24 / 29
24 ギイチ、ゆっくり発車します
しおりを挟む
「なんだかまたコレクション増えた?」
ギイチの自慢のコレクション。
しばらく来てなかったから、間違い探しをするように前回から増えたものを探す。
「これ、バスのだよね。乗り物つながり?」
昔のバスの車体にあっただろう行先の看板。
錆だらけのボロボロ。
バスもギイチの範疇らしい。知らなかった。
「ああ、これ知ってる。テレビでもやってた。」
いち、に、さん、し・・・。8枚。末広がりの枚数。
「これ8枚も買ったんだ。すごいね。並んで手に入れたの?」
「もちろん。並んで何とかその日にゲットできたラッキー組。それでも8枚なんてまだ少ないほうだよ。」
同じ物8枚も、使わない?転売する目的でもなく?
後ろに並んでた人が買えなくてかなり大変だったってテレビでやってたのに。
責任あるよね・・・・8枚・・・・。
ぐるりと部屋を見渡す。意外に几帳面で見事というくらい大切そうに整然と並べられている。
そして今テレビでは明らかに素人のカメラワークの映像。
揺れる画面、雑音、うるさい。
ギイチ、これは何が楽しいの?
音と画。せっかくの大型テレビで揺れる映像を見せられると余計にグルグルと酔いそうになる。
頭痛がしそうだし、吐きそうだ。
視線だけでも外す。
「一鉄、何か報告したいの?」
「え、何だろう?」
「珍しいじゃん、ラブラブな奈央さんとのデートは?」
「今日奈央は仕事なんだよ。つまんなくてさ、ギイチならいるかなって思って。」
「ありがとう、そんな時にだけ当てにしてくれて。」
何かわからない作業中のギイチ。
適当に部屋を見ながら話をする。
「ごめんね。でも、すねないでよ。」
「でさ新しい報告と言えばさ、ハルヒに彼氏が出来てさ。」
ちょっと眉間にしわが寄ってしまう話題だけど。
「これがまた本当にうれしそうな顔をしているんだ。人の事をさんざん色ボケなんて揶揄ってたくせにやたら幸せそうで。でも本当に笑顔が一層可愛くなったと思う。兄が言うのもなんだけど。」
「ハルヒちゃん可愛いからね!そろそろ妹離れしなよ。」
「なんだよ、してるよ。最初の日からお泊りに反対することもないし、一言も意見したことはないよ。でもね、奈央は知ってたんだよ。ハルヒは兄より先に奈央に教えてたんだよ。ひどいよね。内緒で奈央に紹介しようとするしさ。」
「大学生?」
「そうだよ。春から同じグループ友達になったらしい。でさ、ハルヒを泣かしなたら承知しないって兄として言ったらさ、すぐに奈央もそんなことになったら報復するからねって笑顔で言って。僕でもびっくりしたのに彼氏はニコニコして大丈夫ですって言うし。なんかさぁ、ハルヒも大きくなったなぁって思って。」
「寂しいんだ?」
「まあ、ちょっとはね。」
そこにいた変なマスコットをグリグリしながら答える。
「ねぇ、ギイチは?なんかいいことあった?」
・・・・・・沈黙。
「なんかあったの?」
マジ?
「一鉄さあ、今ついでみたいに聞いたでしょう?僕は変わらないって確かめたくて聞いたでしょう?」
「うん?そう、かな。」
多分そうかも。ハルヒも大人になったから、でもギイチは・・・。
グリグリされた後、手足を引っ張られ続けるマスコット。
そうしながらも無言のギイチの方を向いた。
「どうかした?」
心配したけど、どうも顔が赤い。
マジ?照れてる?初めて見た。
ちょっと・・・太ってるけど結構もち肌で可愛いかもしれないギイチ。
誰か気がついてくれる子いた?
「実はさぁ、仲良くしてくれる女の子ができた。」
仲良くって、どんなレベルの密度?まさかのすっかりハルヒ超え?
貴重な話は落ち着いて聞こう。
「どんな感じ、教えて。」
「この間の鉄コンで知り合った仲間と飲んでたんだけと、隣のテーブルで女子会やってて。僕たち声が大きくなって嫌な顔されたりすることあるしさ。気をつけてたけどやっぱり嫌がられてるのは感じててさ。トイレに行った時にちょうど中の1人と一緒になって、うるさくして申し訳ないって謝ったんだ。そうしたらその子が実は鉄子ですって。楽しそうなので聞いてましたって。すごくない?」
まぁ。ギイチにしてはすごい。・・・で、続き続き。
「・・・でいろいろ話をしてたんだけ。どうやら音鉄らしくてね。あ、音鉄っていうのはね・・・。」
知ってるけど嬉しそうに話し続けるのを黙って聞いた。
最近聞かせてばかりだった惚気の代わりに。
簡単にまとめると、そんなこんなの話で盛り上がったらしく、ライン交換をして。
そうしたら携帯につけていた貴重なストラップに反応して、今度あげる約束をしたと。
しばらく待っても話が続かない。
以上?終わり?で?
それでもニコニコ顔は崩れたままのトロリ顔。まだ赤いし。
それは友達、鉄友?
仲良くしてるって、やっぱりハルヒ以下、大学生以下、今やっと小学生レベル。
期待して驚いてしまったけど、まだまだ先は長そう。
「可愛いの?写真はないの?」
「ないよ。でも毎日話をしてる。」
きっと文字でね。
それでも嬉しそうなギイチの未来に期待してしまう。
「うまく行くといいな!」
「友達だよぉ。」
一応先走らないように抑えてるらしいが。
照れる大人、ちょっと・・・そのトロリ顔、可愛くないから。
「終わったよ。ご飯に行ける。」
「うん、ちなみに何してたの?」
「え・・・えっとその彼女が欲しいっていった沿線の音で・・・・ちょっと珍しいのがあるんだ。ちょっと聞く?」
ノーサンキュー!!二人で聞いて。
そう言って背中を押したい気持ちもある。
「ううん、ご飯食べたい。お腹空いた。」
ギイチの支度を促す、と言ってもそのまま財布と携帯を持って出かけるくらい。
こう見えてなかなか稼ぎのいいギイチ。
大きな出版社の旅行雑誌チームで仕事をしている。
趣味と実益が叶えられてるのだ。うらやましい。
当然出張もあり、このマンションも都内の大きな駅に近い場所でご飯を食べるのにも便利だ。
駅の方へ行かなくてもたくさんあるくらい。
それでもギイチのおすすめは普通の小さな定食屋。
カラカラと音がする引き戸を開けて暗めの店内に足を踏み入れる。
自分ではなかなか選ばないお店だ。
お店の人は笑顔で迎えてくれて顔馴染みなのはよくわかった。
お母さんが僕にも挨拶してくれる。
いい感じの温かい落ち着く雰囲気で。
ギイチらしいといえる。
「ギイチ、デートの予定とかは?」少し声を低めて聞く。
ブフォッ。
吹き出された・・・・汚いぞ。
「そそそそそそそそんな・・・・た、ただ頼まれていたものを渡して・・・・。」
まさかそんなに分かりやすくどもるとは。
「ランチでも、とか言わないの?」
「ええええええ・・・・え、え、え、えっと言うべき?」
「どうだろう?一度くらいは。」
「だって・・・断られたら悲しいよ。」
「じゃあ、コーヒー奢ったりとか。」
「・・・うん・・・・。」
仲良くしてると言っても本当にリアルに弱い。
頑張れギイチ。
「いい子だといいなぁ。」
「うん、いい子だよ。」
「いくつ?仕事は?」
「24歳。仕事は普通の会社員かな?よく聞いてない。でも週末が休みだって言ってた。」
「じゃあ、誘えばいいじゃん。何かイベントないのか?」
「小さいのならある。・・・どうしたらいいのか分からない。」
いろいろと特殊過ぎて俺もアドバイスしにくい。
どんな子だろう。
「やっぱりとにかく文字ツールでもいいから、たくさん情報やり取りして仲良くなって。コーヒーかランチを目指して。ついでにイベントに誘う約束をする。それしかないんじゃない?」
「うん。」
「すごく、ギイチはいい奴だからさ。ちょっと趣味愛が特殊だけど、それを分かってくれる人がいたら問題ないじゃん。この間の鉄コンでは誰とも喋らなかったの?」
「うん、なかなか喋りかけられなくて。」
「まあな、俺も別の意味で誰にも喋りかけられなかったよ。」
「そんなこと言ってちゃんと結果出したくせに。」
「むしろ片思いの奈央がいてくれて、お互い非鉄だと思ったからだよ。まあ、奈央が鉄子だったらある程度は話も合わせるけど。でもさあ、やっぱりディープな話はできないし、ごろごろとコレクションがあったらその内付き合いきれないなあってなるかも。だからその子も普通の人よりギイチみたいな鉄男の方が付き合いやすいとは思うよ。楽だし、分かってくれそうだし。」
本当は奈央が鉄子だったら自分も一鉄の名に恥じない鉄男になれる自信はある。
とことん付き合うと思う。でもそうは言わないでおいた。
「ありがとう。一鉄。彼女もそう思ってくれればうれしいんだけど。」
「いつ会うの?」
「まだ、だいたい来月の初めの週くらいって言ってる。」
「彼女はギイチのサイト知ってるの?」
「うん、教えた。実際に見たと言われた。」
「なんて?」
「いろいろ詳しいって、すごいって言ってくれた。」
褒められたらしい。嬉しそうだ。
「どんなタイプ?大人しそう?」
「うん、初めて声かけた時もすごくびっくりして真っ赤になってたし。」
「そうなんだ。でもさあ、隣のテーブルの中の子ってすぐわかったの?それとも可愛いなって思ってたの?だってギイチ、謝るって言ってもよく話しかけたよね。」充分驚きだ。
「・・・・・。」
なるほど。最初から気に入っていたとか、ひょっとしたら視線が合ってたとか?
いいじゃないか。楽しそうな予感。うまくいくといいなあ。
思わず笑顔になる。
「いいよなあ・・・・・一鉄は。すんなりいって・・・・。」
つぶやいた声が恨み言のようで。
「ギイチ、何度も泣き言に付き合ってくれただろう?今度だって何カ月もハルヒのせいで片思いしてたんだから。知ってるだろう、そんなにすんなりじゃないよ。」
「だって・・・・・。」
「この間も奈央は俺を突き放して一人でよく考えたいって・・・休みとって携帯をわざわざおいて旅行に行ったんだよ。俺がどんだけ不安だったか。もう帰ってくるのをひたすらハルヒの部屋で待って、強引に押しかけて全力で言葉を尽くして引き戻したんだから。苦労してるよ。ハルヒと彼氏の方がよっぽど能天気にラブラブ中だよ。」
その後にうれしくて抱き合って、疲れて寝入ってる彼女の写真を撮ったことは内緒。
さらにハルヒに送って幸せを知らしめた浮かれた行動も内緒。
・・・あれは奈央にも怒られた。
ただいま写真拡散禁止令が出ている。
撮ることは禁止されてないからいいけど。
「俺は先を見てるのに、奈央はなかなか怖がって見てくれないし。」
どうしてなんだろうと、あんなに毎回何度も確認してるのにと思う。
でも今はギイチの話で。
「ねえ、彼女に彼氏いないのは確認した?」
「・・・・してない。」
「本当にギイチはいい奴だから、幸せになってもらいたいよ。今までお世話になったし、応援できることがあったら何か言って。僕も奈央もハルヒも協力するし。」
「うん、ありがとう。別に・・・・誰にも言わないでほしいけど。」
「うん、わかった。言ってもいいうれしい段階になったら教えて。」
照れた顔だけどちょっと悲しそうな不安そうな。
奈央もよくそんな顔をする。
その根っこは分かってるのに。
ギイチには無理でも奈央にはその根っこにもたくさんたくさん言葉で栄養をあげてるつもりなのに。
結局、彼女の話を少しづつ聞いて別れた日。
奈央がいない夜。今日は主任当直らしい。忙しいらしい。
前は本当に悩んでた仕事だけど、少しづつまた頑張りだしてる。
本当に頑張り屋の奈央。
明日は帰ってきたら寝たいだろうし。
寂しい夜を過ごす。
ギイチの事を報告しながら相談したい。
どう手伝っていいか、陰ながらの応援しか思いつかない。
奈央からメッセージが来た。
珍しくゆっくりご飯を食べてるらしい。
『ゆっくり休めるといいね。・・・・・また会える日まで。その時を楽しみに待ってる。』
『うん、ちょっと休んだら行くかも??????』
『奈央、すっごくうれしいけど無理はしないで。平和な夜を祈ってる。じゃあね。』
『じゃあね。』
ギイチの事など頭から消し飛んでいた。
ごめんねギイチ、やっぱりハッピーです。
ギイチの自慢のコレクション。
しばらく来てなかったから、間違い探しをするように前回から増えたものを探す。
「これ、バスのだよね。乗り物つながり?」
昔のバスの車体にあっただろう行先の看板。
錆だらけのボロボロ。
バスもギイチの範疇らしい。知らなかった。
「ああ、これ知ってる。テレビでもやってた。」
いち、に、さん、し・・・。8枚。末広がりの枚数。
「これ8枚も買ったんだ。すごいね。並んで手に入れたの?」
「もちろん。並んで何とかその日にゲットできたラッキー組。それでも8枚なんてまだ少ないほうだよ。」
同じ物8枚も、使わない?転売する目的でもなく?
後ろに並んでた人が買えなくてかなり大変だったってテレビでやってたのに。
責任あるよね・・・・8枚・・・・。
ぐるりと部屋を見渡す。意外に几帳面で見事というくらい大切そうに整然と並べられている。
そして今テレビでは明らかに素人のカメラワークの映像。
揺れる画面、雑音、うるさい。
ギイチ、これは何が楽しいの?
音と画。せっかくの大型テレビで揺れる映像を見せられると余計にグルグルと酔いそうになる。
頭痛がしそうだし、吐きそうだ。
視線だけでも外す。
「一鉄、何か報告したいの?」
「え、何だろう?」
「珍しいじゃん、ラブラブな奈央さんとのデートは?」
「今日奈央は仕事なんだよ。つまんなくてさ、ギイチならいるかなって思って。」
「ありがとう、そんな時にだけ当てにしてくれて。」
何かわからない作業中のギイチ。
適当に部屋を見ながら話をする。
「ごめんね。でも、すねないでよ。」
「でさ新しい報告と言えばさ、ハルヒに彼氏が出来てさ。」
ちょっと眉間にしわが寄ってしまう話題だけど。
「これがまた本当にうれしそうな顔をしているんだ。人の事をさんざん色ボケなんて揶揄ってたくせにやたら幸せそうで。でも本当に笑顔が一層可愛くなったと思う。兄が言うのもなんだけど。」
「ハルヒちゃん可愛いからね!そろそろ妹離れしなよ。」
「なんだよ、してるよ。最初の日からお泊りに反対することもないし、一言も意見したことはないよ。でもね、奈央は知ってたんだよ。ハルヒは兄より先に奈央に教えてたんだよ。ひどいよね。内緒で奈央に紹介しようとするしさ。」
「大学生?」
「そうだよ。春から同じグループ友達になったらしい。でさ、ハルヒを泣かしなたら承知しないって兄として言ったらさ、すぐに奈央もそんなことになったら報復するからねって笑顔で言って。僕でもびっくりしたのに彼氏はニコニコして大丈夫ですって言うし。なんかさぁ、ハルヒも大きくなったなぁって思って。」
「寂しいんだ?」
「まあ、ちょっとはね。」
そこにいた変なマスコットをグリグリしながら答える。
「ねぇ、ギイチは?なんかいいことあった?」
・・・・・・沈黙。
「なんかあったの?」
マジ?
「一鉄さあ、今ついでみたいに聞いたでしょう?僕は変わらないって確かめたくて聞いたでしょう?」
「うん?そう、かな。」
多分そうかも。ハルヒも大人になったから、でもギイチは・・・。
グリグリされた後、手足を引っ張られ続けるマスコット。
そうしながらも無言のギイチの方を向いた。
「どうかした?」
心配したけど、どうも顔が赤い。
マジ?照れてる?初めて見た。
ちょっと・・・太ってるけど結構もち肌で可愛いかもしれないギイチ。
誰か気がついてくれる子いた?
「実はさぁ、仲良くしてくれる女の子ができた。」
仲良くって、どんなレベルの密度?まさかのすっかりハルヒ超え?
貴重な話は落ち着いて聞こう。
「どんな感じ、教えて。」
「この間の鉄コンで知り合った仲間と飲んでたんだけと、隣のテーブルで女子会やってて。僕たち声が大きくなって嫌な顔されたりすることあるしさ。気をつけてたけどやっぱり嫌がられてるのは感じててさ。トイレに行った時にちょうど中の1人と一緒になって、うるさくして申し訳ないって謝ったんだ。そうしたらその子が実は鉄子ですって。楽しそうなので聞いてましたって。すごくない?」
まぁ。ギイチにしてはすごい。・・・で、続き続き。
「・・・でいろいろ話をしてたんだけ。どうやら音鉄らしくてね。あ、音鉄っていうのはね・・・。」
知ってるけど嬉しそうに話し続けるのを黙って聞いた。
最近聞かせてばかりだった惚気の代わりに。
簡単にまとめると、そんなこんなの話で盛り上がったらしく、ライン交換をして。
そうしたら携帯につけていた貴重なストラップに反応して、今度あげる約束をしたと。
しばらく待っても話が続かない。
以上?終わり?で?
それでもニコニコ顔は崩れたままのトロリ顔。まだ赤いし。
それは友達、鉄友?
仲良くしてるって、やっぱりハルヒ以下、大学生以下、今やっと小学生レベル。
期待して驚いてしまったけど、まだまだ先は長そう。
「可愛いの?写真はないの?」
「ないよ。でも毎日話をしてる。」
きっと文字でね。
それでも嬉しそうなギイチの未来に期待してしまう。
「うまく行くといいな!」
「友達だよぉ。」
一応先走らないように抑えてるらしいが。
照れる大人、ちょっと・・・そのトロリ顔、可愛くないから。
「終わったよ。ご飯に行ける。」
「うん、ちなみに何してたの?」
「え・・・えっとその彼女が欲しいっていった沿線の音で・・・・ちょっと珍しいのがあるんだ。ちょっと聞く?」
ノーサンキュー!!二人で聞いて。
そう言って背中を押したい気持ちもある。
「ううん、ご飯食べたい。お腹空いた。」
ギイチの支度を促す、と言ってもそのまま財布と携帯を持って出かけるくらい。
こう見えてなかなか稼ぎのいいギイチ。
大きな出版社の旅行雑誌チームで仕事をしている。
趣味と実益が叶えられてるのだ。うらやましい。
当然出張もあり、このマンションも都内の大きな駅に近い場所でご飯を食べるのにも便利だ。
駅の方へ行かなくてもたくさんあるくらい。
それでもギイチのおすすめは普通の小さな定食屋。
カラカラと音がする引き戸を開けて暗めの店内に足を踏み入れる。
自分ではなかなか選ばないお店だ。
お店の人は笑顔で迎えてくれて顔馴染みなのはよくわかった。
お母さんが僕にも挨拶してくれる。
いい感じの温かい落ち着く雰囲気で。
ギイチらしいといえる。
「ギイチ、デートの予定とかは?」少し声を低めて聞く。
ブフォッ。
吹き出された・・・・汚いぞ。
「そそそそそそそそんな・・・・た、ただ頼まれていたものを渡して・・・・。」
まさかそんなに分かりやすくどもるとは。
「ランチでも、とか言わないの?」
「ええええええ・・・・え、え、え、えっと言うべき?」
「どうだろう?一度くらいは。」
「だって・・・断られたら悲しいよ。」
「じゃあ、コーヒー奢ったりとか。」
「・・・うん・・・・。」
仲良くしてると言っても本当にリアルに弱い。
頑張れギイチ。
「いい子だといいなぁ。」
「うん、いい子だよ。」
「いくつ?仕事は?」
「24歳。仕事は普通の会社員かな?よく聞いてない。でも週末が休みだって言ってた。」
「じゃあ、誘えばいいじゃん。何かイベントないのか?」
「小さいのならある。・・・どうしたらいいのか分からない。」
いろいろと特殊過ぎて俺もアドバイスしにくい。
どんな子だろう。
「やっぱりとにかく文字ツールでもいいから、たくさん情報やり取りして仲良くなって。コーヒーかランチを目指して。ついでにイベントに誘う約束をする。それしかないんじゃない?」
「うん。」
「すごく、ギイチはいい奴だからさ。ちょっと趣味愛が特殊だけど、それを分かってくれる人がいたら問題ないじゃん。この間の鉄コンでは誰とも喋らなかったの?」
「うん、なかなか喋りかけられなくて。」
「まあな、俺も別の意味で誰にも喋りかけられなかったよ。」
「そんなこと言ってちゃんと結果出したくせに。」
「むしろ片思いの奈央がいてくれて、お互い非鉄だと思ったからだよ。まあ、奈央が鉄子だったらある程度は話も合わせるけど。でもさあ、やっぱりディープな話はできないし、ごろごろとコレクションがあったらその内付き合いきれないなあってなるかも。だからその子も普通の人よりギイチみたいな鉄男の方が付き合いやすいとは思うよ。楽だし、分かってくれそうだし。」
本当は奈央が鉄子だったら自分も一鉄の名に恥じない鉄男になれる自信はある。
とことん付き合うと思う。でもそうは言わないでおいた。
「ありがとう。一鉄。彼女もそう思ってくれればうれしいんだけど。」
「いつ会うの?」
「まだ、だいたい来月の初めの週くらいって言ってる。」
「彼女はギイチのサイト知ってるの?」
「うん、教えた。実際に見たと言われた。」
「なんて?」
「いろいろ詳しいって、すごいって言ってくれた。」
褒められたらしい。嬉しそうだ。
「どんなタイプ?大人しそう?」
「うん、初めて声かけた時もすごくびっくりして真っ赤になってたし。」
「そうなんだ。でもさあ、隣のテーブルの中の子ってすぐわかったの?それとも可愛いなって思ってたの?だってギイチ、謝るって言ってもよく話しかけたよね。」充分驚きだ。
「・・・・・。」
なるほど。最初から気に入っていたとか、ひょっとしたら視線が合ってたとか?
いいじゃないか。楽しそうな予感。うまくいくといいなあ。
思わず笑顔になる。
「いいよなあ・・・・・一鉄は。すんなりいって・・・・。」
つぶやいた声が恨み言のようで。
「ギイチ、何度も泣き言に付き合ってくれただろう?今度だって何カ月もハルヒのせいで片思いしてたんだから。知ってるだろう、そんなにすんなりじゃないよ。」
「だって・・・・・。」
「この間も奈央は俺を突き放して一人でよく考えたいって・・・休みとって携帯をわざわざおいて旅行に行ったんだよ。俺がどんだけ不安だったか。もう帰ってくるのをひたすらハルヒの部屋で待って、強引に押しかけて全力で言葉を尽くして引き戻したんだから。苦労してるよ。ハルヒと彼氏の方がよっぽど能天気にラブラブ中だよ。」
その後にうれしくて抱き合って、疲れて寝入ってる彼女の写真を撮ったことは内緒。
さらにハルヒに送って幸せを知らしめた浮かれた行動も内緒。
・・・あれは奈央にも怒られた。
ただいま写真拡散禁止令が出ている。
撮ることは禁止されてないからいいけど。
「俺は先を見てるのに、奈央はなかなか怖がって見てくれないし。」
どうしてなんだろうと、あんなに毎回何度も確認してるのにと思う。
でも今はギイチの話で。
「ねえ、彼女に彼氏いないのは確認した?」
「・・・・してない。」
「本当にギイチはいい奴だから、幸せになってもらいたいよ。今までお世話になったし、応援できることがあったら何か言って。僕も奈央もハルヒも協力するし。」
「うん、ありがとう。別に・・・・誰にも言わないでほしいけど。」
「うん、わかった。言ってもいいうれしい段階になったら教えて。」
照れた顔だけどちょっと悲しそうな不安そうな。
奈央もよくそんな顔をする。
その根っこは分かってるのに。
ギイチには無理でも奈央にはその根っこにもたくさんたくさん言葉で栄養をあげてるつもりなのに。
結局、彼女の話を少しづつ聞いて別れた日。
奈央がいない夜。今日は主任当直らしい。忙しいらしい。
前は本当に悩んでた仕事だけど、少しづつまた頑張りだしてる。
本当に頑張り屋の奈央。
明日は帰ってきたら寝たいだろうし。
寂しい夜を過ごす。
ギイチの事を報告しながら相談したい。
どう手伝っていいか、陰ながらの応援しか思いつかない。
奈央からメッセージが来た。
珍しくゆっくりご飯を食べてるらしい。
『ゆっくり休めるといいね。・・・・・また会える日まで。その時を楽しみに待ってる。』
『うん、ちょっと休んだら行くかも??????』
『奈央、すっごくうれしいけど無理はしないで。平和な夜を祈ってる。じゃあね。』
『じゃあね。』
ギイチの事など頭から消し飛んでいた。
ごめんねギイチ、やっぱりハッピーです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる