28 / 67
第二章・小説の中の僕
27・切なる願い
しおりを挟む
僕は寒くもないのにガタガタと震えていた…手紙を持つ指が急に冷たくなって、力が緩んでバサッと手紙が床に散らばる。
──こんなに早く、クリスの名を聞く事になるなんて…
もしも会ってしまったとしたら、それで僕達どうなるの?乃恵留が前に言ったように、小説の強制力でミシェルはクリスを好きになるんだろうか…嫌だ!絶対にそんな場面を見たくない…
それにしても、乃恵留は既にクリスと会っている?
クリスは確か、子爵家の令嬢だ。身分の差もあるのに、独身の男女がそれ程すんなりと出会えるものだろうか?それに乃恵留は何と言っても王太子。子爵家の令嬢からしたら、雲の上の存在だと言ってもいいだろう。それなのに、連れて行く…なんて、気軽に言えるほどに付き合いはあるってこと?
クリスには正直、会ってみたい気持ちもある。だって小説の主人公だよ?以前から気になって仕方がない。だから会ってはみたいけど…
だけどもし、僕が会った事でミシェルに繋がってしまうなら…そんなの嫌だ!
──だって怖いんだ…
そんな得も言われぬ恐怖感に囚われて、僕の心は崩れ落ちそうになっていた。
そんな僕の只ならない様子にオリヴァーは、慌てて近付こうとして…
──コン、コン。コン。
「ミシェルだ、入るぞ?」
そんな聞き覚えのある声に返事をする間もなく、扉が開いてミシェルが入って来る。そして入るなり、顔色が悪く震えている僕に気付いて慌てて駆け寄ってくる。
「どうした…具合が悪いのか?昨日はやはり無理をしてしまったようだ。おまけに寒空の下、庭園に長く居たから…」
そう言ってミシェルは、徐に首元に手の甲を当て熱を測ろうとする。
「うーん、熱はないようだけど…」
そう呟いたかと思えば、まだ寝ているようにと、僕の手を引いてベッドまで連れて行ってくれる。そして言われるがままベッドに入った僕は、後頭部を優しく支えられながら横になる。それからミシェルは、僕のおでこを撫でて、それからチュッとキスを一つ落とす。
そんなミシェルの仕草に僕の心は、愛されているんだ…って思いが、じわりじわりと染み渡る。だけどどこか不安で…
そんな気持ちがどうしても離れず、目元には涙が滲み、それをミシェルは下唇で拭ってくれて…ドキッ!
──ミシェル、僕を愛してる?どうか僕を愛して…そしてクリスが現れても、僕を選んで欲しいんだ!
ミシェルとの甘いひと時にそっと目を閉じて、再び眠りに落ちる予感がする。だけど同時に、小説の中という渦に巻き込まれる感覚に、ブルッと身震いを一つする。
結局僕は、そのまま次の日まで寝込んでしまって、乃恵留にはまだ返事をしてない。その間に考えたのは、まだクリスには会えないってこと。
僕の心の準備が出来るまでは会わない!悩んだ末にそう決めた。それにまずは小説の内容を良く知る乃恵留に、これまでのことを聞くのが先決だと思う。それにクリスと既に会っているのなら、どういう経緯で出会ったのかを聞いてみたいと思うから。
そう決めてから乃恵留に返事を出した。来週、ちょうどリンダさんのお店に作品を届けに行くつもりだし、その時に会えたらいいな…って。
──乃恵留も皇太子だからね?色々と忙しいだろうし、ダメなら次の機会にしようと思う。
そんなふうに思っていたけど、その日で大丈夫だと返信がある。きっとお忍びで来るんだろうな…護衛騎士や側付きの使用人を何人も引き連れては来ないと思うけど…
──あとミシェルには、気付かれないようにしなくっちゃ!
僕はこの先、ミシェルには決して言えないような秘密が増えるだろう。だけどもしもそれに気付く時が来たら…果たして僕を、信じてくれるだろうか?
──こんなに早く、クリスの名を聞く事になるなんて…
もしも会ってしまったとしたら、それで僕達どうなるの?乃恵留が前に言ったように、小説の強制力でミシェルはクリスを好きになるんだろうか…嫌だ!絶対にそんな場面を見たくない…
それにしても、乃恵留は既にクリスと会っている?
クリスは確か、子爵家の令嬢だ。身分の差もあるのに、独身の男女がそれ程すんなりと出会えるものだろうか?それに乃恵留は何と言っても王太子。子爵家の令嬢からしたら、雲の上の存在だと言ってもいいだろう。それなのに、連れて行く…なんて、気軽に言えるほどに付き合いはあるってこと?
クリスには正直、会ってみたい気持ちもある。だって小説の主人公だよ?以前から気になって仕方がない。だから会ってはみたいけど…
だけどもし、僕が会った事でミシェルに繋がってしまうなら…そんなの嫌だ!
──だって怖いんだ…
そんな得も言われぬ恐怖感に囚われて、僕の心は崩れ落ちそうになっていた。
そんな僕の只ならない様子にオリヴァーは、慌てて近付こうとして…
──コン、コン。コン。
「ミシェルだ、入るぞ?」
そんな聞き覚えのある声に返事をする間もなく、扉が開いてミシェルが入って来る。そして入るなり、顔色が悪く震えている僕に気付いて慌てて駆け寄ってくる。
「どうした…具合が悪いのか?昨日はやはり無理をしてしまったようだ。おまけに寒空の下、庭園に長く居たから…」
そう言ってミシェルは、徐に首元に手の甲を当て熱を測ろうとする。
「うーん、熱はないようだけど…」
そう呟いたかと思えば、まだ寝ているようにと、僕の手を引いてベッドまで連れて行ってくれる。そして言われるがままベッドに入った僕は、後頭部を優しく支えられながら横になる。それからミシェルは、僕のおでこを撫でて、それからチュッとキスを一つ落とす。
そんなミシェルの仕草に僕の心は、愛されているんだ…って思いが、じわりじわりと染み渡る。だけどどこか不安で…
そんな気持ちがどうしても離れず、目元には涙が滲み、それをミシェルは下唇で拭ってくれて…ドキッ!
──ミシェル、僕を愛してる?どうか僕を愛して…そしてクリスが現れても、僕を選んで欲しいんだ!
ミシェルとの甘いひと時にそっと目を閉じて、再び眠りに落ちる予感がする。だけど同時に、小説の中という渦に巻き込まれる感覚に、ブルッと身震いを一つする。
結局僕は、そのまま次の日まで寝込んでしまって、乃恵留にはまだ返事をしてない。その間に考えたのは、まだクリスには会えないってこと。
僕の心の準備が出来るまでは会わない!悩んだ末にそう決めた。それにまずは小説の内容を良く知る乃恵留に、これまでのことを聞くのが先決だと思う。それにクリスと既に会っているのなら、どういう経緯で出会ったのかを聞いてみたいと思うから。
そう決めてから乃恵留に返事を出した。来週、ちょうどリンダさんのお店に作品を届けに行くつもりだし、その時に会えたらいいな…って。
──乃恵留も皇太子だからね?色々と忙しいだろうし、ダメなら次の機会にしようと思う。
そんなふうに思っていたけど、その日で大丈夫だと返信がある。きっとお忍びで来るんだろうな…護衛騎士や側付きの使用人を何人も引き連れては来ないと思うけど…
──あとミシェルには、気付かれないようにしなくっちゃ!
僕はこの先、ミシェルには決して言えないような秘密が増えるだろう。だけどもしもそれに気付く時が来たら…果たして僕を、信じてくれるだろうか?
214
あなたにおすすめの小説
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
少女漫画の当て馬キャラと恋人になったけどキャラ変激しすぎませんか??
和泉臨音
BL
昔から物事に違和感を感じることの多かった衛は周りから浮いた存在だった。国軍養成所で一人の少女に出会い、ここが架空の大正時代を舞台にしたバトルありの少女漫画の世界だと気付く。ならば自分は役に立つモブに徹しようと心に誓うも、なぜかヒロインに惚れるはずの当て馬イケメンキャラ、一条寺少尉に惚れられて絡め取られてしまうのだった。
※ 腹黒イケメン少尉(漫画では当て馬)×前世記憶で戦闘力が無自覚チートな平凡孤児(漫画では完全モブ)
※ 戦闘シーンや受が不当な扱いを受けるシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
※ 五章で完結。以降は番外編です。
BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。
佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる