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第三章・新しい生活
19・あの日の記憶(スチワートSide)
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「スチワート、どうだ?二人で遠乗りに行かないか」
僕がこのロウレン家に来てから三年…初めて兄から掛けられた言葉だった。僕を弟と認めてくれた?嬉しいけど戸惑ってしまう。その理由は…
「ぼ、僕とですか?でも…侯爵夫人から叱られませんか?絶対に近付くなって言われてますけど」
僕にとって恐怖の対象である侯爵夫人。兄の実母であり僕にとっては継母。ここにやって来た当初からずっと、睨みつけられことあるごとに邪魔にされて来た。そんな辛い状況だけど、ここから追い出されたとしたらどこにも行くところはない。
母の元に帰りたい!そうどれだけ願ったか知れない。毎日泣き明かして、どうか帰して欲しい!って…
だけどある日父が言ったんだ…母は僕を捨てたんだと。そんなの嘘でしょう?
ある朝目覚めたらこの家にいた。生まれ育った村は?あの森の中の家はどうなったの?母さんは!そんなことを頭の中で繰り返していた。だけど現れた男性が僕の父だと言い、これからはこの家で過ごすようにと。おまけに僕は捨てられた?それを今更言うの…
耐え難い苦しみの中で、僕は貴族としての礼儀や勉強を教え込まれて、それをやり切る道しか残されていなかった。そして父からは全く愛情を感じず、おまけに夫人からはいつだって嘲るような視線を受ける。そして兄からは…完全に無視されていた。それなのに急にそんなことを言われても無理だよ!
「大丈夫だ…俺が無理矢理誘ったって言うから。だからお母様のことは気にしなくていい。それに前から話してみたかったんだ」
そんな兄さんの言葉に、僕は歓喜する。ここに来て初めての…優しさ。ずっと孤独だった僕に対する愛情…それを信じていいのかな?
エズラ・ロウレン…僕の兄。まだ十歳なのに、既に大人以上の剣の腕で、将来は騎士団にと嘱望されている。密かに自慢にしていた…僕は兄さんを。だけど私生児の僕にそんなことを言う権利なんてある?って口に出せないでいた。そんな雲の上の人なのに?
「に、兄さん、本当に?それなら…」
八歳でまだ上手く馬に乗れない僕は、兄との初めての二人乗りに心が沸き立っていた。おまけに僕を弟と呼んで、まるで本当の家族のように扱ってくれる。夢ではないかと思うほどに…
大きな馬に跨り、背中には兄の温もりを感じる。これからはずっと、こうやって兄弟として共に過ごしていけるって信じていた。そんな時…
突然乗っていた馬の身体が傾く。尻と後ろ脚が高く跳ね上がり、そのまま僕の身体も一回転するように浮かび上がる。そしてそのまま投げ出されて…
まるでスローモーションのようだった。一瞬だった筈がゆっくりに感じられ、地面目掛けて頭から落ちていった。僕はその瞬間、死を覚悟する…どう考えてもこのまま落ちたら死ぬ!それに身を固くして耐える。すると…
──パァァァーッ!
突然の光の渦…それから本当にゆっくりと落ちていく。地面に叩きつけられたつもりが…全く痛くない!どうして?
僕は特殊な能力を発現させていた。命を脅かす体験をしたことで、身体の中に眠っていた力が表に出たようだった。何でも、ロウレン家の血筋はその能力を持つ可能性が高いのだとか…
「アハハハ!私の思った通りだ。スチワート、お前は能力を受け継いでいると思ったんだ!これよりはその能力を帝国に捧げ、我らの為に働くがいい。エズラ、良かったな!お前ではなく弟が能力者だった。そのおかげでこの家を継ぐことが出来るんだぞ?」
聞いたこともないくらいの大声で喜ぶ父。だけど僕は何を言われいるのか分からない。僕が能力を発現したおかげで、兄さんは侯爵家を継げるの?それなら良かったじゃないか。大好きな兄さんの為になれるのだったら、僕は喜んで研究所に行く。兄さんや、そして帝国に住む人達が平穏に暮らせるのなら、僕は自分を誇りに思うよ。そうだよね?兄さん。
それから僕はたった八歳という年齢で、家族から離れて研究所で過ごすことになる。最初は凄く寂しかったけど、自分には使命があるって疑わなかった。だけどさ…本当は僕だって気付いていた。父は兄さんの為に僕をロウレン家に連れて来たんだって。兄さんだけが可愛くて、結局は僕を他人だと思っていたって。でも…それでいいんだよ?
