本当の愛を知るまでは

葉月 まい

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パーティー

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「わあ、豪華な会場……」

光星の腕に手を添えて、花純は広いパーティー会場を見渡す。
1歩足を踏み入れただけで、別世界に来たような気がした。
まばゆいシャンデリアとゴージャスな装飾、そして何より、ゲストの装いが華やかだ。

「外国の方も多いですね」
「そうだな。みんな企業の枠を超えて、繋がりを大切にしている仲間だから」

すると早速こちらに気づいたブロンズヘアの若い男性が、にこやかに近づいて来た。

「ハイ! コウセイ」
「アンドリュー」

光星は手を挙げて答えると、隣の花純に「ゴールデンシステムズの社長だよ」と耳打ちする。

(えっ、あの有名企業の社長って、こんなに若い方なんだ)

花純が驚いていると、目の前にやって来たアンドリューは光星と挨拶して握手を交わし、続いて花純にも手を差し出した。

『初めまして、アンドリューです』
『初めまして、カスミです』

英語で自己紹介をし、花純も手を差し出す。
アンドリューが花純の手を下からすくって口づけようとした時、隣から光星がその手を掴んだ。
間一髪、動きを止めたアンドリューは、ジロリと光星を睨む。

『おい、コウセイ。俺は君にキスをする趣味はない』
『セクハラを止めてやったんだ、感謝しろ』
『どこがセクハラだ? 素敵な女性に敬意を込めて挨拶するのは当然だろ?』
『花純は俺の女だ。誰にも触れさせない』

What !?とアンドリューは両手を広げた。

『コウセイの口からそんなセリフが?』
『じゃあな』

光星は花純の肩を抱き、アンドリューに背を向けて歩き出す。

「あの、光星さん。いいの?」

花純はアンドリューを気にかけて、少し後ろを振り返った。

「ん? 普通に仕事の話をしただけだよ」

いやいや、あれは違うでしょと花純はうつむく。

「なんだ、バレてたか。花純は英語分かるんだな。でも言ったことは本音だから」

グッと抱き寄せて耳元でささやく光星に、花純は頬を赤く染めた。



パーティーが始まり、皆で乾杯してから食事と歓談の時間になる。
次々とゲストが挨拶に来て、光星と花純はにこやかに応えていた。

光星が仕事の話をしているのを隣で聞いていた花純は、ふいに後ろから「カスミ」と声をかけられる。
振り向くと、先ほどのアンドリューが立っていた。

『カスミ、あとでコウセイと話がしたいんだけど、いいかな?』

花純が向き直って返事をしようとすると、光星は他のゲストと会話しながらも、花純のウエストを抱く手に力を込める。

「光星さん、大丈夫だから」

小声でささやくと、花純はスルッと光星の手を解いてアンドリューを振り返った。

『分かりました。あとで光星さんにあなたのところに行くように伝えますね』
『頼むよ、ありがとう。大きなビジネスの話なんだ。コウセイが手を貸してくると助かると思ってね。真面目な話をしたいと伝えておいて。あと、カスミには手を出さないからって』
『分かりました、伝えておきます』
『ありがとう。じゃあね』

アンドリューが手を挙げて去って行くと、花純はまた光星の隣に戻る。
光星は花純の肩を抱き寄せてゲストと会話を終わらせ、バルコニーに向かった。

「花純、アンドリューと何の話を?」
「あとで光星さんと真剣に話がしたいって。大きなビジネスの話で、光星さんが手を貸してくれると助かるって言ってました」
「ふうん、何だろう。まあ、ああ見えて10代で会社を立ち上げてあっという間に大きくした優秀な社長だからな。俺も尊敬してる。花純にさえ手を出さなければ」
「アンドリュー、そう言ってました」
「君に? 手を出さないって? へえ、珍しい」

アンドリューを目で探すと、大勢のゲストに囲まれている。
光星と花純は先に料理を楽しむことにした。

「今夜の花純は本当に綺麗だ。二人でディナーに行きたかったな」
「私はパーティーで良かったです」
「どうして?」
「だって、こんなにかっこいい光星さんと二人きりになったら、緊張しちゃうから」

光星は少し驚いてからニヤリと笑う。

「そんな可愛いことまで言ってくれるなんて。花純、このままパーティー抜け出してどこかへ行こうか」
「ダメ! アンドリューのお話もまだ聞いてないんですよ?」
「分かってるよ。さっさと聞いてとっとと帰ろうか」

冗談とも本気ともつかない口調でそう言うと、光星は花純の手を取ってアンドリューのもとへ向かった。

『アンドリュー、話って何だ?』
『コウセイ! やっと捕まった。バルコニーで話そうか』

今度は3人で、バルコニーのベンチに座った。

『今度うちの会社で、海外旅行の日本人向けのアプリケーションを開発することになったんだ。海外旅行に便利なアプリケーションはたくさんあるけど、うちが目指すのはそれ一つで全てカバー出来るものだ。ホテルやレストランやタクシーの手配、バスや鉄道の時刻表、観光名所の案内に、もちろん翻訳機能も』

へえ!と光星は感心する。

『そんな大掛かりなものを? でもアンドリューならやってのけるだろうな』
『ありがとう。だがもちろんハードルは高いし一人では到底無理だ。コウセイ、君の力を貸してほしい。君の会社とうちで共同開発しないか?』
『えっ……』

