38 / 40
After4 油断はできない
しおりを挟む
駅に着いた後はいつものように手をつないで歩く。
すっかり馴染んだ大きさの手にホッとする。
お弁当を買って部屋にたどり着く。
まずはちゃんと謝る。
「萩原さん、いきなりごめんなさい。お仕事無理しましたか?」
「ああ、大丈夫。でも忘れないうちに。」
棚の中から取り出したものを掌に乗せられる。
部屋の鍵・・・・・・。もちろんこの部屋の鍵・・・。
「あげる。」
重い。見上げると頭を撫でられた。
「ご飯食べよう。」
お茶を入れてご飯にする。テーブルの端に鍵を置く。
「さっきのは後輩。食事に誘われたけど彼女が部屋で待ってるからって断った。二度と誘ってこないよ。」
「今日香に聞いたんです。人気があるから、南田さんとの噂なんて信じずにアプローチしてくる子がいるからって。私知らなくて、すみません。」
「・・・・マジ?でも初めてだけど。それに琴が謝る事じゃないでしょう。」
「・・・・本当に初めてですか?」こわごわとした声で聞く。
「ああ、本当に初めて。」
軽く言われる。そうなんだろう、きっと。
すぐ教えてくれたし、きっぱり断ってくれたし。
「南田が来月入籍するから。そしたらうっとうしい昼もすっかりなくなって一緒にご飯食べれるし。もう、バレてもいいよね。」
「ありがとうございます。」これでいいよね。満足よね。
テーブルの上の鍵は後でちゃんとキーホルダーにつけるから。
本当に来てよかった。わがままだったけどちゃんと話をして。
約束してなかったら知らない事だったから、あの女の人の事。
絶対絶対知りたかった事って訳じゃないけど、きちんと教えてくれたことがうれしくて。
眠るまで本当にずっと、たくさんのわがままを言って甘えた。
大好き、愛してる。それはお礼の言葉として伝えた。
数日後、萩原さんがトレーを持っていきなり目の前の席に座った。
当然南田さんも香の前に。
南田さんについてきたギャラリーの視線が怖い。
えっと今恨まれるのは・・・・、1、香 2、萩原さん
私は別に入ってない気がする。いいの?
それでも誰も気にしないで食事を始める。
強い心臓の持ち主達。
私はさっきからこちらをうかがう一陣の視線が怖くて。
正直、食事の味もわかりません。
さっさと食事を終えた萩原さんがトレーを南田さんの方へずらす。
南田さんがさっさと二人分を片付ける。
立場の逆転、それでも笑顔の南田さん。
そんな事が何日かあった。
ちょっとづつ視線の中の食事にも慣れてきた日々。
月替わりのある日、ひたひたと噂が流れてきた。
『南田さん入籍!』
とうとう事務に届けたらしい。
入籍したとは聞いていた、彼女の誕生日にということだったらしい。素敵。
私のところに届いたということは、社内に知れ渡ったと言っていいだろう。
これでお昼ごはんも心静かにとれるだろう。
しばらくは事実確認したい人がいるかもしれないけど。
そして萩原さんとのうっすらした噂が解消される。
ああ、逆に改めて萩原さんに注目する人がいるかも。
そしてその視線が私に・・・・・。
どう?受けて立つって覚悟が必要?心を強く持つこと!
信じるのは萩原さんの言葉と2人の時間。預かった鍵の重さ。
たくさんたくさんあるから。大丈夫。
なんて思ったのに、覚悟も決めたつもりだったのに。
相変わらず南田さんは囲まれている。
そして萩原さんと私と香、みたいな形。
何故?
視線がつい疑問を解こうと南田さんの方を見てしまう。
「人の物になっても欲しいって思われるなんて。むしろ付加価値になったの?奪ってしまうことに熱意を燃やす種類の人もいるって事ね。」
香が小さくつぶやく。
そういうこともあるの?すごい!!略奪主義?
というわけで覚悟も何も必要ない状態。ホッとする。
萩原さんを見てにっこりする。安心安心。つい顔に出てたのかも。
「琴、安心はできないからね。」
香のつぶやきは完全に油断していた私を怯えさせた。
嘘・・・・何?
香は予言する。
私のポンコツな予知能力の及ぶところに全く不安材料はないのですが・・・・。
強いてあげれば・・・・。
「なあ、最近疲れてる?」
「へ?別に普通?そんなに疲れて見える?」
鏡でメイクをしている自分の横で鏡越しに言われた。
何だろう?疲れるって、その・・・寝不足はたまにあるけど誰のせい?
