55 / 60
番外編
山小屋にて②(サウラ番外編)
しおりを挟む
あっ…温かい。まるで湯に浸かっているようだ…
そして指先や足の先までも、じんわりと感覚が戻ってくるのが分かる。もしかしてここは天国…?そう思いながら目を開く。
ハッ!?…目に信じられないものが映る。こ、この鮮やかな碧眼は…ドミニク?
余りの驚きにその青い瞳をじっと見つめる…だけどだんだんと慣れてきた目に次に映るのは、もじゃもじゃの髭で…
「だ、誰だ!?あなたは…!」
目の前に顔の半分を髭で覆われた、見知らぬ男が見える。ただ瞳だけは誰かを彷彿させるようにキラキラと青く輝いている。
──馬鹿だ…私は!こんなところにドミニクが居る筈もないのに…そう思って思わずフッ…と笑いが出る。
目の前の人はそんな私を訝しげに見て…
「おい!大丈夫か?それに何であんな所に居たんだ…この馬鹿!死ぬ気か!?」
──ば、馬鹿?馬鹿だって…!?そんなこと親にも言われた事ないのに…余りのことに固まってしまう。
それから改めてその失礼な言動をする人をじっと見た。赤茶けた髪と同じ色のモッサリとした髭、だけど声色を聞いた限りではもしかして若いのかも?と思わせる。この人…もしかして管理人なのだろうか?この雪で、心配して一日早く見に来てくれた?そう考えていた時、ハッとした!ここって…バスルーム?
まるで湯に浸かっているようだ…と感じていたけど、本当に浸かっていた。だけど服を着たまま…?
「あんた冷え切ってて危なかった!凍傷になってはいないようだったが、急いで湯を沸かして。全部脱がせるよりも一刻も早く温めた方が良いと判断した。もう大丈夫だろう…脱げ!」
湯に浸かって重くなった衣服を脱がそうとしてくる。驚きで茫然としている私のセーターを脱がしてそれをバケツの中にバシャッと放り込んだ。
えっ!自分で脱ぐのに…と思っていた時、その人は私の首にしっかりと結んであった赤いマフラーに手をかけた。そして…
「このマフラーが無かったら、危なかったぞ?荷馬車で通り掛かった時、この赤いマフラーが何故だか目の端に見えたんだ…だから引き返して来た。」
──こ、この赤いマフラーが!?
そう聞いた私は次の瞬間ハラハラと涙を流す。その人はそんな私を見てギョッとした表情をしていたが、もう溢れる涙は止まらない。
この赤いマフラー、実はドミニクから貰った物だ。
子供の頃だが、寒そうにしていた私の首にそっと掛けてくれて、冷えるからやるよ!って…
それから嬉しくて大事にしまっておいたけれど、いつの間にかどこにあるのか分からなくなって…。それが領地に来る為に荷造りしていた時に見つかって、それからは冬中使っていた。
そんな事実に涙が止まらなくなるのは当たり前で…
「君に助けられたんだねドミニク…」思わずそう呟く。
ごめんねドミニク…少しだけ君を思っていいかい?もうそんな想いさえ私には赦されないのかも知れないけど。
そんな感傷に浸っている私に構わず、その人は破く勢いで衣服を剥ぎ取っていく。
「ち、ちょっと…待って!」
そう言った時には既に遅く、全てを手際良く脱がされた後で、剥き出しになった身体を何とか隠そうと身を捩った。
「恥ずかしがらなくても…同じ男だろ?」
その人が呆れたようにそう言った。そりゃあ同じだろうけど私は貴族の令息で、元とはいえ聖者で…おまけに男だけど子供も産める身体だぞ?確かに聖力を使い果たした今となっては妊娠だって難しいだろうが…
