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第五章・西の離宮
39・兄弟
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アランが産まれたのは俺が4つの時だった。
俺からすれば初めての弟、小さくて可愛いくてカイン兄上と二人して、飽きることなく何時までも見ていた…
少し大きくなると俺達の後をちょこちょこと付いて来ては、同じ事をやろうとして幼いながらも負けん気が強い子で、将来が楽しみだと思っていた。
ところが何度も体調を崩すようになったアランは、ある時から一人で過ごすようになり、俺と同じで幼くして母に先立たれたのもあって本心を隠すようになっていったように思う…
表向きでは明るく従順で、兄を頼らなければ生きていけない弟。
でも俺は知っている。アランは俺達三人の兄弟で最も王に近い人物なのだ。
身体が弱いだけで、頭脳明晰、行動力もあり話術が巧み。
長子が後を継ぐこの国では無理だが、世が世なら王になっていただろう。
そんなアランを想うと、きっと悔しい思いも沢山しただろうし、俺や兄上に遠慮してさぞかし息詰まりだったろう…と。
すまない!アラン──
◇◇◇◇
「こんな時間にこんな所に呼び出して何の御用なんですか?」
アランが面倒くさそうに言っている。
俺は晩餐後、庭園の東屋にアランを呼び出していた。
「すまないアランこんな時間に。ここならゆっくりと話しが出来るだろうと思って来て貰った」
さあこちらに…と東屋にあるソファに二人で腰掛ける。
離宮の建物とは離れているが何ヶ所かにある篝火のおかげで暗くはない。
外を守っている護衛達にも、ここへは近付かないように指示してあった。
「話というのは他でもない、スリジャの事だ。昨日、本人から聞いた…全てを」
昨日のスリジャの様子を思い出すと辛くなる。だからこそアランと話さねばならない!
「癒やしの力の事ですね。私も驚きました…まさかあの力が残っているなんて。それに使い過ぎると死んでしまうとは…」
一瞬苦しげにそう言ったアランだったが、次の瞬間挑むように俺を見る。
「それで?ロイ兄上は耐えられるのですか…スリジャ様がそうなった時に」
これまでとは明らかに違うアランをじっと見ていた。
そんな俺の視線をアランは訝しげに見返した。だが、言い返しもしない静かな俺の様子に急に不安な気持ちに襲われ、いったい何が…と焦った様子で聞いていた。
「スリジャは後、五年ほどしか生きられない!あと五年で俺達の元から居なくなるんだ」
──アランは一瞬、何を言われているのか理解出来ない。
「五年┉」そう言うのがやっとだった。
「神の御使いとして、癒やしの力を使い身体を酷使した結果だそうだ…もうそれ程少ない時間しかスリジャには残されていないんだ!」
そう真実を語ったロイの目に涙が滲む。
──五年しか生きられないとはどういう事なんだ?それ程だったのか…それ程の力を既に使ってしまっていたなんて!
もう使わないようにしていれば大丈夫なんだと思っていた…
アランは、そう一刻を争う状況なんだと判断する。
「ロイ兄上、私がそのスリジャ様の運命を変えられる…と言ったらどうしますか?」
ロイはその言葉に驚きアランを凝視した。
「変えられる…だって?そんなことが可能な訳がない!」
「私がスリジャ様を救うと言っているのです。でも、スリジャ様を私に返すという条件ならば、その不可能を可能にして見せましょう」
何を言っているんだ?と困惑しきりのロイは、何故お前が…?と呟いた。
「スリジャ様を私に返してくれますよね?結婚相手として。そうすれば生きられるのですよ?スリジャ様は。」
そう自信満々な様子のアラン。そんな馬鹿な…とは思うが…
ロイは目を閉じ暫くじっと考える。それからやっと口を開いた。
「それは出来ない!もう俺達は離れては居られないんだ…。そんなことになれば、死んだも同然になってしまう…二人とも」と真剣な顔で伝える。
「何言ってるんですか?死んでしまうんですよ…それでも良いのですか?耐えられるんですかね、兄上は。」
──死ぬよ…もちろん。
「スリジャが居なくなったら俺も死ぬつもりだ…俺だけ生きるつもりもない。だからと言って、ただ待つつもりはない。諦めずに探す!寿命を延ばす方法を」
ロイはスリジャの告白から、ずっと心に決めていたことをアランに伝えた。ハッキリと…
それでも無理な時は潔く二人で逝くと…
俺からすれば初めての弟、小さくて可愛いくてカイン兄上と二人して、飽きることなく何時までも見ていた…
少し大きくなると俺達の後をちょこちょこと付いて来ては、同じ事をやろうとして幼いながらも負けん気が強い子で、将来が楽しみだと思っていた。
ところが何度も体調を崩すようになったアランは、ある時から一人で過ごすようになり、俺と同じで幼くして母に先立たれたのもあって本心を隠すようになっていったように思う…
表向きでは明るく従順で、兄を頼らなければ生きていけない弟。
でも俺は知っている。アランは俺達三人の兄弟で最も王に近い人物なのだ。
身体が弱いだけで、頭脳明晰、行動力もあり話術が巧み。
長子が後を継ぐこの国では無理だが、世が世なら王になっていただろう。
そんなアランを想うと、きっと悔しい思いも沢山しただろうし、俺や兄上に遠慮してさぞかし息詰まりだったろう…と。
すまない!アラン──
◇◇◇◇
「こんな時間にこんな所に呼び出して何の御用なんですか?」
アランが面倒くさそうに言っている。
俺は晩餐後、庭園の東屋にアランを呼び出していた。
「すまないアランこんな時間に。ここならゆっくりと話しが出来るだろうと思って来て貰った」
さあこちらに…と東屋にあるソファに二人で腰掛ける。
離宮の建物とは離れているが何ヶ所かにある篝火のおかげで暗くはない。
外を守っている護衛達にも、ここへは近付かないように指示してあった。
「話というのは他でもない、スリジャの事だ。昨日、本人から聞いた…全てを」
昨日のスリジャの様子を思い出すと辛くなる。だからこそアランと話さねばならない!
「癒やしの力の事ですね。私も驚きました…まさかあの力が残っているなんて。それに使い過ぎると死んでしまうとは…」
一瞬苦しげにそう言ったアランだったが、次の瞬間挑むように俺を見る。
「それで?ロイ兄上は耐えられるのですか…スリジャ様がそうなった時に」
これまでとは明らかに違うアランをじっと見ていた。
そんな俺の視線をアランは訝しげに見返した。だが、言い返しもしない静かな俺の様子に急に不安な気持ちに襲われ、いったい何が…と焦った様子で聞いていた。
「スリジャは後、五年ほどしか生きられない!あと五年で俺達の元から居なくなるんだ」
──アランは一瞬、何を言われているのか理解出来ない。
「五年┉」そう言うのがやっとだった。
「神の御使いとして、癒やしの力を使い身体を酷使した結果だそうだ…もうそれ程少ない時間しかスリジャには残されていないんだ!」
そう真実を語ったロイの目に涙が滲む。
──五年しか生きられないとはどういう事なんだ?それ程だったのか…それ程の力を既に使ってしまっていたなんて!
もう使わないようにしていれば大丈夫なんだと思っていた…
アランは、そう一刻を争う状況なんだと判断する。
「ロイ兄上、私がそのスリジャ様の運命を変えられる…と言ったらどうしますか?」
ロイはその言葉に驚きアランを凝視した。
「変えられる…だって?そんなことが可能な訳がない!」
「私がスリジャ様を救うと言っているのです。でも、スリジャ様を私に返すという条件ならば、その不可能を可能にして見せましょう」
何を言っているんだ?と困惑しきりのロイは、何故お前が…?と呟いた。
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そう自信満々な様子のアラン。そんな馬鹿な…とは思うが…
ロイは目を閉じ暫くじっと考える。それからやっと口を開いた。
「それは出来ない!もう俺達は離れては居られないんだ…。そんなことになれば、死んだも同然になってしまう…二人とも」と真剣な顔で伝える。
「何言ってるんですか?死んでしまうんですよ…それでも良いのですか?耐えられるんですかね、兄上は。」
──死ぬよ…もちろん。
「スリジャが居なくなったら俺も死ぬつもりだ…俺だけ生きるつもりもない。だからと言って、ただ待つつもりはない。諦めずに探す!寿命を延ばす方法を」
ロイはスリジャの告白から、ずっと心に決めていたことをアランに伝えた。ハッキリと…
それでも無理な時は潔く二人で逝くと…
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