優しい雨が降る夜は

葉月 まい

文字の大きさ
17 / 17

雨に祝福されて

一度別れて大浴場を満喫し、部屋に戻る途中で優吾はあるからくり箱を購入した。

部屋で待っていると、しばらくして美月が戻って来て、二人でワインで乾杯する。

美月はすぐに頬を赤く染めてほろ酔いになった。

「これ以上飲むと酔いつぶれそうだな。そろそろ寝ようか」

美月の手を引いて、優吾は寝室に向かった。

ベッドで抱きしめると、美月は目を潤ませて優吾を見上げる。

「人生で、こんなにも緊張することってあるの?」

優吾はそんは美月に優しく微笑んだ。

「大丈夫、なにも心配しないで。俺は必ず美月を大切にするから。約束する」
「私は? どうすればいい?」
「黙って俺に甘えてな」
「ううっ……、胸がキュンキュンする」
「ふっ、俺もだよ」

優吾は美月の瞳を覗き込み、そっと頬にキスをする。

「美月、愛してる」

ささやきながら、耳元に首筋に、何度もキスを浴びせた。

「私も、あなたが好き……。あの、恥ずかしいから、ギュッてしてもいい?」
「いいよ、おいで」

笑いかけると、美月は両腕を伸ばして優吾にギュッと抱きついた。

「可愛いな、美月」

優吾も美月を抱きしめながら、さり気なく美月の浴衣の帯を解く。

はだけた胸元にチュッとキスをすると、肩先に唇をくぐらせながら、スルリと浴衣を脱がせた。

「美月……綺麗だ」

なめらかでみずみずしい美月の素肌は、一度触れたら止められない。

優吾は美月の身体に溺れるようにあちこちに口づけ、肌の隅々まで手を滑らせた。

「恥ずかしいけど、気持ちいいの。優吾さんに触れられると」
「それなら良かった」
「こんなの、優吾さんじゃなきゃ無理なの。他の人になんて、絶対に無理」
「もちろん。美月に触れていいのは俺だけだ」
「うん、良かった。優吾さんで本当に良かった」

美月は徐々に高まる感覚に耐えるように、ギュッと優吾にしがみつく。
 
「あっ、ん……、優吾さん。なにか、変なの」
「大丈夫だよ。そのまま俺に身体を委ねてて」
「はい。でも、あっ、なにかが……どうしよう、あっ、んんっ!」

美月は優吾に抱きついまま、身体をピクンと跳ねさせる。

やがて高まりが落ち着くと、美月はクタリと優吾の胸に身体を預けた。
  
「美月、大丈夫?」
「うん。でもまだ……、身体が、ピクってしちゃう」
「美月がこんなにも色っぽいなんて。俺以外の誰にもそんな顔見せるなよ?」 
「優吾さん、あっ、だめ。また触れられたら……んん!」

腕に抱いた美月の身体がしなやかに震え、優吾の余裕は根こそぎ奪われる。

「美月、俺の美月。最高に綺麗だ」

自身の浴衣を脱ぎ捨て、直接肌と肌を重ねる。

それだけでとろけそうになり、互いの境界線も分からなくなった。

「美月……」

ゆっくりゆっくり、優吾は愛を注ぐように優しく美月と繋がる。

「優吾さん……」

美月が甘い吐息をもらし、潤んだ瞳で優吾を見つめた。

「美月……愛してる」

そこから先は込み上げる激情のまま、優吾はひと晩中美月を抱きしめて離さなかった。



翌日。
二人は和室からのんびりと、窓の外に広がる雨模様の景色を眺める。

「なんだか風情があっていいですね」
「そうだな。あとで露天風呂に入ったら?」
「そうですね」
「俺と一緒に」
「はい。って、ええ?」

美月の反応に笑ってから、優吾はポケットに手を入れて、真四角のからくり箱を取り出した。

「美月、見て」
「からくり箱? わあ、ハートが上に載ってて可愛い」
「美月が作った時と同じで、仕掛けは7回。開けられる?」
「もちろん」

受け取った美月は「えっと、確か……」と言いながら、カチカチと板をスライドさせる。

「開いた!」
「じゃあ、中を見てみて」
「はい。……え?」

箱の中を覗き込んだ美月は、驚いて動きを止める。

中にはキラキラとまばゆい輝きを放つ、ダイヤモンドの指輪が入っていた。

「どうした? 美月」
「ゆ、優吾さん。とんでもないものが入ってるの」

優吾は笑いながらからくり箱を受け取り、美月に向き直った。

「美月。美月はこのからくり箱に似てる。奥ゆかしくて凛としていて、気安く触れたり出来なかった。だけどからくり箱のパズルを組み合わせるように、君と少しずつ心を重ねていったら、君の本当の姿を見つけられた。優しくて温かくて、子どもみたいに無邪気で、抱きしめると恥ずかしそうに頬を染めて。 俺のことを大好きだと言って、真っ直ぐに見つめてくれる。万華鏡のように色んな魅力に溢れている。そんな美月が、俺は誰よりも大切で愛おしい」

美月の瞳は、みるみるうちに涙で潤む。

「美月、どうかこれからも俺のそばにいてほしい。結婚しよう」

遂に美月は、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

優吾はそっと手を伸ばして、綺麗な美月の涙を拭う。

「返事を聞かせてくれる?」

すると美月は、優吾を見つめたまま首を振った。

「美月?」
「だって、そんな。私なんかがあなたと結婚なんて……。嬉しいけどだめなの」
「どうしてだめなんだ?」
「あなたはかっこいいし、背が高いイケメンだし、おまけにかっこいいし」
「……美月、同じこと言ってる」
「だって大事なことだから。かっこよくて、優しくて、仕事も出来るし英語も出来る。スマートなエリートのあなたと、地味子で浮世離れした平安と平成を間違えて生まれてきた私が、釣り合う訳ないでしょう?」
「美月、面白すぎて内容が頭に入って来ない」

そう言うと優吾は両手で美月を抱きしめた。

「俺は美月がいいんだけどなあ」
「私もあなたがいいの」
「じゃあ、なにも問題ないだろ?」
「それが大いにあるの」
「まったく……頑固だな。それならこうしよう」

手を解いた優吾を、え?と美月は見上げる。

優吾はポケットからもう1つ、ハートの形のからくり箱を取り出した。

「美月、このハートは真ん中で2つに分かれてる。どちらも開けることが出来たら、結婚しよう」

ええ!?と美月は、驚いて仰け反る。

「開けられたら、美月は俺と結婚する運命なんだ。神様がそう決めた」
「そうなの? じゃあ、絶対に開けてみせる! 私、優吾さんと結婚したい。優吾さんじゃなきゃだめなんだもん」

それなら素直に頷けばいいのに、と苦笑いしつつ、優吾は真剣にからくり箱を試す美月を見守った。

「えっと、このままだと全く動かないから……。仕掛けの板がどこかにあるはずよね?  ううん、どこも開かない。どうしよう……優吾さんと結婚したいのに。お願い、神様」

祈るように呟きながら、美月は懸命に考えを巡らせている。

「美月、このハートは俺達二人の心だよ」
「私達二人の、心?」
「ああ、そうだよ」

美月はじっと、左右に分けたハートの欠片を見つめた。

「それなら、分けてはだめね」

そう言って左右の欠片をカチッとはめ合わせ、ハートを1つにする。

「ここから仕掛けが動いてくれれば……あ、動いた!」

ハートの右半分が少し下にずれ、美月はそっと指を滑らせながら探る。

すると蓋がスッと上にスライドした。

「開いた! 優吾さん、開いたよ」
「ああ、やったな。もう半分は?」
「待ってね。えっと、一度ハートをもとに戻して、そこから今度はこっち側の仕掛けを……。開いた! やったー!」

美月は満面の笑みで優吾に抱きつく。

「優吾さん、開いたよ。これで私、優吾さんと結婚出来る?」
「ああ。結婚しよう、美月。神様のおぼしめしだからな」
「はい!」

笑顔を輝かせる美月にクスッと笑ってから、優吾は真四角のからくり箱から指輪を取り出す。

美月の左手をすくい、薬指にゆっくりとはめた。

「なんて綺麗なの……」
「よく似合ってる、美月。美空ちゃんがサイズを教えてくれたんだ」
「そうなのね。私の知らない間に、こんなに素敵な指輪を用意してくれてたなんて。ありがとう、優吾さん」
「どういたしまして。美月、今度は一緒に指輪を選びに行ってくれる?」  
 
え?と首をかしげる美月に、優吾はハート形のからくり箱を差し出した。

「右側に美月の、左側に俺の指輪を入れるんだ。結婚式で交換する、マリッジリング」 

美月はパッと笑顔を弾けさせ、ギュッと優吾に抱きつく。

「素敵! もう、大好き!」
「ははは! これで結婚しないなんて、二度と言わせないからな?」
「うん! 二度と言わない。絶対に結婚する」
「よし」

優吾は美月の頭をクシャッとなでてから、熱い口づけを贈った。



夜になると、二人はウッドデッキのベンチに並んで座り、名残りを惜しむ。
しとしとと雨が降り続いていた。

「明日には帰るなんて、なんだか寂しいな」
「また何度でも来ればいいよ」 
「そうですね」
「それにしても、よく降るな。せっかくの旅行なのに」

優吾がそう言うと、美月はポツリと呟いた。

「いつも大切な時に雨が降るの」
「え?」

美月は優吾を見て優しく微笑む。

「雨が降る度に思い出すの。あなたと出逢った時のことや、雨に打たれた私を心配してくれた時のあなたの温かい眼差し。雨の音は気持ちを落ち着かせてくれて、雨を含んだ空気は傷ついた心を包み込んでくれる。雨には、あなたとの思い出がたくさんあるの」

じっと耳を傾けてから、優吾も頷いた。

「そうだな。俺も雨と一緒に思い出すよ、美月との大切な思い出を」

そしてまた、二人で雨の空を見上げる、

「結婚式も降るかな?」
「ふふっ、うん。雨に祝福されたい」
「そうだな」

美月は改めて優吾を見つめた。

「優吾さん、いつもたくさんの優しさをありがとう」

優吾も美月に微笑み返す。 

「こちらこそ。あの雨の日に美月に出逢えて良かった。美月が傘に入れてくれて、そこから俺達は始まったから」
「ふふっ、確かに。雨の神様、ありがとう」
「さり気なく傘に入れてくれた美月に、ありがとう」

二人で見つめ合って笑い合う。

「これから先も、二人でたくさんの思い出を作ろうな」
「はい。あなたとなら、幸せな思い出がたくさん増えます」
「俺もだよ、美月」

優吾はそっと美月を抱き寄せ、優しくキスをする。

祝福するかのように、雨の音がそんな二人を包み込んでいた。



翌年。
美空と光太郎の結婚から3ヶ月後の6月。

美月と優吾の結婚式が執り行われた。

幸せで胸をいっぱいにさせながら愛を誓い合い、ハートのからくり箱のマリッジリングを交換する。

純白のウェディングドレスに身を包み、涙で潤んだ瞳で見上げる美月に、優吾は優しく微笑んだ。

「美月、誰よりも君を愛している。必ず君をこの手で幸せにしてみせる」
「私も、世界で一番あなたが好きです。私もあなたを幸せにしたい」

見つめ合うと、優吾はそっと美月のベールを上げて、肩を抱き寄せる。

想いを込めて、優吾は優しく美月に口づけた。

愛に満ちたウェディングキスに、二人の胸は打ち震える。

いつまでも心に残る瞬間。
二人の大切な思い出が、また1つ増えた。

「おめでとう、お姉ちゃん、優吾さん」
「おめでとう、優吾、つきちゃん」

「おめでとう、風間さん」
「おめでとう、美月ちゃん」

「おめでとう、スーザン姉さん、優吾さん」

フラワーシャワーを浴びて、二人は心からの笑顔を浮かべる。

ずっとずっと忘れない。
この日のこの感動を。

そして必ず幸せにする。 
誰よりも大切なこの人を。

美月と優吾はそう心に誓い、見つめ合った。

家族、友人、そして優しい雨の祝福を受けながら……

(完)
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜

葉月 まい
恋愛
テーマパーク運営会社の広報課で働く同期の二人、めぐと弦は、あとを絶たずに告白される煩わしさから、恋人同士のフリをする「恋人同盟」を結んでいる。 あくまでフリ。 どちらかに好きな人が出来たらこの関係は終わる。 そう割り切っていたのだが…… ═•-⊰❉⊱•登場人物•⊰❉⊱•═ 雪村 めぐ(25歳) …テーマパーク「グレイスフル ワールド」運営会社 広報課 氷室 弦(25歳) …めぐと同じ部署の同期

ヒロインになれませんが。

橘しづき
恋愛
 安西朱里、二十七歳。    顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。  そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。    イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。    全然上手くいかなくて、何かがおかしい??

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー たとえ好きになっても 気持ちを打ち明けるわけにはいかない それは相手を想うからこそ… 純粋な二人の恋物語 永遠に続く六日間が、今、はじまる…

花咲くように 微笑んで 【書籍化】

葉月 まい
恋愛
初恋の先輩、春樹の結婚式に 出席した菜乃花は ひょんなことから颯真と知り合う 胸に抱えた挫折と失恋 仕事への葛藤 互いの悩みを打ち明け 心を通わせていくが 二人の関係は平行線のまま ある日菜乃花は別のドクターと出かけることになり、そこで思わぬ事態となる… ✼•• ┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈••✼ 鈴原 菜乃花(24歳)…図書館司書 宮瀬 颯真(28歳)…救急科専攻医