だけどそれを気取られてはいけないのかも知れない!恐らくこの人は管理人だろうが、この山小屋に来ているのがこの領地を持つエバンス伯爵家の令息だと知っているのだろうか?確か祖父も危険だからと、身分を隠して来ていたような…
ダメだ!恥ずかしがっていてはバレてしまうかも?平静を装わないと…
「だって、知らない人に警戒するのは当たり前だろ?確かに命の恩人なのかも知れないが…」
そう何とか取り繕うと、その人は私をじっと見ながら確かにそうだな…と呟く。それからそう言いながらもいきなり私の身体を湯の中からザブっと引き上げて、横抱きにしたままバスルームから出て行く。その腕を逃れようとあたふたと身体を動かすけれど、ガッシリとした腕でしっかりと抱え込まれていて身動きも出来ない。それに、このまま暴れていると余計身体を見られる事になるんだと気付いて…
それから暖炉の前の敷物の上に降ろされて、大きなタオルで身体を覆われて少し落ち着く。そしてガシガシと乱暴に髪を拭われて頭がクラクラとする。
「あっ…すまない!ちょっと強かったか?だけど何だ?この髪は…細くて長くて女かと思ったぞ?最初見た時…」
聖者になってからずっと伸ばし続けていた髪も、退いてからは肩くらいまで切ったんだ。だけど確かにもう少し切るべきかも?と思う。これでは自分からそういう性だと言っているようなものかも知れないな…と反省する。
それから気持ちが落ち着いてくると、まだお礼さえ言って無かったな…と気付く。ちょっとこの人、乱暴だけどね…
「すみません…突然の事でお礼も言っていませんでした。助けていただいてありがとうございました!私はサウラと言います。この山小屋で二週間ほど過ごそうとやって来たのですが、この雪で…薪を取りに裏山へ行こうとして足首を挫いてしまいました」
そう言ってからハッとする!それから怖々とタオルをめくって右の足首を見ると…赤く腫れ上がっているのが見えた。ワッ!と心の中で驚きの声を上げる。
「おい…何だその足首は!だからあんな所に倒れていたのか?これは放っておくともっと腫れてきそうだ…手当てしないと!」
その人は驚きながらもそっと私の足首を掴む。
「い、痛い!うーっ!」
折れているかを判断しようとしたのだろう遠慮がちにほんの少し動かされただけで鋭い痛みが走る。
「骨は大丈夫そうだが…暫くは動かない方がいいだろうな。そんなんじゃ自分で服を取りに行くのは無理だな…部屋に入らせてもらうよ?それから必要なものを探すけど、それも了承してくれ!」
もう私は諦めた…この人に頼る他はないから。意地を張っていたら、それこそ何も出来ずに困った事になってしまう。
それから着替えを手伝ってもらって、腫れた足首も手当てしてもらう。手際よく介助してくれる様子から、この人もしかして以前はどこかの貴族の従者だったのかも?って思う。エバンス家では見た事ないと思うけど…
「ちょっと何かお腹に入れた方がいいだろうな…だけど取り敢えずベッドに!」
そう言われてまた横抱きにされたけど、もう抵抗する元気は無くて…大人しく抱かれて部屋まで連れて行かれる。そっとベッドの上に降ろされてから布団まで掛けられて、何か作って来る!と部屋から出て行く背中を見送る頃には、名前も知らないその人をすっかり信用してしまっていた。
「サウラ…起きれるか?少しでも食べた方がいいと思う!それからぐっすりと寝たらいい」
いつの間にかうつらうつらとしてしまって、そう声を掛けられて目を覚ます。ぼうっとしたままスプーンで口元まで温かいスープを運ばれるのを飲んで、生き返った思いがするほど美味しい!
