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After3 予知できること、しなかったこと

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仕事は3年目になった。

目を閉じてても出来るなんてことは絶対ないけど、それなりに要領よくなる。
それを成長と言おう。
まだまだ上に先輩がいるので立場もあんまり変わらず。
それでも春から夏までちょっと社内はソワソワとする。
春から新人教育が始まり配属先で落ち着いて仕事が出来るようになるまで数ヶ月。
時間がたつと周りが見えてくる後輩。
案の定というか南田さんの取り巻きが今年もこの時期にはちょっと若くなる。
そろそろ結婚準備をはじめてるらしいのに。
相変わらず私生活の情報は非公開で。
でもこっそり写真を見せてもらった。
彼女さんはやっぱり思った通りの知的美女。
南田さんと並ぶと素敵なことこの上ない。
リアルに存在していてほっと安心した私、内緒だけど。
こうなるとかわいい子供を見てみたいなんて思ってしまう。
結婚すると事務上の手続きが必要だし会社に報告するから、そうなったらどんな騒ぎが起こるか。
振られたと噂が立つ萩原さん。ちょっと楽しみ。


今日も平和そうな取り巻きの人たち。中では火花を散らしてるのだろうか?
いたって平等そうだと萩原さんは言っていた。
最後10分。南田さんがやってきた。

ランチ食べながらも顎を気にする萩原さん。
南田さんに小声で事件を報告してやった。

「マジ、どれ?」

顎をくいっとやられる萩原さん。
おぉぉぉ、色っぽいい・・・顎くいっ。
久しぶりに腐女子心がドキドキ鼓動を鳴らす。
噂のカップルの顎くいっ。一瞬だけ食堂の一部が静かになった気さえする。
手を払った萩原さんがさりげなく、でもじろりとこちらを睨む。

「南田、時間だ。」

そう言いながらいつもより早めに立ち上がりかけてこちらに視線をやる萩原さん。

「琴、覚えてろよ。」小声で言う。

「もちろん!赤から青になって消えるまで忘れないっ。」

私も下を見て小声で答える。
その後にっこり笑って二人を見送る。
やり取りを見てた南田さんと香の二人もとても楽しそうで何より。

「琴、楽しそうだね。」

「うん、今日はたくさんいいことありそうなの。」

そう言う予感と言うか予知能力?外れる気が全くしない!
それなのに・・・・・。

ランチタイムが終わりに近づきトレーを片付けてトイレに行く。
トイレに入るとなんとなく圧を感じる集団が近づいてきて、あっという間に囲まれる形になった。
でも私じゃない、香が。渦の中心にいるのは香・・・。

女性たちは南田さんの取り巻き一行、先輩のお姉さま。
香・・・・いろいろと頭の中に言葉が巡る。
とばっちり、勘違い、人違い、目くらまし、煙幕、噛ませ犬?・・・は違う?

「ねえ、貴方、南田さんとどういう関係?」

「はい、先輩ですけど仲のいいただの友達です。」

香は元気に答えてる。ビビってないの?
さすがに『そうなの。』と納得いくわけがないお姉さまたち。

「私は彼氏がいます。もうラブラブです。だから南田さんはただの友達です。」

嘘は言ってない。

「私の事はご心配いりません。彼氏の方も南田さんの事は知ってますし。ちょっとした縁があって今みたいに仲良く話をする友達になったんです。分かっていただけましたか?」

携帯のトップ画面をぐるっと見せる香。
なんだか・・・・有名ドラマのような光圀様感がでている。

「・・・・そう、それならいいわ。お邪魔様。」

ちょっとトーンダウンして去っていく一行。
残された私と香は視線を合わせる。
泣きそうな私に比べてあっけらかんとしてる香。

「ごめん香、巻き込んで。完全なとばっちりでしょう。」

「大丈夫、嘘は言ってないし。別に何ともないよ。琴、そんな顔しないで。」

歯磨きなどして席に戻る。
仕事の目途が立った時に携帯を持って休憩室へ。
萩原さんにメールする。

『香に悪い、どうしたらいいの?南田さんいい案ない?』

どうしよう。メールを送りオロオロと考えてると香がやってきた。

「ねえ、琴。実は初めてじゃないの。よくあるのよ。後輩も含めて。」

「え?聞いてない。」

「まあね。ただ仲がいいってだけなのに。何で勘違いするかなあ。」

「何とかしてもらうから。相談したから。」

「別にいいよ。どう見ても友達だよ。気にしないで。」

「香は強い。私だったら絶対オタオタしちゃう。」

「そういう琴が誰かさんはかわいいんじゃないの。でも永遠には隠せないよ。ちょっと楽しみ。」

「ええ~っ。」

何で、視線だけでも痛くてつらそうなのに。

「ねえ、琴。余計なお世話だけど、後輩に人気よ。前より随分優しそうな雰囲気になったし、例の噂が流れてるけどあんまり本気にされてないし。積極的な子がアプローチしてきそうよ。あっちは即断で断るだろうけど、いい気分はしないし、あとでバレた時の恨みが重なるだけだし。そろそろいいんじゃない?って私は思うけどね。」

「いろいろ知らない事が・・・・・。ちょっと今は思考停止中。」

「頑張って。私も・・・そろそろ先に進むつもりよ。」

今度こそ驚いた。

「も、も、も、もしかして、け、け、結婚?」

「まだまだ具体的には。でもそんな話も出てたりして。」

「香・・・寂しい。おめでとうだけど、寂しい。仕事は?」

「大丈夫。琴をおいて辞めないから。」

携帯は静かなまま、でもすっかり存在を忘れたままだったからいい。
萩原さんが言い寄られて私は不安になり、香が結婚へ。

今日はいいことがたくさんある日じゃなかった?

なんだか最後はため息になった。
仕事に戻ろう。香と一緒に席に戻り仕事を続けた。

一体全体何か変わっただろうか?
お昼には相変わらずの光景が繰り広げられて、同じような流れで。

あとからメールが来た。『何とかする。』という一言。
だって今日が初めてじゃないって・・・・。
それに何?後輩の話も・・・・。話がしたい。話がしたい。
『会いたいです。』そう書いて送った。
ため息しか出ない。
浮かれて楽しい未来ばっかり夢想して、足元が見えてなかった自分。
何とか仕事をして一日が終わった。

お昼までに感じていた楽しい予感だけの心はどこに行ったの?
香には逆に心配されて、情けない私。

携帯にメールが届いた。

『ちょっと終わるの遅いけど、今日も来る?いつものカフェで一時間くらい待っててくれれば帰れるかも。もっと遅くなる時はまた連絡する。』

『わがままですがお願いします。』

時間をつぶすのなんてなんてことない。
もやもや状態で帰るのは絶対嫌だし、一人でいても考えてばかりで落ち込んでいきそう。
凄く頑張ってくれたのかもしれない、無理をしてくれたのかもしれない。
一時間も待たずに連絡がきてカフェを出た。
背中を見つけて後に続く。
突然視界に女の人が入り込んできたように感じた。

「萩原先輩、お疲れ様です。」

振り返った萩原さんの視界に入らないようにすっと遠くに離れる。
誰?何?後輩?可愛い女の子だった。
おしゃれで明るそうな声できっと笑顔だっただろう。
1人改札を通り先の柱で待つ。
一人で来てくれるよね、すぐ来てくれるよね。
しばらくうつむいていたら目の前に人が立ち止まった。

「帰ろう。」

そう言われて黙ってその背中についていく。見失わないように。
誰も入り込まないように距離が詰まる。
一緒に電車に乗って端っこに行く。でも何も聞けず、何も言われず。
ちらりと見ると顎が見えた。ちょっと赤い顎。
今は、そんなことどうでもいい、もうどうでもいい。

違うこと。さっきの人は?誰?
知りたくない!!!そんなわけない・・・・じゃない。
ちゃんと聞くから、この後問い詰めて・・・・・。
朝あんなに自信もって感じてた『いい事』の予感・・・・・。
やっぱり私は現実もよく見えてないから、未来なんて全然見通せない。



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