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2 滅多にない機会に・・・でもやっぱりはるか上の存在でした。
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「香月、金曜日は楽しかった?」
ランチの時に詠歌に聞かれた。
「うん、楽しかったよ。システムの先輩と話をしてたの。」
「何?いい感じ?」
「彼女いる人だよ、有名らしいよ。那智先輩にもいじめられてたけど、明らかにもっと年上だと思う。」
「ふ~ん。でも良かった。ドタキャンでごめんね。」
詠歌は急遽彼氏との約束ができて、私は先輩と2人で参加した。
だいたいは詠歌と誘い合う。
詠歌が彼氏がいることを隠さず、私もいつも隣にいる、それが特別な事が起こらない原因の一つだろうか?なんて思ったりして。
あ、そうだった。
「ねえ、詠歌今週金曜日は?」
「別に大丈夫だよ。何?」
まだ本決まりではないけど・・・・。
「昨日のその彼女自慢の先輩に誘われたの。もう一人連れてきて一緒に飲もうって。」
「やっぱり気に入られたの?」
「だって彼女の話をずっとしてたんだよ。だいたい好きなタイプをお互いに聞いて、その人は今の彼女だって言ってたくらいだし。」
「誰か紹介してくれるの?」
「何も言われなかった。ただ金曜日飲もうって。でも予定がはっきりしないから連絡するって言われたけど、連絡先交換してもいないの。」
「微妙だね。直接来たりするかな?」
「分からない。もし誘われるようなことがあったらお願い。楽しい先輩ではあったから。」
「別にいいよ。ちょっと興味ある、何で誘ったのかな?」
それは私も知りたい、なんで誘われたの?
やはり確認の電話も社内メールもなくて・・・。
木曜日になっても連絡もないし、ないだろうなってお昼に話をしてたのに。
まさか本当に直接誘いに来るなんて思ってもなかった。
「新山さん、お疲れ様。」
そう声をかけられたのは自分の席。
本当にやってきた林森さん。
「お疲れ様です・・・・。」
「やっと予定が分かったから、明日は空いてる?」
「はい・・・・・。」
そう返事したら隣の詠歌も分かったみたいで。
「先輩、私も一緒に行ってもいいですか?佐久間詠歌です、香月と同期の一年目です。」
「もちろんいいよ。二人が来てくれるの?」
「はい。」
元気よく返事したのは詠歌だった。
「じゃあ、後でお店の情報を送るね。ちょっとだけ・・・・一時間くらい残業なんだけど、大丈夫?先にお店に行って飲んでてもいいから。」
「はい、待ちくたびれたら先にはじめてます。」
素直に言うことを聞く詠歌。
「じゃあ、明日ね。」
そう言っていなくなった林森さん。
「詠歌、林森さん、知り合いじゃないよね。」
「顔は見た事あるよね。でも話したのは今が初めてかな。楽しみだね。驕りかな?」
首をかしげる。
別に特別の好意もないのに、そうなる?
ちゃんと払うよ、払おうよ。
とりあえずあいまいな予定がはっきりした。良かった。
林森さんが誘った人はきっと先輩だろうとは思ってた。
でもまさか知ってる人だとは思わなかった。
知ってる人と言っても噂がうるさいくらいで、直接には知らない。
「同期で一番の出世頭の大地です。」
林森さんがそう紹介した。
そりゃそうだ。
まさか経営者一族の偉い人と飲むなんて。
「お疲れ様です。」
詠歌と驚きながらも二人で固い挨拶をした。
「林森さんと同期だったと言うのは初めて知りました。」
「そうでしょう?でも新山さんに年も聞かれてないからね。」
「ざっくり先輩としか知りませんでしたが。」
「同じ年なんだよ。」
「はあ・・・・。」「そうなんですね。」
私たちの反応はそうなる。
志波専務を見た。
思ったよりは普通。
まさか同期との飲み会で偉そうにもしないだろうけど。
あんまり見るのも失礼だけど、かつてないほど近くで見れたという気分だ。
有名人でも本当に上の階で忙しく働いてるんだと思う。
滅多に食堂でも見かけないんだから。
話やすいと紹介したかった林森さん、途端に会話がぎこちなくなりそうだった。
何で誘われたんだろう・・・・もう・・・。
「志波専務、林森さんとはよくご一緒されるんですか?」
明らかに敬語になる詠歌。
さすがにね。
「・・・役職は抜いてほしいんだけど。」
「はい、失礼いたしました。」
そう言われても・・・・。
「林森とは時々だね。こいつは彼女を優先する非常にマメな男だから。」
その割には飲み会で顔を覚えるくらいではあったけど。
「それは二次会に行かないだけで、ちゃんと誘われたらたいてい行ってるよ。お前が忙しいんだろう。」
きっと彼女とのデートが忙しいんでしょう・・・と目撃談から推測します。
「まあ、そうだけど。」
そうなんだ・・・・・・なんて心の中の会話を続ける。
私も俯き加減で、詠歌も大人しくなり。
大丈夫?
「だいたい大地も仕事ばっかりしてると早く老けるぞ。」
仕事ばっかりじゃないだろうけど。
結構いい具合の息抜きは出来てるみたいだし。
だから老けてはいないし。
「新山さん?」
「はい。」
林森さんに呼ばれて急いで顔をあげた。本当にずっと俯いてたし。
お酒が届いて乾杯するらしい。
テーブルの中央でゆっくりグラスを合わせた。
それでも視線は微妙にそらしたまま。
林森さんとの会話に集中するしかない。
ああ・・・・ごめんね詠歌、しょうがないよね。
まさかこんな雰囲気だなんて・・・・。
食事も運ばれてきて、食べながらも話をし始める私以外。
さすがと言うべきか詠歌はさっさとこのメンバーの雰囲気に慣れてきたらしい。
普通に話しを始めてる。
さっき心の中で手を合わせて謝ったのに必要なかったらしい。
私はそんな会話を聞きながら、ゆっくり食事に手を付ける。
「新山さんは?」
「特にないです。」
好き嫌いの話だった。
林森さんがかなりあるらしく、それが食べず嫌いだったり見た目や色が嫌いだったり。
そしてやはり例の彼女によく怒られるらしい。いくつかは矯正されたらしい。
そんな話だった。
「じゃあ、誘うのにも気を遣わないよね。」
好き嫌いありありの林森さんがそう言う。
そんな誘われることもないと思うのに、むしろ今日は何で?
そこは謎のままだ。
さすがに詠歌も専務の前じゃあ聞きづらいだろう。
「大地、そんなにお腹空いてたのか?もっと喋れよ。せっかく・・・・・。」
チラリと見たら視線が合った。
「佐久間さんの彼氏はなんとなく想像できるようになったけど・・・・新山さんは?」
彼氏の事を聞かれてるんだろうか?
「別に・・・・。」
いません。言いたくないからはっきりは言いませんが。
「じゃあ、志波さんはどんな女性が素敵だと思いますか?」
気まずくなりそうな空気を詠歌が変える。
「別に・・・・・これといって・・・・。」
綺麗で後腐れない大人の女性だろう。
詠歌も知ってる、私も知ってる、下のフロアの女の人はほとんど知ってるだろう事実。
林森さんを見たら目が合った。
何だろう?
もしかしてあの噂が伝わってるのは女性限定ってことないよね。
知ってるよね?
今は聞けないけど。
「大地はモテるんだよ、今も特別がいないのは逆に選択肢が多すぎて困るとか?」
「ない。」
困らないらしい。
まあ腕利きのハンターだからね。
狙った獲物はすかさず撃ち落とす。
そして調理、実食、後片付け。
そう思ったら急に目の前の肉が生々しく思えてきた。
「なかなか理想的な人と巡り合うのは難しいです。もう理想に近いように努力してもらうべきところはしてもらい妥協するところは妥協して、お互い様かもしれませんが。」
そう言いながらも彼氏が大好きな詠歌。
なんといっても優しいのにかっこいいらしい。
「詠歌は文句ないでしょう?」
「う・・・・・ん、まあ、ない。」
笑顔になってるじゃない。
「僕もないかなあ。でも向こうはたんまりとありそう。」
「林森さんはそれがいいんじゃないですか?もうこの間で十分分かりましたよ。怒られて躾けられたいんですよね。」
「まあね。」
「もしかしてお母さんがそんなタイプだったんですか?」
そう詠歌が聞いたらすごく眉が寄った林森さん。
「それ凄くよく言われる。ちなみに全然違う。母親は万事控えめなタイプなんだ。父親を立てるタイプだったよ・・・・・あ、生きてるけどね。」
「そうですか・・・・・なんででしょうね。」
「分からないね。」
「志波さんはそんなタイプではなさそうですけど。」
詠歌が聞く。
しょうがない、会話に入れないとね。
それにやっぱり違うと思う、噂ではね。
「まあね、こいつの話を聞く限りでは無理そうだなあ。」
「怒られそうにないですよね。」
「そうだと思う。そんなに怒られるポイントがあるとは思わないけど。」
「別に俺だって普通だよ。ただ、彼女が凄くしっかりしてるってだけだよ。」
「でも年下なんですよね。年下にどうしようもないって思われるって、相当です。」
「なんだか・・・どうしようもないっては言われてないよ・・・・。」
「色々聞き過ぎて詳しくは忘れました。」
私が言う。
「まあ、仕事ができるからいいとしてやる。」
専務が褒めた。仕事は問題ないらしい。
「あ、林森さんも出世しそうなんですか?」
「あ、人並みにってつけるのを忘れた。」
言い直された林森さん。
「ですよね・・・・。」
「酷いなあ。」
詠歌も遠慮がない。お互いにそういうタイプなんだろう。
「見たかったなあ、告白シーン。へどもどとおずおずだったんですよね?」
想像して言ってみた。
「普通そうじゃない。だいたい本当に『俺について来い。』っていう奴いる?」
そう林森さんが言ったら私と詠歌が専務を見た・・・・。
ハンターは言いそう。
「いやいやいや、こうみえて大地だって今も・・・。」
そう言った林森さんは顎をはたかれるようにして強制的に黙らされた。
「さすがに志波さんのへどもどは想像できません。」
「僕は想像したい!」
自分と同じくらいだと思いたいらしい林森さん。
でもやっぱり想像できない。
きっと小さいころからちやほやされて甘やかされながらもきちんと躾けもされたんだろう。
お酒を飲むその顔を盗み見た。
睫毛が長いのだと気が付いた。
下を向くと睫毛で影ができて印象が変わる。
そう思ってたら顔が上がって、目が合ったらやっぱりきつい目に見えた。
野生の目だ、それは腕利きのハンターの目だから。
副社長とは年が離れてるらしい、そして明らかにタイプは違う。
副社長の方がもっとドッシリしてる感じの印象だ。
立場が人をそう見せてるのか、父になり次期社長と目されて、接待が多いとそうなるんだろうか?
じゃあ、目の前の人も近い将来そうなるんだろうか?
また視線を向けた。
お肉に手を伸ばしているところで視線は合わなかった。
「それで、なんで林森さんは香月を誘ったんですか?」
気になってたことを今聞いた詠歌。
「え・・・・この間話をしたし、誘ってもいいのかなあって・・・思っただけだけど。」
どうしてそう思ったの?
そんなに飲みたそうだったってこと?
「やっぱりよく分からない、そこもへどもどなんですね。」
詠歌がまるで林森さんの彼女みたいに言う。
そっと手を押さえてクレームをやめさせた。
「いつでもいいです。是非彼女もご一緒に。」
「何で・・・それはいいよ。」
「だってあんなに話に出ると気になるじゃないですか。二人でいてやっつけられてるところを是非見てみたいです。」
「そんなまとめたらそうなるだけで、一日一回あるかないかのそんな場面だよ。期待には応えられないよ。」
「じゃあ志波さんは?彼女も一緒にって言われたら誘いますか?」
「詠歌!」
思わず小声でたしなめた。
何でそんなにさり気なく聞けるの?
同じ会社の人か取引先の人か・・・・・。
とにかくすごい美人が来るんだろう。
「無理。」
ほら、そう答えるって。普通そうだよ。
「そうなんですか。残念です。」
詠歌は楽しんでるんだろうか?酔ってるんだろうか?
まさかそんなに専務に切り込むなんて思ってもなかった。
・・・怖いもの知らずな。
「じゃあ新山さんは?連れてくる?」
そう専務に聞かれて首を振った。
もしいたら、かっこよかったら、優しくて自慢したかったら連れて来るかも。
でも今はいないし、この場には無理。
また専務と飲む機会なんてないだろうけど、無理。
もし林森さんの彼女と仲良くなったら・・・そして林森さんの知り合いとお付き合いすることになったら・・・・・なんて考えた。でもその四人のイメージはぼんやり過ぎた。
現実味がいない。
「私は奢りだったら連れて来るかも。美味しいものが食べれるなら喜んで引っ張ってくるし、彼も喜ぶと思う。」
詠歌が言う。
多分自慢したいんだろう。
自信もあるんだろう、いろいろと。
それは本当にうらやましい。
結局専務と林森さんに奢られて、私と詠歌は1000円だけ参加費として払った。
外に出てお礼をした。
「ごちそうさまでした。」
ちゃんと目を見て専務にもお礼が言えた。
「すごく美味しいお酒が飲めました。」
本当に美味しかったと思った。
あけられたシャンパンとワインは専務が選んだもので高そうだったし、その後に飲んだカクテルもなかなかいい値段で、お店もいつもよりはおしゃれだったんだと思う。
だから、きちんとお礼はした。
偉い人だからというだけじゃなくてご馳走してもらえたし。
少しだけ表情が緩んだ気がしたけど・・・気がしただけかもしれない。
数時間ではまだまだ遠い立場の人というのは変わらない。
それ以降特別に林森さんから誘われることはなくても、たくさんの人の中に一緒にいることは二回くらいあった。
相変わらず彼女との話をしてくる仲良しの先輩の一人だった。
ランチの時に詠歌に聞かれた。
「うん、楽しかったよ。システムの先輩と話をしてたの。」
「何?いい感じ?」
「彼女いる人だよ、有名らしいよ。那智先輩にもいじめられてたけど、明らかにもっと年上だと思う。」
「ふ~ん。でも良かった。ドタキャンでごめんね。」
詠歌は急遽彼氏との約束ができて、私は先輩と2人で参加した。
だいたいは詠歌と誘い合う。
詠歌が彼氏がいることを隠さず、私もいつも隣にいる、それが特別な事が起こらない原因の一つだろうか?なんて思ったりして。
あ、そうだった。
「ねえ、詠歌今週金曜日は?」
「別に大丈夫だよ。何?」
まだ本決まりではないけど・・・・。
「昨日のその彼女自慢の先輩に誘われたの。もう一人連れてきて一緒に飲もうって。」
「やっぱり気に入られたの?」
「だって彼女の話をずっとしてたんだよ。だいたい好きなタイプをお互いに聞いて、その人は今の彼女だって言ってたくらいだし。」
「誰か紹介してくれるの?」
「何も言われなかった。ただ金曜日飲もうって。でも予定がはっきりしないから連絡するって言われたけど、連絡先交換してもいないの。」
「微妙だね。直接来たりするかな?」
「分からない。もし誘われるようなことがあったらお願い。楽しい先輩ではあったから。」
「別にいいよ。ちょっと興味ある、何で誘ったのかな?」
それは私も知りたい、なんで誘われたの?
やはり確認の電話も社内メールもなくて・・・。
木曜日になっても連絡もないし、ないだろうなってお昼に話をしてたのに。
まさか本当に直接誘いに来るなんて思ってもなかった。
「新山さん、お疲れ様。」
そう声をかけられたのは自分の席。
本当にやってきた林森さん。
「お疲れ様です・・・・。」
「やっと予定が分かったから、明日は空いてる?」
「はい・・・・・。」
そう返事したら隣の詠歌も分かったみたいで。
「先輩、私も一緒に行ってもいいですか?佐久間詠歌です、香月と同期の一年目です。」
「もちろんいいよ。二人が来てくれるの?」
「はい。」
元気よく返事したのは詠歌だった。
「じゃあ、後でお店の情報を送るね。ちょっとだけ・・・・一時間くらい残業なんだけど、大丈夫?先にお店に行って飲んでてもいいから。」
「はい、待ちくたびれたら先にはじめてます。」
素直に言うことを聞く詠歌。
「じゃあ、明日ね。」
そう言っていなくなった林森さん。
「詠歌、林森さん、知り合いじゃないよね。」
「顔は見た事あるよね。でも話したのは今が初めてかな。楽しみだね。驕りかな?」
首をかしげる。
別に特別の好意もないのに、そうなる?
ちゃんと払うよ、払おうよ。
とりあえずあいまいな予定がはっきりした。良かった。
林森さんが誘った人はきっと先輩だろうとは思ってた。
でもまさか知ってる人だとは思わなかった。
知ってる人と言っても噂がうるさいくらいで、直接には知らない。
「同期で一番の出世頭の大地です。」
林森さんがそう紹介した。
そりゃそうだ。
まさか経営者一族の偉い人と飲むなんて。
「お疲れ様です。」
詠歌と驚きながらも二人で固い挨拶をした。
「林森さんと同期だったと言うのは初めて知りました。」
「そうでしょう?でも新山さんに年も聞かれてないからね。」
「ざっくり先輩としか知りませんでしたが。」
「同じ年なんだよ。」
「はあ・・・・。」「そうなんですね。」
私たちの反応はそうなる。
志波専務を見た。
思ったよりは普通。
まさか同期との飲み会で偉そうにもしないだろうけど。
あんまり見るのも失礼だけど、かつてないほど近くで見れたという気分だ。
有名人でも本当に上の階で忙しく働いてるんだと思う。
滅多に食堂でも見かけないんだから。
話やすいと紹介したかった林森さん、途端に会話がぎこちなくなりそうだった。
何で誘われたんだろう・・・・もう・・・。
「志波専務、林森さんとはよくご一緒されるんですか?」
明らかに敬語になる詠歌。
さすがにね。
「・・・役職は抜いてほしいんだけど。」
「はい、失礼いたしました。」
そう言われても・・・・。
「林森とは時々だね。こいつは彼女を優先する非常にマメな男だから。」
その割には飲み会で顔を覚えるくらいではあったけど。
「それは二次会に行かないだけで、ちゃんと誘われたらたいてい行ってるよ。お前が忙しいんだろう。」
きっと彼女とのデートが忙しいんでしょう・・・と目撃談から推測します。
「まあ、そうだけど。」
そうなんだ・・・・・・なんて心の中の会話を続ける。
私も俯き加減で、詠歌も大人しくなり。
大丈夫?
「だいたい大地も仕事ばっかりしてると早く老けるぞ。」
仕事ばっかりじゃないだろうけど。
結構いい具合の息抜きは出来てるみたいだし。
だから老けてはいないし。
「新山さん?」
「はい。」
林森さんに呼ばれて急いで顔をあげた。本当にずっと俯いてたし。
お酒が届いて乾杯するらしい。
テーブルの中央でゆっくりグラスを合わせた。
それでも視線は微妙にそらしたまま。
林森さんとの会話に集中するしかない。
ああ・・・・ごめんね詠歌、しょうがないよね。
まさかこんな雰囲気だなんて・・・・。
食事も運ばれてきて、食べながらも話をし始める私以外。
さすがと言うべきか詠歌はさっさとこのメンバーの雰囲気に慣れてきたらしい。
普通に話しを始めてる。
さっき心の中で手を合わせて謝ったのに必要なかったらしい。
私はそんな会話を聞きながら、ゆっくり食事に手を付ける。
「新山さんは?」
「特にないです。」
好き嫌いの話だった。
林森さんがかなりあるらしく、それが食べず嫌いだったり見た目や色が嫌いだったり。
そしてやはり例の彼女によく怒られるらしい。いくつかは矯正されたらしい。
そんな話だった。
「じゃあ、誘うのにも気を遣わないよね。」
好き嫌いありありの林森さんがそう言う。
そんな誘われることもないと思うのに、むしろ今日は何で?
そこは謎のままだ。
さすがに詠歌も専務の前じゃあ聞きづらいだろう。
「大地、そんなにお腹空いてたのか?もっと喋れよ。せっかく・・・・・。」
チラリと見たら視線が合った。
「佐久間さんの彼氏はなんとなく想像できるようになったけど・・・・新山さんは?」
彼氏の事を聞かれてるんだろうか?
「別に・・・・。」
いません。言いたくないからはっきりは言いませんが。
「じゃあ、志波さんはどんな女性が素敵だと思いますか?」
気まずくなりそうな空気を詠歌が変える。
「別に・・・・・これといって・・・・。」
綺麗で後腐れない大人の女性だろう。
詠歌も知ってる、私も知ってる、下のフロアの女の人はほとんど知ってるだろう事実。
林森さんを見たら目が合った。
何だろう?
もしかしてあの噂が伝わってるのは女性限定ってことないよね。
知ってるよね?
今は聞けないけど。
「大地はモテるんだよ、今も特別がいないのは逆に選択肢が多すぎて困るとか?」
「ない。」
困らないらしい。
まあ腕利きのハンターだからね。
狙った獲物はすかさず撃ち落とす。
そして調理、実食、後片付け。
そう思ったら急に目の前の肉が生々しく思えてきた。
「なかなか理想的な人と巡り合うのは難しいです。もう理想に近いように努力してもらうべきところはしてもらい妥協するところは妥協して、お互い様かもしれませんが。」
そう言いながらも彼氏が大好きな詠歌。
なんといっても優しいのにかっこいいらしい。
「詠歌は文句ないでしょう?」
「う・・・・・ん、まあ、ない。」
笑顔になってるじゃない。
「僕もないかなあ。でも向こうはたんまりとありそう。」
「林森さんはそれがいいんじゃないですか?もうこの間で十分分かりましたよ。怒られて躾けられたいんですよね。」
「まあね。」
「もしかしてお母さんがそんなタイプだったんですか?」
そう詠歌が聞いたらすごく眉が寄った林森さん。
「それ凄くよく言われる。ちなみに全然違う。母親は万事控えめなタイプなんだ。父親を立てるタイプだったよ・・・・・あ、生きてるけどね。」
「そうですか・・・・・なんででしょうね。」
「分からないね。」
「志波さんはそんなタイプではなさそうですけど。」
詠歌が聞く。
しょうがない、会話に入れないとね。
それにやっぱり違うと思う、噂ではね。
「まあね、こいつの話を聞く限りでは無理そうだなあ。」
「怒られそうにないですよね。」
「そうだと思う。そんなに怒られるポイントがあるとは思わないけど。」
「別に俺だって普通だよ。ただ、彼女が凄くしっかりしてるってだけだよ。」
「でも年下なんですよね。年下にどうしようもないって思われるって、相当です。」
「なんだか・・・どうしようもないっては言われてないよ・・・・。」
「色々聞き過ぎて詳しくは忘れました。」
私が言う。
「まあ、仕事ができるからいいとしてやる。」
専務が褒めた。仕事は問題ないらしい。
「あ、林森さんも出世しそうなんですか?」
「あ、人並みにってつけるのを忘れた。」
言い直された林森さん。
「ですよね・・・・。」
「酷いなあ。」
詠歌も遠慮がない。お互いにそういうタイプなんだろう。
「見たかったなあ、告白シーン。へどもどとおずおずだったんですよね?」
想像して言ってみた。
「普通そうじゃない。だいたい本当に『俺について来い。』っていう奴いる?」
そう林森さんが言ったら私と詠歌が専務を見た・・・・。
ハンターは言いそう。
「いやいやいや、こうみえて大地だって今も・・・。」
そう言った林森さんは顎をはたかれるようにして強制的に黙らされた。
「さすがに志波さんのへどもどは想像できません。」
「僕は想像したい!」
自分と同じくらいだと思いたいらしい林森さん。
でもやっぱり想像できない。
きっと小さいころからちやほやされて甘やかされながらもきちんと躾けもされたんだろう。
お酒を飲むその顔を盗み見た。
睫毛が長いのだと気が付いた。
下を向くと睫毛で影ができて印象が変わる。
そう思ってたら顔が上がって、目が合ったらやっぱりきつい目に見えた。
野生の目だ、それは腕利きのハンターの目だから。
副社長とは年が離れてるらしい、そして明らかにタイプは違う。
副社長の方がもっとドッシリしてる感じの印象だ。
立場が人をそう見せてるのか、父になり次期社長と目されて、接待が多いとそうなるんだろうか?
じゃあ、目の前の人も近い将来そうなるんだろうか?
また視線を向けた。
お肉に手を伸ばしているところで視線は合わなかった。
「それで、なんで林森さんは香月を誘ったんですか?」
気になってたことを今聞いた詠歌。
「え・・・・この間話をしたし、誘ってもいいのかなあって・・・思っただけだけど。」
どうしてそう思ったの?
そんなに飲みたそうだったってこと?
「やっぱりよく分からない、そこもへどもどなんですね。」
詠歌がまるで林森さんの彼女みたいに言う。
そっと手を押さえてクレームをやめさせた。
「いつでもいいです。是非彼女もご一緒に。」
「何で・・・それはいいよ。」
「だってあんなに話に出ると気になるじゃないですか。二人でいてやっつけられてるところを是非見てみたいです。」
「そんなまとめたらそうなるだけで、一日一回あるかないかのそんな場面だよ。期待には応えられないよ。」
「じゃあ志波さんは?彼女も一緒にって言われたら誘いますか?」
「詠歌!」
思わず小声でたしなめた。
何でそんなにさり気なく聞けるの?
同じ会社の人か取引先の人か・・・・・。
とにかくすごい美人が来るんだろう。
「無理。」
ほら、そう答えるって。普通そうだよ。
「そうなんですか。残念です。」
詠歌は楽しんでるんだろうか?酔ってるんだろうか?
まさかそんなに専務に切り込むなんて思ってもなかった。
・・・怖いもの知らずな。
「じゃあ新山さんは?連れてくる?」
そう専務に聞かれて首を振った。
もしいたら、かっこよかったら、優しくて自慢したかったら連れて来るかも。
でも今はいないし、この場には無理。
また専務と飲む機会なんてないだろうけど、無理。
もし林森さんの彼女と仲良くなったら・・・そして林森さんの知り合いとお付き合いすることになったら・・・・・なんて考えた。でもその四人のイメージはぼんやり過ぎた。
現実味がいない。
「私は奢りだったら連れて来るかも。美味しいものが食べれるなら喜んで引っ張ってくるし、彼も喜ぶと思う。」
詠歌が言う。
多分自慢したいんだろう。
自信もあるんだろう、いろいろと。
それは本当にうらやましい。
結局専務と林森さんに奢られて、私と詠歌は1000円だけ参加費として払った。
外に出てお礼をした。
「ごちそうさまでした。」
ちゃんと目を見て専務にもお礼が言えた。
「すごく美味しいお酒が飲めました。」
本当に美味しかったと思った。
あけられたシャンパンとワインは専務が選んだもので高そうだったし、その後に飲んだカクテルもなかなかいい値段で、お店もいつもよりはおしゃれだったんだと思う。
だから、きちんとお礼はした。
偉い人だからというだけじゃなくてご馳走してもらえたし。
少しだけ表情が緩んだ気がしたけど・・・気がしただけかもしれない。
数時間ではまだまだ遠い立場の人というのは変わらない。
それ以降特別に林森さんから誘われることはなくても、たくさんの人の中に一緒にいることは二回くらいあった。
相変わらず彼女との話をしてくる仲良しの先輩の一人だった。
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