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第一章・望まない形で
8・再びの出会い
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朝からドキドキしていた…それは今日、スチワートと会う約束をしていたから。お父様には絶対一度だけ会うだけだと念を押して、落ち着かない中でこの日を迎えた。
お兄様とシンシアは私のことなど興味がないのか、特に反応もなかった。お兄様はともかくとして、シンシアはもしかして…と構えていたけど、これが何を意味しているのかも分かっていないようだった。それならあの時も、完全にエズラの片想いだったってこと?
とにかく今は、死に戻り前とは違う。あれより三年近くも前だし、婚約だってしていない…それにあの時はこうして、スチワートと二人で会うこともなかったから。そうならまずは、今日のことに集中することにする。
一応お客様を迎えるのだからと精一杯準備をして、人の目があり過ぎないようにと庭園のガゼボを選んだ。ここに再び来た時はまだ肌寒い時期だったけど、いつの間にか季節は移りゆき、もうすっかり初夏。気持ちの良い風に吹かれながら、到着は今かと待っている。だけどちょっと遅いわね…本当に来るのかしら?
待っている間に見渡すと、ここはお母様の大好きだった庭園。ずっと放ったらかしになっていたけど、最近手を入れてみた。天に向かって伸びゆき、先からもなお垂れ下がり咲く蔓薔薇に、ポチャンと池の水音を立てて跳ね上がる蛙。ここは生命力に溢れている…今の私はこうなれているのかしら?
暫しの静寂に身を任せて、あの頃の美しさが蘇った自慢の庭を堪能する。するとどこからか…
「やあ、お待たせしてすまない」
そんな声にビクッとして顔を上げる。すると庭園の入り口から、手を振りながら現れるスチワートが!
どんどん勝手にこっちに向かって歩いて来るので、本来なら案内するはずの執事が置いてけぼりになっている。そんな有り得ない光景にポカンとして…
初めて会った時から思っていたけど、相当貴族らしからぬ人ね?以前の私はそんな人に眉をひそめていたかも知れないけど、今の私にはその方が好ましく思える。
──この人もきっと、生命力に溢れる人だわ…
「ハァ、ハァ…お嬢様。スチワート・ロウレン様がおいでになりました」
もうとっくに気付いていたけど、カイからそう報告を受ける。それから汗を拭き取りながら焦っているカイに、思わず微笑んだ。そして…
「ようこそおいでくださいました、ロウレン令息様。何のおもてなしも出来ませんが、当家自慢の庭でも御覧になり、どうぞ楽になさって下さいませ」
お見合い…なのかは別として、今回は気楽にお迎えしてもよいのかと思う。それにスチワートだって、思った以上に気安い人のよう。上位錬金術師だというのに偉ぶったところもなく、まるで子供のように振る舞っている。そして格好だって一応ジャケットは羽織っているものの、割合ラフなものを着ている。かしこまって来られるよりも、私にとってはこの方が気が楽だわ。だってお断りする前提だものね。
「二度目だね…憶えているかな?フレデリカ。あっ、ゴメン!勝手に呼び捨てにしていたよ。だけどさ俺達、気楽に話すことにしないかい?俺のことはスチワートと呼んでくれていいから」
ビックリして目を丸くしている私に、スチワートは人懐っこい笑顔を見せる。この人は…前もそうだったのかも?あの時は結婚式で緊張していたからうろ覚えだけど、私を緊張させまいと戯けてみせた気がする。その後周りからギロリと睨まれて、肩をすくめていたけど…
「え、ええ。私もそうしていただけると気が楽ですわ。…スチワート」
「アハハッ、それいいね!」
スチワートは自分から提案してきたくせに、いいねと言って笑う。その屈託のない笑顔を見ていたら、ほんの少しまだ警戒していたことも忘れてしまう。
「俺だって失礼は承知だよ。だが幼い頃から研究所というところに閉じ込められてさ、ろくに学校にも通っていないんだ。だから貴族としての振る舞いなんて知らなくて、だけどそれでフレデリカを嫌な気持ちにさせてしまったらすまない!」
そう聞くと複雑な気持ちになる。この人は高位貴族として生まれたのに、それを強制的に捨てさせられているのだもの。きっと幼少期から親元を離れて、自由のない環境で育ったのでしょうね。なんだか同情しちゃうわ…
「いいえ、大丈夫。私もかしこまったことは嫌いなの。私の前でだけは、どうぞ自由に過ごしてちょうだい」
これは私の本音…前は貴族家の夫人として、こうあるべきだと高い理想を掲げていた。そうすることで夫からも認められ、いつの日か感謝してくれるって思ってた。だけどそれがどう?そんな日が来るどころか、誰にも看取られずに苦しんで死ぬなんて…これ以上の不幸なんてある?
所詮死んでしまったら一人…なのに自分を雁字搦めに縛り付けてしまうなんて、最期の時に後悔しても遅いから。だから…自分に正直にいたいと思っている。
「ハハッ、俺達相性もいいみたいだね?何だか嬉しいな」
そう言われてハッとする!確かに人間としては好ましい人だけど、結婚となると話は別。もうあの人、あの家に関わらないと決めたから。それは家門から離れ、殆ど付き合いがないのだとしても…
「あのう…言い難いんだけど、私まだ結婚は考えられないの。それにまだデビュタントも終えていないし。だから…」
そう言いかけてスチワートを見ると、キョトンとした表情をしている。断られるとは思っていなかった?傷付けることになるのは本意ではないけど…頑張って伝えなきゃ。
「ええっと…」
そう言いかけた時、ザッザッと規則的な足音が聞こえる。力強い足取り…一歩一歩踏み締めるように。私はこの人の足音を聞き違えたりなんかしない!この足音は…エズラ?
お兄様とシンシアは私のことなど興味がないのか、特に反応もなかった。お兄様はともかくとして、シンシアはもしかして…と構えていたけど、これが何を意味しているのかも分かっていないようだった。それならあの時も、完全にエズラの片想いだったってこと?
とにかく今は、死に戻り前とは違う。あれより三年近くも前だし、婚約だってしていない…それにあの時はこうして、スチワートと二人で会うこともなかったから。そうならまずは、今日のことに集中することにする。
一応お客様を迎えるのだからと精一杯準備をして、人の目があり過ぎないようにと庭園のガゼボを選んだ。ここに再び来た時はまだ肌寒い時期だったけど、いつの間にか季節は移りゆき、もうすっかり初夏。気持ちの良い風に吹かれながら、到着は今かと待っている。だけどちょっと遅いわね…本当に来るのかしら?
待っている間に見渡すと、ここはお母様の大好きだった庭園。ずっと放ったらかしになっていたけど、最近手を入れてみた。天に向かって伸びゆき、先からもなお垂れ下がり咲く蔓薔薇に、ポチャンと池の水音を立てて跳ね上がる蛙。ここは生命力に溢れている…今の私はこうなれているのかしら?
暫しの静寂に身を任せて、あの頃の美しさが蘇った自慢の庭を堪能する。するとどこからか…
「やあ、お待たせしてすまない」
そんな声にビクッとして顔を上げる。すると庭園の入り口から、手を振りながら現れるスチワートが!
どんどん勝手にこっちに向かって歩いて来るので、本来なら案内するはずの執事が置いてけぼりになっている。そんな有り得ない光景にポカンとして…
初めて会った時から思っていたけど、相当貴族らしからぬ人ね?以前の私はそんな人に眉をひそめていたかも知れないけど、今の私にはその方が好ましく思える。
──この人もきっと、生命力に溢れる人だわ…
「ハァ、ハァ…お嬢様。スチワート・ロウレン様がおいでになりました」
もうとっくに気付いていたけど、カイからそう報告を受ける。それから汗を拭き取りながら焦っているカイに、思わず微笑んだ。そして…
「ようこそおいでくださいました、ロウレン令息様。何のおもてなしも出来ませんが、当家自慢の庭でも御覧になり、どうぞ楽になさって下さいませ」
お見合い…なのかは別として、今回は気楽にお迎えしてもよいのかと思う。それにスチワートだって、思った以上に気安い人のよう。上位錬金術師だというのに偉ぶったところもなく、まるで子供のように振る舞っている。そして格好だって一応ジャケットは羽織っているものの、割合ラフなものを着ている。かしこまって来られるよりも、私にとってはこの方が気が楽だわ。だってお断りする前提だものね。
「二度目だね…憶えているかな?フレデリカ。あっ、ゴメン!勝手に呼び捨てにしていたよ。だけどさ俺達、気楽に話すことにしないかい?俺のことはスチワートと呼んでくれていいから」
ビックリして目を丸くしている私に、スチワートは人懐っこい笑顔を見せる。この人は…前もそうだったのかも?あの時は結婚式で緊張していたからうろ覚えだけど、私を緊張させまいと戯けてみせた気がする。その後周りからギロリと睨まれて、肩をすくめていたけど…
「え、ええ。私もそうしていただけると気が楽ですわ。…スチワート」
「アハハッ、それいいね!」
スチワートは自分から提案してきたくせに、いいねと言って笑う。その屈託のない笑顔を見ていたら、ほんの少しまだ警戒していたことも忘れてしまう。
「俺だって失礼は承知だよ。だが幼い頃から研究所というところに閉じ込められてさ、ろくに学校にも通っていないんだ。だから貴族としての振る舞いなんて知らなくて、だけどそれでフレデリカを嫌な気持ちにさせてしまったらすまない!」
そう聞くと複雑な気持ちになる。この人は高位貴族として生まれたのに、それを強制的に捨てさせられているのだもの。きっと幼少期から親元を離れて、自由のない環境で育ったのでしょうね。なんだか同情しちゃうわ…
「いいえ、大丈夫。私もかしこまったことは嫌いなの。私の前でだけは、どうぞ自由に過ごしてちょうだい」
これは私の本音…前は貴族家の夫人として、こうあるべきだと高い理想を掲げていた。そうすることで夫からも認められ、いつの日か感謝してくれるって思ってた。だけどそれがどう?そんな日が来るどころか、誰にも看取られずに苦しんで死ぬなんて…これ以上の不幸なんてある?
所詮死んでしまったら一人…なのに自分を雁字搦めに縛り付けてしまうなんて、最期の時に後悔しても遅いから。だから…自分に正直にいたいと思っている。
「ハハッ、俺達相性もいいみたいだね?何だか嬉しいな」
そう言われてハッとする!確かに人間としては好ましい人だけど、結婚となると話は別。もうあの人、あの家に関わらないと決めたから。それは家門から離れ、殆ど付き合いがないのだとしても…
「あのう…言い難いんだけど、私まだ結婚は考えられないの。それにまだデビュタントも終えていないし。だから…」
そう言いかけてスチワートを見ると、キョトンとした表情をしている。断られるとは思っていなかった?傷付けることになるのは本意ではないけど…頑張って伝えなきゃ。
「ええっと…」
そう言いかけた時、ザッザッと規則的な足音が聞こえる。力強い足取り…一歩一歩踏み締めるように。私はこの人の足音を聞き違えたりなんかしない!この足音は…エズラ?
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