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雨に祝福されて
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一度別れて大浴場を満喫し、部屋に戻る途中で優吾は1つのからくり箱を購入した。
部屋で待っていると、しばらくして美月が戻って来て、二人でワインで乾杯する。
美月はすぐに頬を赤く染めてほろ酔いになった。
「これ以上飲むと酔いつぶれそうだな。そろそろ寝ようか」
美月の手を引いて、優吾は寝室に向かった。
ベッドで抱きしめると、美月は目を潤ませて優吾を見上げる。
「人生で、こんなにも緊張することってあるの?」
優吾はそんは美月に優しく微笑んだ。
「大丈夫、なにも心配しないで。俺は必ず美月を大切にするから。約束する」
「私は? どうすればいい?」
「黙って俺に甘えてな」
「ううっ……、胸がキュンキュンする」
「ふっ、俺もだよ」
優吾は美月の瞳を覗き込み、そっと頬にキスをする。
「美月、愛してる」
ささやきながら、耳元に首筋に、何度もキスを浴びせた。
「私も、あなたが好き……。あの、恥ずかしいから、ギュッてしてもいい?」
「いいよ、おいで」
笑いかけると、美月は両腕を伸ばして優吾にギュッと抱きついた。
「可愛いな、美月」
優吾も美月を抱きしめながら、さり気なく美月の浴衣の帯を解く。
はだけた胸元にチュッとキスをすると、肩先に唇をくぐらせながら、スルリと浴衣を脱がせた。
「美月……綺麗だ」
なめらかでみずみずしい美月の素肌は、一度触れたら止められない。
優吾は美月の身体に溺れるようにあちこちに口づけ、肌の隅々まで手を滑らせた。
「恥ずかしいけど、気持ちいいの。優吾さんに触れられると」
「それなら良かった」
「こんなの、優吾さんじゃなきゃ無理なの。他の人になんて、絶対に無理」
「もちろん。美月に触れていいのは俺だけだ」
「うん、良かった。優吾さんで本当に良かった」
美月は徐々に高まる感覚に耐えるように、ギュッと優吾にしがみつく。
「あっ、ん……、優吾さん。なにか、変なの」
「大丈夫だよ。そのまま俺に身体を委ねてて」
「はい。でも、あっ、なにかが……どうしよう、あっ、んんっ!」
美月は優吾に抱きついまま、身体をピクンと跳ねさせる。
やがて高まりが落ち着くと、美月はクタリと優吾の胸に身体を預けた。
「美月、大丈夫?」
「うん。でもまだ……、身体が、ピクってしちゃう」
「美月がこんなにも色っぽいなんて。俺以外の誰にもそんな顔見せるなよ?」
「優吾さん、あっ、だめ。また触れられたら……んん!」
腕に抱いた美月の身体がしなやかに震え、優吾の余裕は根こそぎ奪われる。
「美月、俺の美月。最高に綺麗だ」
自身の浴衣を脱ぎ捨て、直接肌と肌を重ねる。
それだけでとろけそうになり、互いの境界線も分からなくなった。
「美月……」
ゆっくりゆっくり、優吾は愛を注ぐように優しく美月と繋がる。
「優吾さん……」
美月が甘い吐息をもらし、潤んだ瞳で優吾を見つめた。
「美月……愛してる」
そこから先は込み上げる激情のまま、優吾はひと晩中美月を抱きしめて離さなかった。
◇
翌日。
二人は和室からのんびりと、窓の外に広がる雨模様の景色を眺める。
「なんだか風情があっていいですね」
「そうだな。あとで露天風呂に入ったら?」
「そうですね」
「俺と一緒に」
「はい。って、ええ?」
美月の反応に笑ってから、優吾はポケットに手を入れて、真四角のからくり箱を取り出した。
「美月、見て」
「からくり箱? わあ、ハートが上に載ってて可愛い」
「美月が作った時と同じで、仕掛けは7回。開けられる?」
「もちろん」
受け取った美月は「えっと、確か……」と言いながら、カチカチと板をスライドさせる。
「開いた!」
「じゃあ、中を見てみて」
「はい。……え?」
箱の中を覗き込んだ美月は、驚いて動きを止める。
中にはキラキラとまばゆい輝きを放つ、ダイヤモンドの指輪が入っていた。
「どうした? 美月」
「ゆ、優吾さん。とんでもないものが入ってるの」
優吾は笑いながらからくり箱を受け取り、美月に向き直った。
「美月。美月はこのからくり箱に似てる。奥ゆかしくて凛としていて、気安く触れたり出来なかった。だけどからくり箱のパズルを組み合わせるように、君と少しずつ心を重ねていったら、君の本当の姿を見つけられた。優しくて温かくて、子どもみたいに無邪気で、抱きしめると恥ずかしそうに頬を染めて。 俺のことを大好きだと言って、真っ直ぐに見つめてくれる。万華鏡のように色んな魅力に溢れている。そんな美月が、俺は誰よりも大切で愛おしい」
美月の瞳は、みるみるうちに涙で潤む。
「美月、どうかこれからも俺のそばにいてほしい。結婚しよう」
遂に美月は、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
優吾はそっと手を伸ばして、綺麗な美月の涙を拭う。
「返事を聞かせてくれる?」
すると美月は、優吾を見つめたまま首を振った。
「美月?」
「だって、そんな。私なんかがあなたと結婚なんて……。嬉しいけどだめなの」
「どうしてだめなんだ?」
「あなたはかっこいいし、背が高いイケメンだし、おまけにかっこいいし」
「……美月、同じこと言ってる」
「だって大事なことだから。かっこよくて、優しくて、仕事も出来るし英語も出来る。スマートなエリートのあなたと、地味子で浮世離れした平安と平成を間違えて生まれてきた私が、釣り合う訳ないでしょう?」
「美月、面白すぎて内容が頭に入って来ない」
そう言うと優吾は両手で美月を抱きしめた。
「俺は美月がいいんだけどなあ」
「私もあなたがいいの」
「じゃあ、なにも問題ないだろ?」
「それが大いにあるの」
「まったく……頑固だな。それならこうしよう」
手を解いた優吾を、え?と美月は見上げる。
優吾はポケットからもう1つ、ハートの形のからくり箱を取り出した。
「美月、このハートは真ん中で2つに分かれてる。どちらも開けることが出来たら、結婚しよう」
ええ!?と美月は、驚いて仰け反る。
「開けられたら、美月は俺と結婚する運命なんだ。神様がそう決めた」
「そうなの? じゃあ、絶対に開けてみせる! 私、優吾さんと結婚したい。優吾さんじゃなきゃだめなんだもん」
それなら素直に頷けばいいのに、と苦笑いしつつ、優吾は真剣にからくり箱を試す美月を見守った。
「えっと、このままだと全く動かないから……。仕掛けの板がどこかにあるはずよね? ううん、どこも開かない。どうしよう……優吾さんと結婚したいのに。お願い、神様」
祈るように呟きながら、美月は懸命に考えを巡らせている。
「美月、このハートは俺達二人の心だよ」
「私達二人の、心?」
「ああ、そうだよ」
美月はじっと、左右に分けたハートの欠片を見つめた。
「それなら、分けてはだめね」
そう言って左右の欠片をカチッとはめ合わせ、ハートを1つにする。
「ここから仕掛けが動いてくれれば……あ、動いた!」
ハートの右半分が少し下にずれ、美月はそっと指を滑らせながら探る。
すると蓋がスッと上にスライドした。
「開いた! 優吾さん、開いたよ」
「ああ、やったな。もう半分は?」
「待ってね。えっと、一度ハートをもとに戻して、そこから今度はこっち側の仕掛けを……。開いた! やったー!」
美月は満面の笑みで優吾に抱きつく。
「優吾さん、開いたよ。これで私、優吾さんと結婚出来る?」
「ああ。結婚しよう、美月。神様のおぼしめしだからな」
「はい!」
笑顔を輝かせる美月にクスッと笑ってから、優吾は真四角のからくり箱から指輪を取り出す。
美月の左手をすくい、薬指にゆっくりとはめた。
「なんて綺麗なの……」
「よく似合ってる、美月。美空ちゃんがサイズを教えてくれたんだ」
「そうなのね。私の知らない間に、こんなに素敵な指輪を用意してくれてたなんて。ありがとう、優吾さん」
「どういたしまして。美月、今度は一緒に指輪を選びに行ってくれる?」
え?と首をかしげる美月に、優吾はハート形のからくり箱を差し出した。
「右側に美月の、左側に俺の指輪を入れるんだ。結婚式で交換する、マリッジリング」
美月はパッと笑顔を弾けさせ、ギュッと優吾に抱きつく。
「素敵! もう、大好き!」
「ははは! これで結婚しないなんて、二度と言わせないからな?」
「うん! 二度と言わない。絶対に結婚する」
「よし」
優吾は美月の頭をクシャッとなでてから、熱い口づけを贈った。
◇
夜になると、二人はウッドデッキのベンチに並んで座り、名残りを惜しむ。
しとしとと雨が降り続いていた。
「明日には帰るなんて、なんだか寂しいな」
「また何度でも来ればいいよ」
「そうですね」
「それにしても、よく降るな。せっかくの旅行なのに」
優吾がそう言うと、美月はポツリと呟いた。
「いつも大切な時に雨が降るの」
「え?」
美月は優吾を見て優しく微笑む。
「雨が降る度に思い出すの。あなたと出逢った時のことや、雨に打たれた私を心配してくれた時のあなたの温かい眼差し。雨の音は気持ちを落ち着かせてくれて、雨を含んだ空気は傷ついた心を包み込んでくれる。雨には、あなたとの思い出がたくさんあるの」
じっと耳を傾けてから、優吾も頷いた。
「そうだな。俺も雨と一緒に思い出すよ、美月との大切な思い出を」
そしてまた、二人で雨の空を見上げる、
「結婚式も降るかな?」
「ふふっ、うん。雨に祝福されたい」
「そうだな」
美月は改めて優吾を見つめた。
「優吾さん、いつもたくさんの優しさをありがとう」
優吾も美月に微笑み返す。
「こちらこそ。あの雨の日に美月に出逢えて良かった。美月が傘に入れてくれて、そこから俺達は始まったから」
「ふふっ、確かに。雨の神様、ありがとう」
「さり気なく傘に入れてくれた美月に、ありがとう」
二人で見つめ合って笑い合う。
「これから先も、二人でたくさんの思い出を作ろうな」
「はい。あなたとなら、幸せな思い出がたくさん増えます」
「俺もだよ、美月」
優吾はそっと美月を抱き寄せ、優しくキスをする。
祝福するかのように、雨の音がそんな二人を包み込んでいた。
◇
翌年。
美空と光太郎の結婚から3ヶ月後の6月。
美月と優吾の結婚式が執り行われた。
幸せで胸をいっぱいにさせながら愛を誓い合い、ハートのからくり箱のマリッジリングを交換する。
純白のウェディングドレスに身を包み、涙で潤んだ瞳で見上げる美月に、優吾は優しく微笑んだ。
「美月、誰よりも君を愛している。必ず君をこの手で幸せにしてみせる」
「私も、世界で一番あなたが好きです。私もあなたを幸せにしたい」
見つめ合うと、優吾はそっと美月のベールを上げて、肩を抱き寄せる。
想いを込めて、優吾は優しく美月に口づけた。
愛に満ちたウェディングキスに、二人の胸は打ち震える。
いつまでも心に残る瞬間。
二人の大切な思い出が、また1つ増えた。
「おめでとう、お姉ちゃん、優吾さん」
「おめでとう、優吾、つきちゃん」
「おめでとう、風間さん」
「おめでとう、美月ちゃん」
「おめでとう、スーザン姉さん、優吾さん」
フラワーシャワーを浴びて、二人は心からの笑顔を浮かべる。
ずっとずっと忘れない。
この日のこの感動を。
そして必ず幸せにする。
誰よりも大切なこの人を。
美月と優吾はそう心に誓い、見つめ合った。
家族、友人、そして優しい雨の祝福を受けながら……
(完)
部屋で待っていると、しばらくして美月が戻って来て、二人でワインで乾杯する。
美月はすぐに頬を赤く染めてほろ酔いになった。
「これ以上飲むと酔いつぶれそうだな。そろそろ寝ようか」
美月の手を引いて、優吾は寝室に向かった。
ベッドで抱きしめると、美月は目を潤ませて優吾を見上げる。
「人生で、こんなにも緊張することってあるの?」
優吾はそんは美月に優しく微笑んだ。
「大丈夫、なにも心配しないで。俺は必ず美月を大切にするから。約束する」
「私は? どうすればいい?」
「黙って俺に甘えてな」
「ううっ……、胸がキュンキュンする」
「ふっ、俺もだよ」
優吾は美月の瞳を覗き込み、そっと頬にキスをする。
「美月、愛してる」
ささやきながら、耳元に首筋に、何度もキスを浴びせた。
「私も、あなたが好き……。あの、恥ずかしいから、ギュッてしてもいい?」
「いいよ、おいで」
笑いかけると、美月は両腕を伸ばして優吾にギュッと抱きついた。
「可愛いな、美月」
優吾も美月を抱きしめながら、さり気なく美月の浴衣の帯を解く。
はだけた胸元にチュッとキスをすると、肩先に唇をくぐらせながら、スルリと浴衣を脱がせた。
「美月……綺麗だ」
なめらかでみずみずしい美月の素肌は、一度触れたら止められない。
優吾は美月の身体に溺れるようにあちこちに口づけ、肌の隅々まで手を滑らせた。
「恥ずかしいけど、気持ちいいの。優吾さんに触れられると」
「それなら良かった」
「こんなの、優吾さんじゃなきゃ無理なの。他の人になんて、絶対に無理」
「もちろん。美月に触れていいのは俺だけだ」
「うん、良かった。優吾さんで本当に良かった」
美月は徐々に高まる感覚に耐えるように、ギュッと優吾にしがみつく。
「あっ、ん……、優吾さん。なにか、変なの」
「大丈夫だよ。そのまま俺に身体を委ねてて」
「はい。でも、あっ、なにかが……どうしよう、あっ、んんっ!」
美月は優吾に抱きついまま、身体をピクンと跳ねさせる。
やがて高まりが落ち着くと、美月はクタリと優吾の胸に身体を預けた。
「美月、大丈夫?」
「うん。でもまだ……、身体が、ピクってしちゃう」
「美月がこんなにも色っぽいなんて。俺以外の誰にもそんな顔見せるなよ?」
「優吾さん、あっ、だめ。また触れられたら……んん!」
腕に抱いた美月の身体がしなやかに震え、優吾の余裕は根こそぎ奪われる。
「美月、俺の美月。最高に綺麗だ」
自身の浴衣を脱ぎ捨て、直接肌と肌を重ねる。
それだけでとろけそうになり、互いの境界線も分からなくなった。
「美月……」
ゆっくりゆっくり、優吾は愛を注ぐように優しく美月と繋がる。
「優吾さん……」
美月が甘い吐息をもらし、潤んだ瞳で優吾を見つめた。
「美月……愛してる」
そこから先は込み上げる激情のまま、優吾はひと晩中美月を抱きしめて離さなかった。
◇
翌日。
二人は和室からのんびりと、窓の外に広がる雨模様の景色を眺める。
「なんだか風情があっていいですね」
「そうだな。あとで露天風呂に入ったら?」
「そうですね」
「俺と一緒に」
「はい。って、ええ?」
美月の反応に笑ってから、優吾はポケットに手を入れて、真四角のからくり箱を取り出した。
「美月、見て」
「からくり箱? わあ、ハートが上に載ってて可愛い」
「美月が作った時と同じで、仕掛けは7回。開けられる?」
「もちろん」
受け取った美月は「えっと、確か……」と言いながら、カチカチと板をスライドさせる。
「開いた!」
「じゃあ、中を見てみて」
「はい。……え?」
箱の中を覗き込んだ美月は、驚いて動きを止める。
中にはキラキラとまばゆい輝きを放つ、ダイヤモンドの指輪が入っていた。
「どうした? 美月」
「ゆ、優吾さん。とんでもないものが入ってるの」
優吾は笑いながらからくり箱を受け取り、美月に向き直った。
「美月。美月はこのからくり箱に似てる。奥ゆかしくて凛としていて、気安く触れたり出来なかった。だけどからくり箱のパズルを組み合わせるように、君と少しずつ心を重ねていったら、君の本当の姿を見つけられた。優しくて温かくて、子どもみたいに無邪気で、抱きしめると恥ずかしそうに頬を染めて。 俺のことを大好きだと言って、真っ直ぐに見つめてくれる。万華鏡のように色んな魅力に溢れている。そんな美月が、俺は誰よりも大切で愛おしい」
美月の瞳は、みるみるうちに涙で潤む。
「美月、どうかこれからも俺のそばにいてほしい。結婚しよう」
遂に美月は、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
優吾はそっと手を伸ばして、綺麗な美月の涙を拭う。
「返事を聞かせてくれる?」
すると美月は、優吾を見つめたまま首を振った。
「美月?」
「だって、そんな。私なんかがあなたと結婚なんて……。嬉しいけどだめなの」
「どうしてだめなんだ?」
「あなたはかっこいいし、背が高いイケメンだし、おまけにかっこいいし」
「……美月、同じこと言ってる」
「だって大事なことだから。かっこよくて、優しくて、仕事も出来るし英語も出来る。スマートなエリートのあなたと、地味子で浮世離れした平安と平成を間違えて生まれてきた私が、釣り合う訳ないでしょう?」
「美月、面白すぎて内容が頭に入って来ない」
そう言うと優吾は両手で美月を抱きしめた。
「俺は美月がいいんだけどなあ」
「私もあなたがいいの」
「じゃあ、なにも問題ないだろ?」
「それが大いにあるの」
「まったく……頑固だな。それならこうしよう」
手を解いた優吾を、え?と美月は見上げる。
優吾はポケットからもう1つ、ハートの形のからくり箱を取り出した。
「美月、このハートは真ん中で2つに分かれてる。どちらも開けることが出来たら、結婚しよう」
ええ!?と美月は、驚いて仰け反る。
「開けられたら、美月は俺と結婚する運命なんだ。神様がそう決めた」
「そうなの? じゃあ、絶対に開けてみせる! 私、優吾さんと結婚したい。優吾さんじゃなきゃだめなんだもん」
それなら素直に頷けばいいのに、と苦笑いしつつ、優吾は真剣にからくり箱を試す美月を見守った。
「えっと、このままだと全く動かないから……。仕掛けの板がどこかにあるはずよね? ううん、どこも開かない。どうしよう……優吾さんと結婚したいのに。お願い、神様」
祈るように呟きながら、美月は懸命に考えを巡らせている。
「美月、このハートは俺達二人の心だよ」
「私達二人の、心?」
「ああ、そうだよ」
美月はじっと、左右に分けたハートの欠片を見つめた。
「それなら、分けてはだめね」
そう言って左右の欠片をカチッとはめ合わせ、ハートを1つにする。
「ここから仕掛けが動いてくれれば……あ、動いた!」
ハートの右半分が少し下にずれ、美月はそっと指を滑らせながら探る。
すると蓋がスッと上にスライドした。
「開いた! 優吾さん、開いたよ」
「ああ、やったな。もう半分は?」
「待ってね。えっと、一度ハートをもとに戻して、そこから今度はこっち側の仕掛けを……。開いた! やったー!」
美月は満面の笑みで優吾に抱きつく。
「優吾さん、開いたよ。これで私、優吾さんと結婚出来る?」
「ああ。結婚しよう、美月。神様のおぼしめしだからな」
「はい!」
笑顔を輝かせる美月にクスッと笑ってから、優吾は真四角のからくり箱から指輪を取り出す。
美月の左手をすくい、薬指にゆっくりとはめた。
「なんて綺麗なの……」
「よく似合ってる、美月。美空ちゃんがサイズを教えてくれたんだ」
「そうなのね。私の知らない間に、こんなに素敵な指輪を用意してくれてたなんて。ありがとう、優吾さん」
「どういたしまして。美月、今度は一緒に指輪を選びに行ってくれる?」
え?と首をかしげる美月に、優吾はハート形のからくり箱を差し出した。
「右側に美月の、左側に俺の指輪を入れるんだ。結婚式で交換する、マリッジリング」
美月はパッと笑顔を弾けさせ、ギュッと優吾に抱きつく。
「素敵! もう、大好き!」
「ははは! これで結婚しないなんて、二度と言わせないからな?」
「うん! 二度と言わない。絶対に結婚する」
「よし」
優吾は美月の頭をクシャッとなでてから、熱い口づけを贈った。
◇
夜になると、二人はウッドデッキのベンチに並んで座り、名残りを惜しむ。
しとしとと雨が降り続いていた。
「明日には帰るなんて、なんだか寂しいな」
「また何度でも来ればいいよ」
「そうですね」
「それにしても、よく降るな。せっかくの旅行なのに」
優吾がそう言うと、美月はポツリと呟いた。
「いつも大切な時に雨が降るの」
「え?」
美月は優吾を見て優しく微笑む。
「雨が降る度に思い出すの。あなたと出逢った時のことや、雨に打たれた私を心配してくれた時のあなたの温かい眼差し。雨の音は気持ちを落ち着かせてくれて、雨を含んだ空気は傷ついた心を包み込んでくれる。雨には、あなたとの思い出がたくさんあるの」
じっと耳を傾けてから、優吾も頷いた。
「そうだな。俺も雨と一緒に思い出すよ、美月との大切な思い出を」
そしてまた、二人で雨の空を見上げる、
「結婚式も降るかな?」
「ふふっ、うん。雨に祝福されたい」
「そうだな」
美月は改めて優吾を見つめた。
「優吾さん、いつもたくさんの優しさをありがとう」
優吾も美月に微笑み返す。
「こちらこそ。あの雨の日に美月に出逢えて良かった。美月が傘に入れてくれて、そこから俺達は始まったから」
「ふふっ、確かに。雨の神様、ありがとう」
「さり気なく傘に入れてくれた美月に、ありがとう」
二人で見つめ合って笑い合う。
「これから先も、二人でたくさんの思い出を作ろうな」
「はい。あなたとなら、幸せな思い出がたくさん増えます」
「俺もだよ、美月」
優吾はそっと美月を抱き寄せ、優しくキスをする。
祝福するかのように、雨の音がそんな二人を包み込んでいた。
◇
翌年。
美空と光太郎の結婚から3ヶ月後の6月。
美月と優吾の結婚式が執り行われた。
幸せで胸をいっぱいにさせながら愛を誓い合い、ハートのからくり箱のマリッジリングを交換する。
純白のウェディングドレスに身を包み、涙で潤んだ瞳で見上げる美月に、優吾は優しく微笑んだ。
「美月、誰よりも君を愛している。必ず君をこの手で幸せにしてみせる」
「私も、世界で一番あなたが好きです。私もあなたを幸せにしたい」
見つめ合うと、優吾はそっと美月のベールを上げて、肩を抱き寄せる。
想いを込めて、優吾は優しく美月に口づけた。
愛に満ちたウェディングキスに、二人の胸は打ち震える。
いつまでも心に残る瞬間。
二人の大切な思い出が、また1つ増えた。
「おめでとう、お姉ちゃん、優吾さん」
「おめでとう、優吾、つきちゃん」
「おめでとう、風間さん」
「おめでとう、美月ちゃん」
「おめでとう、スーザン姉さん、優吾さん」
フラワーシャワーを浴びて、二人は心からの笑顔を浮かべる。
ずっとずっと忘れない。
この日のこの感動を。
そして必ず幸せにする。
誰よりも大切なこの人を。
美月と優吾はそう心に誓い、見つめ合った。
家族、友人、そして優しい雨の祝福を受けながら……
(完)
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