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新しい仕事
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「佐倉さん、初めまして。主治医の木村です。マリア・ハート クリニックからの紹介状、拝見しました。双子ちゃんを妊娠されているんですね。今は10週と4日…なるほど。では早速診察しますね」
誕生日の2日後、恵真は大和と転院先の病院に初診に来ていた。
ハキハキとした明るい女性医師が、手際良く診察してくれる。
「うん!順調に大きくなってますね。ここまで特にトラブルもありませんでしたか?」
「はい、特に何も。つわりもそんなに酷くないですし」
「そうなんですね、それは良かった。双子ちゃんママにしては、とても順調です。えーっと、今はお仕事はどうされてますか?」
「あ、はい。自宅待機、と言いますか、休職している状況です」
なるほど、と頷く先生に、大和が質問する。
「あの、妻はずっと家で安静にしています。ですがこれからは、例えば3時間程、時々オフィスでデスクワークをするのは可能でしょうか?通勤も電車は避けて車にします。私と同じ職場なので、私が車で送ります」
思いがけない話に、恵真は驚いて大和を見る。
「そうですねえ。もちろんその日の体調次第ですが、気分転換になるなら大丈夫ですよ。車なら、満員電車で押されたりしませんしね。ちなみに職場には、ストレスになるような嫌な上司はいませんか?小言を言ってきたり、ネチネチ愚痴を言ってきたりとか」
「あはは!そんな人はいません」
「あら、いいわね。羨ましい。それなら職場で少しずつお仕事してみても構いませんよ」
「分かりました。必ず体調第一で、無理のない範囲にします」
(大和さん、一体なんのお話を?)
恵真は首をかしげて、二人のやり取りを聞く。
「それでは分娩の予約も入れておきますね。予定日は11月22日ですが、おそらく11月の第一週に出産する事になると思います。ちなみに分娩のご希望はありますか?どうしてもこの日に産みたい、とか、可能なら自然分娩を、とか」
恵真は少し考えてから首を振る。
「私の希望は何もありません。赤ちゃんにとって一番安全な方法でお願いします」
「分かりました。それなら帝王切開にしましょう。赤ちゃんの体重をしっかり見極めて、出産の日を決めますね」
それにしても…と先生は顔を上げて続ける。
「随分しっかりしたママね。ちゃんと赤ちゃんのことを大事に考えているし、パパもそんなママを大切にしてくれてる。素敵なお二人のもとに産まれてくる赤ちゃんは、とっても幸せね」
いえ、そんな、と恵真は照れてうつむいた。
「先生、あと一つお聞きしたい事がありまして」
大和がまた口を開く。
「はい、何ですか?」
「実は6月6日に結婚式を挙げる予定です。自宅から車で20分程のホテルで、身内だけで挙式と食事会をしたいと考えています」
「6月6日というと、えーっと、妊娠5ヶ月に入る前日ですね。うん、このまま体調が順調なら大丈夫ですよ。ちなみに、ゴンドラで2階から下りてくるとか、花嫁を胴上げするなんて演出はしないですよね?」
「し、し、しませんとも!」
「うふふ、それなら良かった。ゴンドラなんて、もう今はやらないのかー。あ、でも高いヒールの靴は避けてくださいね。お腹の重さでバランスを崩しやすいし、階段で足を踏み外したら大変なので。ご主人、しっかり奥様に寄り添っていてくださいね」
「それはもちろん!必ず妻を守ります」
「あらあら、ご馳走様です」
では次は2週間後に。今、予約票を印刷しますねーと言う先生に、でも良かった、と恵真は笑顔で大和を見る。
「前のクリニックの先生もとても優しい先生で、お別れする時寂しかったけど、木村先生もとても素敵な先生でホッとしました」
「そうだな。安心してお願い出来るな」
すると先生が予約票を渡しながら聞いてくる。
「前の先生って、マリア・ハート クリニックの院長のこと?」
「ええ、そうです。萩原先生とおっしゃる方で」
「ああ。あれ、妹なの」
ええー?!と、恵真は大和と二人で驚く。
「そうなんですか?でも言われてみれば、似てらっしゃいます」
「そう?ま、あちらは私と違って、優しい旦那と幸せにやってるけどね。クリニックの隣に同じような小児科があったでしょ?サン・ハート クリニックっていう」
「ええ、ありました」
「そこの院長が妹の旦那なの」
へえー!と、これまた二人で驚く。
「じゃあ、赤ちゃんが無事に産まれたら、小児科はそちらでお世話になります」
「あら、いいのよ。お気遣いなく。でも妹に赤ちゃんを見せてあげてもらえるかしら?きっともの凄く喜ぶと思うわ」
「はい。私も萩原先生にお礼のご挨拶に伺いたいので」
「ふふふ、楽しみね。よし!それなら無事に赤ちゃん産まないとね。一緒に頑張りましょうね!」
「はい!」
恵真はパワーをもらったかのように、力強く頷いた。
「大和さん。さっきのお話、なんの事ですか?私のデスクワークがどうとか…」
帰りの車の中で、気になっていた事を聞いてみる。
「ああ、あれね。実はこの間、佐野さんと色々相談したんだ。休暇とか、産前地上勤務制度の事」
「産前…地上勤務?ですか?」
「うん。帰ったら詳しく話すよ」
マンションに戻ると、大和は恵真に資料を見せながら説明する。
「これがうちの社の、出産と育児に関する制度。まず育児休職制度は、最長で子どもが満3歳に達する月の月末まで取得可能だって。それとは別に育児休暇は、子どもの出生日から10週間を限度として、任意の日付で取得出来る。それとこれがさっき話してた、産前地上勤務制度」
恵真は、大和が指で差した項目を読む。
「妊娠後、出産特別休暇取得までの間、地上勤務に就ける制度?」
「そう。つまり乗務ではなくて、他の仕事をするんだ。佐野さんは、もし恵真が興味あるなら、川原さんと一緒に広報の仕事をやって欲しいと言っていた。あと、子どもを持つ社員や妊娠中の社員に向けて、交流会を企画したり」
へえー、と恵真は興味深く耳を傾ける。
「もちろん恵真の体調を見ながらだけどね。例えば俺が出社する時に合わせて車で一緒に行って、オフィスで少し仕事をする。帰りはタクシーで帰る。毎日ではなく、週に2、3回とか」
「それはとっても有り難いです。やっぱり一人でマンションに篭っていると、知らず知らずに気持ちが沈んでしまって」
「そうだよね。オフィスで誰かと話をするだけでも、良い気分転換になると思う」
「はい。でもいいのでしょうか?そんなわがままな働き方で…」
大和は笑って否定する。
「わがままなんかじゃないよ。言われただろう?恵真は女性パイロットとして、うちの社のロールモデルなんだ。結婚や妊娠を通しても、無理なくパイロットを続けられるように、会社も制度を整えていきたいって。だから恵真は、この先も他の女性パイロットが安心して出産に臨めるように、道を作って欲しい」
恵真は真剣な表情で頷く。
「分かりました。手探りですけど、私の経験が他の方に役立つように、頑張ってみます」
