優良なハンターと言われたその人の腕前は?

羽月☆

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3 そんな話が突然私に落ちてきた。

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「ねえ、志波専務付きの人が変わるって。」

「もう?」

ランチの時に教えられたビッグニュース。
少し前に専務付きの秘書が変わった。
その時も話題にはなった。

前の人が寿退社をすることになったから、ひとりラッキーな人が次の恋人候補に選ばれた、そう皆は見ていたのに。
また変わるらしい。


「退社するの?」

「そうじゃないみたい。なんでだろうね?」

「だって上からまた下に降りてきたら色々言われそうだよ。」

はっきりと言わなくても恋愛期間が終わったのではないかと思われる。
だいたい選ばれた時にすごく喜んだらしい。
その意気込みもかなりだったらしい。

じゃあ・・・・・ねえって、そう思われる。


思わずこの間の専務を思い出す。
専務とは呼んでない、それは言われたから志波さんと呼んでいた。
だけど、上の部屋では専務としか呼べないだろう。
よく考えてみて、自分から話しかけることもなかったくらいだから志波さんとも呼んでないかも。詠歌がそう呼び掛けてたのを聞いてただけだ。

短い時間での交代劇、仕事を覚えて余裕を作るまでもなく接近したのだろうか?
甘い声で呼んだりしたんだろうか?

もしかして好みとはかけ離れてたとか、優良なハンターの守備外だったとか。
だいたい毎回毎回そんな相手を選んであの部屋にあげられるなんて、人身御供ですか?
それとも専務の周りの意見で呼ばれるの?

短期間だとそれはそれで何か言われる。

ちゃんと彼氏がいて、結婚を視野に入れてますってはっきり言える人が行けばいい。
そう、詠歌みたいにはっきり言ってる人が行けばいい。


「毎回美味しいご飯を食べたり、タクシーで移動したりするのかな?」

総務の綾香が興味があるように言う。

「分からない。偉い人のお給料事情は大先輩がやるし。」

小さい声で答える詠歌。

ものすごい数字が出て来るんだろうか?
びっくりするような金額の領収書がついてきたりするんだろうか?

ちょっと覗いてみたい気がするけど、自分の現実を見てがっかりしそうで。

しょせん全然条件が違うんだから。
あの時の奢りの金額なんてきっと大したことはないんだろう。
それでも林森先輩も一緒だったし、全部出すよなんてこと言わないから。

この間一緒に飲んだことはランチ仲間には言ってない。
誰にも聞かれない今、きっと詠歌も言ってないんだろう。
まさか専務にご馳走になりました・・・なんてね。

それから新しい人が決まった情報はなく、あのメンバーでの二度目の飲み会も当然ないまま。



ある日の午後、部長に呼ばれた。
上司に呼ばれるとちょっとだけ我が身を振り返る。
『何か失敗した?』
多分・・・ないよね。

大人しく席に向かおうとしたら、立ち上がった部長。
外に歩き出してチラリと見られたからついて行った。

誰も入ってない会議室に入った。

「失礼します。」

小さく声を出してドアを閉めて向かい合う。
椅子に座るでもなく、半端な位置に立って、見つめ合う二人・・・・。

何?????

言いずらそうな部長の顔。



「急だし、配属後もそんなに経ってないんだけどね・・・・。」

そう言った部長、その話の続きは悪夢としか思えなかった。


・・・・なぜ?

とりあえず聞いた。


「何で私が行くんですか?」

気持ちとしては行かなくてはいけないんですか!!って感じだった。
それは命令ですか?決定事項ですか?私に拒否権はあるんですか?


「それは上の方がいろいろと決めたらしいから、せっかく仕事を覚えてくれて貴重な人材の一人なのにね・・・・残念だよ。」

命令であり、決定であり、拒否権はないらしい。
しかも部長も何も言えなかったのでは・・・とそう思えた。
残念だと言ってくれたその言葉を信じたい。

「いつまでですか?」

期限があるのか?
次の人が見つかるまでとか。

「そこは異動としか聞いてないんだ。詳しくは当人から聞いてもらうのが一番だと思う。」

当人って・・・・。

「本当に残念だけど、あと急な話で・・・・来月からなんだけど、そこは大丈夫だよね。」

無理です、まったく大丈夫じゃないです、そこ、どころか全部大丈夫じゃないです。
そう言いたい。

「じゃあ、頑張ってね。」

肩を叩かれて先に部長が部屋から出て行った。
すっかり落ちた肩に重たい何かが乗せられた。

何で・・・・・・。


何も考えずに大人しく自分の席に戻って仕事をつづけた。

部長は役目を終えて普通の顔で仕事をしてるのが見える。
他に誰が知ってるの?
多分誰も知らない。

来月からって、あと数日残すのみ。
引継ぎはどうするの?
何も言われてない。

詳しい事は何も。
机をきれいにしてロッカーも引き上げて引っ越しするの?


部長が分からないのに私が分かるはずないじゃない。


とりあえず・・・・・林森さんのところに行ってみよう。
上の階に行って『当人』に確認するよりは断然寄り道したい人。


仕事を終えてちょっと時間が経った頃。
まさか部長からそんな話が来ただなんて思ってもいない詠歌に探りを入れられることもなく。



システムの林森さんのところに行ったら、まだ残っていてくれた。
ラッキー!

「林森さん、お疲れ様です。」

「あれ?お疲れ様。どうしたの?」

「少し相談があるんです。10分くらいお時間頂けませんか?」

「いいよ。今がいい?」

「出来たら・・・・でも、後でも大丈夫です。」

「今でもいいよ。ちょっと待ってて。」

そう言ってキリをつけて時間をとってくれた林森さん。
いい人だ。仲良しになれてて良かった、助かった、すごくそう思った。


休憩室に二人で行って、コーヒーを奢った。
偉そうにも言えない価格だけど、相談料だ。

人は離れた窓際に一人だけ。

「あの内緒でお願いしたいんですが、今度上の階に行くことになりまして。専務付きの指令を受けたんです。」

そう言ったら林森さんの顔が漫画のような驚いた顔をしていた。
なんだか楽しそうじゃない?
もしかして専務とも仲良しだから、良かったねなんて言われる?

「そうなの?驚いた。」

それしか言われなかった。

「私もびっくりです!せっかく仕事を覚えたのに。来月から上に行ってと言われて、いつまでかと聞いたら当人に聞いてほしいと言われたんです。」

「ああ・・・・・・・そう・・・・。」

「あの、どうなってるのか本当に分からなくて。本当にずっといくようだったら引っ越しです。次が見つかるまでだったら席もロッカーもそのままで行けるんです。専務に伺いたいんですが直接は連絡取りづらくて。」

「ああ・・・・・そうだね。」

そう言って口を閉じた林森さん、それでもすぐに携帯を出して連絡してくれたみたい。

「そうなんだ・・・・・・・。」


「はい・・・・・・。」


二人で返事を待つ。
それでも全く何も言ってこないらしい専務、忙しいのかもしれない。

「今夜にでも聞いておくから、他に何か聞きたい?」

「仕事の事と・・・何を聞いたらいいのかもわからないです。」

「とりあえずどんな感じだか聞いておくよ。秘書業務だから一緒に行動するのかな?全部が全部って訳じゃないだろうけどね。この間仲良くなってて良かったよね。」

仲良くなった・・・それは違うだろう。
軽く知り合えた、というくらいだ。

とりあえず返事が来たら連絡すると言って連絡先を交換した。

「もし直接連絡するって言ったらこの番号教えてもいいかな?」

「・・・・はい。」

どうせ来月には教えるだろう。
それとも仕事用があるだろうか?




「じゃあ、夜に電話するから。」

「よろしくお願いします。」


「いろいろ頑張って、楽しめるといいね。」

「無理です。」

はっきり言った。


どんなことを囁かれるだろうか。
何でって皆が思うはず。
今までいろんな部署から先輩たちが上の階に行ってるけど、一年目ってパターンはないよね?


林森さんにお礼を言って自分の席に戻った。

詠歌は先に帰ったらしい。
机に付箋がはられていた。『また明日。』

明日詠歌には言おう。
後は誰に言うんだろう、言ってもいいんだろうか?


まだ机で仕事をしてる部長をひと睨みしてからくるりと向きを変えて帰ることにした。



ため息が出る。
新しい人は何でダメだったんだろう。
私も仕事が覚えられないからってさっさとお役御免になることがあるんだろうか?

そんな事になったら元の今の席に戻してくれるよね。
部長も否は言わないよね。


でもそれも情けない・・・・・。


楽しめるとは思わないけど頑張るしかない。
呆れられないように、ちゃんと秘書業務をこなすしかない。


落ちつかないまま、お風呂に入りご飯も終わり。
ぼんやりとテレビを見ていた。
携帯は充電されてテーブルの上にある。
視線の中にずっとある。


そしてやっと連絡がきた。
そう思ってみたら知らない番号だった。

もしかして・・・・・・。



まさかのいきなり?


「はい。」

固い声でそう言うだけにした。

『こんばんは、志波です。』

やっぱりその人だった。

「お疲れ様です。新山です。この間はごちそうさまでした。」

『ああ・・・・いいです。早速だけど、林森から連絡があって。』

「すみません、今日部長に言われていろいろとはっきりしなくて。いくつか教えてもらってもいいですか?」

『ああ。来月から自分の秘書業務をお願いすることになったみたいだけど、よろしくお願いします。主に・・・・。』

いきなり仕事内容の説明をされた。
そしてなぜ私になったのかは聞けないまま、有休の説明までされたら期限はないのだろうと思った。

それでも聞いてみた。

「退職された先輩から新しく変わった方に引継ぎをしていただくんでしょうか?」

『いや、その人とは重ならないから、自分が説明する。そんなにたいそうな引継ぎはないと思う。』

そんな事はないだろう。
でもそう言われたら前の人が短く終わった理由なんて聞けない。

「今の課から完全に引っ越しして荷物も移すようでしょうか?ロッカーや机の中の物もいろいろありますが。」

『そうだね。上にもそれはあるから。』

じゃあ、本当に異動辞令ということらしい。

ゆっくりこっそりため息をつく。

何で・・・・・。
全く理由が見いだせないまま。

「わざわざありがとうございました。来月の一日に、上の階のお部屋に出勤すればよろしいですか?」

『そうだね。時間は今まで通りでいい。そんなに変わることもないと思う。』

そんな訳ないじゃない。楽しみなランチタイムに誘ってもらえない。
お昼はどうするの?
本当に有休とっていいの?

「わかりました。いろいろありがとうございました。来月からよろしくお願いいたします。」

そうお礼を言ってお終いにした。

『よろしく。』

そう言われて電話を切った。



ぐったり・・・・・。

そう思ってテーブルにおでこをくっつけていたらまた電話が鳴った。
見ると林森さんからだった。
遅いよ・・・・。

「もしもし。」

ちょっと声が不機嫌だったかもしれない。

『林森です。もしかして早速連絡があった?さっきからかけてたけど通じなかったんだけど。』


どうやら専務が早めの行動をとったらしい。

「はい、連絡をいただいて、いろいろ教えていただきました。」

『楽しかった?』

「何がですか?」

『えっと・・・二人での打ち合わせ・・・。』

「楽しい訳ないですよね。」

何でそこを楽しめると思うんだろう。
それでも仲良しだから、打ち合わせの電話なんて冗談のような会話で出来ると思ったんだろうか?
この間そんな雰囲気はあんまり感じられなかったけど、二人だけとか同期だけだと違うのかもしれない。
確かに前に見た楽しそうな笑顔はなかったから。


あ~あ・・・・・。
突然の異動、一体私はどんなふうに囁かれるんだろう?
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