「薪は沢山持ってきておいたからもう大丈夫だ。それに雪も峠を越えたようで今はもう殆ど降っていないよ。それじゃ俺は家に帰るけど…明日また様子を見に来る。その時松葉杖を持って来るから…必要だろ?今日はもうゆっくり寝て!」
そう言われてまた夢うつつで頷く。
「ありがとう…な、名前は?何て呼んだらいい?」
「俺か?ハンソン…ハンソンって呼んでくれ。じゃ!」
ハンソンはそう言って笑顔で去って行った。本当に何から何まで有り難いと思った。もしかしたらとっくに庭先で冷たくなっていたのかも?とゾッとする。それから私は深い眠りに落ちていった…
次の日、ガタガタという物音で目が覚めた。
もしかして、ハンソンかな?そう思って身を起こす。
──トン、トン。
「ハンソンだ!サウラ…起きたか?入っていいだろうか?」
ノックも入室の許可も今更だろ?って思って可笑しくなった。それと同時にこんなに早く来てくれたんだ!?と驚く。
「フフッ…大丈夫だよ!どうぞ入って」
扉の向こうから何故か遠慮がちにハンソンが現れて、おはよう!って声を掛ける。それに私も、おはよう!早くからありがとうって返した。
「足は大丈夫か?痛みは少しはマシになった?」
そう言われて少し足首を動かしてみる。ズキンとした痛みが走るが、昨日よりはかなりマシになっていてホッとする。
「まだ痛いけど、昨日よりは良さそうだ…」
そう呟きながら布団を捲って足をハンソンに見せる。
それを慎重にハンソンは触って腫れの具合を見てくれる。
「そうだね…少し腫れが引いていると思う。だけどやっぱり移動には松葉杖が必要みたいだ。これずっと前に弟が骨折した時の物だけど…持ってきたよ!少しは移動が楽になると思うけど」
そう言ってちょっと古めいた松葉杖を見せる。それには、エリック…かな?名前が書いてあって思わず笑ってしまう。
「ありがとう!エリックかな?弟さん。名前が書いてあるね?アハハッ!」
「そうなんだ…エリックだ!骨折したのは学園に通っていた時だったし、ふざけて名前を書いたんだと思う」
それから支えられながら立ち上がってみて、松葉杖で移動してみる。まだちょっと慣れていないが、練習すれば難なく移動出来そうだ。
それから着替えを済ませて、ダイニングに移動してハンソンが持参してくれた朝食をいただいく事に。
テーブルに並べられたまだ湯気の出てそうな柔らかなパンと分厚いハムにスープ、それに新鮮な野菜と…そんな当たり前の朝食が本当に有り難いと思った。私一人だったら、朝食の用意さえ出来なかったかも知れない。
「ところで…サウラ、どうしてこんな山小屋に一人で?君は見たところ貴族だね?違うかい?昨日は危ないところだった…」
そうハンソンから言われて胸がズキッとする。相変わらずの髭面だけど、その澄んだ青い瞳に見つめられると何故かドキドキとして…
「私、一人になってみたかったんだ…ずっと一人なんて許される状態じゃ無かったから。それに今まで王都に住んでいたんだけど、そこで本当に苦しい思いをしてね…おまけにそれが原因で罪を犯してしまって。逃げてきたのかも?こっちに…」
そう言って自虐めいた薄い笑いを浮かべる。
そんな私を、突然ハンソンがぎゅっと抱きしめる。
──ハ、ハンソン!何を…
そして指先や足の先までも、じんわりと感覚が戻ってくるのが分かる。もしかしてここは天国…?そう思いながら目を開く。
ハッ!?…目に信じられないものが映る。こ、この鮮やかな碧眼は…ドミニク?
余りの驚きにその青い瞳をじっと見つめる…だけどだんだんと慣れてきた目に次に映るのは、もじゃもじゃの髭で…
「だ、誰だ!?あなたは…!」
目の前に顔の半分を髭で覆われた、見知らぬ男が見える。ただ瞳だけは誰かを彷彿させるようにキラキラと青く輝いている。
──馬鹿だ…私は!こんなところにドミニクが居る筈もないのに…そう思って思わずフッ…と笑いが出る。
目の前の人はそんな私を訝しげに見て…
「おい!大丈夫か?それに何であんな所に居たんだ…この馬鹿!死ぬ気か!?」
──ば、馬鹿?馬鹿だって…!?そんなこと親にも言われた事ないのに…余りのことに固まってしまう。
それから改めてその失礼な言動をする人をじっと見た。赤茶けた髪と同じ色のモッサリとした髭、だけど声色を聞いた限りではもしかして若いのかも?と思わせる。この人…もしかして管理人なのだろうか?この雪で、心配して一日早く見に来てくれた?そう考えていた時、ハッとした!ここって…バスルーム?
まるで湯に浸かっているようだ…と感じていたけど、本当に浸かっていた。だけど服を着たまま…?
「あんた冷え切ってて危なかった!凍傷になってはいないようだったが、急いで湯を沸かして。全部脱がせるよりも一刻も早く温めた方が良いと判断した。もう大丈夫だろう…脱げ!」
湯に浸かって重くなった衣服を脱がそうとしてくる。驚きで茫然としている私のセーターを脱がしてそれをバケツの中にバシャッと放り込んだ。
えっ!自分で脱ぐのに…と思っていた時、その人は私の首にしっかりと結んであった赤いマフラーに手をかけた。そして…
「このマフラーが無かったら、危なかったぞ?荷馬車で通り掛かった時、この赤いマフラーが何故だか目の端に見えたんだ…だから引き返して来た。」
──こ、この赤いマフラーが!?
