日比谷の吉祥天、幸せのお手伝いいたします。

羽月☆

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20 梅の花が聞いていた話

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水曜日。明日は休み。

そしてこの後は残業もない。
少し残業して待ち合わせて・・・・梅の花を見に行くことになっている。
次のイベントは桜の季節になる。うまく咲いてくれることを祈る。
明君の担当の人が二人参加するらしい。
気合が入ってるみたいで私としても是非力になりたい。

本当に人のご縁は不思議でこの間参加した梅見のときにも感じたけど、あちこちでこんがらがった糸をゆっくりほぐしてたどると・・・・思ったより近くにいる人につながってるってことがあったりするのかもしれない。
そう思った後、つい明君のほうを見てしまった。

すっかり落ち着いた関係になってしまったけど、自分の赤い糸がこんな近くにつながってるなんて思わなかったから。だってカコの言うとおりに寄り道みたいに他のところで一生懸命糸をほぐしてきたのよ、しかも一度じゃない。何度も。

明君にいつから自分を見てくれていたのか聞いたら、はっきりとは分からないと言われた。
そう言いながら思い出すような目の動きをしたけど、結局教えてもらえなかった。
何かきっかけがあったらしい。
カコに言わせると私も最初から大好きな後輩だと言ってるようだったらしい。
自分の手を離れてからももちろんフォローしていた。
確かにぐんとしっかりしてきて、男らしくなってきて・・・。
子犬のように素直に見上げて指示待ちをするような最初の頃、可愛いと思ったけど。
あの年末の夜、昔のように無防備な寝顔をもっと見たくて髪や顔に触れて、あの時自分の気持ちははっきりと自分でも分かった。
もし他の子だったらいくら寒いからってあんなに寝顔を見れる近い位置に座り込んだりしない。むしろ視線に入らないところにいるようにしただろう。

いつかほどけてしまうのだろうか?
絡まった糸がほどけてまだ先に続いていると気がついて、その先をまたたどって歩き出してしまうのだろうか?


いきなり目の前に黄色の壁ができた。

「仕事中お邪魔しますよ。」

声がして見上げると渡辺がニヤリと嫌な笑い顔をしてし見下ろしている。

「会議室で書類のチェックをお願いいたします。」

先に歩き出して会議室に入る。
仕方なくついていく。
会議室で向かい合い書類をチェックする間は黙って静かにしていた。

「じゃあ、一緒に本社に出しておく。がんばってね。色々よろしく。」

「いいけど、・・・お前あんなに奴ばかり見つめてたらもろバレだぞ。あと少しなんだからこのまま隠しとおすのかと思いきや。ここに来て視線は語る・・・。なんて。」

「隠すわよ、別に見てたんじゃなくてつい考え事してただけよ。」

「俺相手にごまかしてもしょうがないだろ。まあ、面白かったけどな。心配しなくても監視しといてやるから安心して本社でがんばれ。」

最後に思わぬ言葉をもらって素直にお礼が言えた。

「ありがとう。お願いします。」・・・決して監視役のことじゃない。

ニヤリとした笑いを残して、先に会議室を出て行く背中を見る。
それからゆっくり立ち上がる。
机の引き出しに書類をしまい、後で出しに行くことにして。

席に座って皆を見渡す。
引継ぎの前に自分なりに一人ひとり面談をしようと思う。
受け持ち担当の人について聞いて、後はお礼を一人ひとり伝える。
人事発表は3,4週くらい前にされると聞いた。そろそろ発表されてもいい頃。
それを待って面談にするか。

今年の新人も一応横並びに成長してくれた。
特別に秀でている人はいないと思ってしまう。
明君のときは自分で教えたこともあって贔屓目で見てたんだろうか?
最初から優秀と思ったりしたんだけど。
自分の指導のおかげと思いたかったか?・・・しまった又視線が行くし考えてしまう。

立ち上がり休憩室へ行く。この景色も見納めになるのかなあ。
休みの前の日は誰も残業したくない。入会面談がなければ早く帰る人が多い。
あと2時間もない。
本社も木曜日休みがいいなあ。何か問題ある?
検討事項にしておこう。でも普通にサラリーマン、OLと付き合ってる人に木曜日休みってうれしくないのか。
私以外だと同僚と会えるというメリットのみ。代休は毎回木曜日にとってやる。

もはや外の景色も関係なくなってきたのでコーヒーを持って席に戻る。
引き出しにしまった書類をチェックする。
自分の分と渡辺の分。封をして本社に電話をする。

相川さんにもらった名刺を見ながら思い出す。
あの日、本当にそのためだけに来てくれたんだろうか?

「お疲れ様です。日比谷オフィスの吉川です。お預かりした書類を本日お届けしてもよろしいでしょうか?」

「社内便でもいいし、明日でもいいですよ。ついでがあるなら直接頂きますけど。」

「それでは明日の社内便で返送いたします。よろしく願いいたします。」

所定の場所に置いておく。しまった明日は休みだ。今日の社内便はもう来ないかも。しょうがない、もし来なかったら直接運ぶしかない。
ラッキーにも終わり時間の少し前の最終社内便に頼むことができて今日中に本社に届くことになった。

これで本当に辞令を受けたことになる。
本社の人になる。

終業時間間近、トイレに行ったり化粧直しに席を立つ皆。
書類を読み終わり見上げるとパソコンを閉じたり誰もがちゃんちゃんと終わりの準備をしている。
明君はパソコンを見つめぼんやりしている。
渡辺は・・・いない。本当に残業をしない奴なのだ。さっさと帰る。
きちんと業務時間内にやっていて抜かりがないので要領がいいのだろう。
4月からは最後のセコム係を押し付けてやれると思うと気分がいい。