そして何年か経ったある日、兄さんが研究所を訪ねて来た。落ち込んだ様子で、理由を尋ねても言い辛そうにしている。それを不思議に思っていると、意外な真実を告白してくる。母さんは僕を捨ててはおらず、父に僕を無理矢理奪われていた…そしてたった一人で死んでいた。
僕は父を恨んだけど、神様って本当にいるんだと思ったよ。父と継母を乗せた馬車が、事故で谷底に転落した。だからそんな恨みさえ、呆気なく終わってしまった。
兄さんの為なら…これまでの人生、ずっとそう思っていた俺。そして今もそれは変わらない。兄さんとは滅多に会えないけど、それでも時折会いに来てくれていた。そして結婚するって聞いて、兄さんが幸せなら俺だって幸せだって思ってた。二十五歳になったあの日までは…
ずっと騙されていた…あの優しい笑顔に。俺のそんな気持ちを踏みにじり、あろうことか利用しようとした。誠実そうな顔をして、裏では俺を裏切り続けていたんだ。だけどね、後悔してももう遅い。それを知ってしまった俺はある計画を立てた。それが俺にとって兄さんへの復讐。そう思ってたんだけど…
フレデリカ、君は知ってる?復讐なんて言葉を使うのは守るべき人がいない人だ。孤独の中に生きてきて、自分を既に諦めている人。それが…希望を与えられた人間はどうなると思う?戸惑いながらも光を求めてしまうんだ。抗い続けながらも求めることをやめない。君という眩しい光を…
僕がこのロウレン家に来てから三年…初めて兄から掛けられた言葉だった。僕を弟と認めてくれた?嬉しいけど戸惑ってしまう。その理由は…
「ぼ、僕とですか?でも…侯爵夫人から叱られませんか?絶対に近付くなって言われてますけど」
僕にとって恐怖の対象である侯爵夫人。兄の実母であり僕にとっては継母。ここにやって来た当初からずっと、睨みつけられことあるごとに邪魔にされて来た。そんな辛い状況だけど、ここから追い出されたとしたらどこにも行くところはない。
母の元に帰りたい!そうどれだけ願ったか知れない。毎日泣き明かして、どうか帰して欲しい!って…
だけどある日父が言ったんだ…母は僕を捨てたんだと。そんなの嘘でしょう?
ある朝目覚めたらこの家にいた。生まれ育った村は?あの森の中の家はどうなったの?母さんは!そんなことを頭の中で繰り返していた。だけど現れた男性が僕の父だと言い、これからはこの家で過ごすようにと。おまけに僕は捨てられた?それを今更言うの…
耐え難い苦しみの中で、僕は貴族としての礼儀や勉強を教え込まれて、それをやり切る道しか残されていなかった。そして父からは全く愛情を感じず、おまけに夫人からはいつだって嘲るような視線を受ける。そして兄からは…完全に無視されていた。それなのに急にそんなことを言われても無理だよ!
「大丈夫だ…俺が無理矢理誘ったって言うから。だからお母様のことは気にしなくていい。それに前から話してみたかったんだ」
そんな兄さんの言葉に、僕は歓喜する。ここに来て初めての…優しさ。ずっと孤独だった僕に対する愛情…それを信じていいのかな?
エズラ・ロウレン…僕の兄。まだ十歳なのに、既に大人以上の剣の腕で、将来は騎士団にと嘱望されている。密かに自慢にしていた…僕は兄さんを。だけど私生児の僕にそんなことを言う権利なんてある?って口に出せないでいた。そんな雲の上の人なのに?
「に、兄さん、本当に?それなら…」
八歳でまだ上手く馬に乗れない僕は、兄との初めての二人乗りに心が沸き立っていた。おまけに僕を弟と呼んで、まるで本当の家族のように扱ってくれる。夢ではないかと思うほどに…
大きな馬に跨り、背中には兄の温もりを感じる。これからはずっと、こうやって兄弟として共に過ごしていけるって信じていた。そんな時…
突然乗っていた馬の身体が傾く。尻と後ろ脚が高く跳ね上がり、そのまま僕の身体も一回転するように浮かび上がる。そしてそのまま投げ出されて…
まるでスローモーションのようだった。一瞬だった筈がゆっくりに感じられ、地面目掛けて頭から落ちていった。僕はその瞬間、死を覚悟する…どう考えてもこのまま落ちたら死ぬ!それに身を固くして耐える。すると…
──パァァァーッ!
突然の光の渦…それから本当にゆっくりと落ちていく。地面に叩きつけられたつもりが…全く痛くない!どうして?
僕は特殊な能力を発現させていた。命を脅かす体験をしたことで、身体の中に眠っていた力が表に出たようだった。何でも、ロウレン家の血筋はその能力を持つ可能性が高いのだとか…
「アハハハ!私の思った通りだ。スチワート、お前は能力を受け継いでいると思ったんだ!これよりはその能力を帝国に捧げ、我らの為に働くがいい。エズラ、良かったな!お前ではなく弟が能力者だった。そのおかげでこの家を継ぐことが出来るんだぞ?」
聞いたこともないくらいの大声で喜ぶ父。だけど僕は何を言われいるのか分からない。僕が能力を発現したおかげで、兄さんは侯爵家を継げるの?それなら良かったじゃないか。大好きな兄さんの為になれるのだったら、僕は喜んで研究所に行く。兄さんや、そして帝国に住む人達が平穏に暮らせるのなら、僕は自分を誇りに思うよ。そうだよね?兄さん。
それから僕はたった八歳という年齢で、家族から離れて研究所で過ごすことになる。最初は凄く寂しかったけど、自分には使命があるって疑わなかった。だけどさ…本当は僕だって気付いていた。父は兄さんの為に僕をロウレン家に連れて来たんだって。兄さんだけが可愛くて、結局は僕を他人だと思っていたって。でも…それでいいんだよ?
そして何年か経ったある日、兄さんが研究所を訪ねて来た。落ち込んだ様子で、理由を尋ねても言い辛そうにしている。それを不思議に思っていると、意外な真実を告白してくる。母さんは僕を捨ててはおらず、父に僕を無理矢理奪われていた…そしてたった一人で死んでいた。
僕は父を恨んだけど、神様って本当にいるんだと思ったよ。父と継母を乗せた馬車が、事故で谷底に転落した。だからそんな恨みさえ、呆気なく終わってしまった。
兄さんの為なら…これまでの人生、ずっとそう思っていた俺。そして今もそれは変わらない。兄さんとは滅多に会えないけど、それでも時折会いに来てくれていた。そして結婚するって聞いて、兄さんが幸せなら俺だって幸せだって思ってた。二十五歳になったあの日までは…
ずっと騙されていた…あの優しい笑顔に。俺のそんな気持ちを踏みにじり、あろうことか利用しようとした。誠実そうな顔をして、裏では俺を裏切り続けていたんだ。だけどね、後悔してももう遅い。それを知ってしまった俺はある計画を立てた。それが俺にとって兄さんへの復讐。そう思ってたんだけど…
フレデリカ、君は知ってる?復讐なんて言葉を使うのは守るべき人がいない人だ。孤独の中に生きてきて、自分を既に諦めている人。それが…希望を与えられた人間はどうなると思う?戸惑いながらも光を求めてしまうんだ。抗い続けながらも求めることをやめない。君という眩しい光を…
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