【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO

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第五章・西の離宮

34・不穏

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 「ア、アラン様、どうしてここに?」

 居るはずもないと思っていたアランが何故かこの場にいた事に驚き、スリジャが声を上げる。
 
 「スリジャ様。体調が随分良くなったので来てしまいましたよ!」

 スクッと立ち上がったアランは徐ろに近付き、スリジャの手を取ってそっと甲に口づけた。
 スリジャはアランの初めてのその行動に動揺してしまったのだが、それを隠すように努めて冷静に礼を返した。

 「西の離宮はとても良い所ですね!私も初めて来ました。空気も美味しいし、何よりもスリジャ様が居ますしね!」

 そう言ってアランは笑うが、何故か目が笑っているようには見えない。

 ──アラン様…何かいつもとは違わない?こんなにあから様な物言ものいいをする方だったろうか?ようのない不自然さを感じる…

 さあ一緒に食べましょう!と言われて、スリジャは席に着く。アルジェが離宮の使用人から熱い紅茶を受け取り、通常より少な目の朝食を並べてくれる。すると…

 「いつもこんなに少ない量なのですか?朝食は」
 
 先程の不自然な感じとは違い、いつもと同じように気遣ってくれるアランにホッとする。

 「大丈夫なんです!先程光が…いえ、散歩に出掛けて歩き過ぎてしまったようで、あまり食欲がありません」

 危うくあの光の事を言ってしまいそうになり、慌ててそう言って誤魔化した。
 それにアランは、光が…?と呟き考え込む様子を見せる。

 ──いけない!アラン様は人一倍聡い方だ…人からいちを聞いてじゅうを知るような人。そんな方に心配を掛けるような事はダメだ!
 
 「本当に何でもないのですよ。さあ、一緒に朝食を」

 それからアルジェにアランのカップにも紅茶を注いでくれるように頼んで、共に朝食を食べ出した。
 そこでこれまでの旅での出来事や風景の事など他愛もない話をする。暫くはそうして談笑しながら食事を進めていたが、やがてアランが真剣な眼差しを向けてくる。
 
 「スリジャ様、この前の癒やしの力の件なんですが…ロイ兄上にはお話しになったのでしょうか?」

 ──ドキッ!とした…
 
 実はロイには何も話してはいない。この話をしてしまうと過剰に心配を掛けてしまうし、何より…私の寿命について話さねばいけなくなる。もういくばくも残っていないであろう私の命の…

 ロイがこの事を聞いたら何と思うだろうか?あの人はそれに耐えられるだろうか…?
 そう思うと苦しくなる…何故なら私だったら耐えられないから…

 自分の愛する人を見送らねばならない悲しみは、私が良く分かっているではないか?と、母の顔を思い浮かべる。
 かなり前で私も小さかった為、今では顔もハッキリとは憶えてはいないが、それでも笑っている顔とその温かな腕は憶えている…

 ──あんな想いを…ロイにさせる?そう考えて黙り込んでしまった私に…

 「言ってないんですね?兄上は果たして耐えられますかね…いつ死ぬともわからない身のスリジャ様だって事を」

 ハッ!としてアランを見る。アランはそもそも寿命が短い事までは把握していないはずだ…癒やしの力を使い過ぎると死ぬ可能性の事を言っているのだと思う。となると、それ以上の衝撃の事実なのかもしれない!私の寿命の事は──

 もしかして私は、愛する人に酷い仕打ちをしてしまうのだろうか…残された僅かばかりの人生を精一杯生きようとしているのに…?

 誰かを愛し愛されて、思い残すことなく逝く…と思っていたけれど、本当に?思い残すことがない訳ない!

 そして、ロイの顔を思い浮かべる。こんな私に愛を捧げてくれる大切な人。

 ──私の最愛の人を…
 
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