そう聞いた私は次の瞬間ハラハラと涙を流す。その人はそんな私を見てギョッとした表情をしていたが、もう溢れる涙は止まらない。
この赤いマフラー、実はドミニクから貰った物だ。
子供の頃だが、寒そうにしていた私の首にそっと掛けてくれて、冷えるからやるよ!って…
それから嬉しくて大事にしまっておいたけれど、いつの間にかどこにあるのか分からなくなって…。それが領地に来る為に荷造りしていた時に見つかって、それからは冬中使っていた。
そんな事実に涙が止まらなくなるのは当たり前で…
「君に助けられたんだねドミニク…」思わずそう呟く。
ごめんねドミニク…少しだけ君を思っていいかい?もうそんな想いさえ私には赦されないのかも知れないけど。
そんな感傷に浸っている私に構わず、その人は破く勢いで衣服を剥ぎ取っていく。
「ち、ちょっと…待って!」
そう言った時には既に遅く、全てを手際良く脱がされた後で、剥き出しになった身体を何とか隠そうと身を捩った。
「恥ずかしがらなくても…同じ男だろ?」
その人が呆れたようにそう言った。そりゃあ同じだろうけど私は貴族の令息で、元とはいえ聖者で…おまけに男だけど子供も産める身体だぞ?確かに聖力を使い果たした今となっては妊娠だって難しいだろうが…
だけどそれを気取られてはいけないのかも知れない!恐らくこの人は管理人だろうが、この山小屋に来ているのがこの領地を持つエバンス伯爵家の令息だと知っているのだろうか?確か祖父も危険だからと、身分を隠して来ていたような…
ダメだ!恥ずかしがっていてはバレてしまうかも?平静を装わないと…
「だって、知らない人に警戒するのは当たり前だろ?確かに命の恩人なのかも知れないが…」
そう何とか取り繕うと、その人は私をじっと見ながら確かにそうだな…と呟く。それからそう言いながらもいきなり私の身体を湯の中からザブっと引き上げて、横抱きにしたままバスルームから出て行く。その腕を逃れようとあたふたと身体を動かすけれど、ガッシリとした腕でしっかりと抱え込まれていて身動きも出来ない。それに、このまま暴れていると余計身体を見られる事になるんだと気付いて…
それから暖炉の前の敷物の上に降ろされて、大きなタオルで身体を覆われて少し落ち着く。そしてガシガシと乱暴に髪を拭われて頭がクラクラとする。
「あっ…すまない!ちょっと強かったか?だけど何だ?この髪は…細くて長くて女かと思ったぞ?最初見た時…」
聖者になってからずっと伸ばし続けていた髪も、退いてからは肩くらいまで切ったんだ。だけど確かにもう少し切るべきかも?と思う。これでは自分からそういう性だと言っているようなものかも知れないな…と反省する。
それから気持ちが落ち着いてくると、まだお礼さえ言って無かったな…と気付く。ちょっとこの人、乱暴だけどね…
「すみません…突然の事でお礼も言っていませんでした。助けていただいてありがとうございました!私はサウラと言います。この山小屋で二週間ほど過ごそうとやって来たのですが、この雪で…薪を取りに裏山へ行こうとして足首を挫いてしまいました」
そう言ってからハッとする!それから怖々とタオルをめくって右の足首を見ると…赤く腫れ上がっているのが見えた。ワッ!と心の中で驚きの声を上げる。
「おい…何だその足首は!だからあんな所に倒れていたのか?これは放っておくともっと腫れてきそうだ…手当てしないと!」
その人は驚きながらもそっと私の足首を掴む。
「い、痛い!うーっ!」
折れているかを判断しようとしたのだろう遠慮がちにほんの少し動かされただけで鋭い痛みが走る。
「骨は大丈夫そうだが…暫くは動かない方がいいだろうな。そんなんじゃ自分で服を取りに行くのは無理だな…部屋に入らせてもらうよ?それから必要なものを探すけど、それも了承してくれ!」
もう私は諦めた…この人に頼る他はないから。意地を張っていたら、それこそ何も出来ずに困った事になってしまう。
それから着替えを手伝ってもらって、腫れた足首も手当てしてもらう。手際よく介助してくれる様子から、この人もしかして以前はどこかの貴族の従者だったのかも?って思う。エバンス家では見た事ないと思うけど…
「ちょっと何かお腹に入れた方がいいだろうな…だけど取り敢えずベッドに!」
そう言われてまた横抱きにされたけど、もう抵抗する元気は無くて…大人しく抱かれて部屋まで連れて行かれる。そっとベッドの上に降ろされてから布団まで掛けられて、何か作って来る!と部屋から出て行く背中を見送る頃には、名前も知らないその人をすっかり信用してしまっていた。
「サウラ…起きれるか?少しでも食べた方がいいと思う!それからぐっすりと寝たらいい」
いつの間にかうつらうつらとしてしまって、そう声を掛けられて目を覚ます。ぼうっとしたままスプーンで口元まで温かいスープを運ばれるのを飲んで、生き返った思いがするほど美味しい!