驚いたあと、光星は視線を落として思案する。
花純はそんな光星を黙って見つめた。

『コウセイ、シンプルに考えてくれ。出来るか出来ないかじゃない。やってみたいか、やりたくないか。どっちだ?』
『それは……』

顔を上げた光星は、きっぱりと告げる。

『やってみたい』

アンドリューはニッと白い歯を見せた。

『なら、決まりだ。俺達なら必ず出来る。一緒にやり遂げよう』

ガッチリと固い握手を交わすと、アンドリューは花純にも笑顔で握手を求めた。
だが光星はまたしても横から手を出してアンドリューの手を握る。

『コウセイ! さすがにそれは酷いぞ』
『なんとでも言え。とにかくお前は花純には触れさせん』

アンドリューはため息をつくと、大きく両手を広げて花純に肩をすくめて見せた。



「花純、やっと二人きりになれた」

マンションに帰ってくると、光星は玄関を入るなり花純を抱きしめてキスをする。

「ん……、光星さん。ここ、玄関よ?」
「だから?」

光星は花純を壁に押し付けると、両手を顔の横について花純を囲った。

「花純があまりに綺麗で、手の届かない存在に思えたんだ。ちゃんと分からせてほしい、花純は俺だけのものだって」

そしてまた熱く唇を奪う。
何度も繰り返されるキスに、花純の身体から力が抜け、くずおれそうになったところを光星が抱き留めた。

「ごめん……。余裕がなさすぎだな、俺。上がろうか」
「はい」

靴を脱いで上がると、花純は部屋に着替えに行く。
だが光星に後ろから抱きすくめられた。

「花純、もう少しそのままでいて。俺だけの為に」
「はい……」
「ワインでも開けようか。パーティーで飲めなかったから」

ソファに並んで座り、ワイングラスを手に肩を寄せ合う。

そう言えば、とふと花純は思い出した。

(私、このマンションに来てからずっと、光星さんと一緒に過ごしてる)

光星が用意してくれた部屋には、着替える時にしか行かない。
夜も光星と同じベッドで寝ていた。

(誰かと一緒に暮らすなんて無理だと思ってたのに……)

自分の気持ちの変化に嬉しくなった時、光星のスマートフォンにメッセージが届いた。
チェックした光星が、難しい顔のまま黙っている。

「光星さん? どうかした?」
「いや、アンドリューからなんだけど……」
「うん、なんて?」
「アプリ開発のプロジェクトを正式に立ち上げるから、来週アメリカに一緒に行ってほしいって」
「そう。さすがは行動が早いのね」

花純が感心するが、光星は表情を曇らせたままだ。

「光星さん? 何か心配事でも?」
「ああ、花純が心配だ」

は? と花純は固まる。

「私の何が心配なの?」
「そばにいてやれないから」
「そんな。私、子どもじゃないです。今までだってずっとひとり暮らししてきたし」
「そうだけど……。花純は寂しくないの?」
「ずっと離れるわけじゃないでしょう? 何日間?」
「多分、1週間ほど」

そう言うと光星はため息をつく。

「1週間も花純に会えないなんて」
「光星さんたら。お仕事だもん、仕方ないでしょ? それに、電話やメッセージだって毎日出来るんだから」
「そうだけど……。俺はこんなに寂しいのに、花純は平気そうなのが更に寂しい」

うーん、と花純は視線をそらす。

「こういう時、行かないでって泣いてすがる方が男の人は嬉しいのよね?」

すると光星は、ハッと顔を上げた。

「ごめん、違う。快く送り出してくれる花純が好きだ。俺こそ、子どもっぽいこと言ってすまなかった」
「ううん。もちろん私も寂しいけど、大切なお仕事だから気兼ねなく行ってきてほしいの。1週間で私たちの仲はどうこうならないって思うから」
「ああ、そうだな。俺もそう思う。花純、声が聞きたくなったらいつでも電話してきて。俺も時間があれば必ずかけるから」
「はい」

微笑み合うと、光星は優しく花純を抱き寄せてキスをする。
そのままソファに押し倒した。

「ドレス姿の花純はとびきり綺麗だけど、素肌のままの花純はもっともっと綺麗」

耳元でささやかれ、花純は真っ赤になる。
何度もキスを落とされ、夢中で応えているうちにドレスのファスナーを下げられた。
スルリとドレスが肩から落とされ、荒々しくシャツを脱ぎ捨てた光星と直に肌を合わせる。

「あったかい……」

大きな胸に抱きしめられ、光星の体温を感じて、花純は光星の背にギュッと腕を回した。

「花純、そんなに煽るな。理性が飛ぶ」
「だって、気持ち良くて」
「だから、煽るなってば」

光星は眉根をギュッと寄せて何かを堪えると、花純の身体を抱き上げて寝室へと向かう。
ベッドに下ろした花純を組み敷くと、気持ちをぶつけるように身体中のあちこちにキスの雨を降らせた。

「花純、今夜は優しくしてやれない。受け止めてくれる?」
「……うん」

涙目で小さく頷く花純に、光星は切なげに顔を歪めて覆いかぶさる。
何も考えられず、ただ込み上げる気持ちのまま、二人はひと晩中互いを求め合った。
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