・・・・えっと、お互いのせいですが。
あ、もしかしてノリが悪い?ダルそうな反応になってる?
気持ちがこもってないように感じてる?
昨日も私なりに全力で取り組んでみましたが。
そんな、全然です。相変わらず・・・・です。
「あの、昨日とか変でしたか?反応が鈍かったとか?」
ちょっと控えめに聞いてみた。
「ん?」
「だから、その疲れてるのかって聞かれると・・・・・。」
フッと鼻で笑われた。何?聞いたのはそっちなのに。
たんに化粧のノリの話?自分では気が付かないけど、むしろいい感じ。
鏡にもっと近づく。
「夜中寝相が悪いんだよ。寝相というか、急に暴れる。もしかして冒険に出てる夢でも見てるのか?モンスター倒してるとか?他には・・・・何だ?。」
顎と、腕を見せられた。
痣。また顎に。転んだんじゃないの?やっぱり私が殴ったの?
冒険・・・・・夢の記憶すらなくぐっすり寝てるのに。
「すみません。何でだろう。夢は見てるかどうか覚えてません。」
オロオロと謝る。思い出しても分からない。
「寝てる間に殴ってるんですよね、グーですか?」
「後、蹴りも入る。」
・・・・蹴り?マジのマジ話ですか?
「頼むから真ん中だけは勘弁してほしい。」
ええ~、今までだって何でもなかったのに。何で急に寝相が悪くなる?
疲れてるのかな?
ああ、確かにそう聞きたくなるよね。
でもどうやったらなくなる?
対策が思いつかない。
寝る前にとても心穏やかなことを考えて・・・・考えてるし、感じてるのに。
とりあえず様子を見よう。
ベッドの真ん中にバリケードが作られないように、もう一つベッドを買われないように。
早速今夜知恵袋で、聞いてみよう。
誰か原因と対処法を教えてください。
油断ならないのは自分だったと分かった朝。
まさか・・・こんな落ち?
真ん中って・・・なんで・・・・・。がっかり。
ベッドの上では暴力女に注意ってこと?
すっかり馴染んだ大きさの手にホッとする。
お弁当を買って部屋にたどり着く。
まずはちゃんと謝る。
「萩原さん、いきなりごめんなさい。お仕事無理しましたか?」
「ああ、大丈夫。でも忘れないうちに。」
棚の中から取り出したものを掌に乗せられる。
部屋の鍵・・・・・・。もちろんこの部屋の鍵・・・。
「あげる。」
重い。見上げると頭を撫でられた。
「ご飯食べよう。」
お茶を入れてご飯にする。テーブルの端に鍵を置く。
「さっきのは後輩。食事に誘われたけど彼女が部屋で待ってるからって断った。二度と誘ってこないよ。」
「今日香に聞いたんです。人気があるから、南田さんとの噂なんて信じずにアプローチしてくる子がいるからって。私知らなくて、すみません。」
「・・・・マジ?でも初めてだけど。それに琴が謝る事じゃないでしょう。」
「・・・・本当に初めてですか?」こわごわとした声で聞く。
「ああ、本当に初めて。」
軽く言われる。そうなんだろう、きっと。
すぐ教えてくれたし、きっぱり断ってくれたし。
「南田が来月入籍するから。そしたらうっとうしい昼もすっかりなくなって一緒にご飯食べれるし。もう、バレてもいいよね。」
「ありがとうございます。」これでいいよね。満足よね。
テーブルの上の鍵は後でちゃんとキーホルダーにつけるから。
本当に来てよかった。わがままだったけどちゃんと話をして。
約束してなかったら知らない事だったから、あの女の人の事。
絶対絶対知りたかった事って訳じゃないけど、きちんと教えてくれたことがうれしくて。
眠るまで本当にずっと、たくさんのわがままを言って甘えた。
大好き、愛してる。それはお礼の言葉として伝えた。
数日後、萩原さんがトレーを持っていきなり目の前の席に座った。
当然南田さんも香の前に。
南田さんについてきたギャラリーの視線が怖い。
えっと今恨まれるのは・・・・、1、香 2、萩原さん
私は別に入ってない気がする。いいの?
それでも誰も気にしないで食事を始める。
強い心臓の持ち主達。
私はさっきからこちらをうかがう一陣の視線が怖くて。
正直、食事の味もわかりません。
さっさと食事を終えた萩原さんがトレーを南田さんの方へずらす。
南田さんがさっさと二人分を片付ける。
立場の逆転、それでも笑顔の南田さん。
そんな事が何日かあった。
ちょっとづつ視線の中の食事にも慣れてきた日々。
月替わりのある日、ひたひたと噂が流れてきた。
『南田さん入籍!』
とうとう事務に届けたらしい。
入籍したとは聞いていた、彼女の誕生日にということだったらしい。素敵。
私のところに届いたということは、社内に知れ渡ったと言っていいだろう。
これでお昼ごはんも心静かにとれるだろう。
しばらくは事実確認したい人がいるかもしれないけど。
そして萩原さんとのうっすらした噂が解消される。
ああ、逆に改めて萩原さんに注目する人がいるかも。
そしてその視線が私に・・・・・。
どう?受けて立つって覚悟が必要?心を強く持つこと!
信じるのは萩原さんの言葉と2人の時間。預かった鍵の重さ。
たくさんたくさんあるから。大丈夫。
なんて思ったのに、覚悟も決めたつもりだったのに。
相変わらず南田さんは囲まれている。
そして萩原さんと私と香、みたいな形。
何故?
視線がつい疑問を解こうと南田さんの方を見てしまう。
「人の物になっても欲しいって思われるなんて。むしろ付加価値になったの?奪ってしまうことに熱意を燃やす種類の人もいるって事ね。」
香が小さくつぶやく。
そういうこともあるの?すごい!!略奪主義?
というわけで覚悟も何も必要ない状態。ホッとする。
萩原さんを見てにっこりする。安心安心。つい顔に出てたのかも。
「琴、安心はできないからね。」
香のつぶやきは完全に油断していた私を怯えさせた。
嘘・・・・何?
香は予言する。
私のポンコツな予知能力の及ぶところに全く不安材料はないのですが・・・・。
強いてあげれば・・・・。
「なあ、最近疲れてる?」
「へ?別に普通?そんなに疲れて見える?」
鏡でメイクをしている自分の横で鏡越しに言われた。
何だろう?疲れるって、その・・・寝不足はたまにあるけど誰のせい?
・・・・えっと、お互いのせいですが。
あ、もしかしてノリが悪い?ダルそうな反応になってる?
気持ちがこもってないように感じてる?
昨日も私なりに全力で取り組んでみましたが。
そんな、全然です。相変わらず・・・・です。
「あの、昨日とか変でしたか?反応が鈍かったとか?」
ちょっと控えめに聞いてみた。
「ん?」
「だから、その疲れてるのかって聞かれると・・・・・。」
フッと鼻で笑われた。何?聞いたのはそっちなのに。
たんに化粧のノリの話?自分では気が付かないけど、むしろいい感じ。
鏡にもっと近づく。
「夜中寝相が悪いんだよ。寝相というか、急に暴れる。もしかして冒険に出てる夢でも見てるのか?モンスター倒してるとか?他には・・・・何だ?。」
顎と、腕を見せられた。
痣。また顎に。転んだんじゃないの?やっぱり私が殴ったの?
冒険・・・・・夢の記憶すらなくぐっすり寝てるのに。
「すみません。何でだろう。夢は見てるかどうか覚えてません。」
オロオロと謝る。思い出しても分からない。
「寝てる間に殴ってるんですよね、グーですか?」
「後、蹴りも入る。」
・・・・蹴り?マジのマジ話ですか?
「頼むから真ん中だけは勘弁してほしい。」
ええ~、今までだって何でもなかったのに。何で急に寝相が悪くなる?
疲れてるのかな?
ああ、確かにそう聞きたくなるよね。
でもどうやったらなくなる?
対策が思いつかない。
寝る前にとても心穏やかなことを考えて・・・・考えてるし、感じてるのに。
とりあえず様子を見よう。
ベッドの真ん中にバリケードが作られないように、もう一つベッドを買われないように。
早速今夜知恵袋で、聞いてみよう。
誰か原因と対処法を教えてください。
油断ならないのは自分だったと分かった朝。
まさか・・・こんな落ち?
真ん中って・・・なんで・・・・・。がっかり。
ベッドの上では暴力女に注意ってこと?
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる