日比谷の吉祥天、幸せのお手伝いいたします。

羽月☆

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16 梅の花の夜に決まったこと

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受付係をしながら参加者に挨拶する。
明るい人、控えめな人。これだけでもいろいろと分かることがある。

ドレスコードは『春の花』
コサージュやスカーフなどやワンピースの花柄まで。
会場は明るい華やかさに満ちていた。
自分のオフィスの人にはさりげなく近づいて挨拶をする。
受付でも一言声をかけていたので3人とも思い出してくれていた。

彼女はちょうど端にいた。
春らしいやわらかいワンピースは若い彼女を一層華やかに見せている。
服とメイクを褒めて楽しんでくださいと告げる。

「何か気になること、聞きたいことはありますか?」

「なんだか緊張してしまって。」

確かにカチコチと音がしそうた佇まい。

「大丈夫です。皆そうですから。そのために私たちがいます。気になる人がいたら後で教えてください。できるだけバックアップします。言ってもらえたほうがそれもやりやすいですし。何人でも遠慮なく。」

こっそりと彼女に告げ、さりげなく中央に押し出す。

最初はよくある5分間アピールタイム。
是非男性にリードしてもらって会話を弾ませて欲しい。

中には男性でも本当に話せない人がいる。
隣の席が近くて話が聞こえることもあり苦痛なのかもしれない。
まさか5分の間に天気の話から入るのんびりした人もいないだろう。
とにかく目に付いたいいと思えるポイント、印象を褒めること。
褒められて嫌な気になる人はいない。

今回日比谷オフィスから参加していた一人、横山さんがそのタイプなのでそうアドバイスして送り出している。
と、探してみると見つけた。顔が緊張のために赤らんでるけど何とかしゃべれてるみたい。
本当はいい人なんだけど、毎日仕事も黙々と一人でやってる研究職と聞いている。
こんな機会に是非人馴れして欲しい、まずはそこから。
もう一人の木場さんは大丈夫。
気に入った人がいれば自分からいけるということで安心。

そろそろ一周する。その後はフリータイムとなる。
お酒をついでグラスを並べる。
ちょっとつまめるような料理も取りやすいようにセッティングされている。
二重の輪になっていた人がぞろぞろとこちらに向かってくる。
数人はすでにしゃべりたい人の近くに移動を始めている。

木場さんも二人の女の人と話してる。本当に手のかからない人。
明るく笑いながら二人を均等に見ている姿はなかなか感じがいい。
そして横山さんは・・・なんと綾さんと話しをしている。
どちらがどう動いたのか見てなかった。渡辺を探す。
二人のほうを見てるのでもしかして知ってるかもしれない。
他の人に遅れて動き出す二人。
横山さんは32歳。10歳の年の差は大丈夫だろうか?
二人とも緊張しているのが手に取るようにわかるけど綾さんの笑顔はかわいらしい。
そんなに彼女を笑顔にするような会話ができてるとはこれは意外な。
なんて横山さんに悪いけど。
お似合いでもある、というか横山さんも少しこざっぱりした髪型にすれば印象もだいぶ変わるかもしれない。
今日はスーツ姿だけどあまり着慣れてない感じがする。ちょっと猫背も直してと。

急いで渡辺のところに行く。

「どうだったのか見てた?」

「ああ、横山さんが一人ぽつんとしてる綾さんのほうへ行ったんだけど。最初から探してた感じもしたよ。」

「どう思う?」

「雰囲気はいいじゃん。横山さんもしゃべれてるし、綾さんも楽しそうだし。無理はないね。」

「そうね、10歳の年の差はあるけど横山さんももっさりヘアを何とかすれば若返りそうよね。」

「うん。」

「ちょっと行ってこようかしら?」

「行って来い、ご神託。」

渡辺との会話はこんな感じでテンポが速くていい。

とりあえず二人に近づいていく。

「横山さんこんにちは。綾さん大丈夫、少しは緊張取れたみたいだけど。」

「吉川さん、どうも。」

横山さんが笑顔で挨拶してくれる。
こちらも緊張がだいぶほぐれてるみたい。

「横山さんのおかげで、大丈夫です。」

綾さんが早速うれしいことを言う。
横山さんをみると照れている顔をしてる。

「偶然ですが二人とも日比谷オフィスの会員さんです。横山さん、綾さんは入会したばかりなんです。最初は緊張してたのに今は本当に楽しそうで。私からもお礼を言わせてください。」

「いえ僕は・・・僕のほうが・・・楽しんでます。」

横山さんが私の後に綾さんを見ていう。
これはもしかしてかなりいい感じになりそうな?

