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最終章・私を呼ぶ声
41・スチワートの正体
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人懐っこい笑顔…それは初めて出逢ったあの日のように。だけどそれはあの人だって同じだった。初顔合わせの時、花束を持って現れたあなたは、優しい笑顔を浮かべていた。その後の仕打ちに打ちひしがれて、その笑顔すらも無いものだと思い込んでしまった。だけど…違ったのね?
死に戻った後、ずっと感じていたある違和感。それは明らかに表立っていたのに、全く見えてはいなかった。というよりも、見たくはなかったのかも…そんなことはある筈ないと思い込んでいたんだわ!
確信めいたものはあるけど、その理由が分からない。どうして?あの二人と私は、何が違ったと言うの。だけど…それが現実だとすれば、同じだと思っていた方がおかしいのかも知れない。違って当たり前だった?そんなのって!
急速に冷えた指先を内側に握って、それからまずは確かめてみようとする。一度目と二度目の違いを考え、どこかにそのヒントがないのかと懸命に思い出す。そうだわ、あの時…
「そう言えばスチワート。縁談で初めて顔合わせする前、スリに遭った私をエズラと一緒に助けてくれたでしょう?私ビックリし過ぎてお礼もろくに言えなかったんだけど」
突然そんなことを言い出す私に、スチワートはアハハと明るく笑う。それから…
「いいや、大丈夫だ。鞄を取り返せて良かったよ。あの辺りは治安はいい筈なんだけど、夕方からはあんな奴等がいるから…気を付けなきゃな」
そう言って明るく笑うスチワート。それに私も微笑んだけど、その心の中は…愕然としていた。この人は誰なの?私はあの時、ブローチを拾って貰ったけど、スリに遭ってはいない!そうだったのは、一度目の時だったから…
それからスリから私の鞄を取り返してくれたのはエズラであってスチワートじゃなかった。私は意図して鎌をかけてみたものの、混乱しきっていた。スチワートがスチワートじゃないですって?それならこの人は恐らくエズラ…
目の前のスチワート改めエズラは、上機嫌でお茶を淹れてくれている。前はこんな姿など見たこともなかった。騎士団所属の騎士らしく、美麗な顔立ちは勿体ないくらいに、いつも厳しい表情をしていたから。
どうしてあなたは、こんなに変わっているの?どうしてスチワートを名乗っているのか、そもそも分からない!
それに、そう偽っているというには余りに自然過ぎる。ずっと以前から…始めからこんな人だったかのように。ハッ、そうだわ…死に戻り!
私はあの日死んでから、四年ほどの時を遡って戻ってきた。私はスチワートも同じだと思い込んでいたけど、もしかして違った?
それにスチワートによると、エズラが戻って来たのは私達の縁談の顔合わせの時…その間二週間ほどの差がある。それはどうして?
何かの作用の違いで、それこそずっとずっと前に戻ることだってあるのかも知れないわ。子供の頃に戻ることだって…
私がそんなことを考えていることなど思いもしないエズラは、「もう少し待ってて」と言いながら、カップに丁寧にお茶を注いでくれている。怖い!だけど聞いてみるしかないわ。だけど…そのことで、この幸せが壊れてしまうのかも。
いっそスチワートでもエズラでもいい…死に戻った私は、目の前のこの人を深く愛し始めている。でもだからこそ…
「あなた、エズラなのね?」
──ガシャーン!
エズラは持っていたポットを落とす。ジワリと染みがひろがるテーブル。どんどん広がって、白いテーブルクロスが真っ茶色に染まっていって…
「な、何を言ってる…俺はスチワートだ!兄さんになんて似ていないよ。そんなことって…あ、ある筈がないよ。冗談だよね?」
相当に動揺しているエズラ。いつも柔和な笑顔で話してくれるけど、今日ばかりは真顔になっている。それに心なしか、唇が青ざめてきていて…それから観念したようにガックリと項垂れる。
「どうして…どうして分かったんだ。前とは体型も口調も、それに顔立ちだって微妙に違う筈だ!それなのにどうして俺だと?」
俯いたままのエズラはそう叫んでいる。私だって、どうしてなのか分からない…ただ、違和感が重なっていったとしか。
「前からずっと、違和感を感じていたの。言い出したらキリがないことで、それでもずっと答えまでは出ていなかった。だけどさっき聞いた瞳の件や、ロウレン家のこと、そして年齢の言い間違いなどを考えると何かが可怪しいと感じた。だけど…私はきっと分かっていたんだと思う。知らないフリをしていただけ…」
「知らないフリだって?それじゃあ、最初から疑ってたっていうのかい?」
鎮痛な面持ちのエズラは、私の言っていることを信じられないでいる。私だってそう!こんな有り得ない仮説に行き着いたけど、よくよく考えれば答えは出ていたように思う。
「お願い、もう話して?あなたの辿った死に戻り後の人生を、私に話してちょうだい」
毅然とした口調でそう伝えると、エズラはバッと顔を上げる。それから悲しそうに私を見つめて…
「そうだ…俺は君を生き返らせようとしてあの時死んだんだ。そして気付いたら十歳に戻っていた」
──十歳ですって?そんなのって…十七年も時を遡ったってことなの?有り得ないわ!
