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第三章・新しい生活
18・思わぬ危機
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有り得ない人物を見掛けた私。本来ならこんな所にいるはずのない人…だけど追うことはしなかった。シンシアの元専属メイドであるロリー。あの日ノートン家を追い出されてから一切見てはいない。あんなことがあって解雇されたから、他の屋敷に雇われることもなかったはず。理由は他の貴族家にも知られていて、首都からよっぽど離れでもしないと雇おうとする貴族すらいないんじゃないかと思う。そういう経緯でここに?だけど…
偶然なのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない。だけどきっと、もう彼女とは関わることはない。ノートン家を出た私には、今更シンシアに関わろうとすることだってないから。ロリーは自業自得で屋敷を追い出された。だからもう気にしない!結局は彼女自身の人生だから。
そしてそのことをスチワートにも敢えて話すことをせず、そのまま何もなかったように沈黙していた私。だけど…このことを後悔することになるなど、この時の私には予想もしていなかった。
「ここからは辺境伯領だよ。ルードアは国境の街だという他にも、商人達の街でもあるんだ。だから物はもちろんだけど、情報だって溢れている。他国産の珍しい食べ物や、一般的には知り得ないことだって知ることが出来るんだぜ?ようはかなり魅力的だってこと!」
物に情報?そうか…だからスチワートは、ここに来たことがあるんだわ。確か錬金術って、鉱物やある物質を組み合わせるって言ってたわよね?だから材料として手に入れる場所は、ここがうってつけなのね。そうなると辺境伯領って、かなり裕福なのかも…
「そうなのね。前に来たと言っても子供の頃のこと…全然そんなの知らなかったわ。こうなら今回は、色んなものを食べてみなきゃ!もう二度と来れないかも知れないからね?」
そうはしゃぎながらも、ルードアに入ってきたと思うと急にドキドキしてくる。だけど忙しいのに付いて来てくれたスチワートを、不安にすることは避けたいと精一杯明るく振る舞う。それを知ってか知らずかスチワートは、私を見ながらニッカリと笑う。きっと大丈夫!だって私は一人じゃないから…
馬車は軽快に走り続け、景色はどんどん変わっていく。平坦な農地が広がっていた筈が、どんどん足場が悪くなってゆく。馬車もそれにつられガタガタと揺れ始め、ゆっくりと座っていることが出来なくなり、わわ!っと落ち着かなくなってくる。すると…
「御者の方、ここで止まってくれますか?」
そう叫ぶスチワートに、こんなところで!?と見つめる。辺りを見るとどう考えても山の中。店らしきものもないし、宿屋だってない。どうするの?と唖然とする。
「このまま進むのは流石に危ないと思うんだ。思い切ってもう一度だけ飛ぼう!もう目的地は目の前…だから辛くないから大丈夫だよ?俺を信じて!」
それに戸惑いながらもコックリと頷く。そうね…大丈夫だと思っているのは、あくまで私の考え。念には念を入れて、慎重に近付くべきなのかも。おまけに平坦な道を進むルートもあったけど、わざと険しいこちらのルートを選んで来た。それはひとえにこちらの方が目立たないという理由からのこと。
多くの商人が出入りする為に、それを厳しく管理していている辺境伯家。だけどこちらのルートは道が悪い為に、商人はまず通らないルートになる。だから道は厳しいけど、領に入るのは比較的簡単…だけどそれって確かなのかも分からないから。
そして私達は、ここまで連れて来てくれた御者にお礼を言って別れ、徒歩で街が見えるところまで進んだ。すると…崖下には大きな街が広がっている。途端に「わあ~っ」と足が竦む。そして…
「俺は下に見える街に降りたことしかないんだ。だからフレデリカ…幼い頃に見たという領主城を憶えているかい?飛ぶ時には俺でなく、フレデリカが思い浮かべてくれ。そうすれば領主城までひとっ飛びで行ける。その方が絶対安全だ…出来るかな?」
スチワートが真剣な顔でそう尋ねてくる。ほんの少しまだ怖いけど、それをやらないといけないのも事実。でなければ、こんなところにまで来た意味がない。
「領主城まで?そうね…一旦街に降りたとしたら、それから城の中に入るのは至難の業。となるとどうしても身分を明かす必要があるわよね。分かった!やってみましょう」
こうなりゃ度胸だわ!と決心した私は、昔二週間ほど滞在した領主城を思い浮かべる。首都でも大きいと言われるノートン邸など庭の一部くらいの巨大な敷地…そして城を取り囲む高い塀と見上げるほどに高い城。中には数え切れないほどの部屋があり、全てを回るのには一生かかるのではないかと思った。ここがお母様の生まれ育ったところだと思うと、羨ましさよりも畏れの方が勝ってしまっていた。自分はこんなところに住めないって…
「うーん…城にはお母様の大好きだった薔薇園があるの。まずはそこに移動しましょうか?その庭園はまるで迷路のようになっているから、隠れるのには最適だと思うの。庭園だから警備も緩いと思うけど…」
頷きあった私達は、それから再び手を強く握る。それから懐かしい薔薇園を思い浮かべて…
お母様が「この薔薇は私の名前がつけられているのよ?」って嬉しそうに言っていたあの日を…うっ!
また高速で移動する感覚…吸い込まれそう!だけど前よりは随分ゆっくりに感じる…きっと距離が近いからでしょうね。これなら耐えられそう!すると足の裏が地面に触れる感触が。そしてゆっくりと目を開けた。すると…
──スーッ、チャッ!
