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家族の絆
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「はあー、可愛いなあ。いつまでも見ていられる」
2つ並べたベビーコットの中の赤ちゃんを、大和はひたすら眺めている。
無事に手術が終わり病室に戻ってくると、赤ちゃんもすぐに連れて来られた。
「お兄ちゃんは2512g、妹ちゃんは2505gで、保育器も必要ないわ。二人ともとっても元気。ママ、本当によく頑張ったわね」
「ありがとうございます」
木村先生の言葉に、恵真はホッとしてお礼を言う。
「しばらくはママの身体も思うようには動かないから、無理に赤ちゃんのお世話しなくても大丈夫よ。まずはゆっくり休んでね」
恵真と大和がもう一度頭を下げると、先生はにっこり笑って出ていった。
「恵真、本当にありがとう。身体は大丈夫?」
大和が心配そうにベッドの横に座って尋ねる。
「ええ、大丈夫。まだ麻酔が効いてるみたいだから。でも切れたら痛むのかも…」
ちょっと怯えた顔をすると、大和は優しく恵真の頭に手を置く。
「頑張ってくれてありがとう。俺が痛みを代われればいいのに」
「ううん、平気。可愛い赤ちゃんの顔を見てると、そんな事吹き飛んじゃう。あ!そう言えば大和さん。ご両親に報告は?」
「そうだ、まだだった。恵真のご両親にもしておかないとな」
両家合わせたメッセージアプリのグループに、
『無事に産まれました。男の子と女の子の双子で、母子共に元気です』
と送る。
「ね、双子の写真も送りますか?」
「そうだな。俺、今撮るよ」
大和は立ち上がり、ベビーコットの上から覗き込んで何枚も写真を撮る。
「どの写真がいい?」
「ふふ、どれも一緒な気もするけど」
「確かに。何の変化もないな、あはは」
「でもどれも可愛い」
結局、最初の1枚目を送った。
すると両家の両親四人から、すぐにメッセージが書き込まれる。
「わー、やたらと興奮してる。おふくろの誤字脱字が酷い」
苦笑いする大和に、恵真も「うちもです」と笑う。
よほど急いで打ったのだろう。
「おめでとう」が「おでめとう」になっていたり、おとこのことおんなのこ?かわいいー、はやくあいたいー、と、平仮名だらけだった。
「大和さん、いつご両親に会いに来てもらいますか?」
「うーん、恵真の体調次第だな。退院して落ち着いてからにする?」
恵真は少し思案する。
「入院中の方がいいかも。うちだと、お茶とか食事の用意もあるし」
「そんなの、恵真が気にする必要ないよ。でも確かに、入院中の方がいいかもね。退院の前日とかはどう?」
「ええ、私は大丈夫てす。あ、10日の方が日曜日でいいかも?」
「じゃあ、10日で提案してみよう」
大和が早速、11月10日に面会に来られますか?と書き込むと、行きます!と両家からすぐに返事があった。
「はは!前のめりだなあ」
「両家とも初孫ですしね」
「ああ。もうデレデレだろうな」
「ふふ、目に浮かびます」
それより、と大和が恵真を振り返る。
「恵真、少し眠りな。俺が赤ちゃん見てるから」
「はい。でも、眠れるかな?」
「じゃあ赤ちゃんよりも先に、ママを寝かしつけるか」
冗談交じりにそう言うと、大和はベッドの横の椅子に座り、恵真の頭をなでる。
「お疲れ様。何ヶ月もずっと頑張ってくれてありがとう。ゆっくり休んで」
「はい」
恵真はにっこり微笑むと目を閉じる。
心の底から安堵し、いつの間にかすうっと恵真は眠りに落ちていった。
◇
眠りから覚め、ぼんやりと目を開けた恵真は、見慣れない天井を見上げてぼーっとする。
(あれ?ここ、どこだろう…)
そしてすぐにハッとする。
(そうだ、赤ちゃん!)
慌てて横を向くと、大和が赤ちゃんを抱っこしてあやしているのが目に入った。
身体を揺らしながら、いい子だなーと顔を覗き込んで話しかけている。
「大和さん」
恵真が呼びかけると、大和は振り返って笑顔になる。
「恵真、良く眠れた?」
「はい。赤ちゃん、泣いてましたか?」
「ううん、全然。女の子の方はぐっすり寝てる。お兄ちゃんがさ、目をぱちくりさせて手足パタパタさせてるんだ。だから遊んでたところ」
すっかり手慣れた様子で赤ちゃんを抱く大和を、恵真はなんだか頼もしく感じる。
「この子、恵真のお腹の中でもパタパタしてたもんな。産まれてからもおんなじ動きしてる」
「ふふ、そうなんですか?」
「うん、なんとなくそう感じるんだ。ほら、足をグーッと伸ばして踏ん張ってるのなんて、恵真のお腹を踵で押してたのと同じ」
「あー、確かに!あれは痛かったなあ」
「そりゃ痛いだろうな。このキック力は凄い」
大和は恵真のすぐ近くまで来て、赤ちゃんを見せる。
恵真は手を伸ばすと、赤ちゃんを胸の上で抱きしめた。
「わあ、なんとなく女の子の方と違いますね。身体がしっかりしてる」
「ああ。肩とか骨格がね、やっぱり女の子とは少し違うね」
赤ちゃんは、じっと恵真を見つめている。
「ふふ、ママですよー。分かるかな?」
恵真は、頬を優しくなでた。
「お、もう一人も起きたかな?」
大和がベビーコットへ行き、女の子の赤ちゃんを抱いて戻って来た。
「こうやって見ると、双子だけど少し違うね」
「ええ。男の子は大和さんにそっくり」
「そう?女の子は恵真にそっくりだよ」
「そうかな?」
ようやく四人家族になった実感が湧いてきて、恵真は幸せをひしひしと感じる。
「大和さん、この子達のお名前は決まった?」
「あー、そうなんだよな。顔を見たらピンと来るかと思ってたんだけど…」
「やっぱり来ませんでした?」
「うーん、なんかもう、可愛い!しか頭の中で考えられなくてさ。恵真は?何かピンと来る名前ある?」
「んー、そう言われると私もなくて…」
「そっか。じゃあもう少し時間かけて考えてみよう」
「そうですね」
そして二人でもう一度、赤ちゃん達を見つめる。
「私ね、この子達には、のびのびと育って欲しいんです」
ふいに恵真が話し始めた。
「初めて空を飛んだ時、こんなにも広い世界があったのかって感動しました。普段の些細な悩み事とか不安だった事、落ち込んでいた気持ちもパーッと晴れて、気持ちが一気に明るくなって。空はこんなにもきれいで、世界はこんなにも広い。もっともっと素敵な場所や、温かい人々もたくさんいる。下ばかり見てないで、広い視野で世界に目を向けようって思いました。空を飛ぶと毎回そんな気持ちになります。だからこの子達にも、自分の好きな世界でのびのびと生きていって欲しいです」
「ああ、そうだな」
大和も笑顔で頷く。
「好きな事をして、元気に人生を楽しんでくれたらいいな。俺達みたいに」
「ふふ、そうですね」
「どんな子達になるんだろう。楽しみだな」
「ええ」
二人で微笑み合い、もう一度赤ちゃんに目を向ける。
と、大和が急に顔を上げて一点を見据えた。
「大和さん?どうかしましたか?」
「恵真、この子達の名前。『佐倉 翼』と『佐倉 舞』はどうかな?」
「つばさと、まい?」
「そう。自分の翼で大きくのびのびと羽ばたく子に、そして、舞うように生き生きと人生を輝かせる子に」
「わあ…」
大和の言葉に、恵真はうっとりと微笑む。
「とっても良いお名前!素敵です」
「気に入ってくれるかな?この子達も」
「ええ、きっと。私達の想いが込もったお名前ですもの」
「そうだといいな」
二人で赤ちゃんに呼びかける。
「翼、舞。元気に大きくなるんだぞ」
「一緒にたくさん幸せになろうね。翼、舞」
大和と恵真は、もう一度顔を見合わせて微笑んだ。
◇
次の日。
恵真は朝から痛みに耐えていた。
(うー、痛い。麻酔が切れるとこんなに痛いのね)
検温や検査に来てくれる看護師にも言えずに、一人でじっと耐える。
「佐倉さん、今日から少しずつ身体を起こして歩いてみましょう」
(えー?!こんなに痛いのに?)
とは言えず、はいと頷いて、まずはゆっくりベッドから降り、トイレに行く。
「うん、大丈夫そうですね。歩けそうなら少しずつ歩いてくださいね。今日から柔らかいお粥も食べられますよ」
「は、はい」
「赤ちゃんは新生児室でお預かりしていますが、ご主人がいらしたら、お部屋に連れて来ますね」
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言ったが、看護師が出て行くと、一気に顔をしかめる。
(うー、痛いよー)
すると、ノックの音がしてスライドドアが開いた。
「恵真、おはよう…。どうした?!」
笑顔で病室に入って来た大和が、恵真の顔を見るなりベッドに駆け寄って来る。
「恵真、痛むの?」
「あ、ううん、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう?すぐに看護師さんを呼ぶから」
大和はナースコールを押す。
「佐倉さん、どうしました?」
「痛みが酷いみたいです」
「あら、そうだったんですね。今、背中のチューブの痛み止めを追加しますね」
処置をしてもらうと、すーっと痛みが引いて、恵真はホッと息をつく。
「我慢せずに教えてくださいね。痛み止めのお薬もありますから」
「はい、ありがとうございます」
看護師が出て行くと、大和が真剣な顔で恵真の表情を覗き込む。
「恵真、我慢する必要ないから。痛い時はちゃんと言うんだよ」
はい、と恵真は頷く。
「でも良かった、大和さんが来てくれて…」
気が緩んだ途端、泣きそうになる。
「まったくもう。恵真は何でも頑張り過ぎる。もっとわがままになっていいんだよ」
「そんな、ママなのにわがままなんて…」
「あはは!それ、ダジャレ?わがママって…」
「ち、違います!」
おかしそうに笑い続ける大和に、恵真もふっと笑みを洩らす。
(さっきまで痛くて、一人で泣きそうになってたのに。大和さんがそばにいてくれるだけで安心する)
その時、失礼しまーすと、助産師がベビーコットを押して入って来た。
「ご主人いらしてるから、双子ちゃんお連れしましたよ」
「ありがとうございます!」
大和は嬉しそうに立ち上がり、ベビーコットを恵真の近くまでコロコロと移動させる。
「わー、今日も可愛いなあ」
目尻を下げる大和に、助産師が笑う。
「そんなに赤ちゃんお好きなら、パパさんがおむつ替えしてみますか?」
「え、いいんですか?!」
「もちろん。今ご説明しますね。私が妹さんのおむつを替えるので、パパさんはお兄ちゃんをお願いします」
「はい」
大和は真剣に助産師の手元を見ながら、真似をして翼のおむつを替える。
「赤ちゃんの股関節に気をつけて、足を無理に上げないように…。おしり拭きで優しく拭いて。そうそう、上手ですよ」
「出来た!」
「はい、ばっちりです。そしたら、交換した時間をこの表に記入してくださいね」
ベビーコットに付けられた紙に、大和は時間を書き込む。
「じゃあ、今後もこんな感じで、パパさんおむつ替えお願いしますね」
「分かりました!」
助産師が出て行くと、恵真は大和に笑いかける。
「大和さん、凄い。私もまだやってないのに」
「へへーん。なんか嬉しいな。恵真よりも一歩リード出来たぞ」
「えー、なんだか悔しい」
「まあまあそう言わず。おむつ替えは俺に任せなさい!」
勝ち誇ったように胸を反らす大和に、恵真も思わず笑ってしまう。
「そう言えば大和さん、Show Upは?間に合いますか?」
大和は今日からまた乗務する予定だった。
「ああ、13時だからまだ大丈夫。夜は面会に来られないけど、明日また朝から来るよ」
「無理しないでくださいね」
「無理なんかじゃないよ。俺がみんなに会いたいの」
その後もしばらく、写真を撮ったりおしゃべりを楽しむ。
「あ!私、まだ彩乃さんやこずえちゃんにも報告してなくて…。心配させちゃってるかも」
恵真は双子の写真と一緒に、メッセージを送る。
『ご報告が遅れてごめんなさい。
昨日、無事に双子が産まれました。
母子共に元気です。
男の子の「佐倉 翼」と女の子の「佐倉 舞」です。
どうぞよろしくお願いします!』
するとすぐに彩乃から返事が来る。
『恵真さん、大和さん
おめでとうございます!
昨日からソワソワとご報告をお待ちしていました。
恵真さんも赤ちゃんも元気で、本当に良かったです。
翼くん、舞ちゃん、良いお名前ね。
それにとっても可愛い!
翼くんは大和さん似で、舞ちゃんは恵真さんに似てる!
早く会いたいなあ。
恵真さん、まずはゆっくり身体を休めてくださいね。
またお会い出来る日を楽しみにしています!』
彩乃らしい、丁寧な返事に恵真も嬉しくなる。
こずえはどうやら隙間時間に読んだらしく、短い文が興奮気味に送られてきた。
『きゃー、可愛い!恵真、お疲れ様。
なんて可愛い双子ちゃん!翼くんと舞ちゃん!素敵な名前!あー、早く会いたい。伊沢にも転送するね。今から飛んで来ます。またあとでゆっくり写真見るー。可愛すぎるー』
(ふふっ、こずえちゃんらしい)
恵真は、行ってらっしゃい!良いフライトを、と返信した。
その後も楽しく家族四人で過ごし、大和はまたおむつ替えをしてから、乗務に向かった。
大和を見送ってから、恵真は思い立って育児日記を開く。
昨日の出産の様子など、忘れないうちに書き留めておいた。
しばらくすると助産師が来て、恵真は初めて母乳をあげてみることになった。
「最初は上手くいかなくて当たり前よ。ママも赤ちゃんも練習だと思って。少しずつ母乳も出るようになるからね」
「はい」
「じゃあ少しミルクを足してあげましょう」
授乳クッションを使い、恵真は佐々木達からプレゼントでもらった赤ちゃん枕を腕にはめてミルクをあげる。
「わあ、可愛い」
枕に頭を載せ、翼も舞も、両手をグーにしてンクンクとミルクを一生懸命飲む。
「飲ませたらママの肩の上に頭を載せて、縦に抱っこしてげっぷをさせるの」
舞は、小さくケプッとするのに対して、翼は既におじさんのようにゴフッと豪快なげっぷをする。
恵真は思わず笑ってしまった。
そして改めて恵真もおむつ替えを教わる。
「男の子と女の子は、拭き方も違うからね。そうそう、上手」
最後に表に、母乳とミルク、おむつ替えをした時間を記入した。
「ミルクは飲んだ量も書いてね。はい、これで大丈夫。じゃあ今日からママは、柔らかいお粥から食事を始めるわね」
身体はまだ痛むものの、可愛い二人のお世話をするのは新鮮で楽しく、一日はあっという間に過ぎていった。
◇
「おはよう、恵真。おっ、もう二人とも来てたんだ」
翌朝、面会時間になるとすぐに大和が病室に現れる。
今日は恵真の朝食後に、双子を部屋に連れて来てもらっていた。
「大和さん、おはようございます。ほら、パパが来てくれましたよー」
恵真はベビーコットの二人に声をかける。
大和も早速二人を覗き込んだ。
「どれどれ。おー、今日も可愛いな。おはよう!翼、舞」
二人を順番に抱っこして、大和は満面の笑みを浮かべる。
「昨日さ、出社したらもう大変だったよ。会う人会う人に、おめでとうございます!写真見せてください!って。最初は良かったんだけど、だんだんブリーフィングも迫ってくるし、着替えもままならなくて。もう最後は、野中さんと伊沢に任せたんだ。二人とも、はいはい、可愛い双子ちゃんの写真はこちらでーす!って、自分のスマホで見せてくれて」
あはは!と恵真は声を上げて笑う。
「なんだか想像出来ます。今度お礼を言っておかないと」
「そうだな」
しはらくすると、助産師がやって来た。
「せっかくだからパパとママで沐浴をやってみますか?」
「え、はい!やりたいです」
大和が嬉しそうに返事をする。
「双子ちゃんだからね。ママ一人じゃ大変だもの。パパもひと通り覚えてもらえると助かります」
「はい、頑張ります」
ベビーコットを押しながら、沐浴の部屋に移動する。
「じゃあ、まずは準備から始めましょう。お湯の温度は、ぬるめです。温度計があれば38度前後で。なければ、肘を入れて確かめてください」
2つ並べたベビーバスに、恵真と大和はそれぞれお湯を張り、温度を確かめる。
「沐浴に使うベビーソープとガーゼは、ベビーバスの横に置いておきます。それから、沐浴後に着せる肌着とロンパースも、袖を通して前を開いた状態で、おむつも載せてセットしておきます。バスタオルも広げて置いておきましょう。ではいよいよ、赤ちゃんの服を脱がせますよー。まず前を開いたら、びっくりさせないようにガーゼを身体に載せます」
助産師がお人形でやってみせるのを、恵真も大和も真剣に見ながら真似をする。
こういう時、恵真は舞を、大和が翼を担当するのが、暗黙のルールになっていた。
「赤ちゃんの頭とお尻をしっかり支えて、ゆっくりとお尻からお湯の中に入れていきます。少しずつ、ゆっくりですよー」
お尻にお湯が触れると、舞も翼も目をぱっちりさせて、何が始まったの?というような顔をする。
やがてお腹までお湯に浸かると、ほわーっと気持ち良さそうな顔をした。
「ふふ、可愛い」
「そうだな。極楽だーみたいな顔してる」
しばらくそのままお湯に慣れさせていると、二人とも身体をのびのび開くのが分かった。
「では、そろそろ身体を洗っていきましょう。片手で頭を支えます。その時、耳にお湯が入らないように、押さえられそうなら押さえてください。あら、さすがパパ。上手ですね」
手が大きい大和は、難なく翼の両耳を片手で押さえるが、恵真は四苦八苦した。
「無理そうなら大丈夫ですよ。では、お尻を支えていた手を離します。もし不安定なら、赤ちゃんのお尻をベビーバスの底に付けちゃっていいです。首から上はお湯から出してあげてくださいね。そしたら片手でベビーソープのポンプを押して、泡で洗っていきますよ」
赤ちゃんの首周り、脇の下、手首足首、お尻や頭など、優しく手で洗っていく。
「お顔は、ガーゼを使って洗います。目や口に泡が入らないように気をつけながら、そうそう」
最後にしっかりすすぐと、赤ちゃんをバスタオルに載せてすぐに包んだ。
「はい、あとは優しく身体と頭を拭いて、着替えの上に移動させます。おむつをつけたら、袖を通して肌着の紐を結びましょう。そして綿棒を使って、おへそや耳の中の水分も優しく取ります。いいですね。ロンパースの前を留めたら終了です!」
二人はホッとして肩の力を抜く。
「出来た!」
「わー、きれいになったね」
それぞれ赤ちゃんを抱き上げた。
「気持ち良かったか?」
「んー、いい香りがする」
翼も舞も、目をトロンとさせている。
「沐浴を終えると、赤ちゃんはお風呂上がりの心地よさに良く眠ってくれますよ」
助産師の言葉通り、少し揺らして抱っこしているうちに、二人とも眠ってしまった。
病室に戻り、しばらく二人の寝顔を見ていた大和は、腕時計に目を落とす。
「さてと。名残惜しいけど、そろそろ行かないとな」
「はい」
「恵真も、二人が寝ているうちにゆっくり休んでね」
「大和さんも、フライトお気をつけて」
「ありがとう。行ってくる」
大和は恵真の頬にキスをしてから、ふっと笑って恵真の顔を覗き込む。
「恵真、顔が真っ赤だよ」
「だ、だって!こんな、病院で…」
「ははっ!ママになっても可愛いな、恵真」
「大和さん!もう…」
あはは!と笑いながら、翼と舞にも、行ってくるな、と声をかけて、ようやく大和は病室を出ていった。
◇
次の日も、乗務の前に面会に来た大和と一緒に、双子にミルクをあげたり、沐浴やおむつ替えをする。
その次の日は大和がオフで、一日中二人でゆっくりと話をしながら双子のお世話をした。
日に日に二人とも育児に慣れてきて、これなら退院後もなんとかなりそう、と恵真は安心する。
母乳も少しずつ出るようになり、特に翼は飲むのが上手で、追加のミルクの量も少しでよくなってきた。
今のところ、翼も舞も、お腹が空いた時しか泣いたりぐずったりせず、満腹になれば2時間はしっかり寝てくれるので、恵真もその間は昼寝が出来た。
合間に育児日記を書いたり、オルゴールを聴いたり、彩乃やこずえとメッセージのやり取りをする。
そして両家の両親が赤ちゃんと初対面する、11月10日がやって来た。
恵真の両親は前日に長野から上京し、二人が結婚式を挙げたホテルに泊まっていた。
大和の両親も朝そこで合流し、勤務前の大和が車で四人を病院に連れて来た。
「こんにちはー…」
控えめに病室に入って来た両家の両親は、まず恵真におめでとう!と声をかける。
「双子ちゃんの妊娠も出産も、大変だったでしょう?体調はどう?」
「はい。もうかなり良くなりました」
「そう?でも無理しないでね」
「ありがとうございます」
気遣ってくれる大和の母に笑顔で答えてから、恵真はベビーコットに皆を促した。
「赤ちゃん、抱っこしてあげてください」
「わあ!いいの?」
「ええ、もちろんです」
四人は手を洗ってから、いそいそとベビーコットを取り囲む。
「まあ!なんて可愛らしいの」
「ひゃー、小さくてまさに天使ね」
「恵真ちゃんにそっくりな女の子だな」
「男の子は大和さんに似てますね」
「翼くーん、舞ちゃーん。じいじとばあばですよー」
さっき授乳したばかりでご機嫌な翼と舞は、パタパタと手足を動かしている。
恵真は翼を抱き上げると、大和の母に、そして大和が舞を抱き上げて恵真の母に抱かせた。
「わあ…、緊張する」
「ほんと。ああ、もう感動で胸がいっぱい」
「なんだか涙が出ちゃう」
「ええ。孫ってこんなに可愛いのね」
父親達も、横から手を伸ばしてそっと赤ちゃんの頬に触れる。
「なんて可愛いんだ。孫の顔が見られるなんて、もう夢のようで…」
「あなた!また泣いてる?」
涙もろい大和の父は、誰よりも早く涙を溢れさせた。
「この歳になって、こんな幸せな日が来るなんて。大和の結婚も諦めてたのに、可愛いお嫁さんが来てくれて、更にこんなに可愛い赤ちゃんが二人も!」
「親父、毎回おんなじ事言ってるぞ」
あはは!と皆で笑い合う。
出産のお祝いと言って、両親達はたくさんの贈り物を持って来てくれていた。
お揃いのベビー服やおもちゃを広げながら、母親同士、嬉しそうに話をする。
「もうお店で選ぶのが楽しくて!だって、男の子と女の子、両方選べるんだもの」
「そうよね!ペアルックも可愛いし、特に女の子のフリフリのお洋服!私、大和の時は買えなかったから、もう嬉しくて嬉しくて!」
「私も。男の子の服や車のおもちゃ、恵真の時は買えなかったから、なんだか新鮮で」
ベビー服を一枚一枚広げては、父親達が抱いている赤ちゃんに合わせてみる。
「似合う似合う!可愛いわあ」
たくさん写真を撮り、結局両親達がいる間、翼も舞も一度もベビーコットに寝かされる事はなかった。
あんまり長居しても悪いから、と、両親達は大和の勤務に合わせて一緒に出る事になった。
「藤崎さん、ホテルでランチご一緒しません?」
「ええ、いいですね。写真の見せ合いっこしましょう」
「たくさん撮ったものね。みんなでじっくり見ましょうか」
名残惜しそうに翼と舞を抱いてから、四人はワイワイと出ていく。
最後に大和が恵真を振り返った。
「じゃあね、恵真。またあとでメッセージ送る」
「ええ。父と母の送迎も、ありがとうございます」
大和は微笑んで頷くと、皆の後を追って出ていった。
「ふう、まるで嵐が去ったあとみたいね」
恵真はひと息をつくと、ベビーコットの二人を覗き込む。
「びっくりした?ゆっくり寝てね、翼、舞」
ふわあ…とあくびをする二人に、恵真はふふっと微笑んだ。
2つ並べたベビーコットの中の赤ちゃんを、大和はひたすら眺めている。
無事に手術が終わり病室に戻ってくると、赤ちゃんもすぐに連れて来られた。
「お兄ちゃんは2512g、妹ちゃんは2505gで、保育器も必要ないわ。二人ともとっても元気。ママ、本当によく頑張ったわね」
「ありがとうございます」
木村先生の言葉に、恵真はホッとしてお礼を言う。
「しばらくはママの身体も思うようには動かないから、無理に赤ちゃんのお世話しなくても大丈夫よ。まずはゆっくり休んでね」
恵真と大和がもう一度頭を下げると、先生はにっこり笑って出ていった。
「恵真、本当にありがとう。身体は大丈夫?」
大和が心配そうにベッドの横に座って尋ねる。
「ええ、大丈夫。まだ麻酔が効いてるみたいだから。でも切れたら痛むのかも…」
ちょっと怯えた顔をすると、大和は優しく恵真の頭に手を置く。
「頑張ってくれてありがとう。俺が痛みを代われればいいのに」
「ううん、平気。可愛い赤ちゃんの顔を見てると、そんな事吹き飛んじゃう。あ!そう言えば大和さん。ご両親に報告は?」
「そうだ、まだだった。恵真のご両親にもしておかないとな」
両家合わせたメッセージアプリのグループに、
『無事に産まれました。男の子と女の子の双子で、母子共に元気です』
と送る。
「ね、双子の写真も送りますか?」
「そうだな。俺、今撮るよ」
大和は立ち上がり、ベビーコットの上から覗き込んで何枚も写真を撮る。
「どの写真がいい?」
「ふふ、どれも一緒な気もするけど」
「確かに。何の変化もないな、あはは」
「でもどれも可愛い」
結局、最初の1枚目を送った。
すると両家の両親四人から、すぐにメッセージが書き込まれる。
「わー、やたらと興奮してる。おふくろの誤字脱字が酷い」
苦笑いする大和に、恵真も「うちもです」と笑う。
よほど急いで打ったのだろう。
「おめでとう」が「おでめとう」になっていたり、おとこのことおんなのこ?かわいいー、はやくあいたいー、と、平仮名だらけだった。
「大和さん、いつご両親に会いに来てもらいますか?」
「うーん、恵真の体調次第だな。退院して落ち着いてからにする?」
恵真は少し思案する。
「入院中の方がいいかも。うちだと、お茶とか食事の用意もあるし」
「そんなの、恵真が気にする必要ないよ。でも確かに、入院中の方がいいかもね。退院の前日とかはどう?」
「ええ、私は大丈夫てす。あ、10日の方が日曜日でいいかも?」
「じゃあ、10日で提案してみよう」
大和が早速、11月10日に面会に来られますか?と書き込むと、行きます!と両家からすぐに返事があった。
「はは!前のめりだなあ」
「両家とも初孫ですしね」
「ああ。もうデレデレだろうな」
「ふふ、目に浮かびます」
それより、と大和が恵真を振り返る。
「恵真、少し眠りな。俺が赤ちゃん見てるから」
「はい。でも、眠れるかな?」
「じゃあ赤ちゃんよりも先に、ママを寝かしつけるか」
冗談交じりにそう言うと、大和はベッドの横の椅子に座り、恵真の頭をなでる。
「お疲れ様。何ヶ月もずっと頑張ってくれてありがとう。ゆっくり休んで」
「はい」
恵真はにっこり微笑むと目を閉じる。
心の底から安堵し、いつの間にかすうっと恵真は眠りに落ちていった。
◇
眠りから覚め、ぼんやりと目を開けた恵真は、見慣れない天井を見上げてぼーっとする。
(あれ?ここ、どこだろう…)
そしてすぐにハッとする。
(そうだ、赤ちゃん!)
慌てて横を向くと、大和が赤ちゃんを抱っこしてあやしているのが目に入った。
身体を揺らしながら、いい子だなーと顔を覗き込んで話しかけている。
「大和さん」
恵真が呼びかけると、大和は振り返って笑顔になる。
「恵真、良く眠れた?」
「はい。赤ちゃん、泣いてましたか?」
「ううん、全然。女の子の方はぐっすり寝てる。お兄ちゃんがさ、目をぱちくりさせて手足パタパタさせてるんだ。だから遊んでたところ」
すっかり手慣れた様子で赤ちゃんを抱く大和を、恵真はなんだか頼もしく感じる。
「この子、恵真のお腹の中でもパタパタしてたもんな。産まれてからもおんなじ動きしてる」
「ふふ、そうなんですか?」
「うん、なんとなくそう感じるんだ。ほら、足をグーッと伸ばして踏ん張ってるのなんて、恵真のお腹を踵で押してたのと同じ」
「あー、確かに!あれは痛かったなあ」
「そりゃ痛いだろうな。このキック力は凄い」
大和は恵真のすぐ近くまで来て、赤ちゃんを見せる。
恵真は手を伸ばすと、赤ちゃんを胸の上で抱きしめた。
「わあ、なんとなく女の子の方と違いますね。身体がしっかりしてる」
「ああ。肩とか骨格がね、やっぱり女の子とは少し違うね」
赤ちゃんは、じっと恵真を見つめている。
「ふふ、ママですよー。分かるかな?」
恵真は、頬を優しくなでた。
「お、もう一人も起きたかな?」
大和がベビーコットへ行き、女の子の赤ちゃんを抱いて戻って来た。
「こうやって見ると、双子だけど少し違うね」
「ええ。男の子は大和さんにそっくり」
「そう?女の子は恵真にそっくりだよ」
「そうかな?」
ようやく四人家族になった実感が湧いてきて、恵真は幸せをひしひしと感じる。
「大和さん、この子達のお名前は決まった?」
「あー、そうなんだよな。顔を見たらピンと来るかと思ってたんだけど…」
「やっぱり来ませんでした?」
「うーん、なんかもう、可愛い!しか頭の中で考えられなくてさ。恵真は?何かピンと来る名前ある?」
「んー、そう言われると私もなくて…」
「そっか。じゃあもう少し時間かけて考えてみよう」
「そうですね」
そして二人でもう一度、赤ちゃん達を見つめる。
「私ね、この子達には、のびのびと育って欲しいんです」
ふいに恵真が話し始めた。
「初めて空を飛んだ時、こんなにも広い世界があったのかって感動しました。普段の些細な悩み事とか不安だった事、落ち込んでいた気持ちもパーッと晴れて、気持ちが一気に明るくなって。空はこんなにもきれいで、世界はこんなにも広い。もっともっと素敵な場所や、温かい人々もたくさんいる。下ばかり見てないで、広い視野で世界に目を向けようって思いました。空を飛ぶと毎回そんな気持ちになります。だからこの子達にも、自分の好きな世界でのびのびと生きていって欲しいです」
「ああ、そうだな」
大和も笑顔で頷く。
「好きな事をして、元気に人生を楽しんでくれたらいいな。俺達みたいに」
「ふふ、そうですね」
「どんな子達になるんだろう。楽しみだな」
「ええ」
二人で微笑み合い、もう一度赤ちゃんに目を向ける。
と、大和が急に顔を上げて一点を見据えた。
「大和さん?どうかしましたか?」
「恵真、この子達の名前。『佐倉 翼』と『佐倉 舞』はどうかな?」
「つばさと、まい?」
「そう。自分の翼で大きくのびのびと羽ばたく子に、そして、舞うように生き生きと人生を輝かせる子に」
「わあ…」
大和の言葉に、恵真はうっとりと微笑む。
「とっても良いお名前!素敵です」
「気に入ってくれるかな?この子達も」
「ええ、きっと。私達の想いが込もったお名前ですもの」
「そうだといいな」
二人で赤ちゃんに呼びかける。
「翼、舞。元気に大きくなるんだぞ」
「一緒にたくさん幸せになろうね。翼、舞」
大和と恵真は、もう一度顔を見合わせて微笑んだ。
◇
次の日。
恵真は朝から痛みに耐えていた。
(うー、痛い。麻酔が切れるとこんなに痛いのね)
検温や検査に来てくれる看護師にも言えずに、一人でじっと耐える。
「佐倉さん、今日から少しずつ身体を起こして歩いてみましょう」
(えー?!こんなに痛いのに?)
とは言えず、はいと頷いて、まずはゆっくりベッドから降り、トイレに行く。
「うん、大丈夫そうですね。歩けそうなら少しずつ歩いてくださいね。今日から柔らかいお粥も食べられますよ」
「は、はい」
「赤ちゃんは新生児室でお預かりしていますが、ご主人がいらしたら、お部屋に連れて来ますね」
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言ったが、看護師が出て行くと、一気に顔をしかめる。
(うー、痛いよー)
すると、ノックの音がしてスライドドアが開いた。
「恵真、おはよう…。どうした?!」
笑顔で病室に入って来た大和が、恵真の顔を見るなりベッドに駆け寄って来る。
「恵真、痛むの?」
「あ、ううん、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう?すぐに看護師さんを呼ぶから」
大和はナースコールを押す。
「佐倉さん、どうしました?」
「痛みが酷いみたいです」
「あら、そうだったんですね。今、背中のチューブの痛み止めを追加しますね」
処置をしてもらうと、すーっと痛みが引いて、恵真はホッと息をつく。
「我慢せずに教えてくださいね。痛み止めのお薬もありますから」
「はい、ありがとうございます」
看護師が出て行くと、大和が真剣な顔で恵真の表情を覗き込む。
「恵真、我慢する必要ないから。痛い時はちゃんと言うんだよ」
はい、と恵真は頷く。
「でも良かった、大和さんが来てくれて…」
気が緩んだ途端、泣きそうになる。
「まったくもう。恵真は何でも頑張り過ぎる。もっとわがままになっていいんだよ」
「そんな、ママなのにわがままなんて…」
「あはは!それ、ダジャレ?わがママって…」
「ち、違います!」
おかしそうに笑い続ける大和に、恵真もふっと笑みを洩らす。
(さっきまで痛くて、一人で泣きそうになってたのに。大和さんがそばにいてくれるだけで安心する)
その時、失礼しまーすと、助産師がベビーコットを押して入って来た。
「ご主人いらしてるから、双子ちゃんお連れしましたよ」
「ありがとうございます!」
大和は嬉しそうに立ち上がり、ベビーコットを恵真の近くまでコロコロと移動させる。
「わー、今日も可愛いなあ」
目尻を下げる大和に、助産師が笑う。
「そんなに赤ちゃんお好きなら、パパさんがおむつ替えしてみますか?」
「え、いいんですか?!」
「もちろん。今ご説明しますね。私が妹さんのおむつを替えるので、パパさんはお兄ちゃんをお願いします」
「はい」
大和は真剣に助産師の手元を見ながら、真似をして翼のおむつを替える。
「赤ちゃんの股関節に気をつけて、足を無理に上げないように…。おしり拭きで優しく拭いて。そうそう、上手ですよ」
「出来た!」
「はい、ばっちりです。そしたら、交換した時間をこの表に記入してくださいね」
ベビーコットに付けられた紙に、大和は時間を書き込む。
「じゃあ、今後もこんな感じで、パパさんおむつ替えお願いしますね」
「分かりました!」
助産師が出て行くと、恵真は大和に笑いかける。
「大和さん、凄い。私もまだやってないのに」
「へへーん。なんか嬉しいな。恵真よりも一歩リード出来たぞ」
「えー、なんだか悔しい」
「まあまあそう言わず。おむつ替えは俺に任せなさい!」
勝ち誇ったように胸を反らす大和に、恵真も思わず笑ってしまう。
「そう言えば大和さん、Show Upは?間に合いますか?」
大和は今日からまた乗務する予定だった。
「ああ、13時だからまだ大丈夫。夜は面会に来られないけど、明日また朝から来るよ」
「無理しないでくださいね」
「無理なんかじゃないよ。俺がみんなに会いたいの」
その後もしばらく、写真を撮ったりおしゃべりを楽しむ。
「あ!私、まだ彩乃さんやこずえちゃんにも報告してなくて…。心配させちゃってるかも」
恵真は双子の写真と一緒に、メッセージを送る。
『ご報告が遅れてごめんなさい。
昨日、無事に双子が産まれました。
母子共に元気です。
男の子の「佐倉 翼」と女の子の「佐倉 舞」です。
どうぞよろしくお願いします!』
するとすぐに彩乃から返事が来る。
『恵真さん、大和さん
おめでとうございます!
昨日からソワソワとご報告をお待ちしていました。
恵真さんも赤ちゃんも元気で、本当に良かったです。
翼くん、舞ちゃん、良いお名前ね。
それにとっても可愛い!
翼くんは大和さん似で、舞ちゃんは恵真さんに似てる!
早く会いたいなあ。
恵真さん、まずはゆっくり身体を休めてくださいね。
またお会い出来る日を楽しみにしています!』
彩乃らしい、丁寧な返事に恵真も嬉しくなる。
こずえはどうやら隙間時間に読んだらしく、短い文が興奮気味に送られてきた。
『きゃー、可愛い!恵真、お疲れ様。
なんて可愛い双子ちゃん!翼くんと舞ちゃん!素敵な名前!あー、早く会いたい。伊沢にも転送するね。今から飛んで来ます。またあとでゆっくり写真見るー。可愛すぎるー』
(ふふっ、こずえちゃんらしい)
恵真は、行ってらっしゃい!良いフライトを、と返信した。
その後も楽しく家族四人で過ごし、大和はまたおむつ替えをしてから、乗務に向かった。
大和を見送ってから、恵真は思い立って育児日記を開く。
昨日の出産の様子など、忘れないうちに書き留めておいた。
しばらくすると助産師が来て、恵真は初めて母乳をあげてみることになった。
「最初は上手くいかなくて当たり前よ。ママも赤ちゃんも練習だと思って。少しずつ母乳も出るようになるからね」
「はい」
「じゃあ少しミルクを足してあげましょう」
授乳クッションを使い、恵真は佐々木達からプレゼントでもらった赤ちゃん枕を腕にはめてミルクをあげる。
「わあ、可愛い」
枕に頭を載せ、翼も舞も、両手をグーにしてンクンクとミルクを一生懸命飲む。
「飲ませたらママの肩の上に頭を載せて、縦に抱っこしてげっぷをさせるの」
舞は、小さくケプッとするのに対して、翼は既におじさんのようにゴフッと豪快なげっぷをする。
恵真は思わず笑ってしまった。
そして改めて恵真もおむつ替えを教わる。
「男の子と女の子は、拭き方も違うからね。そうそう、上手」
最後に表に、母乳とミルク、おむつ替えをした時間を記入した。
「ミルクは飲んだ量も書いてね。はい、これで大丈夫。じゃあ今日からママは、柔らかいお粥から食事を始めるわね」
身体はまだ痛むものの、可愛い二人のお世話をするのは新鮮で楽しく、一日はあっという間に過ぎていった。
◇
「おはよう、恵真。おっ、もう二人とも来てたんだ」
翌朝、面会時間になるとすぐに大和が病室に現れる。
今日は恵真の朝食後に、双子を部屋に連れて来てもらっていた。
「大和さん、おはようございます。ほら、パパが来てくれましたよー」
恵真はベビーコットの二人に声をかける。
大和も早速二人を覗き込んだ。
「どれどれ。おー、今日も可愛いな。おはよう!翼、舞」
二人を順番に抱っこして、大和は満面の笑みを浮かべる。
「昨日さ、出社したらもう大変だったよ。会う人会う人に、おめでとうございます!写真見せてください!って。最初は良かったんだけど、だんだんブリーフィングも迫ってくるし、着替えもままならなくて。もう最後は、野中さんと伊沢に任せたんだ。二人とも、はいはい、可愛い双子ちゃんの写真はこちらでーす!って、自分のスマホで見せてくれて」
あはは!と恵真は声を上げて笑う。
「なんだか想像出来ます。今度お礼を言っておかないと」
「そうだな」
しはらくすると、助産師がやって来た。
「せっかくだからパパとママで沐浴をやってみますか?」
「え、はい!やりたいです」
大和が嬉しそうに返事をする。
「双子ちゃんだからね。ママ一人じゃ大変だもの。パパもひと通り覚えてもらえると助かります」
「はい、頑張ります」
ベビーコットを押しながら、沐浴の部屋に移動する。
「じゃあ、まずは準備から始めましょう。お湯の温度は、ぬるめです。温度計があれば38度前後で。なければ、肘を入れて確かめてください」
2つ並べたベビーバスに、恵真と大和はそれぞれお湯を張り、温度を確かめる。
「沐浴に使うベビーソープとガーゼは、ベビーバスの横に置いておきます。それから、沐浴後に着せる肌着とロンパースも、袖を通して前を開いた状態で、おむつも載せてセットしておきます。バスタオルも広げて置いておきましょう。ではいよいよ、赤ちゃんの服を脱がせますよー。まず前を開いたら、びっくりさせないようにガーゼを身体に載せます」
助産師がお人形でやってみせるのを、恵真も大和も真剣に見ながら真似をする。
こういう時、恵真は舞を、大和が翼を担当するのが、暗黙のルールになっていた。
「赤ちゃんの頭とお尻をしっかり支えて、ゆっくりとお尻からお湯の中に入れていきます。少しずつ、ゆっくりですよー」
お尻にお湯が触れると、舞も翼も目をぱっちりさせて、何が始まったの?というような顔をする。
やがてお腹までお湯に浸かると、ほわーっと気持ち良さそうな顔をした。
「ふふ、可愛い」
「そうだな。極楽だーみたいな顔してる」
しばらくそのままお湯に慣れさせていると、二人とも身体をのびのび開くのが分かった。
「では、そろそろ身体を洗っていきましょう。片手で頭を支えます。その時、耳にお湯が入らないように、押さえられそうなら押さえてください。あら、さすがパパ。上手ですね」
手が大きい大和は、難なく翼の両耳を片手で押さえるが、恵真は四苦八苦した。
「無理そうなら大丈夫ですよ。では、お尻を支えていた手を離します。もし不安定なら、赤ちゃんのお尻をベビーバスの底に付けちゃっていいです。首から上はお湯から出してあげてくださいね。そしたら片手でベビーソープのポンプを押して、泡で洗っていきますよ」
赤ちゃんの首周り、脇の下、手首足首、お尻や頭など、優しく手で洗っていく。
「お顔は、ガーゼを使って洗います。目や口に泡が入らないように気をつけながら、そうそう」
最後にしっかりすすぐと、赤ちゃんをバスタオルに載せてすぐに包んだ。
「はい、あとは優しく身体と頭を拭いて、着替えの上に移動させます。おむつをつけたら、袖を通して肌着の紐を結びましょう。そして綿棒を使って、おへそや耳の中の水分も優しく取ります。いいですね。ロンパースの前を留めたら終了です!」
二人はホッとして肩の力を抜く。
「出来た!」
「わー、きれいになったね」
それぞれ赤ちゃんを抱き上げた。
「気持ち良かったか?」
「んー、いい香りがする」
翼も舞も、目をトロンとさせている。
「沐浴を終えると、赤ちゃんはお風呂上がりの心地よさに良く眠ってくれますよ」
助産師の言葉通り、少し揺らして抱っこしているうちに、二人とも眠ってしまった。
病室に戻り、しばらく二人の寝顔を見ていた大和は、腕時計に目を落とす。
「さてと。名残惜しいけど、そろそろ行かないとな」
「はい」
「恵真も、二人が寝ているうちにゆっくり休んでね」
「大和さんも、フライトお気をつけて」
「ありがとう。行ってくる」
大和は恵真の頬にキスをしてから、ふっと笑って恵真の顔を覗き込む。
「恵真、顔が真っ赤だよ」
「だ、だって!こんな、病院で…」
「ははっ!ママになっても可愛いな、恵真」
「大和さん!もう…」
あはは!と笑いながら、翼と舞にも、行ってくるな、と声をかけて、ようやく大和は病室を出ていった。
◇
次の日も、乗務の前に面会に来た大和と一緒に、双子にミルクをあげたり、沐浴やおむつ替えをする。
その次の日は大和がオフで、一日中二人でゆっくりと話をしながら双子のお世話をした。
日に日に二人とも育児に慣れてきて、これなら退院後もなんとかなりそう、と恵真は安心する。
母乳も少しずつ出るようになり、特に翼は飲むのが上手で、追加のミルクの量も少しでよくなってきた。
今のところ、翼も舞も、お腹が空いた時しか泣いたりぐずったりせず、満腹になれば2時間はしっかり寝てくれるので、恵真もその間は昼寝が出来た。
合間に育児日記を書いたり、オルゴールを聴いたり、彩乃やこずえとメッセージのやり取りをする。
そして両家の両親が赤ちゃんと初対面する、11月10日がやって来た。
恵真の両親は前日に長野から上京し、二人が結婚式を挙げたホテルに泊まっていた。
大和の両親も朝そこで合流し、勤務前の大和が車で四人を病院に連れて来た。
「こんにちはー…」
控えめに病室に入って来た両家の両親は、まず恵真におめでとう!と声をかける。
「双子ちゃんの妊娠も出産も、大変だったでしょう?体調はどう?」
「はい。もうかなり良くなりました」
「そう?でも無理しないでね」
「ありがとうございます」
気遣ってくれる大和の母に笑顔で答えてから、恵真はベビーコットに皆を促した。
「赤ちゃん、抱っこしてあげてください」
「わあ!いいの?」
「ええ、もちろんです」
四人は手を洗ってから、いそいそとベビーコットを取り囲む。
「まあ!なんて可愛らしいの」
「ひゃー、小さくてまさに天使ね」
「恵真ちゃんにそっくりな女の子だな」
「男の子は大和さんに似てますね」
「翼くーん、舞ちゃーん。じいじとばあばですよー」
さっき授乳したばかりでご機嫌な翼と舞は、パタパタと手足を動かしている。
恵真は翼を抱き上げると、大和の母に、そして大和が舞を抱き上げて恵真の母に抱かせた。
「わあ…、緊張する」
「ほんと。ああ、もう感動で胸がいっぱい」
「なんだか涙が出ちゃう」
「ええ。孫ってこんなに可愛いのね」
父親達も、横から手を伸ばしてそっと赤ちゃんの頬に触れる。
「なんて可愛いんだ。孫の顔が見られるなんて、もう夢のようで…」
「あなた!また泣いてる?」
涙もろい大和の父は、誰よりも早く涙を溢れさせた。
「この歳になって、こんな幸せな日が来るなんて。大和の結婚も諦めてたのに、可愛いお嫁さんが来てくれて、更にこんなに可愛い赤ちゃんが二人も!」
「親父、毎回おんなじ事言ってるぞ」
あはは!と皆で笑い合う。
出産のお祝いと言って、両親達はたくさんの贈り物を持って来てくれていた。
お揃いのベビー服やおもちゃを広げながら、母親同士、嬉しそうに話をする。
「もうお店で選ぶのが楽しくて!だって、男の子と女の子、両方選べるんだもの」
「そうよね!ペアルックも可愛いし、特に女の子のフリフリのお洋服!私、大和の時は買えなかったから、もう嬉しくて嬉しくて!」
「私も。男の子の服や車のおもちゃ、恵真の時は買えなかったから、なんだか新鮮で」
ベビー服を一枚一枚広げては、父親達が抱いている赤ちゃんに合わせてみる。
「似合う似合う!可愛いわあ」
たくさん写真を撮り、結局両親達がいる間、翼も舞も一度もベビーコットに寝かされる事はなかった。
あんまり長居しても悪いから、と、両親達は大和の勤務に合わせて一緒に出る事になった。
「藤崎さん、ホテルでランチご一緒しません?」
「ええ、いいですね。写真の見せ合いっこしましょう」
「たくさん撮ったものね。みんなでじっくり見ましょうか」
名残惜しそうに翼と舞を抱いてから、四人はワイワイと出ていく。
最後に大和が恵真を振り返った。
「じゃあね、恵真。またあとでメッセージ送る」
「ええ。父と母の送迎も、ありがとうございます」
大和は微笑んで頷くと、皆の後を追って出ていった。
「ふう、まるで嵐が去ったあとみたいね」
恵真はひと息をつくと、ベビーコットの二人を覗き込む。
「びっくりした?ゆっくり寝てね、翼、舞」
ふわあ…とあくびをする二人に、恵真はふふっと微笑んだ。
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