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5 明の努力
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クリスマスのイベントは募集告知と同時に人も集まったらしい。
この時期は特にいい出会いがあったら是非にと、誰でも思う。
仕事とはいえ普段より華やかに着飾った人が楽しそうに談笑してるのを見てるのはこちらも楽しい。
黒子のように目立たなく、それでも会場全体に気を配り楽しめてなさそうな人へのフォローをする。
言うのは簡単だけど実際難しい。まだまだ、祥子さんの様には出来ない。
一人でいる人をどういう風に、どこに連れて行けばいいか。
今のところ一人でいる人がいないのが幸いだ。
カップルのように二人でいる人やそれ以上の少人数の集団があちこちにある。
受付を担当し、名札を渡す。首にかけたり胸につけたり。
次のゲームが始まるまでの歓談の時間、こうして見守るように外野にいる。
自分が担当した人はいなかった。
いたら全力でサポートしたいところだけどそういうものでもないのかもしれない。
「素敵なイベントですね。私初めて参加したんです。」
横から声をかけられた。
しまった、一人でいる参加者がいたのかと見るとキラキラと目に照明を受けるかわいらしい女の人がいた。
名札を探すがその胸辺りにはなく変わりにスタッフの腕章をつけていた。
スタッフ? 運営側の人なのか、本当に?
スーツというより華やかないでたち、化粧も、雰囲気も。
「スタッフの方ですよね?」
「はい、銀座オフィスの今野美香です。よろしくお願いします。」
しっかりと挨拶された。
「藤井明さんですよね?」
「はい、すみません、どこかでお会いしてますか?」
「いえ、初めてです。」と返される。
今ここで何か話さなければいけない用があるなら早くとは思うが・・・・。
そんな雰囲気もないので急いで体の向きを戻し会場を見る。
「明さんはやっぱりクリスマスは彼女と過ごされるんですか?」
これは単なる雑談じゃないか、しかもプライベートに切り込んできて。
「特に予定はありません。」冷たく響いたかもしれない。
「そうなんですか?私が美味しいレストランにお誘いしてもいいでしょうか?」
まったくめげずに話しかけてくる。
「あの、仕事中ですので。」
「すみません、つい、うれしくて。」
身振りが大きいのが見なくても気配でわかる。何がだよ、と思っても顔には出さず無視。
「あの方、すごい有名な方ですよね。」
今度は何だ?と思ったけど彼女のキラキラネイルが指す方向は祥子さんと二人のカップルだった。
「なんでもカップリングがとてもすばらしいって。私もあやかりたいです。」
それは目指しているということなのか?
コーディネートして欲しいということなのか?
「すごい人もいるんですね、尊敬しちゃいます。」
そういわれた途端に言葉にしてしまった。
「日比谷オフィスの先輩です。他のオフィスにも本当に噂は広がってるんですね。実際僕も何度も見ています。人を見ぬく目があるんでしょうね。自慢の先輩です。」言い切った。
「ふ~ん、なんだかとても好きですって聞こえますけど。」
「何でそんなことを・・・」一瞬振り返ってしまった。
そこに静かに怒りを含ませた声が聞こえた。
「今野さん、おしゃべりタイムなのは会員さんよ。」
しっかりした印象の女性が隣の彼女を叱る。
「すみません。」と謝っている。
「じゃあ、藤井さん、後で又お願いしますね。」
小さく胸の前で手を振りゆっくり他の場所に移動する彼女。
「ごめんなさいね、指導がちょっと甘くて。」
「いえ。」
「祥子のところの・・・。」
「藤井明です。よろしくお願いします。祥子さんと知り合いですか?」
視線は会場へ戻す。
できたら祥子さんのことを聞きたいと思うけど。
「そうよ。後で祥子も一緒に話ができたらうれしいわ。じゃあね。」
さすがに大切なイベント中。素っ気なかった。
さっきまで祥子さんが話していた二人の会員さんは今はすっかり雰囲気も打ち解けて。
祥子さんはまた端のほうへ戻ったみたい。
邪魔が入ってよく見てなかったけど又何かのご神託があったのだろうか?
せっかくの目撃のチャンスを、まったく。・・・・どこの誰だったかな?
まあ、いいや、忘れた。
ゲームの時間になり担当している自分は正面に行く。
あらかじめビンゴカードは受付で配っている。
商品を並べたり、ビンゴ画面を設定したりする。
ゲームが始まればあとは司会者メインで役割も終わる。
祥子さんが気にしていた二人のうちの男性がビンゴしたようだ。
前に出てきて自己アピールタイムがあり賞品をもらって帰っていく。
誰もが皆に向けたようなメッセージを話す中、彼は特定の女性の方を向いてその人に向けたメッセージを発信した。多分たいていの人が気がついただろう。言われた当人も顔を赤らめている。
落ち着いた大人の自信。たしか30台半ばだった。
声のトーンも落ち着いて緊張もさほど見せずに話ができていた。
それなりの立場なのかなとうかがえる。
スピーチを終えてまっすぐ彼女のところへ戻るその人。
二人のまわりにはやわらかい繭のようなオーラが見えるようだ。
ご神託をうけて是非いい方向へ。自分も心で応援をした。
こっそり確認したら二人とも日比谷の会員さんだった。
まったく気がつかなかった。
やっぱり祥子さんはすごい。
改めて思った。
ゲームタイムが終わり再びフリータイムへ。
少しづつ二人組が増えてる気がする。
祥子さんを見つけて近寄って声をかける。
もちろん視線は会場へ向けたまま。
二人にご神託をしたこと。
その後のアピールスピーチに感動したこと。
「祥子さん、あんな人を素敵な大人の男性って言うんでしょうね。」
「そうね、色々あったみたいなの。又今度話せたらね。」
一息に大人にはなれない。何事もいろんなことを見たり聞いたり体験したり。
この一年一生懸命一人前になれるようにがんばったつもりだけど、まだまだ自分では目指す大人になりきれない。
どうしても追いつけないのならせめて認められるように、そう思ってこれからもがんばるしかないんだろう、隣に立つあなたに、いつか認められるように。
短い時間の中で成果を出すのは何事も難しい。
この時間でカップルになれた人たちは何かご縁があったのだろう、もしくはありがたいご神託が。
一人ずつコートを手渡し見送る。
満足そうな人、ただ寒そうに肩を丸める人。
頑張りましょうと言いたい。いつかきっとと。
「お疲れ様でした。」
急に声をかけられた。そこにはあのときの彼女・・・・誰だったか?・・・がいた。
「あ、えっと~銀座オフィスの・・・。」
「今野美香です。」
ちょっと心外だとでも言うように眉間にしわを寄せた後、名前を教えてくれた。
「あの、この後少しお酒かお食事できませんか?」
腕に触れた手が重い。
「ごめん、予定があるんだ。」残念そうな表情で断る。
「そうですか。じゃあ又の機会に。」彼女が立ち去った。
祥子さんと一緒にお疲れ会ができたら。二人じゃなくてもいい。
いつの間にか会員さんは全員送り出されたらしい。
スタッフがあちこちで集団を作っている。
祥子さんの姿が見えないけど。
「明君、このあとどう?」耳慣れない声に名前を呼ばれて振り返る。
さっき話をした丘野さんが声をかけてくれた。
「はい、お付き合いします。祥子さんは?」
「それがいないのよ。先に帰ったのかしら?」
「どうする?」
「もちろんご一緒させてください。」
銀座オフィスの人や他のオフィスの人。
大体が先輩にあたる人だと思う。皆でお店に移動する。
「祥子ったらいつの間にいなくなったのかしら?まあ、明君から聞くからいいわ。」
「何をですか?」
「最近どう?ってこと」
漠然とした質問で答えられるようなこともない。
「相変わらず忙しそうです。いつも一人残業してると思います。」
「そう。」
「あの、僕の新人研修は祥子さんが担当してくれたんですけど、あまり何も言われなくて。今の新人なんて色々教わってるのに僕の時はすごい突き放された感じで。」
「明君は納得できないの?もっと教えて欲しかったと思ってるの?」
「はい、それは。僕は僕なりにかんばったんですけど、結局祥子さんとのやり方は違うのかあんまりどうだとは言われなくて。今でも意見が合うとこれでよかったんだなって思えることはあるんですが。いつまでたっても祥子さんに答え合わせをしてもらってる感じです。それが情けなくて。」
「祥子から少し話は聞いてたけどね、あの当時。基礎研修の内容が自然に身についてる人ならあとは経験だって。いろんな人の話を聞いて考えてあげる。もともとそれが上手にできる人はいるのよ。あなたがそうだって祥子が言ってたわよ。だから楽な生徒だって。」
「そんなこと祥子さんは一度も・・・・。」
「信じない?」
信じたい。
手や口は出されなくても後ろから見守っていてくれてるとは思ってた。
「ありがとうございました。少し・・・自信がつきました。」
「そうよ。あとは機会があったら祥子に聞いたら?」
「はい、そうします。」
「いいわね。祥子がうらやましいわ。」暖かくにっこり笑われた。
イベントの最中に部下を叱った人とはまったく違う顔で。
「なに、吉祥天の後輩?あいつも相変わらずなのか?そろそろあのこと忘れてもいいって言うのになあ。自分が幸せにならないとなあ。そう言ってやれっ。」
なんだろうと思う前に丘野さんがその人の体を向こうに押しやった。
手にしていたビールが少しこぼれた。
何のことでしょうか?
視線で訴えかけたのに負けるように丘野さんが話をする。
「いつまでも皆誤解してるのよ。昔祥子が好きだった本社の先輩が上司の奥さんと不倫をして退職に追い込まれたのよ。後になって片思いしてた祥子が言いつけたんだって噂が流れて。まったくの嘘なのに。悔しいわ、今でもそう思ってる人は多いと思うのよ。本当に関係ないし、昔のことよ。祥子には内緒ね。変な形であなたの耳に届いたらショックだろうと思って教えたけど。」
不満顔の丘野さんに分かったとうなずく。
「明君、仕事を離れると祥子は全然頼りないのよ。もし・・・・まあ、いいわ。」
強い目が柔らかい目になった。さっきより強く深く分かったとうなずいた。
そんなこと知ってる。あの日から分かってる。
さっきの話も気にならないわけではないけど昔の話だ。
その後は銀座オフィスの珍事件や祥子さんの新人時代の話など普段聞けない話も聞けた。
祥子さんの新人頃かぁ。あったんだよな、当然。
もっと知りたいと思った。いろんなことを。
この時期は特にいい出会いがあったら是非にと、誰でも思う。
仕事とはいえ普段より華やかに着飾った人が楽しそうに談笑してるのを見てるのはこちらも楽しい。
黒子のように目立たなく、それでも会場全体に気を配り楽しめてなさそうな人へのフォローをする。
言うのは簡単だけど実際難しい。まだまだ、祥子さんの様には出来ない。
一人でいる人をどういう風に、どこに連れて行けばいいか。
今のところ一人でいる人がいないのが幸いだ。
カップルのように二人でいる人やそれ以上の少人数の集団があちこちにある。
受付を担当し、名札を渡す。首にかけたり胸につけたり。
次のゲームが始まるまでの歓談の時間、こうして見守るように外野にいる。
自分が担当した人はいなかった。
いたら全力でサポートしたいところだけどそういうものでもないのかもしれない。
「素敵なイベントですね。私初めて参加したんです。」
横から声をかけられた。
しまった、一人でいる参加者がいたのかと見るとキラキラと目に照明を受けるかわいらしい女の人がいた。
名札を探すがその胸辺りにはなく変わりにスタッフの腕章をつけていた。
スタッフ? 運営側の人なのか、本当に?
スーツというより華やかないでたち、化粧も、雰囲気も。
「スタッフの方ですよね?」
「はい、銀座オフィスの今野美香です。よろしくお願いします。」
しっかりと挨拶された。
「藤井明さんですよね?」
「はい、すみません、どこかでお会いしてますか?」
「いえ、初めてです。」と返される。
今ここで何か話さなければいけない用があるなら早くとは思うが・・・・。
そんな雰囲気もないので急いで体の向きを戻し会場を見る。
「明さんはやっぱりクリスマスは彼女と過ごされるんですか?」
これは単なる雑談じゃないか、しかもプライベートに切り込んできて。
「特に予定はありません。」冷たく響いたかもしれない。
「そうなんですか?私が美味しいレストランにお誘いしてもいいでしょうか?」
まったくめげずに話しかけてくる。
「あの、仕事中ですので。」
「すみません、つい、うれしくて。」
身振りが大きいのが見なくても気配でわかる。何がだよ、と思っても顔には出さず無視。
「あの方、すごい有名な方ですよね。」
今度は何だ?と思ったけど彼女のキラキラネイルが指す方向は祥子さんと二人のカップルだった。
「なんでもカップリングがとてもすばらしいって。私もあやかりたいです。」
それは目指しているということなのか?
コーディネートして欲しいということなのか?
「すごい人もいるんですね、尊敬しちゃいます。」
そういわれた途端に言葉にしてしまった。
「日比谷オフィスの先輩です。他のオフィスにも本当に噂は広がってるんですね。実際僕も何度も見ています。人を見ぬく目があるんでしょうね。自慢の先輩です。」言い切った。
「ふ~ん、なんだかとても好きですって聞こえますけど。」
「何でそんなことを・・・」一瞬振り返ってしまった。
そこに静かに怒りを含ませた声が聞こえた。
「今野さん、おしゃべりタイムなのは会員さんよ。」
しっかりした印象の女性が隣の彼女を叱る。
「すみません。」と謝っている。
「じゃあ、藤井さん、後で又お願いしますね。」
小さく胸の前で手を振りゆっくり他の場所に移動する彼女。
「ごめんなさいね、指導がちょっと甘くて。」
「いえ。」
「祥子のところの・・・。」
「藤井明です。よろしくお願いします。祥子さんと知り合いですか?」
視線は会場へ戻す。
できたら祥子さんのことを聞きたいと思うけど。
「そうよ。後で祥子も一緒に話ができたらうれしいわ。じゃあね。」
さすがに大切なイベント中。素っ気なかった。
さっきまで祥子さんが話していた二人の会員さんは今はすっかり雰囲気も打ち解けて。
祥子さんはまた端のほうへ戻ったみたい。
邪魔が入ってよく見てなかったけど又何かのご神託があったのだろうか?
せっかくの目撃のチャンスを、まったく。・・・・どこの誰だったかな?
まあ、いいや、忘れた。
ゲームの時間になり担当している自分は正面に行く。
あらかじめビンゴカードは受付で配っている。
商品を並べたり、ビンゴ画面を設定したりする。
ゲームが始まればあとは司会者メインで役割も終わる。
祥子さんが気にしていた二人のうちの男性がビンゴしたようだ。
前に出てきて自己アピールタイムがあり賞品をもらって帰っていく。
誰もが皆に向けたようなメッセージを話す中、彼は特定の女性の方を向いてその人に向けたメッセージを発信した。多分たいていの人が気がついただろう。言われた当人も顔を赤らめている。
落ち着いた大人の自信。たしか30台半ばだった。
声のトーンも落ち着いて緊張もさほど見せずに話ができていた。
それなりの立場なのかなとうかがえる。
スピーチを終えてまっすぐ彼女のところへ戻るその人。
二人のまわりにはやわらかい繭のようなオーラが見えるようだ。
ご神託をうけて是非いい方向へ。自分も心で応援をした。
こっそり確認したら二人とも日比谷の会員さんだった。
まったく気がつかなかった。
やっぱり祥子さんはすごい。
改めて思った。
ゲームタイムが終わり再びフリータイムへ。
少しづつ二人組が増えてる気がする。
祥子さんを見つけて近寄って声をかける。
もちろん視線は会場へ向けたまま。
二人にご神託をしたこと。
その後のアピールスピーチに感動したこと。
「祥子さん、あんな人を素敵な大人の男性って言うんでしょうね。」
「そうね、色々あったみたいなの。又今度話せたらね。」
一息に大人にはなれない。何事もいろんなことを見たり聞いたり体験したり。
この一年一生懸命一人前になれるようにがんばったつもりだけど、まだまだ自分では目指す大人になりきれない。
どうしても追いつけないのならせめて認められるように、そう思ってこれからもがんばるしかないんだろう、隣に立つあなたに、いつか認められるように。
短い時間の中で成果を出すのは何事も難しい。
この時間でカップルになれた人たちは何かご縁があったのだろう、もしくはありがたいご神託が。
一人ずつコートを手渡し見送る。
満足そうな人、ただ寒そうに肩を丸める人。
頑張りましょうと言いたい。いつかきっとと。
「お疲れ様でした。」
急に声をかけられた。そこにはあのときの彼女・・・・誰だったか?・・・がいた。
「あ、えっと~銀座オフィスの・・・。」
「今野美香です。」