「ああ。頑張り過ぎないようにね。それと俺、来月、つまり明日からこの『短日数乗務制度』を申請してあるんだ。子どもの小学校3年生修了時まで、乗務日数を「約5割」「約7割」「約8割」の中から選択する事が出来る。俺は10月まで7割で申請したから、月間の乗務日数は14日程度になるよ」
ええー?!と恵真は驚く。
「そ、そんな、大丈夫なんですか?」
「ん?まあ、貯金ならそこそこあるよ」
「そうではなくて。大和さんみたいな優秀なキャプテンが、現場に出るのが少なくなるなんて…」
すると大和は、恵真の両手を握って真っ直ぐに見つめる。
「恵真。キャプテンの代わりはいくらでもいる。でも恵真の夫は俺一人だ。お腹の子の父親も、俺だけだ。そうだろう?」
「でも、せっかくここまで積み上げて来た大和さんのキャリアが…。飛行時間だって減ってしまうし」
「何言ってるの?俺の幸せは、恵真と子ども達と一緒に過ごす事だよ。キャリアなんて、比べ物にもならない」
そう言ってから、まあでも…と、少し視線を外して笑う。
「キャプテンの資格は維持出来るように、腕を落とさないよう頑張らないとな。恵真、うちにいる間、一緒に勉強しようか」
「え、いいの?」
「ああ。勘が鈍らないように、一緒にシミュレーションしよう」
うん!と恵真は嬉しそうに笑う。
「じゃあまず、ウイングローからやる?」
ニヤッと笑う大和に、恵真の笑顔は一瞬にして消えた。
「それはヤダ!」
「なんでだよ?あのシミュレーションで恵真もコツを掴めただろ?」
「そうだけど。あんまりやると、クロスウインドランディングの度に思い出しちゃうんだもん」
「あはは!恵真、コックピットでそんな事考えてるんだ」
「もう!だからやりません」
プイッと横を向く恵真を、大和は優しく抱き寄せる。
「恵真。パイロットの勉強も一緒にしよう。そして赤ちゃんを迎える準備も一緒にしよう。俺はいつだって、恵真と赤ちゃん達と一緒にいる」
「大和さん…」
恵真は微笑んで頷いた。
◇
5月に入り、もうすぐやって来る大和の誕生日プレゼントを何にしようかと、恵真は一人ソファで考え込んでいた。
「うーん…何がいいだろう?実際に見て探したいけど、今年は諦めてネットで買おうかな」
スマートフォンを片手にあれこれ検索していると、電話がかかってきた。
「あ、こずえちゃんだ!」
嬉しくなり、すぐに電話に出る。
「もしもし、こずえちゃん?」
「もしもーし、恵真?元気にしてる?」
「うん、元気だよ」
「そっか、良かった。伊沢が最近恵真に会ってないって言うから、何かあったのかと思っちゃった。ねえ、誕生日のプレゼントも渡したいから、ランチでも行こうよ」
あ…、と恵真は考えを巡らせる。
こずえには、まだ妊娠した事を話していない。
それにランチに出かけるのも、ずっと控えてきた。
(そろそろいいかな?)
とりあえず、こずえには妊娠を知らせておくことにする。
「こずえちゃん。あのね、実は私、妊娠してるの」
「ええー?!妊娠?!」
大きな声でこずえが驚いたあと、やまびこのように「ええー?!妊娠?!」と遠くから声が聞こえてきた。
「ん?もしかして、伊沢くんもいるの?」
「あ、そうなの。あいつ、私のマンションに入り浸っちゃって。ごめんね、もしかして伊沢にはまだ言わないつもりだった?」
「ううん。伊沢くんにもこずえちゃんと一緒に伝えたかったから、ちょうど良かった」
「そっか。とにかくおめでとう!今、何ヶ月なの?」
「まだ3ヶ月なの。本当なら安定期に入ってからお知らせするものなんだろうけど、パイロットだからそうもいかなくて」
ああ、そうだよね、とこずえは声のトーンを落とす。
「じゃあ今、飛んでないってこと?」
「うん、そう」
「そうだよね。あれ?でも、安定期になると飛べるんじゃなかったっけ?」
「うん。でも私は飛ぶつもりはないの。それにどのみち、お医者様の許可も下りないし」
「え?どうして?」
「あのね、私、双子を妊娠してるの」
「ええー?!双子?!」というこずえの声は、またしてもやまびことなり、「ええー?!双子?!」と伊沢の声がした。
「す、凄いね!恵真。ダブルおめでただね!」
「ありがとう!双子妊娠は安定期もないらしくて、毎日ドキドキなんだけどね」
「そっか。じゃあ気軽にランチとか行けないか。でも、恵真のマンションの近くにカフェあるでしょ?あそこで少しお茶するくらいは平気かな?」
「あ、うん。歩いて5分だもんね。大丈夫だよ」
「それなら、明日そこで会わない?あ、もちろん体調次第でドタキャンもOKよ」
「ありがとう!分かった。楽しみにしてるね」
恵真は久しぶりにこずえとおしゃべり出来る嬉しさに、ワクワクして電話を切った。
◇
「やーん、恵真。おめでとう!」
次の日。
マンションの近くのカフェで、こずえは恵真にハグをする。
「ありがとう、こずえちゃん」
「お腹はまだあんまり分からないね」
「うん。でもなんとなく膨らんできたような気がするの」
「そうなの?双子ちゃんだと早いんだね。とにかくおめでとう!これ、誕生日プレゼントなんだけど、また改めて妊娠のお祝い贈らせてね」
ええ?!そんな、気にしないで、と恵真は恐縮しながら、誕生日プレゼントを受け取る。
「わあ、素敵なフォトフレーム!」
「ふふ、大和さんとのラブラブな写真を入れてもらおうと思ってたけど、赤ちゃんが産まれるとなると、もっとたくさん必要だわね」
「でもまずは、私達二人の写真を飾らせてもらうね。結婚式を挙げる事になったから、その時の写真を入れようかな」
「へえー、結婚式挙げるのね?いつ?」
「えっとね、6月6日。体調が第一だから、家族だけの式にするの。場合によってはキャンセルするかもしれないから」
「そうなんだ。参列出来ないのは残念だけど、写真は見せてね」
「うん、ありがとう」
ひとしきり恵真の話をしたあと、今度は恵真がこずえに尋ねる。
「こずえちゃんは?伊沢くんと最近どうなの?」
「んー、それがね。今、新しく住む部屋を探してるの」
え、それって…と、恵真は思わず顔を上げてこずえを見る。
「一緒に暮らすの?」
「まあね。そしたらさ、伊沢のやつ…。ちゃんと籍を入れないと一緒に住めない、とか言い出してさ。今どき古風なやつよねー」
ええー?!と恵真は、今度は仰け反って驚く。
「じゃ、じゃあ、結婚するの?」
「結婚っていうか、入籍するだけよ?」
「それを結婚って言うんじゃない!」
「そうなの?なんかさ、そんな夢のある感じじゃないのよ。ただ籍を入れるだけよ?紙切れ1枚役所に出すだけ」
「こ、こずえちゃん。そんな身も蓋もない…」
涼しい顔でアイスコーヒーを飲むこずえを、恵真はまじまじと見つめる。
「とにかく、こずえちゃんもおめでとう!私もとっても嬉しい。改めてお祝いさせてね」
「あー、そんなすぐじゃないから、気にしないで。多分、11月になると思う。別れてなければね。あはは!」
こ、こずえちゃん…と、恵真は困った顔になる。
(そんな事言ってるけど、絶対別れたりなんてしない。こずえちゃんと伊沢くんだもん)
「絶対お似合いの夫婦だよ。入籍の報告、楽しみにしてるね!」
「ありがとう。恵真の出産の報告もね!」
二人は顔を見合わせて、ふふっと笑った。
◇
5月10日。
恵真が無事に妊娠4ヶ月目に入ったその日は、大和の37歳の誕生日でもあった。
「大和さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、恵真」
乗務を終えて帰って来た大和に、恵真は久しぶりにたくさんの手料理を振る舞った。
「うわ!恵真。こんなに作ってくれて大丈夫だったの?」
「ええ。食材はネットスーパーで買ったし、休憩しながら少しずつ作ったから」
「そうか。ありがとう!恵真の手料理はどんなレストランよりも美味しいから、嬉しいよ」
チキンのカチャトーラやオニオングラタンスープ、鮭のムニエルなど、恵真は大和の好きなものばかりを用意していた。
大和は嬉しそうに次々と平らげていく。
バースデーケーキはビターなチョコレートケーキを作り、筆記体で
『Happy Birthday!YAMATO』
と書いてアラザンで飾った。
「うわー、これまた本格的だなー。作るの大変だっただろ?」
「ううん。時間だけはたっぷりあるし、気分転換になって楽しかったです」
「そう?それなら良かった。早速頂いてもいい?」
「はい。じゃあ、ロウソク吹き消してください」
大和は一気に、長いロウソク3本と小さなロウソク7本を吹き消す。
「おめでとうございます!大和さん」
パチパチと拍手する恵真に、大和はにっこり笑いかける。
「ありがとう!あー、幸せだな、俺。てっきりずっと一人で生きていくと思ってたのに、こんなに可愛い奥さんが来てくれて、更には双子ちゃんまで!もう天にも登りそうだよ。どうしよう。そのうちフライトで、めちゃくちゃ高い高度を飛んじゃうかも」
またいつものメロメロ節が始まり、恵真は冷静にケーキを切り分けながら、「それはやめてくださいね」と真顔で言う。
これまた美味しい!と笑顔でケーキを食べる大和に、恵真はプレゼントを差し出した。
「はい、大和さん。お誕生日プレゼントです」
「ええー?もしかして恵真、買いに出掛けたの?」
「いえ、ネットで買いました。本当はちゃんとお店に探しに行きたかったんですけど、ごめんなさい」
「まさか、そんな。気持ちだけで充分だよ。無理して街に出掛けなくて良かった。ありがとう!」
ふふっと恵真は微笑んで、ラッピングをそっと開ける大和を見守る。
「お!これって手帳?凄いなー、世界地図と、飛行機か!」
本革の小ぶりの手帳は、表紙に世界地図が彫られていて、くるりと巻いてある紐に、真鍮で作られた飛行機のチャームが付いている。
「かっこいいなー。こんなのあるんだ。凄く気に入ったよ」
そう言いながら飛行機のチャームを持って、手帳に巻いてある紐を解いた大和は、中を見て目を見開いた。
「恵真、これ…」
中はフリー台紙になっていて、恵真はそこに赤ちゃんのエコー写真を貼り、日付けや週数を書き込んでアルバムにしていた。
「うわー、なんて可愛いんだ。最高の手帳だよ!」
興奮気味の大和に、恵真は照れ笑いする。
「良かった。そんなに喜んでもらえるなんて」
「世界で一番のプレゼントだよ。ありがとう!恵真。俺、これからずっとフライトバッグに入れて持ち歩くよ」
「じゃあ、また写真が増えたら貼っていきますね」
「ああ、頼むよ。あと来月の恵真のウェディングドレスの写真もね」
「ふふ、はい」
「最高の誕生日だよ。ありがとう、恵真」
はにかんだ笑みで頷く恵真を、大和は優しく抱き寄せてキスをした。
◇
「藤崎さん!お久しぶり。体調はどう?平気?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かった。でも何かあったら、すぐに教えてね」
「ありがとうございます、川原さん」
次の日。
恵真は大和の出社に合わせて、車で一緒にオフィスに来ていた。
今日から少しずつ、広報課で川原の仕事を手伝う事になっている。
「じゃあ、恵真。俺はここで。帰りはタクシーを使うんだよ」
「はい、分かりました。フライトお気をつけて」
大和は頷くと、川原に、よろしくお願いしますとお辞儀してから去っていった。
「さあ、じゃあとにかく座って。ゆっくり話をしましょう」
「はい」
恵真は川原の隣に座り、これからのことを話し合う。
「藤崎さんには、まずSNSの更新をお願いしたいの。何か告知がある時やイベントの案内がある時はそれを。なければ普段は社員の写真1枚と、簡単な文章を載せたもので大丈夫よ。本人の承諾とコメントをもらってね。これまでのコンテンツを見返して、参考にしてもらえれば。更新頻度も特に決まりはないから、藤崎さんが来られる日だけで、無理なくね」
「はい、分かりました」
「それと、これは総務の佐野さんと話していたんだけどね。新たに社内でのコミュニティを作っていきたいの」
コミュニティ…ですか?と恵真は少し首をかしげる。
「そう。働きやすい環境を整えるのが目的の一つなんだけど、要は職種を問わず、同じような人達が集まって話せる場を作りたいの」
へえ、と恵真は感心する。
「それはとても良い試みだと思います。特に入社してまだ数年の人達は、社内で気軽に話が出来る人もそんなに多くないと思いますし、何より職種を超えて交流出来れば、お互いの仕事をもっと知る事が出来ますから」
川原も笑顔で頷く。
「そうなの。それで藤崎さんにはその先駆けとして、小さなお子さんのいる社員のコミュニティを立ち上げてもらおうと思って。と言っても難しい事をする訳ではなく、全社員にお知らせをメールして、会議室で交流会を開いて欲しいの」
「それは意見交換とか、何かについて話し合うとか?」
「ううん。議題とかもなく、まあ情報交換ね。第一回は、お互いの自己紹介と、単なるおしゃべり会になると思うわ。そういう気軽な感じで大丈夫よ」
「分かりました!それなら私もとても楽しみです」
「ありがとう。お願いするわね。対象は、育児中のママだけでなく、妊娠中のママや、これから赤ちゃんが欲しいと考えている人も参加OK。もちろん、そのパートナーやパパさんもね」
恵真は大きく頷く。
「はい。では早速、日時と場所を決めて案内文を考えますね」
「ええ。ご自宅で作業してもらってもいいわよ。それに急いでないから、無理なくね」
「はい、ありがとうございます」
そのあとは、川原がSNSにアップする写真を撮りに行くのに同行させてもらう。
「最近、CAさんやグランドさん、整備さんと続いてたから、久しぶりに今日はパイロットの紹介にしようかなー」
そう言う川原と一緒にフライトオペレーションルームに行く。
(わあ!ここに来るのも久しぶり)
2ヶ月来ていないだけなのに、恵真は胸に懐かしさが込み上げてきた。
カウンターの内側で忙しく行き交うディスパッチャー達、奥のモニターの前でブリーフィングをしているパイロット達…。
ざわめきの中、恵真はまるで自分だけが取り残されたような気持ちになる。
(あの中に私もいたはずなのに…)
涙が溢れそうになり、慌てて唇を噛みしめた時、あら?と川原が入り口に目を向けた。
「ちょうどいい人見つけちゃった!」
恵真にいたずらっぽく笑いかけると、スタスタと入り口に向かって歩いていく。
「佐倉キャプテン!」
えっ!と恵真が目を見開くと、同じように驚いた表情でこちらを見ている大和と目が合った。
(大和さん…かっこいい!)
久しぶりに見る大和の制服姿はとびきり素敵で、恵真は思わずぽーっと見とれる。
「佐倉キャプテン。今日コックピットにお邪魔して、SNSに載せる写真を撮ってもいいですか?」
「…え?あ、はい」
大和は恵真に気を取られつつ、川原に返事をする。
「良かった!じゃあ藤崎さんと一緒について行きますね。よろしくお願いします」
頭を下げる川原に続いて、恵真も慌ててお辞儀する。
そしてそのまま、少し離れた所からブリーフィングも見させてもらった。
コーパイは、4月に副操縦士になったばかりという新人の男の子で、恵真も面識がない。
大和は一つ一つ丁寧に、ブリーフィングを指導していた。
「あら、いいわね。今回は新人くんにスポットを当てて紹介しましょうか。ブリーフィングも撮らせてくださいね」
川原は、何枚か写真を撮る。
恵真はただただ、大和のかっこよさに見とれていた。
ブリーフィングが終わると、いよいよシップに向かう。
行ってらっしゃい、とオフィスの人に見送られ、大和は、行ってきますとキリッと応えて部屋を出た。
空港ターミナルを歩いている時も、
わあ、パイロットだ!
かっこいい!
と、色んな人が大和を見てささやいている。
(な、なんて素敵な旦那様なの)
少し離れて歩きながら、恵真は顔が真っ赤になる。
やがてシップにたどり着いた。
足を1歩踏み入れた時、不覚にも恵真の目に涙が浮かぶ。
いけない、と拳をぎゅっと握りしめて堪えた。
コックピット・プリパレーションの流れも、うしろからそっと見守る。
新人の男の子は、大きな声で確認しながら、ゆっくり丁寧にコンピュータに入力していた。
間に合うかな?と恵真がハラハラしていると、外部点検を終えて戻って来た大和が、優しくフォローしている。
時間がかかった分、CAとの合同ブリーフィングを手短に終えて、またコックピットに戻る。
きっとこの先の管制官とのやり取りや、チェックリストの作業も時間がかかるだろうと思い、川原と恵真は、大和達にサムアップしてもらった写真を1枚だけ撮ると、すぐに退散する事にした。
コックピットのドアを閉めに来た大和が、出ていこうとする恵真の頭に手を置いて、恵真、と耳元でささやく。
「恵真の想いもちゃんと載せて飛ぶから」
堪えていた涙が一気に溢れそうになる。
恵真は潤んだ瞳で大和を見上げ、はいと頷いた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
大和は恵真に微笑むと、キリッと表情を変えてドアを閉めた。
◇
「うーん、こんな感じでどう?」
川原はデスクで、早速撮ったばかりの写真を選び、文章を入力する。
『4月に副操縦士になったばかりの新人のコーパイ。
機長に丁寧に教わりながら、真剣に慎重に、乗務に臨みます。
いつか機長になる日を目指し、これからも日々努力を重ねて参ります。』
選んだ写真は、ブリーフィングとコックピットでの2枚。
モニターを指差しながら教えている大和と、真剣な表情のコーパイの男の子。
そしてコックピットでは、爽やかな笑顔の二人。
どちらも微笑ましい写真だった。
「これを見て、自分もパイロットになりたいなって思ってくれる人が増えるといいわね」
「はい」
川原の言葉に、恵真は笑顔で頷いた。
◇
「えーっと、どんな文面がいいかな」
午前中で退社した恵真は、タクシーでマンションに帰り、昼食を食べてから少しベッドで横になった。
そのあと紅茶を飲みながら、早速交流会のお知らせを作り始めていた。
「うーんと、まずは気軽なおしゃべりの場ってことを伝えたいでしょ?それからどんな職種でもOK、性別も年齢も問わず、育児や出産に関するお話に興味があれば誰でもウェルカムで…」
パソコンに文章を打ち込み、読みやすくデザインしたりイラストで飾っていく作業は思いのほか楽しく、恵真は時間を忘れて没頭していた。
「大変!もうこんな時間」
気づけば2時間も経っていた。
急いでパソコンを閉じ、夕食の準備にとりかかる。
「今日はいつもより動いた1日だったから、手抜きメニューにさせてもらおう」
大和が注文してくれた、レトルト食品を活用させてもらう。
いくつか選んで皿に盛り付けると、ラップをかけて温めるだけの状態にする。
あとは作り置きしておいた何品かを添えて、味噌汁だけを作った。
大和の帰りを待つ間、ソファで今日の事を思い出す。
フライトオペレーションルームのざわめき、コックピットの空気感、どれもが懐かしく恋しい。
いつか必ずあそこに戻りたい。
戻ってみせる。
でも今は…
恵真はお腹に手を当てる。
今はこの子達をしっかり守る。
守ってみせる。
一歩一歩焦らず、今出来る事をしながら、今しか味わえない貴重な経験を大事にしながら、もっと強くなろう。
恵真は心に固く誓った。
誕生日の2日後、恵真は大和と転院先の病院に初診に来ていた。
ハキハキとした明るい女性医師が、手際良く診察してくれる。
「うん!順調に大きくなってますね。ここまで特にトラブルもありませんでしたか?」
「はい、特に何も。つわりもそんなに酷くないですし」
「そうなんですね、それは良かった。双子ちゃんママにしては、とても順調です。えーっと、今はお仕事はどうされてますか?」
「あ、はい。自宅待機、と言いますか、休職している状況です」
なるほど、と頷く先生に、大和が質問する。
「あの、妻はずっと家で安静にしています。ですがこれからは、例えば3時間程、時々オフィスでデスクワークをするのは可能でしょうか?通勤も電車は避けて車にします。私と同じ職場なので、私が車で送ります」
思いがけない話に、恵真は驚いて大和を見る。
「そうですねえ。もちろんその日の体調次第ですが、気分転換になるなら大丈夫ですよ。車なら、満員電車で押されたりしませんしね。ちなみに職場には、ストレスになるような嫌な上司はいませんか?小言を言ってきたり、ネチネチ愚痴を言ってきたりとか」
「あはは!そんな人はいません」
「あら、いいわね。羨ましい。それなら職場で少しずつお仕事してみても構いませんよ」
「分かりました。必ず体調第一で、無理のない範囲にします」
(大和さん、一体なんのお話を?)
恵真は首をかしげて、二人のやり取りを聞く。
「それでは分娩の予約も入れておきますね。予定日は11月22日ですが、おそらく11月の第一週に出産する事になると思います。ちなみに分娩のご希望はありますか?どうしてもこの日に産みたい、とか、可能なら自然分娩を、とか」
恵真は少し考えてから首を振る。
「私の希望は何もありません。赤ちゃんにとって一番安全な方法でお願いします」
「分かりました。それなら帝王切開にしましょう。赤ちゃんの体重をしっかり見極めて、出産の日を決めますね」
それにしても…と先生は顔を上げて続ける。
「随分しっかりしたママね。ちゃんと赤ちゃんのことを大事に考えているし、パパもそんなママを大切にしてくれてる。素敵なお二人のもとに産まれてくる赤ちゃんは、とっても幸せね」
いえ、そんな、と恵真は照れてうつむいた。
「先生、あと一つお聞きしたい事がありまして」
大和がまた口を開く。
「はい、何ですか?」
「実は6月6日に結婚式を挙げる予定です。自宅から車で20分程のホテルで、身内だけで挙式と食事会をしたいと考えています」
「6月6日というと、えーっと、妊娠5ヶ月に入る前日ですね。うん、このまま体調が順調なら大丈夫ですよ。ちなみに、ゴンドラで2階から下りてくるとか、花嫁を胴上げするなんて演出はしないですよね?」
「し、し、しませんとも!」
「うふふ、それなら良かった。ゴンドラなんて、もう今はやらないのかー。あ、でも高いヒールの靴は避けてくださいね。お腹の重さでバランスを崩しやすいし、階段で足を踏み外したら大変なので。ご主人、しっかり奥様に寄り添っていてくださいね」
「それはもちろん!必ず妻を守ります」
「あらあら、ご馳走様です」
では次は2週間後に。今、予約票を印刷しますねーと言う先生に、でも良かった、と恵真は笑顔で大和を見る。
「前のクリニックの先生もとても優しい先生で、お別れする時寂しかったけど、木村先生もとても素敵な先生でホッとしました」
「そうだな。安心してお願い出来るな」
すると先生が予約票を渡しながら聞いてくる。
「前の先生って、マリア・ハート クリニックの院長のこと?」
「ええ、そうです。萩原先生とおっしゃる方で」
「ああ。あれ、妹なの」
ええー?!と、恵真は大和と二人で驚く。
「そうなんですか?でも言われてみれば、似てらっしゃいます」
「そう?ま、あちらは私と違って、優しい旦那と幸せにやってるけどね。クリニックの隣に同じような小児科があったでしょ?サン・ハート クリニックっていう」
「ええ、ありました」
「そこの院長が妹の旦那なの」
へえー!と、これまた二人で驚く。
「じゃあ、赤ちゃんが無事に産まれたら、小児科はそちらでお世話になります」
「あら、いいのよ。お気遣いなく。でも妹に赤ちゃんを見せてあげてもらえるかしら?きっともの凄く喜ぶと思うわ」
「はい。私も萩原先生にお礼のご挨拶に伺いたいので」
「ふふふ、楽しみね。よし!それなら無事に赤ちゃん産まないとね。一緒に頑張りましょうね!」
「はい!」
恵真はパワーをもらったかのように、力強く頷いた。
「大和さん。さっきのお話、なんの事ですか?私のデスクワークがどうとか…」
帰りの車の中で、気になっていた事を聞いてみる。
「ああ、あれね。実はこの間、佐野さんと色々相談したんだ。休暇とか、産前地上勤務制度の事」
「産前…地上勤務?ですか?」
「うん。帰ったら詳しく話すよ」
マンションに戻ると、大和は恵真に資料を見せながら説明する。
「これがうちの社の、出産と育児に関する制度。まず育児休職制度は、最長で子どもが満3歳に達する月の月末まで取得可能だって。それとは別に育児休暇は、子どもの出生日から10週間を限度として、任意の日付で取得出来る。それとこれがさっき話してた、産前地上勤務制度」
恵真は、大和が指で差した項目を読む。
「妊娠後、出産特別休暇取得までの間、地上勤務に就ける制度?」
「そう。つまり乗務ではなくて、他の仕事をするんだ。佐野さんは、もし恵真が興味あるなら、川原さんと一緒に広報の仕事をやって欲しいと言っていた。あと、子どもを持つ社員や妊娠中の社員に向けて、交流会を企画したり」
へえー、と恵真は興味深く耳を傾ける。
「もちろん恵真の体調を見ながらだけどね。例えば俺が出社する時に合わせて車で一緒に行って、オフィスで少し仕事をする。帰りはタクシーで帰る。毎日ではなく、週に2、3回とか」
「それはとっても有り難いです。やっぱり一人でマンションに篭っていると、知らず知らずに気持ちが沈んでしまって」
「そうだよね。オフィスで誰かと話をするだけでも、良い気分転換になると思う」
「はい。でもいいのでしょうか?そんなわがままな働き方で…」
大和は笑って否定する。
「わがままなんかじゃないよ。言われただろう?恵真は女性パイロットとして、うちの社のロールモデルなんだ。結婚や妊娠を通しても、無理なくパイロットを続けられるように、会社も制度を整えていきたいって。だから恵真は、この先も他の女性パイロットが安心して出産に臨めるように、道を作って欲しい」
恵真は真剣な表情で頷く。
「分かりました。手探りですけど、私の経験が他の方に役立つように、頑張ってみます」
「ああ。頑張り過ぎないようにね。それと俺、来月、つまり明日からこの『短日数乗務制度』を申請してあるんだ。子どもの小学校3年生修了時まで、乗務日数を「約5割」「約7割」「約8割」の中から選択する事が出来る。俺は10月まで7割で申請したから、月間の乗務日数は14日程度になるよ」
ええー?!と恵真は驚く。
「そ、そんな、大丈夫なんですか?」
「ん?まあ、貯金ならそこそこあるよ」
「そうではなくて。大和さんみたいな優秀なキャプテンが、現場に出るのが少なくなるなんて…」
すると大和は、恵真の両手を握って真っ直ぐに見つめる。
「恵真。キャプテンの代わりはいくらでもいる。でも恵真の夫は俺一人だ。お腹の子の父親も、俺だけだ。そうだろう?」
「でも、せっかくここまで積み上げて来た大和さんのキャリアが…。飛行時間だって減ってしまうし」
「何言ってるの?俺の幸せは、恵真と子ども達と一緒に過ごす事だよ。キャリアなんて、比べ物にもならない」
そう言ってから、まあでも…と、少し視線を外して笑う。
「キャプテンの資格は維持出来るように、腕を落とさないよう頑張らないとな。恵真、うちにいる間、一緒に勉強しようか」
「え、いいの?」
「ああ。勘が鈍らないように、一緒にシミュレーションしよう」
うん!と恵真は嬉しそうに笑う。
「じゃあまず、ウイングローからやる?」
ニヤッと笑う大和に、恵真の笑顔は一瞬にして消えた。
「それはヤダ!」
「なんでだよ?あのシミュレーションで恵真もコツを掴めただろ?」
「そうだけど。あんまりやると、クロスウインドランディングの度に思い出しちゃうんだもん」
「あはは!恵真、コックピットでそんな事考えてるんだ」
「もう!だからやりません」
プイッと横を向く恵真を、大和は優しく抱き寄せる。
「恵真。パイロットの勉強も一緒にしよう。そして赤ちゃんを迎える準備も一緒にしよう。俺はいつだって、恵真と赤ちゃん達と一緒にいる」
「大和さん…」
恵真は微笑んで頷いた。
◇
5月に入り、もうすぐやって来る大和の誕生日プレゼントを何にしようかと、恵真は一人ソファで考え込んでいた。
「うーん…何がいいだろう?実際に見て探したいけど、今年は諦めてネットで買おうかな」
スマートフォンを片手にあれこれ検索していると、電話がかかってきた。
「あ、こずえちゃんだ!」
嬉しくなり、すぐに電話に出る。
「もしもし、こずえちゃん?」
「もしもーし、恵真?元気にしてる?」
「うん、元気だよ」
「そっか、良かった。伊沢が最近恵真に会ってないって言うから、何かあったのかと思っちゃった。ねえ、誕生日のプレゼントも渡したいから、ランチでも行こうよ」
あ…、と恵真は考えを巡らせる。
こずえには、まだ妊娠した事を話していない。
それにランチに出かけるのも、ずっと控えてきた。
(そろそろいいかな?)
とりあえず、こずえには妊娠を知らせておくことにする。
「こずえちゃん。あのね、実は私、妊娠してるの」
「ええー?!妊娠?!」
大きな声でこずえが驚いたあと、やまびこのように「ええー?!妊娠?!」と遠くから声が聞こえてきた。
「ん?もしかして、伊沢くんもいるの?」
「あ、そうなの。あいつ、私のマンションに入り浸っちゃって。ごめんね、もしかして伊沢にはまだ言わないつもりだった?」
「ううん。伊沢くんにもこずえちゃんと一緒に伝えたかったから、ちょうど良かった」
「そっか。とにかくおめでとう!今、何ヶ月なの?」
「まだ3ヶ月なの。本当なら安定期に入ってからお知らせするものなんだろうけど、パイロットだからそうもいかなくて」
ああ、そうだよね、とこずえは声のトーンを落とす。
「じゃあ今、飛んでないってこと?」
「うん、そう」
「そうだよね。あれ?でも、安定期になると飛べるんじゃなかったっけ?」
「うん。でも私は飛ぶつもりはないの。それにどのみち、お医者様の許可も下りないし」
「え?どうして?」
「あのね、私、双子を妊娠してるの」
「ええー?!双子?!」というこずえの声は、またしてもやまびことなり、「ええー?!双子?!」と伊沢の声がした。
「す、凄いね!恵真。ダブルおめでただね!」
「ありがとう!双子妊娠は安定期もないらしくて、毎日ドキドキなんだけどね」
「そっか。じゃあ気軽にランチとか行けないか。でも、恵真のマンションの近くにカフェあるでしょ?あそこで少しお茶するくらいは平気かな?」
「あ、うん。歩いて5分だもんね。大丈夫だよ」
「それなら、明日そこで会わない?あ、もちろん体調次第でドタキャンもOKよ」
「ありがとう!分かった。楽しみにしてるね」
恵真は久しぶりにこずえとおしゃべり出来る嬉しさに、ワクワクして電話を切った。
◇
「やーん、恵真。おめでとう!」
次の日。
マンションの近くのカフェで、こずえは恵真にハグをする。
「ありがとう、こずえちゃん」
「お腹はまだあんまり分からないね」
「うん。でもなんとなく膨らんできたような気がするの」
「そうなの?双子ちゃんだと早いんだね。とにかくおめでとう!これ、誕生日プレゼントなんだけど、また改めて妊娠のお祝い贈らせてね」
ええ?!そんな、気にしないで、と恵真は恐縮しながら、誕生日プレゼントを受け取る。
「わあ、素敵なフォトフレーム!」
「ふふ、大和さんとのラブラブな写真を入れてもらおうと思ってたけど、赤ちゃんが産まれるとなると、もっとたくさん必要だわね」
「でもまずは、私達二人の写真を飾らせてもらうね。結婚式を挙げる事になったから、その時の写真を入れようかな」
「へえー、結婚式挙げるのね?いつ?」
「えっとね、6月6日。体調が第一だから、家族だけの式にするの。場合によってはキャンセルするかもしれないから」
「そうなんだ。参列出来ないのは残念だけど、写真は見せてね」
「うん、ありがとう」
ひとしきり恵真の話をしたあと、今度は恵真がこずえに尋ねる。
「こずえちゃんは?伊沢くんと最近どうなの?」
「んー、それがね。今、新しく住む部屋を探してるの」
え、それって…と、恵真は思わず顔を上げてこずえを見る。
「一緒に暮らすの?」
「まあね。そしたらさ、伊沢のやつ…。ちゃんと籍を入れないと一緒に住めない、とか言い出してさ。今どき古風なやつよねー」
ええー?!と恵真は、今度は仰け反って驚く。
「じゃ、じゃあ、結婚するの?」
「結婚っていうか、入籍するだけよ?」
「それを結婚って言うんじゃない!」
「そうなの?なんかさ、そんな夢のある感じじゃないのよ。ただ籍を入れるだけよ?紙切れ1枚役所に出すだけ」
「こ、こずえちゃん。そんな身も蓋もない…」
涼しい顔でアイスコーヒーを飲むこずえを、恵真はまじまじと見つめる。
「とにかく、こずえちゃんもおめでとう!私もとっても嬉しい。改めてお祝いさせてね」
「あー、そんなすぐじゃないから、気にしないで。多分、11月になると思う。別れてなければね。あはは!」
こ、こずえちゃん…と、恵真は困った顔になる。
(そんな事言ってるけど、絶対別れたりなんてしない。こずえちゃんと伊沢くんだもん)
「絶対お似合いの夫婦だよ。入籍の報告、楽しみにしてるね!」
「ありがとう。恵真の出産の報告もね!」
二人は顔を見合わせて、ふふっと笑った。
◇
5月10日。
恵真が無事に妊娠4ヶ月目に入ったその日は、大和の37歳の誕生日でもあった。
「大和さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、恵真」
乗務を終えて帰って来た大和に、恵真は久しぶりにたくさんの手料理を振る舞った。
「うわ!恵真。こんなに作ってくれて大丈夫だったの?」
「ええ。食材はネットスーパーで買ったし、休憩しながら少しずつ作ったから」
「そうか。ありがとう!恵真の手料理はどんなレストランよりも美味しいから、嬉しいよ」
チキンのカチャトーラやオニオングラタンスープ、鮭のムニエルなど、恵真は大和の好きなものばかりを用意していた。