突然の空気を震わす金属音。そして嫌な予感がしてゆっくりと振り向くと、驚愕の表情のスチワートが見えた。そしてその首元には…銀色に光る刃先が!
偶然なのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない。だけどきっと、もう彼女とは関わることはない。ノートン家を出た私には、今更シンシアに関わろうとすることだってないから。ロリーは自業自得で屋敷を追い出された。だからもう気にしない!結局は彼女自身の人生だから。
そしてそのことをスチワートにも敢えて話すことをせず、そのまま何もなかったように沈黙していた私。だけど…このことを後悔することになるなど、この時の私には予想もしていなかった。
「ここからは辺境伯領だよ。ルードアは国境の街だという他にも、商人達の街でもあるんだ。だから物はもちろんだけど、情報だって溢れている。他国産の珍しい食べ物や、一般的には知り得ないことだって知ることが出来るんだぜ?ようはかなり魅力的だってこと!」
物に情報?そうか…だからスチワートは、ここに来たことがあるんだわ。確か錬金術って、鉱物やある物質を組み合わせるって言ってたわよね?だから材料として手に入れる場所は、ここがうってつけなのね。そうなると辺境伯領って、かなり裕福なのかも…
「そうなのね。前に来たと言っても子供の頃のこと…全然そんなの知らなかったわ。こうなら今回は、色んなものを食べてみなきゃ!もう二度と来れないかも知れないからね?」
そうはしゃぎながらも、ルードアに入ってきたと思うと急にドキドキしてくる。だけど忙しいのに付いて来てくれたスチワートを、不安にすることは避けたいと精一杯明るく振る舞う。それを知ってか知らずかスチワートは、私を見ながらニッカリと笑う。きっと大丈夫!だって私は一人じゃないから…
馬車は軽快に走り続け、景色はどんどん変わっていく。平坦な農地が広がっていた筈が、どんどん足場が悪くなってゆく。馬車もそれにつられガタガタと揺れ始め、ゆっくりと座っていることが出来なくなり、わわ!っと落ち着かなくなってくる。すると…
「御者の方、ここで止まってくれますか?」
そう叫ぶスチワートに、こんなところで!?と見つめる。辺りを見るとどう考えても山の中。店らしきものもないし、宿屋だってない。どうするの?と唖然とする。
「このまま進むのは流石に危ないと思うんだ。思い切ってもう一度だけ飛ぼう!もう目的地は目の前…だから辛くないから大丈夫だよ?俺を信じて!」
それに戸惑いながらもコックリと頷く。そうね…大丈夫だと思っているのは、あくまで私の考え。念には念を入れて、慎重に近付くべきなのかも。おまけに平坦な道を進むルートもあったけど、わざと険しいこちらのルートを選んで来た。それはひとえにこちらの方が目立たないという理由からのこと。
多くの商人が出入りする為に、それを厳しく管理していている辺境伯家。だけどこちらのルートは道が悪い為に、商人はまず通らないルートになる。だから道は厳しいけど、領に入るのは比較的簡単…だけどそれって確かなのかも分からないから。
そして私達は、ここまで連れて来てくれた御者にお礼を言って別れ、徒歩で街が見えるところまで進んだ。すると…崖下には大きな街が広がっている。途端に「わあ~っ」と足が竦む。そして…
「俺は下に見える街に降りたことしかないんだ。だからフレデリカ…幼い頃に見たという領主城を憶えているかい?飛ぶ時には俺でなく、フレデリカが思い浮かべてくれ。そうすれば領主城までひとっ飛びで行ける。その方が絶対安全だ…出来るかな?」
スチワートが真剣な顔でそう尋ねてくる。ほんの少しまだ怖いけど、それをやらないといけないのも事実。でなければ、こんなところにまで来た意味がない。
「領主城まで?そうね…一旦街に降りたとしたら、それから城の中に入るのは至難の業。となるとどうしても身分を明かす必要があるわよね。分かった!やってみましょう」
こうなりゃ度胸だわ!と決心した私は、昔二週間ほど滞在した領主城を思い浮かべる。首都でも大きいと言われるノートン邸など庭の一部くらいの巨大な敷地…そして城を取り囲む高い塀と見上げるほどに高い城。中には数え切れないほどの部屋があり、全てを回るのには一生かかるのではないかと思った。ここがお母様の生まれ育ったところだと思うと、羨ましさよりも畏れの方が勝ってしまっていた。自分はこんなところに住めないって…
「うーん…城にはお母様の大好きだった薔薇園があるの。まずはそこに移動しましょうか?その庭園はまるで迷路のようになっているから、隠れるのには最適だと思うの。庭園だから警備も緩いと思うけど…」
頷きあった私達は、それから再び手を強く握る。それから懐かしい薔薇園を思い浮かべて…
お母様が「この薔薇は私の名前がつけられているのよ?」って嬉しそうに言っていたあの日を…うっ!
また高速で移動する感覚…吸い込まれそう!だけど前よりは随分ゆっくりに感じる…きっと距離が近いからでしょうね。これなら耐えられそう!すると足の裏が地面に触れる感触が。そしてゆっくりと目を開けた。すると…
──スーッ、チャッ!
突然の空気を震わす金属音。そして嫌な予感がしてゆっくりと振り向くと、驚愕の表情のスチワートが見えた。そしてその首元には…銀色に光る刃先が!
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