ちょっと心外だとでも言うように眉間にしわを寄せた後、名前を教えてくれた。
「あの、この後少しお酒かお食事できませんか?」
腕に触れた手が重い。
「ごめん、予定があるんだ。」残念そうな表情で断る。
「そうですか。じゃあ又の機会に。」彼女が立ち去った。
祥子さんと一緒にお疲れ会ができたら。二人じゃなくてもいい。
いつの間にか会員さんは全員送り出されたらしい。
スタッフがあちこちで集団を作っている。
祥子さんの姿が見えないけど。
「明君、このあとどう?」耳慣れない声に名前を呼ばれて振り返る。
さっき話をした丘野さんが声をかけてくれた。
「はい、お付き合いします。祥子さんは?」
「それがいないのよ。先に帰ったのかしら?」
「どうする?」
「もちろんご一緒させてください。」
銀座オフィスの人や他のオフィスの人。
大体が先輩にあたる人だと思う。皆でお店に移動する。
「祥子ったらいつの間にいなくなったのかしら?まあ、明君から聞くからいいわ。」
「何をですか?」
「最近どう?ってこと」
漠然とした質問で答えられるようなこともない。
「相変わらず忙しそうです。いつも一人残業してると思います。」
「そう。」
「あの、僕の新人研修は祥子さんが担当してくれたんですけど、あまり何も言われなくて。今の新人なんて色々教わってるのに僕の時はすごい突き放された感じで。」
「明君は納得できないの?もっと教えて欲しかったと思ってるの?」
「はい、それは。僕は僕なりにかんばったんですけど、結局祥子さんとのやり方は違うのかあんまりどうだとは言われなくて。今でも意見が合うとこれでよかったんだなって思えることはあるんですが。いつまでたっても祥子さんに答え合わせをしてもらってる感じです。それが情けなくて。」
「祥子から少し話は聞いてたけどね、あの当時。基礎研修の内容が自然に身についてる人ならあとは経験だって。いろんな人の話を聞いて考えてあげる。もともとそれが上手にできる人はいるのよ。あなたがそうだって祥子が言ってたわよ。だから楽な生徒だって。」
「そんなこと祥子さんは一度も・・・・。」
「信じない?」
信じたい。
手や口は出されなくても後ろから見守っていてくれてるとは思ってた。
「ありがとうございました。少し・・・自信がつきました。」
「そうよ。あとは機会があったら祥子に聞いたら?」
「はい、そうします。」
「いいわね。祥子がうらやましいわ。」暖かくにっこり笑われた。
イベントの最中に部下を叱った人とはまったく違う顔で。
「なに、吉祥天の後輩?あいつも相変わらずなのか?そろそろあのこと忘れてもいいって言うのになあ。自分が幸せにならないとなあ。そう言ってやれっ。」
なんだろうと思う前に丘野さんがその人の体を向こうに押しやった。
手にしていたビールが少しこぼれた。
何のことでしょうか?
視線で訴えかけたのに負けるように丘野さんが話をする。
「いつまでも皆誤解してるのよ。昔祥子が好きだった本社の先輩が上司の奥さんと不倫をして退職に追い込まれたのよ。後になって片思いしてた祥子が言いつけたんだって噂が流れて。まったくの嘘なのに。悔しいわ、今でもそう思ってる人は多いと思うのよ。本当に関係ないし、昔のことよ。祥子には内緒ね。変な形であなたの耳に届いたらショックだろうと思って教えたけど。」
不満顔の丘野さんに分かったとうなずく。
「明君、仕事を離れると祥子は全然頼りないのよ。もし・・・・まあ、いいわ。」
強い目が柔らかい目になった。さっきより強く深く分かったとうなずいた。
そんなこと知ってる。あの日から分かってる。
さっきの話も気にならないわけではないけど昔の話だ。
その後は銀座オフィスの珍事件や祥子さんの新人時代の話など普段聞けない話も聞けた。
祥子さんの新人頃かぁ。あったんだよな、当然。
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