【完結】お別れするあなたに一言だけ。あなたの恋は、叶うことはないのだと…

MEIKO

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第三章・もう一つの人生

32・二人のデビュタント

 デビュタントに向けて、様々な物が届き始めた。オーダーしたドレスと靴に小物類…そしてジュエリーまで!そしてあと一週間後だからと、ミンチェスター家全体が準備に余念がない。ロリーをはじめとするメイド達が当日の私の髪型や着付けをシミュレーションし、ああでもないこうでもないと言っている。
 そしてメイソン家も今頃、同じような感じだろうと思うとクスッと笑いが出る。家族は男二人で、おまけに使用人達はほぼ元騎士…あっちの方が絶対に大変だわ!
 そして間近になるとドキドキしてきて…

 「ねえ、お祖母様。デビュタントはどういう場所で行われるの?そういえば聞いてなかったなって思うんだけどぉ」

 当日はメイソン家の馬車が迎えに来てくれることになっていて、だから会場のことは失念していた。だけど間近になってきたことで、そういえば…と気付いて。ノースブルグにそんなに大きな建物があるのかしら…

 「それねぇ…領主様の居城で開かれるのよ」

 「り、領主様ですって!」

 このノースブルグの領主といえばイェガー公爵。ようはロベルトが正式な領主となる。だけどロベルトは皇太子殿下の筆頭補佐官。だから首都を離れることは出来ない。そしてそれを補う為に前公爵であるお義父様が、領地を治めていると聞く。それなのに居城に行くの?確かにまともにお会いしたことすらないけど…

 「会場はそうなんだけどね、デビュタントには一度も出席されたことはないの。だから大丈夫だと思うのよ?この地に六十年住む私でさえ、領主様にお会いしたのはたった三回。そのうち一回は前領主様だったし、今の御方は二回ということになるわ。居城にお住みになってはいるけど、姿を見せるのは稀なの」

 そうお祖母様が説明してくれたけど、どれだけ変わった方なんだろうと思う。人に会うのが煩わしいのかしら…

 「そ、そうなのね?挨拶とかされるのかと思って…」

 そう心配する私だけど、お祖母様といえば端っから心配する様子はない。そして…

 「出席されない領主様の代わりに、補佐をされてるロウ男爵様が全てを取り仕切ってらっしゃるわ。そして舞踏会の最後に、デビュタントの者一人一人に冠を被せる役も男爵様だから」

 「うん…冠って?」

 そう不思議がる私にお祖母様は、当日の流れを話してくれる。それによると、まず男爵様の挨拶があり、それが終わると舞踏会が始まる。それはデビュタントの参加者だけでなく、近隣に住む貴族や裕福な平民も参加できるんだとか。だから私達のような参加者同士のパートナーだけではなく、父娘や兄妹、親類縁者や知り合いなどもパートナーになることが可能だそう。 

 そして舞踏会が佳境になった時、いよいよデビュタントの参加者達が一人ずつ名を呼ばれる。そして、男性なら月桂樹の冠を…そして女性ならば白いカスミソウの花冠を被せてもらえるんだとか。そして最後まで踊り続ける…わあ、楽しみ!

 義父のことだけは気になるけど、もしも会うことがあったとしても気付かないと思う。家門の名も違うし、クリスティーヌなんて名前、ありがちだもの。
 
 そして入念に準備を進めて、迎えた当日──

 「ち、ちょっと苦し過ぎない?」

 「いえ、このくらい絞らなければラインが綺麗に出ません!クリスティーヌ様には、今日が一番美しい姿でいて欲しいのです」
 
 コルセットで腰を思いっ切り細く絞られ、とっても苦しい!だけど私が選んだドレスは、細身のラインが裾に向かって広がる優美なもの。それを着こなす為にこんなに苦労するとは思ってなかったー!もうこれ以上はやめてね?と言いながら、デビュタントに行く為の準備に取り掛かっている。

 髪型はどうしようかと迷ったけど、他の女性参加者よりも年上の私。だから同じくらいに見えるようにサイドは編み込んでもらったが、後はフワッと垂らしておく。そして編み込みの部分には金の小花のヘアパーツを散らせば、ブルネットの髪にとっても映えている。そしてアクセサリーはドレスと同色のラベンダー翡翠のネックレスが輝いて…

 「まあ、何て綺麗なの…」

 そんな言葉に振り向くと、お祖母様が感動で口を押さえながら私を見ている。そしてその目元には光るものが…
 それには準備中だというのに、貰い泣きしそうになる。すると…

 「ああ、ごめんなさいね。ルナが生きて…この家で暮していたとしたら、こうやって娘のデビュタントを見守れたんだろうと思ったら。嫌ねぇ、涙脆くなっちゃって」

 そう言って涙を流しているお祖母様を見て、本当に参加することにして良かったと思う。正直今更だと悩んだけど、これで少しは孝行が出来たのではないかと思う。

 「お嬢様、オリヴァー様がお待ちです!」

 その声に準備を終えた私が、静々と階段を降りて行く。すると…降りた先に見えるのは、初めて見るオリヴァーの正装姿で。濃紺のタキシードに、私のドレスに合わせた薄紫のクラバット。そこに留められているのは、私が誕生日に贈ったタンザナイトが煌めくピンで…

 ──ドキドキ…ドキッ!

 眩しいほどのブロンドヘアを撫で付けて、私にサッと手を差し伸べる姿はいつもとは違って大人っぽい。それにこころなしか所作まで落ち着いてみえる。それには胸がドキドキ言いっ放し!そんなことは知ってか知らずかオリヴァーは…

 「では、行こうか?クリスティーヌ」

 その手を握る私は、期待に胸を躍らせていた。初めてのデビュタントに舞踏会を。そして何の疑いも持ってはいない。ただ、目の前のオリヴァーだけを見ながら…
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