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46 明かされた実話、知らなかった裏話
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電車を先に降りて手を振る。
扉の向こうで『また明日。』そう口が動くのが分かった。
いよいよ明日だ。
早く寝てコンディションを整えて。
やっぱり緊張するなあ。
実家に着くまでにいろいろなパターンを考えてシュミレーションするか。
書き出してみてもいいい。
計画書があると落ち着くタイプなんだ、自分は。
部屋に帰りクローゼットから服を出して1人うなずく。
何だか仕事に行く服と変わらないような気がする。
手土産も買った、タッパーも袋に入れて玄関に置く。
心を落ち着けようと静かな音楽を流す。
ちょっと前まではこうして音楽を聴いて本を読んだりして時間を過ごすのを楽しんでいた。
静かな空間にいる自分でも満足していた。
ところが今はどうだ。
一緒にいても、一人でくつろいで携帯を見てる茜にイラっとして意地悪したり、ちょっかい出したり。
面倒で騒がしい女と思ってた茜より、明らかに自分の方がめんどくさいんじゃないか。
そう思ってたら連絡が来た。
お父さんに爬虫類カフェをうらやましがられたと書いていた。
写真はどうしたんだろう?見せたのだろうか?
つい笑顔になり思ったよりずっと楽しめたとお礼を言って明日の事をお願いした。
宿題をするようにメモに書き出す。
明日の打ち合わせ事項。
書き上げて考えて、なんとなく満足した、落ち着いた。
少し頭が疲れて、そのまま早めにベッドに入った。
思ったより早く眠れたらしい。
朝起きて時計を確認する。まだ早いなあ・・・・。
それでもよく眠ったので眠くもない。
起きだしてコーヒーをいれる。
テレビをつけてぼんやりしながらも落ち着かなさがマックスへ向けて高まる。
顔を洗い、歯磨きして、服を着替えて準備万端。荷物を持って出かける。
いつもは絶対素通りしている小さな祠がある。
財布から小銭を出して置き、しばし手を合わせた。
一体何のご利益がるのか分からないけど、神頼みでなんとかなるならお願いしたい。
1時間くらいの電車の旅、駅に着いて改札を出ると手を振って彼女が待っていてくれた。
「おはようございます。遠かったですか?」
「おはよう。本を読んでたからあっという間だったよ。」
落ち着いた風を装う。
本なんて3ページ進んだかどうだかのレベルだった。
「お腹空かせてますか?」
「もちろん、お母さんを手伝ったのか?」
「はい、楽しみにしててくださいね。」
彼女の歩く横を歩きながら話をする。
ポケットから紙を出す。昨日考えた打ち合わせリスト。
彼女がどれくらい自分のとことを話してるのか、すっかりバレているとしてもちゃんと釘を刺しておきたいことがある。
「茜、お願いだから余計な事は言うなよ。」
「何ですか?余計な事って。」
見上げた顔が不思議そうだ。
「はい、ここです。」
?
1軒の家の玄関に向かって歩く彼女。
恐る恐る表札を見ると確かに『玉井』とあった。
こんなに近かったのか?聞いてないぞ。
玄関のドアを開けて待つ彼女。
急いで近くに行き腕を引っ張った。
家の中に声をかけてないから何とかななったと思う。
ドアから離れて耳元で打ち合わせの続きを。
「お願いだから、あんまりいろいろと暴露しないでくれ。茜はつい喋ってしまう方だろう、気を付けてくれ。いろんなエピソードを嬉々として話さない事。」
「そんな心配しないでください。それよりもあんまりお酒飲みすぎないでくださいね。近藤さんこそびっくりすることを言いますから。」
ん?そう言えば良く聞いてなかったが。
「なあ、茜。俺はどうなるんだ?この間はどうなったんだ?」
「聞きたいんですか?しかも、今。」
う、気になる言い方だが。なんだ?
「だから近藤さん、大人の顔して、もの分かりのいい振りしてるのに・・・・。」
いくつか話してもらったが、確かに今聞く話じゃなかったかもしれない。
聞き終わった時に言えたことは。
「茜、もし俺が酒をすすめられることになったら近くにいてくれ。お父さんを止めること、俺を止めること、怪しいと思ったら俺を強制退場させてくれ。頼む。」
無理だ、もし父親相手にそんなことを語ろうものなら二度と敷居は跨げない。
「その境界線が分からないんです。いきなり始まるんですから。気を付けてくださいね。」
そう言うと玄関に向かって歩き出した。
自分の手にある紙を見る。ぼんやりとしてきた。
さっきのは俺のセリフのはずなのだが。
何で俺が言われるんだ?
最後にそう言うつもりだったのに。
彼女が玄関を開けて待つ。ゆっくりと鼓動を落ち着かせながら向かう。
でもやはり早まってるのだ。
鼓動よ、落ち着け、大人だろう。ただの挨拶だ。
玄関で中に声をかける彼女。
中から母親が出てきた。
早速挨拶をする。
「近藤さん、遠くまでわざわざありがとうございます。茜がいろいろお世話になってます。」
想像していた通りの優しい笑顔に少し安心する。
「いえ、こちらこそ。」
こちらこそ何だろう?楽しんでますとか?
手土産を渡してお礼を言われる。
上がってくださいと言われて彼女に続く。
スリッパを出されて足を入れる。
家の中なのに手を引かれる様に彼女に掴まれて奥へ。
手はこのままでいいのか?
もしかして俺は今、注射を打たれる幼稚園児並みのビビリ状態に見えるのか?
和室には大きなテーブルがあり・・・・。
噂のお父さんがいた。
格好としては楽な格好で。とりあえず良かった。
お父さんもイメージと変わらず、聞いていた通りとても優しそうな表情で。
「どうぞ、そちらにおかけください。楽にしてください。」
優しい声で言われた。
今のところいい感触だよな?
「近藤さん、すぐにお昼でもいいですか?」
「いいって。朝ごはん食べてないって。」
彼女が答えた。
そう言いながらキッチンへ行った茜。
当然お父さんと二人残された形で座る自分。
「休みの日にわざわざお時間いただいて、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。茜が毎日楽しそうです。」
「は、はい。」・・・自分も楽しいです。最高に楽しんでます。
「昨日は爬虫類カフェに行ったとか?可愛いですよね。爬虫類も。触りましたか?あのしっとりとしたなんともクールでひやりとした感触、たまらないですよね。」
「行かれたことがあるんですか?」
びっくりだ。
「そこはないですが昔から好きでして。いいです、動物はどの子たちも人に癒しを与えてくれます。」
「はい。予想以上に可愛さを感じてしまいました。」
「そうですよね。」
やはりゆったりにっこりと微笑むお父さん。
デート先が気に入られるパターンもあるのか。
高田に教えてやろう。
「お父さん、お酒は何にされますか?」
「近藤さんはビールでよろしいですか?」
「はい。好きです。」
量は気を付けよう。
でもビールなら一番馴染んでるから安心だ。よし。
茜とお母さんが料理を並べてくれて・・・・何故重箱?
おせちのように、仕切りのある場所に詰められた和食。
素晴らしいの一言。これ自作なのか?
「お口に合うかどうか?茜と一緒に作ったんです。どうぞ。」
「凄いです。美味しそうです。あ、この間頂いた肉じゃがもとても美味しくいただきました。先ほどの紙袋の中にタッパーを入れていたんです。本当にありがとうございました。」
「はい、茜から聞いてます。」
取り皿と箸が並べられて。グラスになみなみとビールが注がれた。
タイミングが合い、みんなで合掌をしていただきますと。
さすがに一番に手を付ける気にはならず、一つづつ料理を見ている。
「近藤さん、何食べます?取りましょうか?」
お父さんがひょいひょいと自分の分を取る。
促されて自分も取る。
「近藤さん、食べながらですが、茜はどうですか?お仕事の方は。」
「はい、最初はさすがにびっくりしましたが、今はすっかり任せられるほどです。」
「そうなんですよね。最初の頃は茜が室長の視線に緊張して、今日も何かを壊して迷惑をかけたって、泣きながら言ってたからどんな人だろうと思ってたんです。もう、失敗談しか言わないし。」
何だか怖いイメージだったのか?
視線で威嚇してたように聞こえる。
「・・・最初はよく壊したよな。」
隣の彼女を見る。
「だって緊張してたんですって。」
それは聞いたが。
「新人が3人いたので助け合って良かったと思います。他の研究室は1人ずつだから。唯一の女性も一緒で。」
「ああ、若菜さんですよね。本当に仲良くしてもらって。」
「入社後の研修で30分の各課説明に行ったら・・・自分の上司だと分かってるのに1人だけ寝てました。眠くなるだろうと思って気を遣って新人に話をさせて楽しく息抜きさせたつもりなのに、最初から最後まで寝てました。」
「それも聞いてます。すみません。その時も反省して泣いてました。」
「だって・・・。」
なんだ?何故だ?その後は続かなかった。
「良く見捨てずに育てていただいて。」
この流れは、ただの上司の挨拶みたいだけど。
どこかでほっとするような、がっかりするような。
まだ彼氏とは認めてもらえてないとか?
