憶を失い、そしてどこの誰とも知れない私を、家族のように…いえ、家族以上に面倒を見てくれた。どこまでも温かな愛情で包んでくれた人達…

 「今日は集まっていただき、ありがとうございます」

 まずはそうお礼を言う。ここに集まってくれたのは、アレックスにエリック。そしてスーザンにボードウィン。正直言うと、エリックはまだ幼い。だから子供に話すべきことではないのでは?と悩んだけれど、どうしても一つ聞きたいことがあって…

 そして私が皆をリビングに集めた理由を知っているアレックス以外は、何を?とキョトンとしている。それにはちょっとだけ微笑んで、意を決して話し出す。

 「どうか、落ち着いて聞いて下さい。昨日私は突然、記憶を取り戻しました。実は…私はアノン侯爵夫人のシルビア・アノンです」

 それにボードウィンとスーザン夫婦は、ハッ!と息を呑む。誰よりも私とアレックスの仲を近くで見ていた二人。きっと私が結婚していた事実に、絶望したに違いない。それも名門貴族家といえるアノン侯爵家の…
 
 「それでは?ララ…いえ、シルビア様は、アノン家に戻られるのですか!?」
 
 するとスーザンは、青い顔をして私に問いかける。シルビア様…そう初めて呼ばれて、何だか淋しく感じる。そして…

 「実は私、離婚を夫に申し出ていました。詳しくは言えませんが、あの時私は限界を感じていたのです。それであの日…父や弟夫婦にそれを伝えなければならないと、実家のノートン伯爵家に行くことになって…その帰りに事故に」

 それには神妙な面持ちで俯いていたアレックスがバッと顔を上げる。そして「離婚…」と呟いている。
 あの時、クリスティンには離婚の手続きを進めて欲しいと言ったけど、アレックスはしっかりとは聞き取れていなかったよう。半信半疑だったのかも知れないわね…。それでボードウィン達と同じく、ここを出て行くのではないかと、気が気じゃなかったようで。それにほんの少し、ホッとした顔になっている。するとその時…

 「嫌だ!お母様がこの家を出て行くなんてー!」

 そう大声を出したのはエリック。分からないなりにも話を聞いて、すっかり心配になってしまったよう。見ると、目にいっぱい涙を溜めている。それで私は…

 「エリック…お母様のところへおいで!」

 そう微笑みながら声を掛ける。私は敢えて、お母様…と言った。そしてそんな私の胸へと泣きながら飛び込んで来るエリック。その小さな身体を、愛しさではち切れんばかりになってぎゅっと抱き締める。そしてヒッ、ヒッ…と咽び泣く背中を、撫でながら優しく問いかける。

 「エリックとは、ずっと以前に会ったことがあったわよね?思い出したの…孤児院で一度だけ一緒に過ごして」

 それにアレックスを始めとする三人は、驚いたようにこちらを見る!

 「エリック、もしかして…知ってたのか?」

 三人は、まさか!と驚き、信じられない…といった顔をしている。それにエリックは…

 「ご、ごめんなさい!孤児院で初めて会った時、この人が僕の、お、お母様だったら…って。ヒッ、ど、どんなにいいかってー!さ、淋しかったんだ…僕」

 そんなエリックの悲痛な叫びに私達は声もなくて、抱く腕により力を込める。それから咽び泣いて真っ赤になるエリックのオデコに自分の額をコツン!とつけて…

 「聞いて、エリック。怒ってなんてないのよ?だって大好きなエリックが、私をお母様に選んでくれたんですもの!とっても嬉しいの」

 「ほ、ホント?じゃあ、ずっと僕のお母様でいてくれる?」

 それにオデコをくっつけたままスリスリと額を擦って、ニッコリと笑う。
 するとポロポロと滴のように頬を濡らすエリックの顔が、喜びで輝いてきて…
 ここにいる全員が泣き笑いの表情になって、そして安堵した空気が漂う。すると…

 「少しだけお母様と二人にしてくれないか?エリック。二人だけでお話があるんだが…」

 それにエリックは大きく頷いて、さっきまでの不安そうな顔から嬉しそうな笑顔に変わり、スーザンとボードウィンに連れられてリビングを出て行く。それから真面目な表情をしたアレックスが…

 「シルビア…それは、俺の都合の良いように取ってもいいってこと?このまま俺の側にいてもいいと…そう解釈してもいいのだろうか?」

 まだ涙が滲むアレックスの瞳…まるでこの地の美しい景色のよう!
 整然と整えられてはいないが、花々が咲き乱れ野趣溢れる庭に、澄み切った池に静かに敷地を流れる小川。そしてこの辺り一帯を眺めることが出来る丘…そんな私の大好きな景色があなたの中にあるのね?そして…だからきっと好きなんだわ!

 そう確信して、不安そうに眉を下げるアレックスにそっと口付ける…あっ、私から口付けるのは初めてかも?そう気付くと…

 驚いて目を見開くアレックスの瞳からは、一筋の涙が零れ落ちる。そして温かな懐に抱かれて、安心したように目を閉じた。その時、何故か浮かぶのはクリスティンの顔…

 ──ごめんなさい、クリスティン。あなたの複雑な想いを知ったけど、やはり私は…それを共に背負わせて欲しかったわ!良いことも悪いことも全部…
 三年も一緒にいたんだもの…それが出来なかったということは、それだけの関係にしかなれなかったということ…
 
 ずっとあなたに焦がれて、苦しんできたけど、私ではあなたの唯一にはなれなかったのね?だけどそれはあなただけのせいじゃない!
 そしてアレックスの腕の中で私は思う。私が与えてあげられなかった幸せを…

 ──どうかクリスティン。いつの日か、幸せになれますように…

 
 そして数日後、そんな私達の気持ちなど無視したような重大な問題が湧き起こる。どうしてそうなったんだろうか?そう憤ったけど、そんな声は届かない!
 そして…そのことが私の命よりも大切なあの人達との別れに繋がるとは…
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