「薪は沢山持ってきておいたからもう大丈夫だ。それに雪も峠を越えたようで今はもう殆ど降っていないよ。それじゃ俺は家に帰るけど…明日また様子を見に来る。その時松葉杖を持って来るから…必要だろ?今日はもうゆっくり寝て!」
そう言われてまた夢うつつで頷く。
「ありがとう…な、名前は?何て呼んだらいい?」
「俺か?ハンソン…ハンソンって呼んでくれ。じゃ!」
ハンソンはそう言って笑顔で去って行った。本当に何から何まで有り難いと思った。もしかしたらとっくに庭先で冷たくなっていたのかも?とゾッとする。それから私は深い眠りに落ちていった…
次の日、ガタガタという物音で目が覚めた。
もしかして、ハンソンかな?そう思って身を起こす。
──トン、トン。
「ハンソンだ!サウラ…起きたか?入っていいだろうか?」
ノックも入室の許可も今更だろ?って思って可笑しくなった。それと同時にこんなに早く来てくれたんだ!?と驚く。
「フフッ…大丈夫だよ!どうぞ入って」
扉の向こうから何故か遠慮がちにハンソンが現れて、おはよう!って声を掛ける。それに私も、おはよう!早くからありがとうって返した。
「足は大丈夫か?痛みは少しはマシになった?」
そう言われて少し足首を動かしてみる。ズキンとした痛みが走るが、昨日よりはかなりマシになっていてホッとする。
「まだ痛いけど、昨日よりは良さそうだ…」
そう呟きながら布団を捲って足をハンソンに見せる。
それを慎重にハンソンは触って腫れの具合を見てくれる。
「そうだね…少し腫れが引いていると思う。だけどやっぱり移動には松葉杖が必要みたいだ。これずっと前に弟が骨折した時の物だけど…持ってきたよ!少しは移動が楽になると思うけど」
そう言ってちょっと古めいた松葉杖を見せる。それには、エリック…かな?名前が書いてあって思わず笑ってしまう。
「ありがとう!エリックかな?弟さん。名前が書いてあるね?アハハッ!」
「そうなんだ…エリックだ!骨折したのは学園に通っていた時だったし、ふざけて名前を書いたんだと思う」
それから支えられながら立ち上がってみて、松葉杖で移動してみる。まだちょっと慣れていないが、練習すれば難なく移動出来そうだ。
それから着替えを済ませて、ダイニングに移動してハンソンが持参してくれた朝食をいただいく事に。
テーブルに並べられたまだ湯気の出てそうな柔らかなパンと分厚いハムにスープ、それに新鮮な野菜と…そんな当たり前の朝食が本当に有り難いと思った。私一人だったら、朝食の用意さえ出来なかったかも知れない。
「ところで…サウラ、どうしてこんな山小屋に一人で?君は見たところ貴族だね?違うかい?昨日は危ないところだった…」
そうハンソンから言われて胸がズキッとする。相変わらずの髭面だけど、その澄んだ青い瞳に見つめられると何故かドキドキとして…
「私、一人になってみたかったんだ…ずっと一人なんて許される状態じゃ無かったから。それに今まで王都に住んでいたんだけど、そこで本当に苦しい思いをしてね…おまけにそれが原因で罪を犯してしまって。逃げてきたのかも?こっちに…」
そう言って自虐めいた薄い笑いを浮かべる。
そんな私を、突然ハンソンがぎゅっと抱きしめる。
──ハ、ハンソン!何を…
509
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる