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26 酔っぱらった夜に伝えたこと
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いつものように先にシャワーを浴びて出てきた後、私の着替えと毛布を持ってきてくれる。
あの時に借りたパーカーだろうか?似ている。
暖房がゆるくきいた室内に戻りお礼を言う。
本当に二度と迷惑はかけたくなかったのに。
「あの・・・また迷惑をかけてすみません。」
高田さんに言われたからって、何の言い訳にもならない。
「気にするな。じゃあ、水おいとく。明日は起きたいときに起きればいい。」
そう言うと近藤さんは背中を向けて歩いていった。
寝室へ消えた背中。
そんな・・・・・・。
まったく話をすることもなく向けられた背中。
それは冷たい拒否の態度としか思えなくて。
それに、起きたいときに起きればいいって、早く起きたら前みたいに勝手に帰ればいい・・・・そういうこと?
さっきまで二人きりが怖くて胸が痛くてつらかったのに。
冷たく背中を見せられて今まで以上に痛みを感じた。
涙が勝手に出て来て化粧水で整えたばかりの肌を落ちる。
声もなくどんどん勝手に落ちていくしずく。
どうして、そんなに冷たくできるの?
うっ。声が出て鼻も出てきた。
ズルズルと鼻を鳴らしながらバッグからハンカチを出す。
高田さん、無理です。
皆が思ってるほど・・・・そんな、話をするのも難しいのに。
ソファに座り込んでハンカチを目に当ててうつむく。
大嫌い。
嫌われてもいいから思いっきり言いたい。
だって、はっきり言えばいいのに。
よそに泊れって、うんざりだって。
背中を揺らして声を殺して泣く。帰りたい。
ここから出て行きたい。今からでもどこかで時間はつぶせるのに。
そう思っても今この部屋を離れたら・・・多分もう二度と来れない。
立ち上がり寝室の方へ歩いていく。
扉の向こうにいるのに何も聞こえない。
もう寝たの?
もちろん手をかけたくてもできなくて。
一度も、ちらりとも覗いたことがない部屋。
そこは上司の部屋だから。
また静かにソファに戻る。
鼻をかんで涙をふく。
寝室の扉が静かに開いたのには気がつかなかった。
ゆっくり歩いてきたその足音に気がついて顔をあげたらすぐそこにいた。
止まった涙がまた流れてきた。
「どうした?」
横に座って聞いてくる。本当に心配してくれてるのが分かる。
だって上司だから。
「何か俺で相談にのれるなら・・・。」
本当に上司の意見。必要ない。そんな心配ならいらない。
「いいえ、大丈夫・・・です。」
「そうか。」
あっさりと終る会話。
また背中を向けるの?
うっ、うっ。声が出て一層涙があふれてきた。
「なあ、俺はそんなに頼りないのか?」
頭に手を置かれて、その重さに私は一層小さくなる。
その手の大きさにじんわりと感じる温かさ。
それでも、それ以上近づくことはない、お互いに。
「もういいんです。ここには二度と来ないって決めてたのに。高田さんがちゃんと話をしなさいって。それなのに少しもこっちを見てくれない、冷たく背中を向けて、一人でいるのと変わらない。迷惑ならなんで泊まれっていうんですか?時々優しいのが逆に残酷です、苦しいんです、近くにいると辛いんです。もう放っといてください。」
さっきお礼を言った口でなんてことを言うのか、私は。
でも本当に我慢できなくて。
冷たい背中に耐えられなくて。
ハッキリ自分の気持ちを言ってしまったら、働きずらくなるなんて考えられなくて。
だってここにいる時は半分くらいは会社とは違ったと思えたりした・・・・から。
でも・・・・。
「・・・悪かった。そんな・・・迷惑だなんて思ってないから。俺は嫌われてるのか?近くにいたくないくらい嫌がられてるのか?最初からお前は俺より高田といるほうが楽しそうだったし、派遣の奴と出かけてるみたいだし。今日はそいつには連絡してないようだったから泊めただけだけど。」
「今日も言いました。高田さんがいなくても楽しいって。私は楽しいのに、近藤さんはまあまあみたいな返事しかしないし。知ってます、いろいろ。近藤さんが教えてくれないことも知ってるんです。だから聞いたのに、彼女と出かける予定なのか聞いたのに、とっくに別れたのに、何でずっと付き合ってることになってるんですか?そんなにきれいな人がいいんですか?ぜんぜん愛してもいないくせに。時々セックスするだけの彼女なのに。私とは2人きりになっても絶対何にもしないじゃないですか。私だって頑張りました。少しでもきれいになろうと思って努力したんです。他の人は褒めてくれるのに、近藤さんだけはちっとも褒めてくれないですよね。絶対、何もしてくれない、きれ
いが全然足りないって分かってます。絶対近づけない・・・・。だったら遠くにいたほうがいいです。」
近藤さんが息をのんで静かになった。
ひどい事を言った。謝らなきゃいけない。
そう思うのに背中を向けてしまった。
だってすごく恐ろしい事を言った気がする。
はずかしくて顔も見れない。
だから、そのまま謝った。
「すみません。酔ってるんです。忘れてください。」
「そんなことはしない。」後ろからゆっくり抱きしめられた。
「なんで何とも思ってない女を何度も家に連れてくるんだ?久しぶりに自分の服を来て素顔でいるお前に手を出さないでいるのにも努力がいるんだ。だからすぐに寝室に行ったのに。泣いてるようだと思ってても、出て来るのも悩んだくらいなのに。何度もカレシの存在を探って、クリスマスとお正月の予定を聞いただろう。それでも隠してるのかもしれないって思った。」
抱きしめられた腕に力が入って体に触れる部分が増える。
耳元に顔が近づいたのを感じる。
「姉たちを見て、ずっと女なんてめんどくさいと思ってた。最初にお前を見た時もうるさくて面倒で絶対苦手だと思ったのに。すぐに研修に行ったお前のいない研究室がすっかり寂しく思えたけど、ずっと違うと思いこんでた。冷静でいたいのについ揶揄って反応を見たりして、おもしろくて玉井といると笑顔になってる自分に気がついて。今は・・・玉井、お前が好きなんだ。こっちを向いてくれないか?」
腕の力が緩んで体も離れる。それでも動かない私をゆっくり、でも強引に向きを変える。
「玉井?」
自分がどんな顔をしてるのか分からない。
さっきまで泣き続けてたのに、好きって言われてすごくうれしくて、でも信じていいの?
腕を掴まれたままゆっくり近藤さんの体に倒れる。
「人を好きになるんですか?」
「・・・・それは高田に聞いたのか?」
首を振る。近藤さんが言ったのに。
あれを聞いてなければ少しは違ったかもしれないのに。
「確かにそう思ってた。自分でもびっくりだ。嫌だと言ってもずっと一緒にいたい。」
抱きしめられて頭にキスをされる。
髪を撫でられて気持ちよくて。腕をそっと背中に回す。
「大好きなんです。多分、ずっと。」
「うん、さっきの勢いついた告白聞いたから、ちゃんと伝わったよ。一言も好きだって入ってなかったけどな。」
「・・・・また揶揄うんですか?」
「面白過ぎて飽きない。玉井といると楽しい。可愛いと思ってたよ。坂井がいじり倒してきれいにもなったって思ってた。ちゃんと言ってなかったけど、きれいになった。」
「頑張って良かった・・・・・。」
「なあ、俺は本当に我慢しなくていいのか?」
「何を?」
うれしくて目を閉じて胸の鼓動と熱を楽しんでいた。
「玉井が言ったんだろう?手を出して欲しいって。お願いされた今ならいくらでも出せるのに。」
体をグッと寄せられて耳元で囁きながら顔を寄せられた。
首筋に息がかかりぞくぞくする。
温かいものを感じてキスをされたと分かった。
「きゃ。」初めての感覚に声が出た。
ビックリして肩を動かそうとしたのに顎の重さを感じて動けない。
腰も動かないようにしっかりと腕が巻かれていて。
キスが首の後ろから前へ。顎に耳に。顔が自然と上がって視線が合う。
顔が近くに来て目を閉じた。
繰り返しキスをされるうちに背中の手を首に回して自分から顔を寄せていた。
「近藤さん。」いつも呼んでるの名前なのに自分の声がひどく甘えていて。
「玉井、あっちへ行こう。」
そう言ってからもキスを続けて、私の腰に回された手は背中やお尻をゆっくりなぞるように撫でる。
大きな手が気持ちよくて、もっと触ってほしくて。声が出る。
私の手も頭を撫でる様に髪の毛の中にはいって頭を引き寄せるように力が入る。
耳にふれてキスをして首に縋りついて強くキスをして。
大きな手が自分の胸を包むように持ち上げるのに声を高くしてしまった。
「あぁぁ。」
「茜、茜。限界だから、行くよ。」
体を持ち上げられて揺れた世界にびっくりしてしがみつく。お姫様抱っこ。
二度目らしいけど。一回目は寝てたからノーカウントで。
寝室に運ばれた。暗い部屋は見える限りやはりシンプルできれいだった。
首に縋りつきながら見渡した。
えっと、ここまでは何とかなったけど・・・・。
今更だけど初めてなんですって。
いつ言おう。
ゆっくりベッドに下ろされて扉を閉められた。
少しだけ開いた隙間から入る光がベッドの横を照らす。
さっさと上着を脱いで上半身裸になった近藤さんがこっちに来た。
思わずベッドの端へ逃げる。
「茜、今逃げたよな?・・・・もしかして嫌か?想定外か?」
体は思いっきり壁にはりつくように逃げた。
「あの、・・・・初めてだから。」
「まあ、そう思ってた・・・・かな。」
「あ・・・の・・どうしたらいいのか分からないです。」
視線が落ち着きなく動く。だってすぐ目の前に裸の胸があって。
「別に今更、あと少しなら我慢してもいいけど。」
そう言って脱いだばかりの服を取ろうとしたのでその手を止めた。
その途端くるりとこっちに向きを変えて言われた。
「なんてな。限界だって言っただろう。さっきあんなに煽ったんだから今更それはないよな。」
そう言って笑いながら私のパーカーを剥いだ。
その下に長袖のTシャツを着ている。ぶかぶかの裾を掴んで一気に剥がされた。
薄いキャミソール一枚の自分が心もとなくて胸を隠す。
その腕ごと抱きかかえられたまま横になり布団をかけられる。
覆われると安心する。さっきの布越しとは違い直接触れる肌がうれしい。
ペタペタと背中を触り感触を楽しむ。頬で胸のあったかさを感じる。
目を閉じて鼓動を聞く。大好き。少し声に出たけどふとんの中に消えた。
「茜、寝るん時間じゃないぞ。」
ビクッとした。
寝てた訳じゃないけどリズムと温度についつい意識が遠のいていた。
「寝かせないから。」顔をみてにやりと笑われた。
「絶対間違ってる。おねだりしてない。思ったことを言っただけだし。」
「さっきすごく色っぽい声をあげてた女がいたけど。誰だ。」
それは私ですが。
「だから今更だって。嫌なのか? 続けていいのか?」
そんな事聞かないで欲しい。嫌じゃない、ただ・・・・。
「本当に・・・?」
「何が?」
「どうして?」
「何がだ?」
だって。やっぱりよく考えると信じられなくなってきた。
本気で好きになってもらえなくてもいいって思う?
思わない。
きっと毎日、毎回確認したくなる。
まだ気持ちがあるのか。
そんな日々に耐えられるの、すぐ近くにいるのに。
そんなに強くなれない。
暗闇でも瞳が光りうっすらと顔も分かる。
優しい目をして、顔をして自分をまっすぐ見つめてくれるのも分かる。
「近藤さん、もう一回聞いていいですか?」
「さっきからずっと何かを聞かれてるんだが。一体何を聞きたいんだ?」
「近藤さんはすぐに飽きちゃうの?それとも最初から好きじゃないの?私はどっち?」
「さっき説明したのに信じてくれないのか?どっちでもない、初めてだって。こんなに半年もずっとそばにいて好きだったんだから、今日は念願かなってやっと一緒にこの部屋にいるのに。茜が好きだ。信じて欲しい。」
涙でぼやけそうになるけどずっとその目を見ていた。
優しい声がしっとりと心に響いてゆっくり広がる。
最初から大好きだった声。
その声で好きだと言われて。
言われたのは病気がちで小さかった私じゃない。
今の大人の私。
頬に手を当てて閉じられた唇に触れる。
「分かってくれたか?」
頷く。
ゆっくりと腰を抱き寄せられてキスをされる。
顔が離れた時に思わず甘い声が出た。苦しくて息をしただけなのに。
「何だよ、色っぽいなあ。」
かぶさるように上に来た。おでこをくっつけられて息がかかる。
くっつきそうな口と鼻。
自分の鼓動がうるさいくらい。
ちょっとの不安と興奮と隠せない期待の気持ち。
なかなか近づかない距離がもどかしくて。
「近藤さん・・・・。」
「何?」
「キスして・・・。」
やっとその距離が縮んで唇が触れ合う。首に手を回して引き寄せる。
何度も繰り返されて息をするのを忘れる。
「はぁ~。」
首を反らして大きく息をする。
その隙に首にキスが来た。
「あぁ・・・。」
胸に手を置かれた。キャミソールの上からゆっくり探られる。
キスがデコルテから胸に下がる。
自分のあげる吐息のほかに近藤さんの息遣いも聞こえる。
キャミソールを捲りあげられて手と唇で刺激される。
「あぁあっ。」
覚えのない感覚に体をよじって、声が出る。
響いた声が恥ずかしくて口を手で覆う。
止まない刺激に手を口に当てて耐える。
「茜。我慢しないでいいから。」
口を覆った手を外されて、キスをされて言われた。
胸に置かれていた手がゆっくり腰から下に降りてくる。
おでこをつけてゆっくりキスされる。
お互いの息と体温が上がるのを感じる。
「ううっ。」
足に触れる手がゆっくりと中心に向かう。思わず足を合わせて力が入る。
ゆっくりとパジャマのズボンの中に手を入れられて下着の線をなぞられる。
「あ、あぁっ。」
腰からズボンを器用に脱がされる。
さっきより足に力を入れて閉じる。
「茜、楽にして。」
近藤さんが自分でパジャマを脱いで腰にぴったりとくっついてきた。
初めてでもわかる、近藤さんがどういう状態か。
首から耳にキスをされながら囁かれる。
「触れたい。」
ゆっくり体の力を抜く。
あの時に借りたパーカーだろうか?似ている。
暖房がゆるくきいた室内に戻りお礼を言う。
本当に二度と迷惑はかけたくなかったのに。
「あの・・・また迷惑をかけてすみません。」
高田さんに言われたからって、何の言い訳にもならない。
「気にするな。じゃあ、水おいとく。明日は起きたいときに起きればいい。」
そう言うと近藤さんは背中を向けて歩いていった。
寝室へ消えた背中。
そんな・・・・・・。
まったく話をすることもなく向けられた背中。
それは冷たい拒否の態度としか思えなくて。
それに、起きたいときに起きればいいって、早く起きたら前みたいに勝手に帰ればいい・・・・そういうこと?
さっきまで二人きりが怖くて胸が痛くてつらかったのに。
冷たく背中を見せられて今まで以上に痛みを感じた。
涙が勝手に出て来て化粧水で整えたばかりの肌を落ちる。
声もなくどんどん勝手に落ちていくしずく。
どうして、そんなに冷たくできるの?
うっ。声が出て鼻も出てきた。
ズルズルと鼻を鳴らしながらバッグからハンカチを出す。
高田さん、無理です。
皆が思ってるほど・・・・そんな、話をするのも難しいのに。
ソファに座り込んでハンカチを目に当ててうつむく。
大嫌い。
嫌われてもいいから思いっきり言いたい。
だって、はっきり言えばいいのに。
よそに泊れって、うんざりだって。
背中を揺らして声を殺して泣く。帰りたい。
ここから出て行きたい。今からでもどこかで時間はつぶせるのに。
そう思っても今この部屋を離れたら・・・多分もう二度と来れない。
立ち上がり寝室の方へ歩いていく。
扉の向こうにいるのに何も聞こえない。
もう寝たの?
もちろん手をかけたくてもできなくて。
一度も、ちらりとも覗いたことがない部屋。
そこは上司の部屋だから。
また静かにソファに戻る。
鼻をかんで涙をふく。
寝室の扉が静かに開いたのには気がつかなかった。
ゆっくり歩いてきたその足音に気がついて顔をあげたらすぐそこにいた。
止まった涙がまた流れてきた。
「どうした?」
横に座って聞いてくる。本当に心配してくれてるのが分かる。
だって上司だから。
「何か俺で相談にのれるなら・・・。」
本当に上司の意見。必要ない。そんな心配ならいらない。
「いいえ、大丈夫・・・です。」
「そうか。」
あっさりと終る会話。
また背中を向けるの?
うっ、うっ。声が出て一層涙があふれてきた。
「なあ、俺はそんなに頼りないのか?」
頭に手を置かれて、その重さに私は一層小さくなる。
その手の大きさにじんわりと感じる温かさ。
それでも、それ以上近づくことはない、お互いに。
「もういいんです。ここには二度と来ないって決めてたのに。高田さんがちゃんと話をしなさいって。それなのに少しもこっちを見てくれない、冷たく背中を向けて、一人でいるのと変わらない。迷惑ならなんで泊まれっていうんですか?時々優しいのが逆に残酷です、苦しいんです、近くにいると辛いんです。もう放っといてください。」
さっきお礼を言った口でなんてことを言うのか、私は。
でも本当に我慢できなくて。
冷たい背中に耐えられなくて。
ハッキリ自分の気持ちを言ってしまったら、働きずらくなるなんて考えられなくて。
だってここにいる時は半分くらいは会社とは違ったと思えたりした・・・・から。
でも・・・・。
「・・・悪かった。そんな・・・迷惑だなんて思ってないから。俺は嫌われてるのか?近くにいたくないくらい嫌がられてるのか?最初からお前は俺より高田といるほうが楽しそうだったし、派遣の奴と出かけてるみたいだし。今日はそいつには連絡してないようだったから泊めただけだけど。」
「今日も言いました。高田さんがいなくても楽しいって。私は楽しいのに、近藤さんはまあまあみたいな返事しかしないし。知ってます、いろいろ。近藤さんが教えてくれないことも知ってるんです。だから聞いたのに、彼女と出かける予定なのか聞いたのに、とっくに別れたのに、何でずっと付き合ってることになってるんですか?そんなにきれいな人がいいんですか?ぜんぜん愛してもいないくせに。時々セックスするだけの彼女なのに。私とは2人きりになっても絶対何にもしないじゃないですか。私だって頑張りました。少しでもきれいになろうと思って努力したんです。他の人は褒めてくれるのに、近藤さんだけはちっとも褒めてくれないですよね。絶対、何もしてくれない、きれ
いが全然足りないって分かってます。絶対近づけない・・・・。だったら遠くにいたほうがいいです。」
近藤さんが息をのんで静かになった。
ひどい事を言った。謝らなきゃいけない。
そう思うのに背中を向けてしまった。
だってすごく恐ろしい事を言った気がする。
はずかしくて顔も見れない。
だから、そのまま謝った。
「すみません。酔ってるんです。忘れてください。」
「そんなことはしない。」後ろからゆっくり抱きしめられた。
「なんで何とも思ってない女を何度も家に連れてくるんだ?久しぶりに自分の服を来て素顔でいるお前に手を出さないでいるのにも努力がいるんだ。だからすぐに寝室に行ったのに。泣いてるようだと思ってても、出て来るのも悩んだくらいなのに。何度もカレシの存在を探って、クリスマスとお正月の予定を聞いただろう。それでも隠してるのかもしれないって思った。」
抱きしめられた腕に力が入って体に触れる部分が増える。
耳元に顔が近づいたのを感じる。
「姉たちを見て、ずっと女なんてめんどくさいと思ってた。最初にお前を見た時もうるさくて面倒で絶対苦手だと思ったのに。すぐに研修に行ったお前のいない研究室がすっかり寂しく思えたけど、ずっと違うと思いこんでた。冷静でいたいのについ揶揄って反応を見たりして、おもしろくて玉井といると笑顔になってる自分に気がついて。今は・・・玉井、お前が好きなんだ。こっちを向いてくれないか?」
腕の力が緩んで体も離れる。それでも動かない私をゆっくり、でも強引に向きを変える。
「玉井?」
自分がどんな顔をしてるのか分からない。
さっきまで泣き続けてたのに、好きって言われてすごくうれしくて、でも信じていいの?
腕を掴まれたままゆっくり近藤さんの体に倒れる。
「人を好きになるんですか?」
「・・・・それは高田に聞いたのか?」
首を振る。近藤さんが言ったのに。
あれを聞いてなければ少しは違ったかもしれないのに。
「確かにそう思ってた。自分でもびっくりだ。嫌だと言ってもずっと一緒にいたい。」
抱きしめられて頭にキスをされる。
髪を撫でられて気持ちよくて。腕をそっと背中に回す。
「大好きなんです。多分、ずっと。」
「うん、さっきの勢いついた告白聞いたから、ちゃんと伝わったよ。一言も好きだって入ってなかったけどな。」
「・・・・また揶揄うんですか?」
「面白過ぎて飽きない。玉井といると楽しい。可愛いと思ってたよ。坂井がいじり倒してきれいにもなったって思ってた。ちゃんと言ってなかったけど、きれいになった。」
「頑張って良かった・・・・・。」
「なあ、俺は本当に我慢しなくていいのか?」
「何を?」
うれしくて目を閉じて胸の鼓動と熱を楽しんでいた。
「玉井が言ったんだろう?手を出して欲しいって。お願いされた今ならいくらでも出せるのに。」
体をグッと寄せられて耳元で囁きながら顔を寄せられた。
首筋に息がかかりぞくぞくする。
温かいものを感じてキスをされたと分かった。
「きゃ。」初めての感覚に声が出た。
ビックリして肩を動かそうとしたのに顎の重さを感じて動けない。
腰も動かないようにしっかりと腕が巻かれていて。
キスが首の後ろから前へ。顎に耳に。顔が自然と上がって視線が合う。
顔が近くに来て目を閉じた。
繰り返しキスをされるうちに背中の手を首に回して自分から顔を寄せていた。
「近藤さん。」いつも呼んでるの名前なのに自分の声がひどく甘えていて。
「玉井、あっちへ行こう。」
そう言ってからもキスを続けて、私の腰に回された手は背中やお尻をゆっくりなぞるように撫でる。
大きな手が気持ちよくて、もっと触ってほしくて。声が出る。
私の手も頭を撫でる様に髪の毛の中にはいって頭を引き寄せるように力が入る。
耳にふれてキスをして首に縋りついて強くキスをして。
大きな手が自分の胸を包むように持ち上げるのに声を高くしてしまった。
「あぁぁ。」
「茜、茜。限界だから、行くよ。」
体を持ち上げられて揺れた世界にびっくりしてしがみつく。お姫様抱っこ。
二度目らしいけど。一回目は寝てたからノーカウントで。
寝室に運ばれた。暗い部屋は見える限りやはりシンプルできれいだった。
首に縋りつきながら見渡した。
えっと、ここまでは何とかなったけど・・・・。
今更だけど初めてなんですって。
いつ言おう。
ゆっくりベッドに下ろされて扉を閉められた。
少しだけ開いた隙間から入る光がベッドの横を照らす。
さっさと上着を脱いで上半身裸になった近藤さんがこっちに来た。
思わずベッドの端へ逃げる。
「茜、今逃げたよな?・・・・もしかして嫌か?想定外か?」
体は思いっきり壁にはりつくように逃げた。
「あの、・・・・初めてだから。」
「まあ、そう思ってた・・・・かな。」
「あ・・・の・・どうしたらいいのか分からないです。」
視線が落ち着きなく動く。だってすぐ目の前に裸の胸があって。
「別に今更、あと少しなら我慢してもいいけど。」
そう言って脱いだばかりの服を取ろうとしたのでその手を止めた。
その途端くるりとこっちに向きを変えて言われた。
「なんてな。限界だって言っただろう。さっきあんなに煽ったんだから今更それはないよな。」
そう言って笑いながら私のパーカーを剥いだ。
その下に長袖のTシャツを着ている。ぶかぶかの裾を掴んで一気に剥がされた。
薄いキャミソール一枚の自分が心もとなくて胸を隠す。
その腕ごと抱きかかえられたまま横になり布団をかけられる。
覆われると安心する。さっきの布越しとは違い直接触れる肌がうれしい。
ペタペタと背中を触り感触を楽しむ。頬で胸のあったかさを感じる。
目を閉じて鼓動を聞く。大好き。少し声に出たけどふとんの中に消えた。
「茜、寝るん時間じゃないぞ。」
ビクッとした。
寝てた訳じゃないけどリズムと温度についつい意識が遠のいていた。
「寝かせないから。」顔をみてにやりと笑われた。
「絶対間違ってる。おねだりしてない。思ったことを言っただけだし。」
「さっきすごく色っぽい声をあげてた女がいたけど。誰だ。」
それは私ですが。
「だから今更だって。嫌なのか? 続けていいのか?」
そんな事聞かないで欲しい。嫌じゃない、ただ・・・・。
「本当に・・・?」
「何が?」
「どうして?」
「何がだ?」
だって。やっぱりよく考えると信じられなくなってきた。
本気で好きになってもらえなくてもいいって思う?
思わない。
きっと毎日、毎回確認したくなる。
まだ気持ちがあるのか。
そんな日々に耐えられるの、すぐ近くにいるのに。
そんなに強くなれない。
暗闇でも瞳が光りうっすらと顔も分かる。
優しい目をして、顔をして自分をまっすぐ見つめてくれるのも分かる。
「近藤さん、もう一回聞いていいですか?」
「さっきからずっと何かを聞かれてるんだが。一体何を聞きたいんだ?」
「近藤さんはすぐに飽きちゃうの?それとも最初から好きじゃないの?私はどっち?」
「さっき説明したのに信じてくれないのか?どっちでもない、初めてだって。こんなに半年もずっとそばにいて好きだったんだから、今日は念願かなってやっと一緒にこの部屋にいるのに。茜が好きだ。信じて欲しい。」
涙でぼやけそうになるけどずっとその目を見ていた。
優しい声がしっとりと心に響いてゆっくり広がる。
最初から大好きだった声。
その声で好きだと言われて。
言われたのは病気がちで小さかった私じゃない。
今の大人の私。
頬に手を当てて閉じられた唇に触れる。
「分かってくれたか?」
頷く。
ゆっくりと腰を抱き寄せられてキスをされる。
顔が離れた時に思わず甘い声が出た。苦しくて息をしただけなのに。
「何だよ、色っぽいなあ。」
かぶさるように上に来た。おでこをくっつけられて息がかかる。
くっつきそうな口と鼻。
自分の鼓動がうるさいくらい。
ちょっとの不安と興奮と隠せない期待の気持ち。
なかなか近づかない距離がもどかしくて。
「近藤さん・・・・。」
「何?」
「キスして・・・。」
やっとその距離が縮んで唇が触れ合う。首に手を回して引き寄せる。
何度も繰り返されて息をするのを忘れる。
「はぁ~。」
首を反らして大きく息をする。
その隙に首にキスが来た。
「あぁ・・・。」
胸に手を置かれた。キャミソールの上からゆっくり探られる。
キスがデコルテから胸に下がる。
自分のあげる吐息のほかに近藤さんの息遣いも聞こえる。
キャミソールを捲りあげられて手と唇で刺激される。
「あぁあっ。」
覚えのない感覚に体をよじって、声が出る。
響いた声が恥ずかしくて口を手で覆う。
止まない刺激に手を口に当てて耐える。
「茜。我慢しないでいいから。」
口を覆った手を外されて、キスをされて言われた。
胸に置かれていた手がゆっくり腰から下に降りてくる。
おでこをつけてゆっくりキスされる。
お互いの息と体温が上がるのを感じる。
「ううっ。」
足に触れる手がゆっくりと中心に向かう。思わず足を合わせて力が入る。
ゆっくりとパジャマのズボンの中に手を入れられて下着の線をなぞられる。
「あ、あぁっ。」
腰からズボンを器用に脱がされる。
さっきより足に力を入れて閉じる。
「茜、楽にして。」
近藤さんが自分でパジャマを脱いで腰にぴったりとくっついてきた。
初めてでもわかる、近藤さんがどういう状態か。
首から耳にキスをされながら囁かれる。
「触れたい。」
ゆっくり体の力を抜く。
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