大和は嬉しそうに次々と平らげていく。
バースデーケーキはビターなチョコレートケーキを作り、筆記体で
『Happy Birthday!YAMATO』
と書いてアラザンで飾った。
「うわー、これまた本格的だなー。作るの大変だっただろ?」
「ううん。時間だけはたっぷりあるし、気分転換になって楽しかったです」
「そう?それなら良かった。早速頂いてもいい?」
「はい。じゃあ、ロウソク吹き消してください」
大和は一気に、長いロウソク3本と小さなロウソク7本を吹き消す。
「おめでとうございます!大和さん」
パチパチと拍手する恵真に、大和はにっこり笑いかける。
「ありがとう!あー、幸せだな、俺。てっきりずっと一人で生きていくと思ってたのに、こんなに可愛い奥さんが来てくれて、更には双子ちゃんまで!もう天にも登りそうだよ。どうしよう。そのうちフライトで、めちゃくちゃ高い高度を飛んじゃうかも」
またいつものメロメロ節が始まり、恵真は冷静にケーキを切り分けながら、「それはやめてくださいね」と真顔で言う。
これまた美味しい!と笑顔でケーキを食べる大和に、恵真はプレゼントを差し出した。
「はい、大和さん。お誕生日プレゼントです」
「ええー?もしかして恵真、買いに出掛けたの?」
「いえ、ネットで買いました。本当はちゃんとお店に探しに行きたかったんですけど、ごめんなさい」
「まさか、そんな。気持ちだけで充分だよ。無理して街に出掛けなくて良かった。ありがとう!」
ふふっと恵真は微笑んで、ラッピングをそっと開ける大和を見守る。
「お!これって手帳?凄いなー、世界地図と、飛行機か!」
本革の小ぶりの手帳は、表紙に世界地図が彫られていて、くるりと巻いてある紐に、真鍮で作られた飛行機のチャームが付いている。
「かっこいいなー。こんなのあるんだ。凄く気に入ったよ」
そう言いながら飛行機のチャームを持って、手帳に巻いてある紐を解いた大和は、中を見て目を見開いた。
「恵真、これ…」
中はフリー台紙になっていて、恵真はそこに赤ちゃんのエコー写真を貼り、日付けや週数を書き込んでアルバムにしていた。
「うわー、なんて可愛いんだ。最高の手帳だよ!」
興奮気味の大和に、恵真は照れ笑いする。
「良かった。そんなに喜んでもらえるなんて」
「世界で一番のプレゼントだよ。ありがとう!恵真。俺、これからずっとフライトバッグに入れて持ち歩くよ」
「じゃあ、また写真が増えたら貼っていきますね」
「ああ、頼むよ。あと来月の恵真のウェディングドレスの写真もね」
「ふふ、はい」
「最高の誕生日だよ。ありがとう、恵真」
はにかんだ笑みで頷く恵真を、大和は優しく抱き寄せてキスをした。
◇
「藤崎さん!お久しぶり。体調はどう?平気?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かった。でも何かあったら、すぐに教えてね」
「ありがとうございます、川原さん」
次の日。
恵真は大和の出社に合わせて、車で一緒にオフィスに来ていた。
今日から少しずつ、広報課で川原の仕事を手伝う事になっている。
「じゃあ、恵真。俺はここで。帰りはタクシーを使うんだよ」
「はい、分かりました。フライトお気をつけて」
大和は頷くと、川原に、よろしくお願いしますとお辞儀してから去っていった。
「さあ、じゃあとにかく座って。ゆっくり話をしましょう」
「はい」
恵真は川原の隣に座り、これからのことを話し合う。
「藤崎さんには、まずSNSの更新をお願いしたいの。何か告知がある時やイベントの案内がある時はそれを。なければ普段は社員の写真1枚と、簡単な文章を載せたもので大丈夫よ。本人の承諾とコメントをもらってね。これまでのコンテンツを見返して、参考にしてもらえれば。更新頻度も特に決まりはないから、藤崎さんが来られる日だけで、無理なくね」
「はい、分かりました」
「それと、これは総務の佐野さんと話していたんだけどね。新たに社内でのコミュニティを作っていきたいの」
コミュニティ…ですか?と恵真は少し首をかしげる。
「そう。働きやすい環境を整えるのが目的の一つなんだけど、要は職種を問わず、同じような人達が集まって話せる場を作りたいの」
へえ、と恵真は感心する。
「それはとても良い試みだと思います。特に入社してまだ数年の人達は、社内で気軽に話が出来る人もそんなに多くないと思いますし、何より職種を超えて交流出来れば、お互いの仕事をもっと知る事が出来ますから」
川原も笑顔で頷く。
「そうなの。それで藤崎さんにはその先駆けとして、小さなお子さんのいる社員のコミュニティを立ち上げてもらおうと思って。と言っても難しい事をする訳ではなく、全社員にお知らせをメールして、会議室で交流会を開いて欲しいの」
「それは意見交換とか、何かについて話し合うとか?」
「ううん。議題とかもなく、まあ情報交換ね。第一回は、お互いの自己紹介と、単なるおしゃべり会になると思うわ。そういう気軽な感じで大丈夫よ」
「分かりました!それなら私もとても楽しみです」
「ありがとう。お願いするわね。対象は、育児中のママだけでなく、妊娠中のママや、これから赤ちゃんが欲しいと考えている人も参加OK。もちろん、そのパートナーやパパさんもね」
恵真は大きく頷く。
「はい。では早速、日時と場所を決めて案内文を考えますね」
「ええ。ご自宅で作業してもらってもいいわよ。それに急いでないから、無理なくね」
「はい、ありがとうございます」
そのあとは、川原がSNSにアップする写真を撮りに行くのに同行させてもらう。
「最近、CAさんやグランドさん、整備さんと続いてたから、久しぶりに今日はパイロットの紹介にしようかなー」
そう言う川原と一緒にフライトオペレーションルームに行く。
(わあ!ここに来るのも久しぶり)
2ヶ月来ていないだけなのに、恵真は胸に懐かしさが込み上げてきた。
カウンターの内側で忙しく行き交うディスパッチャー達、奥のモニターの前でブリーフィングをしているパイロット達…。
ざわめきの中、恵真はまるで自分だけが取り残されたような気持ちになる。
(あの中に私もいたはずなのに…)
涙が溢れそうになり、慌てて唇を噛みしめた時、あら?と川原が入り口に目を向けた。
「ちょうどいい人見つけちゃった!」
恵真にいたずらっぽく笑いかけると、スタスタと入り口に向かって歩いていく。
「佐倉キャプテン!」
えっ!と恵真が目を見開くと、同じように驚いた表情でこちらを見ている大和と目が合った。
(大和さん…かっこいい!)