死に戻った後、ずっと感じていたある違和感。それは明らかに表立っていたのに、全く見えてはいなかった。というよりも、見たくはなかったのかも…そんなことはある筈ないと思い込んでいたんだわ!
確信めいたものはあるけど、その理由が分からない。どうして?あの二人と私は、何が違ったと言うの。だけど…それが現実だとすれば、同じだと思っていた方がおかしいのかも知れない。違って当たり前だった?そんなのって!
急速に冷えた指先を内側に握って、それからまずは確かめてみようとする。一度目と二度目の違いを考え、どこかにそのヒントがないのかと懸命に思い出す。そうだわ、あの時…
「そう言えばスチワート。縁談で初めて顔合わせする前、スリに遭った私をエズラと一緒に助けてくれたでしょう?私ビックリし過ぎてお礼もろくに言えなかったんだけど」
突然そんなことを言い出す私に、スチワートはアハハと明るく笑う。それから…
「いいや、大丈夫だ。鞄を取り返せて良かったよ。あの辺りは治安はいい筈なんだけど、夕方からはあんな奴等がいるから…気を付けなきゃな」
そう言って明るく笑うスチワート。それに私も微笑んだけど、その心の中は…愕然としていた。この人は誰なの?私はあの時、ブローチを拾って貰ったけど、スリに遭ってはいない!そうだったのは、一度目の時だったから…
それからスリから私の鞄を取り返してくれたのはエズラであってスチワートじゃなかった。私は意図して鎌をかけてみたものの、混乱しきっていた。スチワートがスチワートじゃないですって?それならこの人は恐らくエズラ…
目の前のスチワート改めエズラは、上機嫌でお茶を淹れてくれている。前はこんな姿など見たこともなかった。騎士団所属の騎士らしく、美麗な顔立ちは勿体ないくらいに、いつも厳しい表情をしていたから。
どうしてあなたは、こんなに変わっているの?どうしてスチワートを名乗っているのか、そもそも分からない!
それに、そう偽っているというには余りに自然過ぎる。ずっと以前から…始めからこんな人だったかのように。ハッ、そうだわ…死に戻り!
私はあの日死んでから、四年ほどの時を遡って戻ってきた。私はスチワートも同じだと思い込んでいたけど、もしかして違った?
それにスチワートによると、エズラが戻って来たのは私達の縁談の顔合わせの時…その間二週間ほどの差がある。それはどうして?
何かの作用の違いで、それこそずっとずっと前に戻ることだってあるのかも知れないわ。子供の頃に戻ることだって…
私がそんなことを考えていることなど思いもしないエズラは、「もう少し待ってて」と言いながら、カップに丁寧にお茶を注いでくれている。怖い!だけど聞いてみるしかないわ。だけど…そのことで、この幸せが壊れてしまうのかも。
いっそスチワートでもエズラでもいい…死に戻った私は、目の前のこの人を深く愛し始めている。でもだからこそ…
「あなた、エズラなのね?」
──ガシャーン!
エズラは持っていたポットを落とす。ジワリと染みがひろがるテーブル。どんどん広がって、白いテーブルクロスが真っ茶色に染まっていって…
「な、何を言ってる…俺はスチワートだ!兄さんになんて似ていないよ。そんなことって…あ、ある筈がないよ。冗談だよね?」
相当に動揺しているエズラ。いつも柔和な笑顔で話してくれるけど、今日ばかりは真顔になっている。それに心なしか、唇が青ざめてきていて…それから観念したようにガックリと項垂れる。
「どうして…どうして分かったんだ。前とは体型も口調も、それに顔立ちだって微妙に違う筈だ!それなのにどうして俺だと?」
俯いたままのエズラはそう叫んでいる。私だって、どうしてなのか分からない…ただ、違和感が重なっていったとしか。
「前からずっと、違和感を感じていたの。言い出したらキリがないことで、それでもずっと答えまでは出ていなかった。だけどさっき聞いた瞳の件や、ロウレン家のこと、そして年齢の言い間違いなどを考えると何かが可怪しいと感じた。だけど…私はきっと分かっていたんだと思う。知らないフリをしていただけ…」
「知らないフリだって?それじゃあ、最初から疑ってたっていうのかい?」
鎮痛な面持ちのエズラは、私の言っていることを信じられないでいる。私だってそう!こんな有り得ない仮説に行き着いたけど、よくよく考えれば答えは出ていたように思う。
「お願い、もう話して?あなたの辿った死に戻り後の人生を、私に話してちょうだい」
毅然とした口調でそう伝えると、エズラはバッと顔を上げる。それから悲しそうに私を見つめて…
「そうだ…俺は君を生き返らせようとしてあの時死んだんだ。そして気付いたら十歳に戻っていた」
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