本当の愛を知るまでは

葉月 まい

文字の大きさ
23 / 29

離ればなれ

しおりを挟む
光星がアメリカに出発した日の夜。
花純は仕事を終えると、自分のワンルームマンションに帰って来た。

「ただいま。ふう……、なんだか久しぶりだな」

換気がてら窓を開けると、そのままベランダに出る。
夜空を見上げるといくつもの星が瞬いていた。

「綺麗な星。……光星さん」

呟いた途端、涙が込み上げてきて戸惑う。

「あれ、おかしいな。どうしたんだろ?」

慌てて指先で涙を拭った。

こんな感覚は初めてだ。
寂しい? 心細い?
切なくて、胸が痛む。

これまでは、一人気ままな方が好きだったのに。
光星が先週、離れるのは寂しいと言った時だって、自分は平気だったのに。

「光星さん、会いたい……」

心強い存在がそばにいてくれるようになったら、自分はこんなにも弱くなってしまったのだろうか。
触れ合う温かさを知ってしまったら、離れた時にこんなにも心細さを感じるようになってしまったのだろうか。

恋をしたら、一人では生きていけない弱い人間になってしまった?

「強くなりたい。光星さんを支えられるように」

ギュッと唇を噛み締めて涙を堪える。
光星は今頃飛行機の中。

「この星空を、光星さんも見てるかな……」

次に会える時までがんばろうと、花純はひときわ綺麗に輝く一等星に誓った。



翌朝。
アラームの音で目を覚ました花純は、スマートフォンに手を伸ばす。
と、アラームを止めた途端、電話がかかってきた。

「わっ、びっくりした。電話? 光星さんだ!」

急いで電話に出る。

「もしもし、光星さん?」
『花純、おはよう。ちょうど起きる頃だと思って』
「今起きました。光星さんは、無事に着きましたか?」
『ああ、着いたよ。こっちは昼過ぎだけど、時差ボケで眠い。花純は? よく眠れた?』
「うーん、ちょっと寝不足です。一人で寝るのは久しぶりで……」

すると電話の向こうで光星が声のトーンを下げた。

『ひょっとして、寂しかった?』
「……はい」

小さく返事をすると、光星は無言になる。

「えっと、光星さん?」
『ごめん、嬉しくてニヤけて……』
「え?」
『花純が俺のこと、そんなふうに思ってくれるのが嬉しい。って、ごめん。寂しがらせてるのに』

改めてそう言われ、花純も気恥ずかしさに言葉に詰まった。

『花純、早く会いたい』
「私もです」

その時、遠くから『コウセイ!』とアンドリューの声がした。

「アンドリューが呼んでますね。もう切ならきなゃ」
『そうだな。花純も仕事、気をつけて行っておいで。また連絡する』
「はい、光星さんもお仕事がんばってください」
『ありがとう。それじゃあ』

通話を終えると、花純は嬉しさと寂しさが入り混じったような気分でスマートフォンを胸に当てる。
遠く離れているのは寂しいけれど、光星の優しさを感じて心が温かくなった。

「やっぱり好き。光星さんが大好き」

ポツリと呟くと、笑顔でベッドを降りた。



「花純ー、ランチ行こ!」
「うん!」

昼休みに千鶴に誘われ、二人で5階のカフェに行く。
いつもと変わらず、滝沢がレジカウンターから笑いかけてきた。

「お疲れーっす!」
「滝沢、あんたいっつもここにいて、大学大丈夫なの? 留年すんじゃない?」
「ちゃんと単位取ってるっつーの! ひでーな、杉崎さん。サービスなしね」
「わー、うそうそ!」
「もう遅い。今日はチーズ減り減り」
「なによ、それ」

二人のやり取りに、花純は思わず笑い出す。

「森川さんは何にする? カフェモカにホイップマシマシにしようか」
「いいね、そうしようかな。今日は甘いもの食べたい気分」
「じゃあ、パンケーキがおすすめ。酸味のあるフルーツソースの」
「うん! そうする。ありがとね、滝沢くん」

すると千鶴がムッとしながら割って入った。

「滝沢、花純にばっかり甘いじゃない。私へのおすすめは?」
「そうっすねー。鬼カラのアラビアータ、唐辛子マシマシで」
「そんなとこ、増さんでいい!」
「増さんでいいって、日本語おかしくね?」
「あんたの日本語の方がよっぽどおかしいわよ!」

揉めつつも、結局千鶴はアラビアータを注文した。

「へえ、上条さん今アメリカなんだ」
「うん、そうなの。 仕事で1週間」
「ふうん。花純、それでちょっと元気なかったんだ」
「え、私そんなふうに見えた?」
「なんとなくね。最近ホワーンとしてたのが、今日はシュンってしぼんでたから」

テーブルでそんな話をしていると、滝沢が料理を運んで来た。

「お待たせー。なに? 上条さん今アメリカなの?」
「うん、そう」
「じゃあ帰ってくるまで俺とつき合う?」
「なんでそうなるのよ? つき合いません」
「ちえっ、ケチー」

笑いながら軽口を叩いて、滝沢はカウンターへと戻って行く。

「ね、花純。それなら今夜飲みに行かない? 原も誘ってさ」

千鶴の言葉に花純はすぐさま頷く。

「うん、行きたい!」
「よし、決まりね。原にも言っとく」

すると後ろから「俺も行きまーす!」と滝沢の声がした。

「この地獄耳! ちゃんと仕事しなさい!」

千鶴はそう言ったあと、「仕方ない、あいつも連れてってやるか」と笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

国宝級イケメンとのキスは、最上級に甘いドルチェみたいに私をとろけさせます♡ 〈Dulcisシリーズ〉

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

処理中です...