久しぶりに見る大和の制服姿はとびきり素敵で、恵真は思わずぽーっと見とれる。
「佐倉キャプテン。今日コックピットにお邪魔して、SNSに載せる写真を撮ってもいいですか?」
「…え?あ、はい」
大和は恵真に気を取られつつ、川原に返事をする。
「良かった!じゃあ藤崎さんと一緒について行きますね。よろしくお願いします」
頭を下げる川原に続いて、恵真も慌ててお辞儀する。
そしてそのまま、少し離れた所からブリーフィングも見させてもらった。
コーパイは、4月に副操縦士になったばかりという新人の男の子で、恵真も面識がない。
大和は一つ一つ丁寧に、ブリーフィングを指導していた。
「あら、いいわね。今回は新人くんにスポットを当てて紹介しましょうか。ブリーフィングも撮らせてくださいね」
川原は、何枚か写真を撮る。
恵真はただただ、大和のかっこよさに見とれていた。
ブリーフィングが終わると、いよいよシップに向かう。
行ってらっしゃい、とオフィスの人に見送られ、大和は、行ってきますとキリッと応えて部屋を出た。
空港ターミナルを歩いている時も、
わあ、パイロットだ!
かっこいい!
と、色んな人が大和を見てささやいている。
(な、なんて素敵な旦那様なの)
少し離れて歩きながら、恵真は顔が真っ赤になる。
やがてシップにたどり着いた。
足を1歩踏み入れた時、不覚にも恵真の目に涙が浮かぶ。
いけない、と拳をぎゅっと握りしめて堪えた。
コックピット・プリパレーションの流れも、うしろからそっと見守る。
新人の男の子は、大きな声で確認しながら、ゆっくり丁寧にコンピュータに入力していた。
間に合うかな?と恵真がハラハラしていると、外部点検を終えて戻って来た大和が、優しくフォローしている。
時間がかかった分、CAとの合同ブリーフィングを手短に終えて、またコックピットに戻る。
きっとこの先の管制官とのやり取りや、チェックリストの作業も時間がかかるだろうと思い、川原と恵真は、大和達にサムアップしてもらった写真を1枚だけ撮ると、すぐに退散する事にした。
コックピットのドアを閉めに来た大和が、出ていこうとする恵真の頭に手を置いて、恵真、と耳元でささやく。
「恵真の想いもちゃんと載せて飛ぶから」
堪えていた涙が一気に溢れそうになる。
恵真は潤んだ瞳で大和を見上げ、はいと頷いた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
大和は恵真に微笑むと、キリッと表情を変えてドアを閉めた。
◇
「うーん、こんな感じでどう?」
川原はデスクで、早速撮ったばかりの写真を選び、文章を入力する。
『4月に副操縦士になったばかりの新人のコーパイ。
機長に丁寧に教わりながら、真剣に慎重に、乗務に臨みます。
いつか機長になる日を目指し、これからも日々努力を重ねて参ります。』
選んだ写真は、ブリーフィングとコックピットでの2枚。
モニターを指差しながら教えている大和と、真剣な表情のコーパイの男の子。
そしてコックピットでは、爽やかな笑顔の二人。
どちらも微笑ましい写真だった。
「これを見て、自分もパイロットになりたいなって思ってくれる人が増えるといいわね」
「はい」
川原の言葉に、恵真は笑顔で頷いた。
◇
「えーっと、どんな文面がいいかな」
午前中で退社した恵真は、タクシーでマンションに帰り、昼食を食べてから少しベッドで横になった。
そのあと紅茶を飲みながら、早速交流会のお知らせを作り始めていた。
「うーんと、まずは気軽なおしゃべりの場ってことを伝えたいでしょ?それからどんな職種でもOK、性別も年齢も問わず、育児や出産に関するお話に興味があれば誰でもウェルカムで…」
パソコンに文章を打ち込み、読みやすくデザインしたりイラストで飾っていく作業は思いのほか楽しく、恵真は時間を忘れて没頭していた。
「大変!もうこんな時間」
気づけば2時間も経っていた。
急いでパソコンを閉じ、夕食の準備にとりかかる。
「今日はいつもより動いた1日だったから、手抜きメニューにさせてもらおう」
大和が注文してくれた、レトルト食品を活用させてもらう。
いくつか選んで皿に盛り付けると、ラップをかけて温めるだけの状態にする。
あとは作り置きしておいた何品かを添えて、味噌汁だけを作った。
大和の帰りを待つ間、ソファで今日の事を思い出す。
フライトオペレーションルームのざわめき、コックピットの空気感、どれもが懐かしく恋しい。
いつか必ずあそこに戻りたい。
戻ってみせる。
でも今は…
恵真はお腹に手を当てる。
今はこの子達をしっかり守る。
守ってみせる。
一歩一歩焦らず、今出来る事をしながら、今しか味わえない貴重な経験を大事にしながら、もっと強くなろう。
恵真は心に固く誓った。
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