「いやあ、見捨てるどころか、違う意味でも面倒見てもらって。」
お父さんが口を開いた。微妙な発言だけど。
「本当に毎日毎日とはいかなくても、週末にはたっぷりと今週の会社の出来事を話してくれるんですが、もう近藤さんの話ばかりが目立ってしまって。呆れる位分かりやすい娘で。」
そう言われて、さり気なく上司役の話からプライベートの話へとシフト。
緊張が高まる。
「なんだかそんな話を聞いてるとぼんやり想像するじゃないですか?どんな方かと。それにすっかり私も共感してしまって片思いしてる気分の半年でした。もうこれ以上はつらくて私が告白しそうになるくらい。良かったです。こうなって。」
結構なことを言われた気がするが。認められたのか。
すっと背を伸ばし姿勢を正して箸をおく。
そう言えばビールも一口しか飲んでない。
まだまだちゃんとしてる自分を見せられる。
「少し前より茜さんとお付き合いさせていただいてます近藤理といいます。いろいろと仲がいいご家族と言うことで、彼女からお聞き及びとは思いますが、今回はお付き合いをさせていただいてますというご挨拶に伺いました。よろしくお願いいたします。」
お辞儀を一つ。
「やめてください、近藤さん。大丈夫です。そんなにかしこまらなくても。茜が楽しくいてくれるなら私たちは言うことはありませんから。」
「ありがとうございます。茜さんの上司で第二研究室の室長をしてます。29歳です。実家は長野の田舎の方です。両親と姉と妹がいます。自分は家族にそういう報告をする方ではないのでまったく茜さんの存在は知りませんが、連休に旅行のお許しがいただければ紹介しに帰りたいと思ってます。」
言い切った瞬間少し緊張もほぐれ、達成感すら湧き上がる。
「他に何かご心配なことがありましたら、聞いていただけませんか?」
「料理はお口に合いますか?」
・・・・・・お母さんのまさかの質問?確認?
「すみません、緊張で・・・でも美味しいです。」
「良かったね、茜。」
「うん。これは私が作りました。」
自分の取り皿の煮物を指して言われる。
「・・・うん、美味しい。」
なんだか力が抜ける。
まさかスルーされたのか?旅行の許可は・・・・。
「近藤さん食べて飲んで。残しても困りますよ、なんて。あとはご挨拶でもなんでも、この子を連れ回していただいて結構です。今まで家族と過ごし過ぎてましたのでどこに連れて行っても新鮮だと思いますから。」
いまサラリと旅行の許可も出たのか?
「あの、よろしいんですか?連休を見つけて長野に一緒に行ってもらって、両親に紹介を兼ねて観光案内しても。」
「もちろんです。私もご一緒したい気分ですが、遠慮しますよ。」
はあ。あっけなく・・・・。
「だから言ったじゃないですか、大丈夫ですって。」
隣で彼女が言う。その手の箸には里芋が突き刺さってる。
・・・・確かに。
「しつこいようですが、何かご心配なことはないですか?」
もっといろいろと聞かれると持ったので肩透かしというか。
「私は別に。お任せしてますし、信頼してます、娘も娘の選んだ人も。お父さんは?」
「ああ、私ももちろん同じです。もちろん涙が出るほど寂しいですが、実際お会いしてみても特に不安に思うこともありません。」
「ありがとうございます。大切なお嬢さんだとは重々分かってます。傷つけることがない様にします。改めてよろしくお願いします。」
改めてお辞儀をした。
「こちらこそ、茜をよろしくお願いします。仕事でもしっかりご指導ください。」
「はい。」
「近藤さん、もういいですから食べてください。」
そう言って皿にどんどんと料理を盛る。
「これが私が作った分です。」
皿には3種類の料理が盛られてる。
残念だがごちゃっとしてる。盛り方に指導必要と。
それでもさっきのと合わせれば4種類。
「凄いな、頑張ったな。」
「はい。」
母親を見て微笑み合うという何とも微笑ましい親子。
我が家にこんな光景があっただろうか?
記憶にないぞ。
「いただきます。」
山を崩して皿からゴロンとならないように注意して食べて行く。
なんだか注目されてるようで困るが。
「美味しい。茜・・・さんは料理も上手だったんだな。」
おっと呼び捨ては良くない。
いや~、お腹も空いてるし、一応山場は越えたと思った。
お父さんも機嫌は悪くなさそうで、旅行の許可もゲット。
あとは食事を堪能したい。
合間にお酒にも口をつけお父さんのグラスも何度か満たし、自分のグラスも何度か満たされて。
お母さんから語られる茜の子供時代。
初めて聞いたエピソードは予想外の展開と落ち。
いや想像は簡単にできるか。
違うルートの幼稚園バスに乗って結局先生の車で家まで帰ることもあった。
遠足に行けば他の家族に混じっていなくなり。
卒園式で寝て起きず、三度名前を呼ばれた後、先生が諦めて飛ばされた。
小学校では何度もランドセルが行方不明になり、買い直すこと2回。
もちろん忘れ物も多く、届けることもたびたび。
夏休みなのに一人学校に行き、運動会ではコース逆走、綱引きで骨折、保健室で勝手に昼寝。
その後も信じられないエピソード。
よく大学に受かったなあ。
それに、よくうちの会社に受かったなあ。意外に狭き門だぞ。
もしかして大事な時のポテンシャルは計り知れないとか?
幸運の女神の後ろ髪をとらえるのが上手いとか?
改めて感心する。いろんな意味で。
「最初の頃の破壊行動なんて可愛いものだったんだな。俺の説明時間に寝るのもまだまだいいほうだったんだな。他は起きてたらしいし。一応ここまでは無事故で来たし。夏休みのお寺の修行が良かったのかもしれないな。」
「ああ夏休み、茜、あの時は煩悩を捨てるって勢いで飛び出したけど、結局ダメだったってがっかりして帰ってきたのよね。片思いまっ最中だったし。」
「ん?」
「お母さん!」
「あら、近藤さんの事を諦めたくて、滝に打たれて写経して座禅してきたんでしょう。煩悩に覆いつくされて全然諦められないって泣いてたわよね。」
「そこまで言ってません。」茜が真っ赤になって怒る。
こっちもびっくりだ
「『煩悩がきれいになくなって悟りを開いた!!』みたいなこと言ってなかったか?」
「・・・・よく覚えてますね。」
「当たり前だ。他に宿坊体験した奴なんて会社中探してもいないぞ、きっと。俺は初めて聞いたぞ。」
「結局効果なくて今に至る。会えない間、逆に煩悩にまみれて消せなかったみたいね。逆効果だったのよ。」
「お母さん、何で今日は意地悪なの?」
「ちゃんと聞いてもらいなさいっていう親心よ。」
こっちに向かって微笑まれる。
娘の想いは重いのよと伝えるような無言のプレッシャーを感じる。
「だけど貴重な体験だったんだろう。良かったな。」とりあえず締める。
「近藤さんも一緒に行きますか?滝行も夏ならおすすめですよ。」
「いや・・・俺は煩悩にまみれてもいい。断る。」
何故か真っ赤になった茜。
どうした・・・・いや、別に変な意味じゃないぞ。
「そういえば、クリスマスはよろしくお願いしますね。茜がすごく楽しみにしてるみたいで。こちらはものすごく久しぶりにお父さんと2人で過ごしますので。」
「はい、楽しいクリスマスにしたいと思います。」
良かった、つながりは微妙だが話が流れた。
「で、冬休みは?年末年始はどうされるんですか?」
「特には、だいたい大掃除が終わったら部屋で映画を見て、年始に買い物に行くくらいです。毎年ぼんやり過ごしてます。」
「ご実家には帰らないの?」
「はい、わが家は結構個人個人で過ごしてる家族で。こちらのご家族のような形は自分には珍しく微笑ましい形に思えます。新鮮です。」
「じゃあ、家にいらして。おせちと年越しと。初詣までご一緒しましょう。ね、お父さん。」
なん・・・・と。年越し・・・泊まり?
「まあ、無理にとは言いませんが、よろしければ歓迎します。」
ビックリした。そう言われて断れるわけないじゃないですか。
彼女を見るとうんうんと嬉しそうにしている。
「よそ者が入ってもよろしいんでしょうか?」
「もちろんです。それに、よそ者じゃないですし。茜の大切な人なら喜んで。お父さんのお酒の相手をお願いします。茜もおせちを手伝うやる気が出るでしょう?」
「うん。頑張る。」
あっさり年末年始の2日間の予定が決まったらしい。
許されていると安心していいのか。
とりあえずはそう思うとしよう。
夕方までゆっくり食事をしながらの団らんが続いてお開きになった。
さすがに玄関でお礼を言って駅に向かうと解放感に浸れた。
肩も落ちる。ホッとした。
「茜、良かったと思うか?」
「もちろんです。2人とも楽しそうでした。それに近藤さんはお母さんの好みドンピシャリです。多分3歳くらい若返ってます。」
「頼むからこれ以上プレッシャーを与えるな。お正月もいいのかなあ。」
「はい、うれしいです。家にお泊りですよ。」
「茜の部屋か?」
「・・・・それはどうでしょうか?」
「俺は煩悩に浸りたいから狭いベッドでもいいぞ。」
肩に手を置いて小さくささやく。
「別の部屋にしてもらいます!」
真っ赤になって怒る。すぐに駅に着くのが寂しい。
「しかし想像以上に油断できない子供だったんだな。お母さんも気が抜けないな。GPSなんてない時代だろう。迷子札じゃ間に合わない。」
「そんなエピソードを並べるとそうなりますが、だいたいは平和で平凡な毎日でしたから。」
「どうだろう、今度お母さんと話をして確かめるぞ。」
「うっ・・・、お父さんにやきもち焼かれないように。」
「茜にもな。気を付けないと。」
駅に着いて改札で別れる。
「じゃあ、また明日な。ご馳走様。楽しかった。」
「はい、明日。」
手を振られて見送られながらホームに向かった。
見送られるのも寂しいなあと感じた。
電車では座れた。本を開いても全く頭に入ってこない。
諦めて目を閉じて、改めて今日の事を振り返る。
いい人たちで良かった。
つい、実家に連れて帰るなんて言ってしまった。
驚く家族の顔が思い浮かぶ。
せめて今度電話があったら話をしておこう。
扉の向こうで『また明日。』そう口が動くのが分かった。
いよいよ明日だ。
早く寝てコンディションを整えて。
やっぱり緊張するなあ。
実家に着くまでにいろいろなパターンを考えてシュミレーションするか。
書き出してみてもいいい。
計画書があると落ち着くタイプなんだ、自分は。
部屋に帰りクローゼットから服を出して1人うなずく。
何だか仕事に行く服と変わらないような気がする。
手土産も買った、タッパーも袋に入れて玄関に置く。
心を落ち着けようと静かな音楽を流す。
ちょっと前まではこうして音楽を聴いて本を読んだりして時間を過ごすのを楽しんでいた。
静かな空間にいる自分でも満足していた。
ところが今はどうだ。
一緒にいても、一人でくつろいで携帯を見てる茜にイラっとして意地悪したり、ちょっかい出したり。
面倒で騒がしい女と思ってた茜より、明らかに自分の方がめんどくさいんじゃないか。
そう思ってたら連絡が来た。
お父さんに爬虫類カフェをうらやましがられたと書いていた。
写真はどうしたんだろう?見せたのだろうか?
つい笑顔になり思ったよりずっと楽しめたとお礼を言って明日の事をお願いした。
宿題をするようにメモに書き出す。
明日の打ち合わせ事項。
書き上げて考えて、なんとなく満足した、落ち着いた。
少し頭が疲れて、そのまま早めにベッドに入った。
思ったより早く眠れたらしい。
朝起きて時計を確認する。まだ早いなあ・・・・。
それでもよく眠ったので眠くもない。
起きだしてコーヒーをいれる。
テレビをつけてぼんやりしながらも落ち着かなさがマックスへ向けて高まる。
顔を洗い、歯磨きして、服を着替えて準備万端。荷物を持って出かける。
いつもは絶対素通りしている小さな祠がある。
財布から小銭を出して置き、しばし手を合わせた。
一体何のご利益がるのか分からないけど、神頼みでなんとかなるならお願いしたい。
1時間くらいの電車の旅、駅に着いて改札を出ると手を振って彼女が待っていてくれた。
「おはようございます。遠かったですか?」
「おはよう。本を読んでたからあっという間だったよ。」
落ち着いた風を装う。
本なんて3ページ進んだかどうだかのレベルだった。
「お腹空かせてますか?」
「もちろん、お母さんを手伝ったのか?」
「はい、楽しみにしててくださいね。」
彼女の歩く横を歩きながら話をする。
ポケットから紙を出す。昨日考えた打ち合わせリスト。
彼女がどれくらい自分のとことを話してるのか、すっかりバレているとしてもちゃんと釘を刺しておきたいことがある。
「茜、お願いだから余計な事は言うなよ。」
「何ですか?余計な事って。」
見上げた顔が不思議そうだ。
「はい、ここです。」
?
1軒の家の玄関に向かって歩く彼女。
恐る恐る表札を見ると確かに『玉井』とあった。
こんなに近かったのか?聞いてないぞ。
玄関のドアを開けて待つ彼女。
急いで近くに行き腕を引っ張った。
家の中に声をかけてないから何とかななったと思う。
ドアから離れて耳元で打ち合わせの続きを。
「お願いだから、あんまりいろいろと暴露しないでくれ。茜はつい喋ってしまう方だろう、気を付けてくれ。いろんなエピソードを嬉々として話さない事。」
「そんな心配しないでください。それよりもあんまりお酒飲みすぎないでくださいね。近藤さんこそびっくりすることを言いますから。」
ん?そう言えば良く聞いてなかったが。
「なあ、茜。俺はどうなるんだ?この間はどうなったんだ?」
「聞きたいんですか?しかも、今。」
う、気になる言い方だが。なんだ?
「だから近藤さん、大人の顔して、もの分かりのいい振りしてるのに・・・・。」
いくつか話してもらったが、確かに今聞く話じゃなかったかもしれない。
聞き終わった時に言えたことは。
「茜、もし俺が酒をすすめられることになったら近くにいてくれ。お父さんを止めること、俺を止めること、怪しいと思ったら俺を強制退場させてくれ。頼む。」
無理だ、もし父親相手にそんなことを語ろうものなら二度と敷居は跨げない。
「その境界線が分からないんです。いきなり始まるんですから。気を付けてくださいね。」
そう言うと玄関に向かって歩き出した。
自分の手にある紙を見る。ぼんやりとしてきた。
さっきのは俺のセリフのはずなのだが。
何で俺が言われるんだ?
最後にそう言うつもりだったのに。
彼女が玄関を開けて待つ。ゆっくりと鼓動を落ち着かせながら向かう。
でもやはり早まってるのだ。
鼓動よ、落ち着け、大人だろう。ただの挨拶だ。
玄関で中に声をかける彼女。
中から母親が出てきた。
早速挨拶をする。
「近藤さん、遠くまでわざわざありがとうございます。茜がいろいろお世話になってます。」
想像していた通りの優しい笑顔に少し安心する。
「いえ、こちらこそ。」
こちらこそ何だろう?楽しんでますとか?
手土産を渡してお礼を言われる。
上がってくださいと言われて彼女に続く。
スリッパを出されて足を入れる。
家の中なのに手を引かれる様に彼女に掴まれて奥へ。
手はこのままでいいのか?
もしかして俺は今、注射を打たれる幼稚園児並みのビビリ状態に見えるのか?
和室には大きなテーブルがあり・・・・。
噂のお父さんがいた。
格好としては楽な格好で。とりあえず良かった。
お父さんもイメージと変わらず、聞いていた通りとても優しそうな表情で。
「どうぞ、そちらにおかけください。楽にしてください。」
優しい声で言われた。
今のところいい感触だよな?
「近藤さん、すぐにお昼でもいいですか?」
「いいって。朝ごはん食べてないって。」
彼女が答えた。
そう言いながらキッチンへ行った茜。
当然お父さんと二人残された形で座る自分。
「休みの日にわざわざお時間いただいて、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。茜が毎日楽しそうです。」
「は、はい。」・・・自分も楽しいです。最高に楽しんでます。
「昨日は爬虫類カフェに行ったとか?可愛いですよね。爬虫類も。触りましたか?あのしっとりとしたなんともクールでひやりとした感触、たまらないですよね。」
「行かれたことがあるんですか?」
びっくりだ。
「そこはないですが昔から好きでして。いいです、動物はどの子たちも人に癒しを与えてくれます。」
「はい。予想以上に可愛さを感じてしまいました。」
「そうですよね。」
やはりゆったりにっこりと微笑むお父さん。
デート先が気に入られるパターンもあるのか。
高田に教えてやろう。
「お父さん、お酒は何にされますか?」
「近藤さんはビールでよろしいですか?」
「はい。好きです。」
量は気を付けよう。
でもビールなら一番馴染んでるから安心だ。よし。
茜とお母さんが料理を並べてくれて・・・・何故重箱?
おせちのように、仕切りのある場所に詰められた和食。
素晴らしいの一言。これ自作なのか?
「お口に合うかどうか?茜と一緒に作ったんです。どうぞ。」
「凄いです。美味しそうです。あ、この間頂いた肉じゃがもとても美味しくいただきました。先ほどの紙袋の中にタッパーを入れていたんです。本当にありがとうございました。」
「はい、茜から聞いてます。」
取り皿と箸が並べられて。グラスになみなみとビールが注がれた。
タイミングが合い、みんなで合掌をしていただきますと。
さすがに一番に手を付ける気にはならず、一つづつ料理を見ている。
「近藤さん、何食べます?取りましょうか?」
お父さんがひょいひょいと自分の分を取る。
促されて自分も取る。
「近藤さん、食べながらですが、茜はどうですか?お仕事の方は。」
「はい、最初はさすがにびっくりしましたが、今はすっかり任せられるほどです。」
「そうなんですよね。最初の頃は茜が室長の視線に緊張して、今日も何かを壊して迷惑をかけたって、泣きながら言ってたからどんな人だろうと思ってたんです。もう、失敗談しか言わないし。」
何だか怖いイメージだったのか?
視線で威嚇してたように聞こえる。
「・・・最初はよく壊したよな。」
隣の彼女を見る。
「だって緊張してたんですって。」
それは聞いたが。
「新人が3人いたので助け合って良かったと思います。他の研究室は1人ずつだから。唯一の女性も一緒で。」
「ああ、若菜さんですよね。本当に仲良くしてもらって。」
「入社後の研修で30分の各課説明に行ったら・・・自分の上司だと分かってるのに1人だけ寝てました。眠くなるだろうと思って気を遣って新人に話をさせて楽しく息抜きさせたつもりなのに、最初から最後まで寝てました。」
「それも聞いてます。すみません。その時も反省して泣いてました。」
「だって・・・。」
なんだ?何故だ?その後は続かなかった。
「良く見捨てずに育てていただいて。」
この流れは、ただの上司の挨拶みたいだけど。
どこかでほっとするような、がっかりするような。
まだ彼氏とは認めてもらえてないとか?
「いやあ、見捨てるどころか、違う意味でも面倒見てもらって。」
お父さんが口を開いた。微妙な発言だけど。
「本当に毎日毎日とはいかなくても、週末にはたっぷりと今週の会社の出来事を話してくれるんですが、もう近藤さんの話ばかりが目立ってしまって。呆れる位分かりやすい娘で。」
そう言われて、さり気なく上司役の話からプライベートの話へとシフト。
緊張が高まる。
「なんだかそんな話を聞いてるとぼんやり想像するじゃないですか?どんな方かと。それにすっかり私も共感してしまって片思いしてる気分の半年でした。もうこれ以上はつらくて私が告白しそうになるくらい。良かったです。こうなって。」
結構なことを言われた気がするが。認められたのか。
すっと背を伸ばし姿勢を正して箸をおく。
そう言えばビールも一口しか飲んでない。
まだまだちゃんとしてる自分を見せられる。
「少し前より茜さんとお付き合いさせていただいてます近藤理といいます。いろいろと仲がいいご家族と言うことで、彼女からお聞き及びとは思いますが、今回はお付き合いをさせていただいてますというご挨拶に伺いました。よろしくお願いいたします。」
お辞儀を一つ。
「やめてください、近藤さん。大丈夫です。そんなにかしこまらなくても。茜が楽しくいてくれるなら私たちは言うことはありませんから。」
「ありがとうございます。茜さんの上司で第二研究室の室長をしてます。29歳です。実家は長野の田舎の方です。両親と姉と妹がいます。自分は家族にそういう報告をする方ではないのでまったく茜さんの存在は知りませんが、連休に旅行のお許しがいただければ紹介しに帰りたいと思ってます。」
言い切った瞬間少し緊張もほぐれ、達成感すら湧き上がる。
「他に何かご心配なことがありましたら、聞いていただけませんか?」
「料理はお口に合いますか?」
・・・・・・お母さんのまさかの質問?確認?
「すみません、緊張で・・・でも美味しいです。」
「良かったね、茜。」
「うん。これは私が作りました。」
自分の取り皿の煮物を指して言われる。
「・・・うん、美味しい。」
なんだか力が抜ける。
まさかスルーされたのか?旅行の許可は・・・・。
「近藤さん食べて飲んで。残しても困りますよ、なんて。あとはご挨拶でもなんでも、この子を連れ回していただいて結構です。今まで家族と過ごし過ぎてましたのでどこに連れて行っても新鮮だと思いますから。」
いまサラリと旅行の許可も出たのか?
「あの、よろしいんですか?連休を見つけて長野に一緒に行ってもらって、両親に紹介を兼ねて観光案内しても。」
「もちろんです。私もご一緒したい気分ですが、遠慮しますよ。」
はあ。あっけなく・・・・。
「だから言ったじゃないですか、大丈夫ですって。」
隣で彼女が言う。その手の箸には里芋が突き刺さってる。
・・・・確かに。
「しつこいようですが、何かご心配なことはないですか?」
もっといろいろと聞かれると持ったので肩透かしというか。
「私は別に。お任せしてますし、信頼してます、娘も娘の選んだ人も。お父さんは?」
「ああ、私ももちろん同じです。もちろん涙が出るほど寂しいですが、実際お会いしてみても特に不安に思うこともありません。」
「ありがとうございます。大切なお嬢さんだとは重々分かってます。傷つけることがない様にします。改めてよろしくお願いします。」
改めてお辞儀をした。
「こちらこそ、茜をよろしくお願いします。仕事でもしっかりご指導ください。」
「はい。」
「近藤さん、もういいですから食べてください。」
そう言って皿にどんどんと料理を盛る。
「これが私が作った分です。」
皿には3種類の料理が盛られてる。
残念だがごちゃっとしてる。盛り方に指導必要と。
それでもさっきのと合わせれば4種類。
「凄いな、頑張ったな。」
「はい。」
母親を見て微笑み合うという何とも微笑ましい親子。
我が家にこんな光景があっただろうか?
記憶にないぞ。
「いただきます。」
山を崩して皿からゴロンとならないように注意して食べて行く。
なんだか注目されてるようで困るが。
「美味しい。茜・・・さんは料理も上手だったんだな。」
おっと呼び捨ては良くない。
いや~、お腹も空いてるし、一応山場は越えたと思った。
お父さんも機嫌は悪くなさそうで、旅行の許可もゲット。
あとは食事を堪能したい。
合間にお酒にも口をつけお父さんのグラスも何度か満たし、自分のグラスも何度か満たされて。
お母さんから語られる茜の子供時代。
初めて聞いたエピソードは予想外の展開と落ち。
いや想像は簡単にできるか。
違うルートの幼稚園バスに乗って結局先生の車で家まで帰ることもあった。
遠足に行けば他の家族に混じっていなくなり。
卒園式で寝て起きず、三度名前を呼ばれた後、先生が諦めて飛ばされた。
小学校では何度もランドセルが行方不明になり、買い直すこと2回。
もちろん忘れ物も多く、届けることもたびたび。
夏休みなのに一人学校に行き、運動会ではコース逆走、綱引きで骨折、保健室で勝手に昼寝。
その後も信じられないエピソード。
よく大学に受かったなあ。
それに、よくうちの会社に受かったなあ。意外に狭き門だぞ。
もしかして大事な時のポテンシャルは計り知れないとか?
幸運の女神の後ろ髪をとらえるのが上手いとか?
改めて感心する。いろんな意味で。
「最初の頃の破壊行動なんて可愛いものだったんだな。俺の説明時間に寝るのもまだまだいいほうだったんだな。他は起きてたらしいし。一応ここまでは無事故で来たし。夏休みのお寺の修行が良かったのかもしれないな。」
「ああ夏休み、茜、あの時は煩悩を捨てるって勢いで飛び出したけど、結局ダメだったってがっかりして帰ってきたのよね。片思いまっ最中だったし。」
「ん?」
「お母さん!」
「あら、近藤さんの事を諦めたくて、滝に打たれて写経して座禅してきたんでしょう。煩悩に覆いつくされて全然諦められないって泣いてたわよね。」
「そこまで言ってません。」茜が真っ赤になって怒る。
こっちもびっくりだ
「『煩悩がきれいになくなって悟りを開いた!!』みたいなこと言ってなかったか?」
「・・・・よく覚えてますね。」
「当たり前だ。他に宿坊体験した奴なんて会社中探してもいないぞ、きっと。俺は初めて聞いたぞ。」
「結局効果なくて今に至る。会えない間、逆に煩悩にまみれて消せなかったみたいね。逆効果だったのよ。」
「お母さん、何で今日は意地悪なの?」
「ちゃんと聞いてもらいなさいっていう親心よ。」
こっちに向かって微笑まれる。
娘の想いは重いのよと伝えるような無言のプレッシャーを感じる。
「だけど貴重な体験だったんだろう。良かったな。」とりあえず締める。
「近藤さんも一緒に行きますか?滝行も夏ならおすすめですよ。」
「いや・・・俺は煩悩にまみれてもいい。断る。」
何故か真っ赤になった茜。
どうした・・・・いや、別に変な意味じゃないぞ。
「そういえば、クリスマスはよろしくお願いしますね。茜がすごく楽しみにしてるみたいで。こちらはものすごく久しぶりにお父さんと2人で過ごしますので。」
「はい、楽しいクリスマスにしたいと思います。」
良かった、つながりは微妙だが話が流れた。
「で、冬休みは?年末年始はどうされるんですか?」
「特には、だいたい大掃除が終わったら部屋で映画を見て、年始に買い物に行くくらいです。毎年ぼんやり過ごしてます。」
「ご実家には帰らないの?」
「はい、わが家は結構個人個人で過ごしてる家族で。こちらのご家族のような形は自分には珍しく微笑ましい形に思えます。新鮮です。」
「じゃあ、家にいらして。おせちと年越しと。初詣までご一緒しましょう。ね、お父さん。」
なん・・・・と。年越し・・・泊まり?
「まあ、無理にとは言いませんが、よろしければ歓迎します。」
ビックリした。そう言われて断れるわけないじゃないですか。
彼女を見るとうんうんと嬉しそうにしている。
「よそ者が入ってもよろしいんでしょうか?」
「もちろんです。それに、よそ者じゃないですし。茜の大切な人なら喜んで。お父さんのお酒の相手をお願いします。茜もおせちを手伝うやる気が出るでしょう?」
「うん。頑張る。」
あっさり年末年始の2日間の予定が決まったらしい。
許されていると安心していいのか。
とりあえずはそう思うとしよう。
夕方までゆっくり食事をしながらの団らんが続いてお開きになった。
さすがに玄関でお礼を言って駅に向かうと解放感に浸れた。
肩も落ちる。ホッとした。
「茜、良かったと思うか?」
「もちろんです。2人とも楽しそうでした。それに近藤さんはお母さんの好みドンピシャリです。多分3歳くらい若返ってます。」
「頼むからこれ以上プレッシャーを与えるな。お正月もいいのかなあ。」
「はい、うれしいです。家にお泊りですよ。」
「茜の部屋か?」
「・・・・それはどうでしょうか?」
「俺は煩悩に浸りたいから狭いベッドでもいいぞ。」
肩に手を置いて小さくささやく。
「別の部屋にしてもらいます!」
真っ赤になって怒る。すぐに駅に着くのが寂しい。
「しかし想像以上に油断できない子供だったんだな。お母さんも気が抜けないな。GPSなんてない時代だろう。迷子札じゃ間に合わない。」
「そんなエピソードを並べるとそうなりますが、だいたいは平和で平凡な毎日でしたから。」
「どうだろう、今度お母さんと話をして確かめるぞ。」
「うっ・・・、お父さんにやきもち焼かれないように。」
「茜にもな。気を付けないと。」
駅に着いて改札で別れる。
「じゃあ、また明日な。ご馳走様。楽しかった。」
「はい、明日。」
手を振られて見送られながらホームに向かった。
見送られるのも寂しいなあと感じた。
電車では座れた。本を開いても全く頭に入ってこない。
諦めて目を閉じて、改めて今日の事を振り返る。
いい人たちで良かった。
つい、実家に連れて帰るなんて言ってしまった。
驚く家族の顔が思い浮かぶ。
せめて今度電話があったら話をしておこう。
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