チャイムを合図に席を立ち挨拶をして帰る皆を見送る。
私も書類をしまいこみパソコンの電源を落とす。
あっという間に誰もいなくなる。
明君がちらりとこっちを見てバタバタと帰り支度を始める。
まさか私が定時で帰るとは思わなかったのかもしれない。

トイレに行って化粧直しをする。
帰ると明君が話しかけてくる。

「祥子さんも定時ですか?」

視線を渡辺の机に向けると明君が察したように言う。

「ナベさんも今帰りました。」

「じゃあ、誰ももういないかしら?」

「はい、みんな今日は早かったです。」

「じゃあ戸締りチェックするわ。」

窓の鍵を確認し、バッグとコートを持ちブースも一つづつ確認していく。
半分は明君がしてくれた。
そのまま照明を落としてセコムをセットしてオフィスを出る。

「珍しくないですか?祥子さんが定時に終わらせるなんて。残業があるかと思ってのんびりしてました。」

エレベーターに乗り二人になる。

「今日楽しみにしてたからね。綺麗に見れるといいわね。」

「そうですね。」

そのまま微妙な距離を保ちながら駅に。途中人並みに逆行するようにホテルへ向かう。
まだ席が空いていてすんなりと座れた。
ガラス越しには梅の花は遠い。庭に出ている人が木々の合間に見える。

「この間の会場はあそこだったのよ。貸切にしてもらって近くに寄れるのは私たちだけだったのよ。今日は近くにいけるかしら?」

「貸切いいですね。今度も貸切でしょうか?」

「多分そうよ。だいたい毎年会場は同じだから。」

「じゃあ、一緒に見れますね。」

笑顔で言われる。確かにそうなる。
皆を見送った後二人で見れたらうれしいけど。

「そうね。」

「祥子さん、ナベさんの彼女知ってますか?」

「ああ、ちらりと話は聞いたことはあるけど。あんまり話さないのよ。人の愚痴は面白がって聞きたがるくせに。」

「そうなんですか。大学生の頃からの付き合いらしいです。一緒に暮らしてるようでした。」

「ふ~ん。残業しないでさっさと帰るわけよね。」

「そうですね。」

食事が運ばれてきた。
サラダもメインの付け合せも綺麗な盛り付けでうれしくなる。
お酒も美味しい。
あんまり飲むと薄暗い庭で足元が危ないのでほどほどに。

食事をして外に出る。
平日だからかそれほど人はいない。
ゆっくりと足元を見ながら綺麗に整えられた日本庭園を歩く。
振り向くと食事をしたところからはだいぶ離れた。
幸い貸切のイベントもなくて梅の木の下まで歩いていけた。
しばらく見上げる。
コロンと丸い花が枝に沿って並んでいる。桜とは違いまっすぐに花が広がっている。
それでも枝振りが多いと横にも広がって桜にも決して負けない綺麗さだった。

「祥子さん、お願いというか提案があるんですが・・・。」

明君が斜め後ろから梅の木を見上げながら言う。

「何?」

なんとなく何かを言いたそうな表情をしていた、ずっと。

「一緒に暮らしませんか?祥子さんがいいと言ってくれたらきちんとご家族にご挨拶して許可をもらいたいです。」

家族に会うって、一緒に暮らしたいと許可をもらうって言っても・・・。

「祥子さん、駄目ですか?」

後ろから腰に手を回されて二人の距離が又近くなる。
頭の上に明君の顔を感じる。

「まだ指輪はないですけど結婚を前提にお付き合いしてるつもりです。もう少し考えてもらっていいので、うれしい返事を待ってます。」

「明君、それじゃあ断れないじゃない。」

後ろを向いて顔を見上げる。

「もちろんです。うれしくない返事は受け付けません。」

顔は笑ってるけど緊張してるのが分かる。

「もしかして駄目ですか?」

「駄目じゃないわ。お願いします。」

見る見る明君が笑顔になる。泣き顔の一歩手前くらいの笑顔。

「良かった。大丈夫だと自分に言い聞かせてましたけどちょっと不安でした。」

大きく肩を下ろす明君。

「本社に行ったらすれ違いになってしまうので、どうにかして近くに居たかったんです。」

「ありがとう。」

梅の花を照らす明りが明君の目の中にも光を投げていてキラキラとした目で見てくれる。

手をつないで庭のもと来た道を戻る。
駅に向かいいつもの電車で通い慣れた道をたどる。

引越しするのかしら?
さすがにあの部屋に二人分の荷物は置けないだろう。
ベランダが広めにあって緑を見下ろせる部屋があったらいいなあ。
窓から見える闇に浮かぶ夜景の光に愚痴を言うことはもうしない、と思う。
朝の爽やかな空気を吸って緑を見ながら一緒にご飯を食べる日が続けばいい。
目の前にいる可愛い明君と。
 


日比谷の吉祥天ではなくなるけど、絶対パワーアップしてると思う自分。

だってあげたくなるほどの幸せが私に満ちているんだから。



絶対そうだと思う!

つないだ手に少しだけ力を入れた。
もっともっとパワーが満ちるように、幸せのパワーが満ちるように。



でも、無理。もうこれ以上はない!!








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