「横山さんも初めてのイベントですよね?今回はお庭も貸切で梅の花が綺麗にライトアップされてます。花の見ごろを貸切で見れるんです。是非今回の脇役も二人で見てください。綾さん寒くなかったら是非。」

ちらりと横山さんを見る。気づいてくれたかしら。

「じゃあ、後でまた。」

私は渡辺のところに戻る。ついうれしい顔になっていたんだろう。

「いい感じ?」

「すっごくいい感じ。」

二人はグラスを持ったまま近くの出口から庭に出るところだった。
横山さんが上着を脱いで綾さんにかけている。

よし!一人で握りこぶしを作る。

私の視線にちゃんと気がついてくれたらしい。
もしくは実は横山さんがとても気が利くとか?ポテンシャルの高い人?

「いいでしょ。」

「いいね。」

渡辺と二人でピックアップしていた人とはちょっとタイプが違う。
横山さんはとてもリードするタイプとは思ってなかった。
どちらかというと似たもの同士だと思ってた。
やっぱり本人たちが会ってみて自分から動く結果が一番。
暗めの庭に梅の花と一緒に照らされる綾さんを見ながらそう思う。
始めて会ったときとも、会場に来たときとも印象が違う。

「綺麗よね。」

「ああ。いいんじゃない。」

さて綾さんと横山さんが心配いらないとなったら他の人はと。
大きなグループでにぎやかに話をしてる中にちょっと寂しそうな顔を見つける。
他のオフィスの会員さんだと、よくは知らない。
彼女が時々視線をやる男の人が他のグループにいる。
独りにならない程度に集団に混じるという人は端から見てるとすぐに分かる。
彼も多分そう。
渡辺から離れて彼女のほうへ歩いていく。

「こんにちは、今野さん。日比谷オフィスの吉川といいます。あの向こうのグループの人、気になるなら声をかけてみませんか?」

名札を見ながら話しかけてみて彼の特徴を言って仲介を申し出る。
彼女が逡巡するのがわかる。

「彼も多分あのグループに興味あるようではなさそうですよ。声かけてみましょうか?」

かすかにうなずいた彼女。
大人っぽいシックな服装だけどもっと華やかに大き目の花をあしらった服でも似合いそうな人だった。

「ちょっと待っててください。」

そう言って彼のほうへ行き同じように声をかける。

「こんにちは。国木田さん。日比谷オフィスの吉川といいます。」

「あ、こんにちは。」

いきなり知らないスタッフに声をかけられて戸惑いを見せる。

「あの少しお時間よろしいですか?」

「はい。」

はっきり答えてくれたのでグループから離れるようにして彼女のほうへ向く。

「もしよろしかったら彼女と一緒に話をと思いまして。」

国木田さんが彼女のほうを向く。
彼女は心配そうにこちらを見ていたけど、いきなりお辞儀をした。
まさかそこでお辞儀をされるとは思わなかった。
それはそれは丁寧に綺麗に。
仕事柄そんな風に接客してたりするんだろうか?
彼が歩き出して彼女に向かう。
後ろをついていき彼女を呼び寄せるように離れたスペースを指す。

「良かったです。お二人は始めての参加ですか?」

「はい。」声が重なる。

「すみません、全然違うオフィスの私だとお互いを紹介できるほどに何の情報もないんですが。今回のイベントの脇役はお庭の梅の花です。寒いかもしれませんがよろしかったらお庭もどうぞ。お二人の春の花はネクタイとネイルですね。素敵です。」

「仕事のあとそのまま来てしまったので、皆さんの華やかさに比べたら。」

今野さんがちょっと恥ずかしそうに言う。

「いえ、シックな姿も素敵です。お仕事の後だったんですね、ご参加ありがとうございます。先ほどのお辞儀がとても美しくてびっくりしました。ねえ、国木田さん、そう思いましたよね。」

「はい、接客のお仕事をされてるんですか?」

国木田さんが自分で聞いてくれた。

「はい、ギャラリーで和食器の案内から販売をしています。対応するお客様も年配の方が多いので厳しく指導されました。」

「そうなんですか。なるほど納得です。」

「まだまだ転職したばかりで、和装も今特訓中です。」と彼女。

「素敵です。桜が咲く頃には和服で花見なんていいですね。今日も是非和装も拝見したかったです。きっとお似合いになりますよね。ね。」

国木田さんも想像しただろう。私が話を振るとうなずく。

「じゃあ、この後もう少しありますね。お二人とも是非楽しんでくださいね。失礼いたします。」

二人を残して壁際に戻る。
向かい合った二人が笑いあい楽しそうに話をしているのを見て一安心。
和服で花見か・・・・いいなあ。明君も似合うんじゃない?
なんて考えてうっかりにやけてしまった。

「吉川さん。」

後ろから声をかけられてびっくりしてしまう。

「本社人事の相川です。どうですか?」

びっくりし過ぎます。ちょっと油断してたから余計に。

「はい、返事が遅くなってしまって申し訳ありませんでした。4月から本社でお世話になりたいと思います。」

「分かりました。書類を後ほどオフィス宛に送りますね。後任は同期の渡辺さんでと考えてます。そのあたり残務についてと今後の展開方向など具体的なことも書類にありますので。あと、数人下についてもらう人はもう返事を頂いて決まってますので。噂は私のところまで聞こえてますよ。ご活躍楽しみにしてます。」

そう言った相川さんに御礼をして背中を見送る。
このためだけに来てくれたのかしら?

ふ~。

返事をしてしまった。あとは・・・・・。

「祥子、人事の相川さんよね。あの話でしょ?」

「そう、やっと返事をしたところ。」

「へ、まさかあの子に反対されたとか?」

「違う、言い出せてなくて。少し前に自分で決めて返事しようと思ったら、今日この場に会いに行きますなんて言われてて。」

「あら~、実際を見られてたんじゃないの?」

「えっ、まさか。」

「ほら帰っていくわよ。」

相川さんは出口から出て行く。バックヤードではなくこの部屋から出て行った。
出て行く前にこちらを振り返る。
私はさっき見た今野さんのように綺麗なお辞儀をした、つもり。よろしくお願いいたします、と。

「相川さんは切れ者の噂があるのよ。知らなかった?」

何でそんなこと知ってるのよ。
最後の言葉といい見えないプレッシャーが肩にのしかかる。
日比谷のオフィス以外まったくアウェイでそんな噂には鈍いほうだったりする。

「とりあえず彼に早く報告したら。『祥子さんそんな大切なこと僕に何の相談もなく・・・そんなに僕は頼りになりませんか?』なんてウルウルされたりして。」

「明君で遊ばないでよ。そんなことは言いません。」小声で抗議する。

「言わなくても思うかもね。それで今日は渡辺もいるし同期組で飲みに行こう。」

「そうね。」

会場を見ながら横並びでそんな話をする。小声の会話も得意です。


もう異動は決まった。
今日明君の部屋に行き報告しよう。
ゲームも終わり再びの歓談タイム。
梅の花も楽しんでくださいと言われて二人組みで外に行く組、窓際で数人で見ている組。

さっきの二組はグラス片手に話を続けている。
よかった、二組とも静かなうちに行けただろう。
木場さんはというと女の人が一人になってカップルになったのだろう、楽しそうに話している。
渡辺が横に来た。

「さっき丘野に誘われた。」

「ああ。行けるの?」

「まあね。祥子、今のうちに休んでくれば?」

「そうね。じゃあお願い。」

日比谷オフィスの雰囲気は変わるだろうか?
なによりいろんな雑務を思いっきり奴に押し付けられる喜び。

ふふふっ。思い知れっ!

バックヤードでドリンクと軽食を口にしながら明君へメールする。
すぐに返事は来た。駅まで迎えに来てくれるらしい。
遅くなるときはタクシーで帰るからと返信した。

ふ~。

休んでる中には顔見知りが多い。
挨拶をして話をする。

一人の女性スタッフに話しかけられた。

「吉川さん、品川オフィスの高田といいます。」

スタイルのいい20歳真ん中くらいの女性だった。記憶にない。

「こんにちは。ごめんなさい、初めましてで良かったですか?」

「はい、初めてご挨拶させていただきます。あの、先ほどうちの会員さんをフォローしていただいて、今野さんと言う女性の会員さんです。さりげなく男性の方のほうへお誘いいただいて。いい出会いを作っていただいて感謝いたします。ご本人の表情もとてもうれしそうで。」

「いえ、余計なことでなかったのなら良かったです。きっかけを作っただけなので後はご本人たち次第で。とても所作が綺麗な方ですよね。」

「そうなんです。凛として美しい方です。本当にいいご縁があるとうれしいです。吉川さんのおかげです。本当にありがとうございました。」

「まだこれからでしょうけど、でも私も楽しみです。」

「はい、いい報告ができるとうれしいです。」


そろそろと時計を見て会場に戻る。
会場では歓談タイムが続いている。
ゆっくり端を移動しながら適当な位置に行く。
この時点で数組のカップルはできている。もちろん3組のフォロー中カップルも含む。
本当に綾さんの笑顔は心配してるだろう母親にすぐにでも送って見せたいくらい。
見ているこちらがうれしくなるくらいの笑顔。

時間が来ていつものように本社スタッフが挨拶をして終了となった。
出口から出てコートを受け取り帰る人。中にはもう一度と庭に出る人もいる。
会場出口にいて見送りをする。笑顔で送り出した三組。

うまくいきますように。

背後に向かって心でエールを送る。



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