【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO

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第二章・小説の中の僕

27・切なる願い

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 僕は寒くもないのにガタガタと震えていた…手紙を持つ指が急に冷たくなって、力が緩んでバサッと手紙が床に散らばる。

 ──こんなに早く、クリスの名を聞く事になるなんて…
 
 もしも会ってしまったとしたら、それで僕達どうなるの?乃恵留が前に言ったように、小説の強制力でミシェルはクリスを好きになるんだろうか…嫌だ!絶対にそんな場面を見たくない…

 それにしても、乃恵留は既にクリスと会っている?
 クリスは確か、子爵家の令嬢だ。身分の差もあるのに、独身の男女がそれ程すんなりと出会えるものだろうか?それに乃恵留は何と言っても王太子。子爵家の令嬢からしたら、雲の上の存在だと言ってもいいだろう。それなのに、連れて行く…なんて、気軽に言えるほどに付き合いはあるってこと?

 クリスには正直、会ってみたい気持ちもある。だって小説の主人公だよ?以前から気になって仕方がない。だから会ってはみたいけど…
 だけどもし、僕が会った事でミシェルに繋がってしまうなら…そんなの嫌だ!

 ──だって怖いんだ…
 
 そんな得も言われぬ恐怖感に囚われて、僕の心は崩れ落ちそうになっていた。
 そんな僕の只ならない様子にオリヴァーは、慌てて近付こうとして…

 ──コン、コン。コン。

 「ミシェルだ、入るぞ?」

 そんな聞き覚えのある声に返事をする間もなく、扉が開いてミシェルが入って来る。そして入るなり、顔色が悪く震えている僕に気付いて慌てて駆け寄ってくる。

 「どうした…具合が悪いのか?昨日はやはり無理をしてしまったようだ。おまけに寒空の下、庭園に長く居たから…」

 そう言ってミシェルは、徐に首元に手の甲を当て熱を測ろうとする。
 
 「うーん、熱はないようだけど…」

 そう呟いたかと思えば、まだ寝ているようにと、僕の手を引いてベッドまで連れて行ってくれる。そして言われるがままベッドに入った僕は、後頭部を優しく支えられながら横になる。それからミシェルは、僕のおでこを撫でて、それからチュッとキスを一つ落とす。
 そんなミシェルの仕草に僕の心は、愛されているんだ…って思いが、じわりじわりと染み渡る。だけどどこか不安で…
 そんな気持ちがどうしても離れず、目元には涙が滲み、それをミシェルは下唇で拭ってくれて…ドキッ!

 ──ミシェル、僕を愛してる?どうか僕を愛して…そしてクリスが現れても、僕を選んで欲しいんだ!

 ミシェルとの甘いひと時にそっと目を閉じて、再び眠りに落ちる予感がする。だけど同時に、小説の中という渦に巻き込まれる感覚に、ブルッと身震いを一つする。

 結局僕は、そのまま次の日まで寝込んでしまって、乃恵留にはまだ返事をしてない。その間に考えたのは、まだクリスにはってこと。

 僕の心の準備が出来るまでは会わない!悩んだ末にそう決めた。それにまずは小説の内容を良く知る乃恵留に、これまでのことを聞くのが先決だと思う。それにクリスと既に会っているのなら、どういう経緯で出会ったのかを聞いてみたいと思うから。

 そう決めてから乃恵留に返事を出した。来週、ちょうどリンダさんのお店に作品を届けに行くつもりだし、その時に会えたらいいな…って。

 ──乃恵留も皇太子だからね?色々と忙しいだろうし、ダメなら次の機会にしようと思う。

 そんなふうに思っていたけど、その日で大丈夫だと返信がある。きっとお忍びで来るんだろうな…護衛騎士や側付きの使用人を何人も引き連れては来ないと思うけど…

 ──あとミシェルには、気付かれないようにしなくっちゃ!
 
 僕はこの先、ミシェルには決して言えないような秘密が増えるだろう。だけどもしもそれに気付く時が来たら…果たして僕を、信じてくれるだろうか?
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