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15 週末、優先させた先輩との約束の後に。
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西坂さんに先に予定を告げて、今週は予定をいれなかった。
土曜日の夕方、林森さんと優樹菜さんと待ち合わせをした。
「元気だった?香月さん。」
「はい。久しぶりです。この間は楽しかったです。」
そう言い切った。出来たら振り返らないでほしいけど。
「今日も楽しく飲もうね。」
林森さんは一歩引いて後ろにいる。
本当にちょっとしか接点がないはずなのに、不思議な縁ができてしまった。
優樹菜さんと話をしながら歩く。
今日も二人が選んだお店につれていってもらう。
お酒を頼んで料理も頼んで。
割と遠慮がない三人だ。自分の好きなものを頼んでる。
私はすっかり美味しいものを食べて、しかもお金も払ってなくて、だからこんな時はそういった意味では贅沢気分ができる。
だって一人で部屋で食べることが多くて、ランチ代はすごく浮いてる。
休憩のコーヒーも無料だし。
「ねえ、新しい彼氏ができたの?」
優樹菜さんにそう聞かれて、私は当然林森さんを見た。
「新山さんの友達がいろいろと話をしてたから聞こえたんだ。でもすごく楽しそうな顔をしてたからきっとバレるよね、周りにも。」
周りと言ったら今は専務しかいない。
それは自分は専務には言いつけてないって言う言い訳を含んでいるのだろうか?
「どんな人?」
優樹菜さんを見た。
林森さんの事が大好きな優樹菜さん。
その後輩の私にも良くしてくれるんだから。
私はチョコレートと比べたり、今週の予定と比べたり・・・・。
「友達の彼氏の友達です。いい人で、まだ友達です。週末に一緒に食事をするくらいです。」
「でも会いたいって言われるんでしょう?思うんでしょう?」
そう言われた。それは寂しかったし、空っぽの予定が埋まるならうれしいし。
「まだ・・・友達です。」
そう言い切った。
手をつなぐけど、時々。
そんな関係。
前ほど鼻歌も出ない今。
あ~あ、やっぱり自分に何でって聞きたい。
微妙だなあ。
「そうなんだ。香月さん、意外に優柔不断?優しい男より強引に攻めて来るタイプの方が向いてる?前の彼氏も優しかったとは言ってたよね。」
そんな話はした。
後輩にとられた話までしたんだから。
「優しい男の人も分からないです。」
「そうだね。そんな人はこっちで操縦した方が楽だよ。」
そう言って林森さんを見た優樹菜さん。
それはうらやましい感じだった。
だって林森さんも自覚があるみたいでヘラッと笑ってるし。
「なかなかです。」
恋愛はそんなに簡単じゃないよね。
でもそんないきさつも経験だし思い出だし。
必ずうまくいくとは限らないけど、ちょっとドキドキして、ちょっと楽しみで、ちょっと不安で。だから上手くいったら有頂天のハッピーパーソンで幸せな気持ちになって。
お酒も食事も進んでる。
自分が頼んだものも、他の二人が頼んだものも遠慮なく手を伸ばす。
優樹菜さんが荷物を持って席を立った。
隣で今日は大人しめの林森さん。
「新山さん、これで最後にしたいんだけど・・・・大地はダメだった?」
そう聞かれたのは珍しくマジモードだった。
「俺が悪いのかな・・・結構背中を押したんだ、相談されてからは大丈夫だよって背中を押したんだよね。ダメだったかな?」
「私は専務の相手になるようなタイプじゃないです。最後に自分が傷つくのが分かってるのに、そんな人の相手になりたいとは思いません、私には無理です。それは直接お伝えしました。きっとわかってくれてると思います。」
「それが大地に対する気持ちなの?最後って言うのがよく分からないけど・・・。」
「それは・・・恋愛の仕方が違うんです、立場が違うんです。」
「・・・・本当の気持ちが聞きたいと、そう思ったんだけど・・・よく分からないな。」
分からないと言われたら私も分からないことだらけ、でも、それでも理解できないわけないじゃない。
だって立場だよ、専務なんだよ、全然違うじゃない。
やっぱりあの噂を知らないの?
知らなくても分かるんじゃない?
私の気持ちなんて本当にちょっとしか参考にならない、いくらそう思っても、今が良ければいいと思えても、やっぱり先がない、やっぱり・・・・無理。
なにより仕事が・・・会社の人なんだし、私は数字に追いかけられる夢を見ながらでも、できたらずっと働きたい。
「ねえ、本当にお節介だけど、二人とも楽しくいられるのが一番だし、先の事は僕も何も言えないけど、大地の気持ちは無視しないで・・・。・・・・本人ももう遅いだろうって言ってたけど、そうは思えなくて・・・・ごめんね。本当に最後にする。信じてるから。」
信じてるって、何を?
ずっと外から見て、真ん中にいてくれた人。
だって二人のお互いの愚痴を聞いてるんだし、だからすれ違った最初の誤解はすぐに解いてくれた。
そのくらいのすれ違いなら簡単に修正できたけど。
さすがに無理なこともある。
「あれ、どうしたの?眠い?疲れてる?」
帰ってきた優樹菜さんは本当に可愛いし、明るい笑顔だった。
こんな笑顔でいてくれるならダラダラを怒られても立ち上がるよね。
「大丈夫です。ちょっと休憩してました。」
つられて笑顔が出るくらい。
専務を愛想なしと責める前に私だって笑顔はごくまれだったかもしれない。
だからたまに向けると表情を止められたんだろう。
そうか・・・・・お互い様なんだ。
反省すべきところだろうか?
新しいお酒を頼んでもらい、やっぱり愚痴を言いながら酔っぱらった。
相変わらずの林森さんへの愚痴に私も乗っかり、すべてを専務に言いつけてることもここぞとばかりに責めた。
それでもへらへらと謝ることもされず、楽しそうな顔をしてたのは何で?
結局謝ってもらってないんだから。
その内やっぱり専務への愚痴になり。
「だいたいおかしいです。雨に濡れたからすごく心配してたんです。ランチも取らずに机に突っ伏して寝ていたから。それなのにいきなり・・・・。」
「熱があってぼんやりしてたからって許されることと許されない事はあります、セクハラです。だけど専務にとってはちょっとしたことだろうし、忘れてあげようと努力したんです。」
「あの時にびっくりしても逃げなかったのが悪かったと、自分にもビックリして反省してたから。経験の差があるんですから、その辺は分かってもらわないと。それでもふらふらと熱のある専務を突き飛ばしましたけど。」
「怪我をされなくて良かったです。そこはちょっとだけ反省でした。」
「もう、変な思い出ばかりです。誰にも言えないです、こんなこと。」
「なんだか近い内に下に降ろされそうなんです。その時はまたよろしくお願いします。」
林森さんがぼんやりこっちを見てたので挨拶をした。
一番仲良しの先輩みたいになってる。
優樹菜さん込みでそうなってる。
「あとは西坂さんを好きになれて、仲良くなれたらいいです。綺麗に忘れられます。良かったです。」
笑顔で締めくくった。
笑顔のない二人。
結局また私の愚痴を聞かせた。
懲りない私と・・・今度こそ懲りただろう二人。
今回もスッキリしたつもりなのに笑顔のまま涙が出た。
最近お酒が変に作用するんだろうか?
ポケットからハンカチを出して俯いて。
静かになった二人と一緒に無言になった。
さすがに申し訳ないと思って自分から席を立った。
涙は落ち着いていた。それでも明らかに泣きがらみが入った顔で恥かしい。
トイレに無事にたどり着くまで顔をあげずにいた。
誰もいなくて助かった。
鏡で顔をのぞいて、普通の振りして化粧直しをした。
誤魔化せるレベルだろう。
トイレに入り、少し時間をおいて戻った。
二人がグラスを手に笑っていたのでそのまま入り込んだ。
優樹菜さんが報告してくれたうれしい事。
そろそろ林森さんの面倒を見る決心ができたらしい。
そう言って笑う。
「私の実家に挨拶に行く前に背筋を伸ばしてもらわないとね。」
その横ですっと背筋を伸ばした林森さん。
「もしかしてその報告会だったんですか?」
笑ってそう言ってみた。
「もう、私の失恋話が前振りになったじゃないですか。大体さっきまで優樹菜さんも林森さんの愚痴を言ってたのにずるいです。」
「覚悟を決めてもやっぱり愚痴は出るのよ。またたまったらお互いに言い合おうね。」
「分かりました、私もたんまりと聞いてもらえるように新しい恋の惚気のような愚痴をためておきたいです。」
「面白そう。」
そう思ってくれるならいいです。
今度こそ泣きも入らずに笑って言いたいです。
それでも怒りながら西坂さんの愚痴を言ってる私の姿は思い浮かばない。
やっぱり上のフロアで仕事をしてる自分が愚痴る姿が浮かんだ。
惚気はなしか・・・・。
それは本気の愚痴だろう。じゃあ、その内容は・・・・・。
まあ、いいや。
十分に飲んで食べて愚痴って。
お開きになった。
本当にいい人なんだ二人とも。大好きだ。
「じゃあ、また誘うからね。香月ちゃんも遠慮なく誘ってね。」
こんな酒癖の悪いらしい私に優しい優樹菜さん。
どうしようもない妹分になったみたい。
「うれしいです、大好きです、ありがとうございます。」
林森さんがいなくて、トイレを済ませてるんだろうかと思ってた。
お店で行ってないかもしれない。
私が席を外した時に行ってなければ行ってない。
「いろいろあるよね。」
「ありますね。」
「後悔はしたくないんだよね。」
「してるようには見えませんし、する予定もなさそうですよ。」
「でも先は分からないじゃない?ものすごくハイスペックな人に来年あたり出会ったらどうしよう。遅かった~とか早まった~とか思いそうじゃない。」
「そんな未来にも出会いを期待できるなんてうらやましいです。私は無理です。」
「なんで?まだ若いんだから先は長いよ。」
「残念ながらそれ以外の問題です。」
「ないない、そんな問題なんてなんにもないよ。」
幸せな人は優しい。余裕がある人は優しい。
林森さんがもし優樹菜さんに出会ってなくて寂しい人だったら、専務の相談にこんなに親身にのってた?
私の泣き言に二回も付き合ってた?
だって重たいよね、面倒だよね、うっとうしいよね。
でも優しい人なのかもしれない。
だから優樹菜さんがずっと面倒を見ようと思ったんだろう。
林森さんが帰ってきた。
林森さんにかぶさりもう一人の姿があった。
最初は気が付かなかった。
普段着の姿は想像もしてなかった。
スーツ以外本当にイメージもなかったし、ここに現れる人でもないし。
偶然なわけはない。
そして今更合流するつもり?
またねって、今も優樹菜さんと言い合ってたし、もうお開きなのに・・・。
びっくりして、近寄ってくるその姿を見ていた。
笑顔の林森さん。
また報告したの?筒抜けだから止めると何度も思ったのに、また愚痴ってしまって。
だからって、こんなにすぐに?また知らせたの?呼び寄せたの?
「じゃあ、僕たちは帰るけど、だいぶんお酒を飲んだし心配だから、近くにいたから送ってもらうといいよ。」
「そうね。じゃあ、お先に、バイバイ。」
優樹菜さんと専務は初対面だろうに、挨拶も一言くらいしかなかった。
そして二次会も予定通りなし。
酔いも醒めたはずの私は上司に預けられた形になった。
私服の上司に・・・・時間外です・・・・。
二人が去って行った後姿をぼんやり見ていた。
土曜日の夕方、林森さんと優樹菜さんと待ち合わせをした。
「元気だった?香月さん。」
「はい。久しぶりです。この間は楽しかったです。」
そう言い切った。出来たら振り返らないでほしいけど。
「今日も楽しく飲もうね。」
林森さんは一歩引いて後ろにいる。
本当にちょっとしか接点がないはずなのに、不思議な縁ができてしまった。
優樹菜さんと話をしながら歩く。
今日も二人が選んだお店につれていってもらう。
お酒を頼んで料理も頼んで。
割と遠慮がない三人だ。自分の好きなものを頼んでる。
私はすっかり美味しいものを食べて、しかもお金も払ってなくて、だからこんな時はそういった意味では贅沢気分ができる。
だって一人で部屋で食べることが多くて、ランチ代はすごく浮いてる。
休憩のコーヒーも無料だし。
「ねえ、新しい彼氏ができたの?」
優樹菜さんにそう聞かれて、私は当然林森さんを見た。
「新山さんの友達がいろいろと話をしてたから聞こえたんだ。でもすごく楽しそうな顔をしてたからきっとバレるよね、周りにも。」
周りと言ったら今は専務しかいない。
それは自分は専務には言いつけてないって言う言い訳を含んでいるのだろうか?
「どんな人?」
優樹菜さんを見た。
林森さんの事が大好きな優樹菜さん。
その後輩の私にも良くしてくれるんだから。
私はチョコレートと比べたり、今週の予定と比べたり・・・・。
「友達の彼氏の友達です。いい人で、まだ友達です。週末に一緒に食事をするくらいです。」
「でも会いたいって言われるんでしょう?思うんでしょう?」
そう言われた。それは寂しかったし、空っぽの予定が埋まるならうれしいし。
「まだ・・・友達です。」
そう言い切った。
手をつなぐけど、時々。
そんな関係。
前ほど鼻歌も出ない今。
あ~あ、やっぱり自分に何でって聞きたい。
微妙だなあ。
「そうなんだ。香月さん、意外に優柔不断?優しい男より強引に攻めて来るタイプの方が向いてる?前の彼氏も優しかったとは言ってたよね。」
そんな話はした。
後輩にとられた話までしたんだから。
「優しい男の人も分からないです。」
「そうだね。そんな人はこっちで操縦した方が楽だよ。」
そう言って林森さんを見た優樹菜さん。
それはうらやましい感じだった。
だって林森さんも自覚があるみたいでヘラッと笑ってるし。
「なかなかです。」
恋愛はそんなに簡単じゃないよね。
でもそんないきさつも経験だし思い出だし。
必ずうまくいくとは限らないけど、ちょっとドキドキして、ちょっと楽しみで、ちょっと不安で。だから上手くいったら有頂天のハッピーパーソンで幸せな気持ちになって。
お酒も食事も進んでる。
自分が頼んだものも、他の二人が頼んだものも遠慮なく手を伸ばす。
優樹菜さんが荷物を持って席を立った。
隣で今日は大人しめの林森さん。
「新山さん、これで最後にしたいんだけど・・・・大地はダメだった?」
そう聞かれたのは珍しくマジモードだった。
「俺が悪いのかな・・・結構背中を押したんだ、相談されてからは大丈夫だよって背中を押したんだよね。ダメだったかな?」
「私は専務の相手になるようなタイプじゃないです。最後に自分が傷つくのが分かってるのに、そんな人の相手になりたいとは思いません、私には無理です。それは直接お伝えしました。きっとわかってくれてると思います。」
「それが大地に対する気持ちなの?最後って言うのがよく分からないけど・・・。」
「それは・・・恋愛の仕方が違うんです、立場が違うんです。」
「・・・・本当の気持ちが聞きたいと、そう思ったんだけど・・・よく分からないな。」
分からないと言われたら私も分からないことだらけ、でも、それでも理解できないわけないじゃない。
だって立場だよ、専務なんだよ、全然違うじゃない。
やっぱりあの噂を知らないの?
知らなくても分かるんじゃない?
私の気持ちなんて本当にちょっとしか参考にならない、いくらそう思っても、今が良ければいいと思えても、やっぱり先がない、やっぱり・・・・無理。
なにより仕事が・・・会社の人なんだし、私は数字に追いかけられる夢を見ながらでも、できたらずっと働きたい。
「ねえ、本当にお節介だけど、二人とも楽しくいられるのが一番だし、先の事は僕も何も言えないけど、大地の気持ちは無視しないで・・・。・・・・本人ももう遅いだろうって言ってたけど、そうは思えなくて・・・・ごめんね。本当に最後にする。信じてるから。」
信じてるって、何を?
ずっと外から見て、真ん中にいてくれた人。
だって二人のお互いの愚痴を聞いてるんだし、だからすれ違った最初の誤解はすぐに解いてくれた。
そのくらいのすれ違いなら簡単に修正できたけど。
さすがに無理なこともある。
「あれ、どうしたの?眠い?疲れてる?」
帰ってきた優樹菜さんは本当に可愛いし、明るい笑顔だった。
こんな笑顔でいてくれるならダラダラを怒られても立ち上がるよね。
「大丈夫です。ちょっと休憩してました。」
つられて笑顔が出るくらい。
専務を愛想なしと責める前に私だって笑顔はごくまれだったかもしれない。
だからたまに向けると表情を止められたんだろう。
そうか・・・・・お互い様なんだ。
反省すべきところだろうか?
新しいお酒を頼んでもらい、やっぱり愚痴を言いながら酔っぱらった。
相変わらずの林森さんへの愚痴に私も乗っかり、すべてを専務に言いつけてることもここぞとばかりに責めた。
それでもへらへらと謝ることもされず、楽しそうな顔をしてたのは何で?
結局謝ってもらってないんだから。
その内やっぱり専務への愚痴になり。
「だいたいおかしいです。雨に濡れたからすごく心配してたんです。ランチも取らずに机に突っ伏して寝ていたから。それなのにいきなり・・・・。」
「熱があってぼんやりしてたからって許されることと許されない事はあります、セクハラです。だけど専務にとってはちょっとしたことだろうし、忘れてあげようと努力したんです。」
「あの時にびっくりしても逃げなかったのが悪かったと、自分にもビックリして反省してたから。経験の差があるんですから、その辺は分かってもらわないと。それでもふらふらと熱のある専務を突き飛ばしましたけど。」
「怪我をされなくて良かったです。そこはちょっとだけ反省でした。」
「もう、変な思い出ばかりです。誰にも言えないです、こんなこと。」
「なんだか近い内に下に降ろされそうなんです。その時はまたよろしくお願いします。」
林森さんがぼんやりこっちを見てたので挨拶をした。
一番仲良しの先輩みたいになってる。
優樹菜さん込みでそうなってる。
「あとは西坂さんを好きになれて、仲良くなれたらいいです。綺麗に忘れられます。良かったです。」
笑顔で締めくくった。
笑顔のない二人。
結局また私の愚痴を聞かせた。
懲りない私と・・・今度こそ懲りただろう二人。
今回もスッキリしたつもりなのに笑顔のまま涙が出た。
最近お酒が変に作用するんだろうか?
ポケットからハンカチを出して俯いて。
静かになった二人と一緒に無言になった。
さすがに申し訳ないと思って自分から席を立った。
涙は落ち着いていた。それでも明らかに泣きがらみが入った顔で恥かしい。
トイレに無事にたどり着くまで顔をあげずにいた。
誰もいなくて助かった。
鏡で顔をのぞいて、普通の振りして化粧直しをした。
誤魔化せるレベルだろう。
トイレに入り、少し時間をおいて戻った。
二人がグラスを手に笑っていたのでそのまま入り込んだ。
優樹菜さんが報告してくれたうれしい事。
そろそろ林森さんの面倒を見る決心ができたらしい。
そう言って笑う。
「私の実家に挨拶に行く前に背筋を伸ばしてもらわないとね。」
その横ですっと背筋を伸ばした林森さん。
「もしかしてその報告会だったんですか?」
笑ってそう言ってみた。
「もう、私の失恋話が前振りになったじゃないですか。大体さっきまで優樹菜さんも林森さんの愚痴を言ってたのにずるいです。」
「覚悟を決めてもやっぱり愚痴は出るのよ。またたまったらお互いに言い合おうね。」
「分かりました、私もたんまりと聞いてもらえるように新しい恋の惚気のような愚痴をためておきたいです。」
「面白そう。」
そう思ってくれるならいいです。
今度こそ泣きも入らずに笑って言いたいです。
それでも怒りながら西坂さんの愚痴を言ってる私の姿は思い浮かばない。
やっぱり上のフロアで仕事をしてる自分が愚痴る姿が浮かんだ。
惚気はなしか・・・・。
それは本気の愚痴だろう。じゃあ、その内容は・・・・・。
まあ、いいや。
十分に飲んで食べて愚痴って。
お開きになった。
本当にいい人なんだ二人とも。大好きだ。
「じゃあ、また誘うからね。香月ちゃんも遠慮なく誘ってね。」
こんな酒癖の悪いらしい私に優しい優樹菜さん。
どうしようもない妹分になったみたい。
「うれしいです、大好きです、ありがとうございます。」
林森さんがいなくて、トイレを済ませてるんだろうかと思ってた。
お店で行ってないかもしれない。
私が席を外した時に行ってなければ行ってない。
「いろいろあるよね。」
「ありますね。」
「後悔はしたくないんだよね。」
「してるようには見えませんし、する予定もなさそうですよ。」
「でも先は分からないじゃない?ものすごくハイスペックな人に来年あたり出会ったらどうしよう。遅かった~とか早まった~とか思いそうじゃない。」
「そんな未来にも出会いを期待できるなんてうらやましいです。私は無理です。」
「なんで?まだ若いんだから先は長いよ。」
「残念ながらそれ以外の問題です。」
「ないない、そんな問題なんてなんにもないよ。」
幸せな人は優しい。余裕がある人は優しい。
林森さんがもし優樹菜さんに出会ってなくて寂しい人だったら、専務の相談にこんなに親身にのってた?
私の泣き言に二回も付き合ってた?
だって重たいよね、面倒だよね、うっとうしいよね。
でも優しい人なのかもしれない。
だから優樹菜さんがずっと面倒を見ようと思ったんだろう。
林森さんが帰ってきた。
林森さんにかぶさりもう一人の姿があった。
最初は気が付かなかった。
普段着の姿は想像もしてなかった。
スーツ以外本当にイメージもなかったし、ここに現れる人でもないし。
偶然なわけはない。
そして今更合流するつもり?
またねって、今も優樹菜さんと言い合ってたし、もうお開きなのに・・・。
びっくりして、近寄ってくるその姿を見ていた。
笑顔の林森さん。
また報告したの?筒抜けだから止めると何度も思ったのに、また愚痴ってしまって。
だからって、こんなにすぐに?また知らせたの?呼び寄せたの?
「じゃあ、僕たちは帰るけど、だいぶんお酒を飲んだし心配だから、近くにいたから送ってもらうといいよ。」
「そうね。じゃあ、お先に、バイバイ。」
優樹菜さんと専務は初対面だろうに、挨拶も一言くらいしかなかった。
そして二次会も予定通りなし。
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