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18 最後のセリフはまだまだ言えそうにない、今。
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「眠いです。やっぱり飲み過ぎました。」
「今さら遅い。」
「・・・飲ませたのは専務です。・・・・お休みなさい。」
暗がりに見えたベッドに図々しくもぐり込んで挨拶をした。
最高の寝心地はここにもあった。
やっぱいい寝具を使ってるんだろう、過去の彼女たちも満足だっただろう・・・・・。
そう思ったら目が開いた。
すごい顔の専務が真上から見下ろしているのに気がついて、びっくりした。
「・・・・どうしましたか?」
「今本気で寝る気だったな。」
「眠いって言ったじゃないですか。寝心地良さそうです。」
感想は言った、私だけの感想だ。他の人の言葉は知らない。
「昨日あれを準備して、今日もずっと電話を待ってた俺の気持ちが少しも分からないのか?」
「そこは知りませんでしたから。文句は林森さんに言ってください。」
「やっと連れてきて、想像とはまったく違う展開でもなんとか軌道修正してここまで来たのに。」
「どんな展開を想像してたんですか?」
「あの二人の前で見せるくらい素直に気持ちを言って泣きじゃくるお前を想像してたのに。ただの酒癖なのか?」
「それは・・・私に聞かれても。」
「可愛がるってさっき宣言したのに。」
「捨て犬と一緒にしないでください。」
「目が似てた、思い出す、見上げてくる目が似てたんだよ。」
丸い黒い瞳はたいていの動物が共通だ。
瞼が下から綴じるような蛇でも目は丸い、複雑構造のトンボだって一応丸かった・・・かな?
腰に手が来て体の側面がくっついた。
「後少しくらい起きてても死ぬわけじゃないから。」
当たり前だ。
首の下に手をいれられて、そのまま顔を固定されてキスをされた。
もはや押し返す気力もなく、そのままでいた。
ゆっくり自分の手が専務の腰にいって向きを変えて横向きで向き合った。
眠気は少し遠のいた。
そこは本当に簡単にそうなるらしい。
キスをするたびに印象が変わる。
今日だけでも三種類。
廊下での怒りのキスと優しいキスと、情熱的な今。
広いベッドなのに真ん中に重なるようにいるから、余った部分が多いだろう。
耳元で名前を呼ばれた。
「香月、好きだ。」
初めて言われた。
答えたくても言葉にならない。
落ち着かない手が触るところに熱を持つ。
腰にも、胸の下にも。
じらされるように動くその手がやっとパジャマの下にもぐり込んできた。
専務のパジャマもずり上げるように脱いでもらった。
先に脱がせてしまったら、じっと見られたから体を浮かせて同じように脱がせてもらった。
「やっとここまでだ。シャワーの後すぐにたどり着く予定だったのに。パジャマなんて着るつもりもなかったのに。」
ぼやく専務。その表情は怒ってる風にも見える。
「風邪を引きますから。」
そう言ったらじっと見下ろされた、明らかに体を、何もつけてない体を。
暗いだろうけど、急いで手を胸に当てるように隠した。
「しょうがない、暖めてやる。風邪を引いたら林森がこっちに理由を聞いてくるだろうからな。」
風邪をひくのは専務だ、シャワー後の半裸の話をしてたのに。
それでも体は暖かい手を心地よく思い、触れられたところから熱くなるからすぐに体は暖まった。
自分の手はとっくに胸を離れて専務の背中にあった。
その手を腰に下ろす。
本当に程よく引き締まった体に嫉妬しそうになる。
副社長ほど貫禄がある肉付きだったら、少しは魅力も削がれるのに。
しつこく腰のくびれを触り続けていたらしい。
「くすぐったい。」
手を動かされた。お尻に。パジャマのお尻だ。
こっちも引き締まってる。
専務の顔が胸におりてきて、お尻が遠くなった。
やっと胸を包まれてゆっくりゆすられる。
キスが下りてきて自分でも専務の頭に手をやって引き寄せた。
甘く漏れていた吐息に声が混ざる。
専務の頭に顔を寄せて声を小さくする。
押し付けるようにしていた専務の頭が激しく動くと大人しくはしてられなくて。
わざと音を立てるようにキスをされて、先端を転がされて、舐められる。
「せんむ・・・・・・。」
「やめろ、名前をよんで・・・・。」
「んんっ、ああっ・・・・。」
腰におりてきた手と巻き付けられた脚を感じる。
パジャマの中に入り込んできた手の熱を肌で感じて。
腰を浮かした。
放り投げられたものと、専務の脱いだもの。
パサッと音がした。
見つめ合うことしばし。
「最初からそんな顔を見せてほしかった。」
満足そうに笑う。
あの頃見てた笑顔じゃないけど、今は自分にだけ向いてると分かる。
引き寄せた顔にキスをした。
そのまま上にかぶさりキスをして、つい言ってしまった。
「大好きです。」
そう言ってしまって後悔した。
手を離してそのまま横になった。
「知ってる。」
そう言われた。
急に離れた私にくっついて、頭を撫でる専務。
「それが聞きたかった。知ってても、聞きたかった。」
自分が言った言葉にとらわれる。
自分の口から出た言葉が耳に戻ってきて私の心の中にしっかりと根付いた感じだ。
無視できない。
かなり無理をしないと、無視できないくらいしっかりとそこにある。
後悔する日が来るのを怯えて待つことになるんだろうか?
その時になったら大人っぽい態度で綺麗にさよならが言えるんだろうか?
「感動じゃないなら、どうして泣く必要がある?」
さっきまで体を駆け巡っていた熱が全部涙で出て行きそうになってる。
言ったすぐ後かから後悔してる、怯えてるとも言う。
結局専務の予想通り泣きじゃくり胸を借りることになった。
それがベッドの中だった。
言葉でなら何度でも慰めてくれるだろう。
だってさっき伝えたばかりだし。
まだまだ新鮮な二人の状態だし。
「信じろ。」
そう言われた。
うなずいた、言葉の分はうなずいた。
終わりが来るまで信じることにした。
その優しさが私に向いてると思ってる間は信じる。
そう決めた。
やっぱり優しいキスは廊下での二度目のキスと同じ感じだった。
さっきとは違う。
でも何度も繰り返されたら物足りなく思えて、自分から攻めた。
キスをしながら足を絡めて腰を合わせて胸をぴったりとくっつけた。
気がついたら仰向けになって重なって、体を揺らされて声をあげていた。
「本当に油断できないな。」
そう言って離れた専務が、準備をして抱き寄せられた。
ゆっくり指を沿わされた。
さっきので随分恥ずかしいことになってるのに、さらに奥まで行きゆっくりと指を動かされる。
さっきと同じくらい声を出して、自分の立てる音を消す。
「俺も入りたい。」
そう言って指を抜かれた隙間に専務が入りこんできた。
離れないように足を巻き付けたら腰を引かれた。
「待てっ。」
犬じゃないのに。
「待てない。」
そう言ったら分かったと言われた。
ベッドに沈むくらい押されるように突き上げられた。
思わず目が開いた。
暗い中でも目が合ったかもしれない。
でもすぐに目を閉じたからほんの一瞬だけ。
自分の音と専務がぶつかってくる音がする。
専務の声も聞こえる。
自分の声が細くなるころはもっと聞こえた。
一緒に行けたと思う。
体を離されて、もっとベッドに沈んだ。
抱きしめられて、上掛けをかけられて。
汗と涙でぐしょぐしょになったかもしれない。
それでも専務の匂いがする。
自分じゃない匂いがするその胸にくっついて眠った。
頭に優しい暖かさを感じて目が覚めた。
専務の首が目の前にあって。
目を開けた途端ビックリしたけど、すぐに力を抜いた。
何時だか分からないけど、お休みだから大丈夫だろう。
頭に専務の吐く息がかかってるのかもしれない。
まだ寝てるなら起こさないように動かずにいよう。
目を閉じてゆっくり昨日の事を思い出す。
始まったことは最後には終わりが来る。
それがどのくらい続くのか、分からない。
今は望んで近くにいる、それが許されるけど。
あれは単なる噂だと言った専務。
いろんな人に手を出す人、そして綺麗に別れられる人。
どんな事実があればそんな事が噂になるんだろう?
前の前の秘書も副社長から慣れない専務仕事のために手伝ってもらったと言った。
だから短い間に退職になったんだろう。
副社長の方が次の候補を早々と決めていたから、少しだけ専務の方の手伝いに行かせた。
そんなところだろう。
そして次の人は言われてる通り、噂通りみたいだ。
社内には相手はいないと言った。
確かに辞めることはない人だ。
だから社内に敵がいるよりは味方がたくさんいた方がいいだろうし、余計な噂なんて御免だろう。
じゃあ・・・私は?
社外の人はそれなりにと言った。
それはそうだろう。
平社員だったとしてもそれなりに爽やかには振舞えるし、ここに連れてきたらちょっとお金持ちかなとはわかるかもしれない。
別にそれ以前でもアプローチはされそうだし。
それなりだったんだろう。
林森さんだって優樹菜さんに会うまでに何人も、優樹菜さんだって愚痴の数から行くと数人・・・・当たり前だ。
そう考えると専務が私の二人目になって過去になるのも当たり前だ。
誰もがそれなりの別れを経験する。
一度目の裏切りがつらかった記憶で、彼氏と友達の裏切りのような扱いにダブルのショックがあっていい思い出も吹き飛んだ時期があった。
でも今思い出しても優しい人だったのは覚えてる。
愚痴は言っても優しくていい人だった。
だから後輩も好きになったんだろう。
だから相談に乗ってるうちに・・・・。
もういい。誰にでも起こる事だからと思えば、乗り越えられない山はない・・・・過去にならない別れはないって思うしかない。
「何で朝からため息ばかりつくんだ?」
上から声がした。
離れて顔をあげた。
「すみません、起こしてしまうほどうるさかったですか?」
「先に起きてたけど。」
「私も少し前に起きてましたよ。」
「その前に起きてたけど。おでこにキスしたくらいじゃ起きないらしいな。」
そう言われておでこに手を当てた。
別にだからと言ってどうということもないけど。
「じゃあ、二番目に起きました。」
「だな。」
別に早起き自慢したいわけじゃない。
微動だにしないでいたら気が付かないし、起こさないようにじっとしてたんだから。
「で、ため息は何?」
「お腹空いたなあって思ってました。」
「で、本当は?」
「何で嘘だと思うんですか?」
「『それなり』とか『しょうがない』とか後は・・・何だったか。とりあえず『お腹空いた』なんて少しも聞こえなかったけど。」
つい口に出ただろうか?全部じゃないらしい。
「『昨日はそれなりによかったなあ、まああのくらいのレベルかあ、しょうがないかあ。』って言う感想じゃない事を祈る。」
「・・・何言ってるんですかっ?」
赤くなる。そんな感想を起き抜けに言うわけない。
「一応言っとかないと、さすがにその愚痴を言われてもあの二人も対処のしようがないだろう。あいつからそんな事を教えられたら俺が恥ずかしいからな・・・いや、情けないかな。」
「言いません、言うわけないです。」
むしろ三人で飲む必要もないから四人でもいいんじゃない?
でもそれはそれで・・・・・何だか恥ずかしいし。
「まあ、やっと起きてくれたんだが、まだまだゆっくりでいいだろう。」
「今何時ですか?」
「早朝。」
七時にはなってないくらいだろうか?
時間を聞いたのに。
それでも引き寄せられた腰の手に素直に近寄ってまたくっついた。
ゆっくり仰向けにされて唇が重なる。
優しいバージョンらしい。
何度か繰り返されるとお互いに息が上がりそんなバージョンじゃなくなった。
最初から体は隙間なくくっついてるから、お互いが欲しがって与えたがってるのは分かる。
専務の腰に手を当てて強く引き寄せて足を絡めたまま自分から揺れる。
キスはとっくに終わって、お互いの腰だけを突き出すように重なって揺れる。
二人で弾むように揺れて声が途切れる。
声をあげながらも手の力を緩めずに欲しがる。
専務の上に乗せられて、足を開いて抱えられる。
起き上がって自分でも腰を動かして勝手にいった。
脱力して、専務にどっしりとのっかり御免なさいとつぶやいた。
背中を撫でられてゆっくり下ろされた。
専務が準備をして待ってる間も下ろされたままうつ伏せでいた。
思ってることと全然違う。
昔の人のとき、たった一年前の事なのに、さっきみたいになったことはない。
もっと静かに愛し合っていた気がする。
それでも満足して幸せを感じて、最後は悲しかった。
大丈夫だろうか?
大人の女性らしく綺麗に『分かりました。』と言える自信が今でもないのに。
「どうした?」
そう聞いてきた声が優しくて、また胸に縋りついた。
全然大人にはなれない。
せっかく大人の隣にいるのに、全くだ。
昨日と同じことをまた繰り返してしまいそうになってる。
「後少しだけこのままでいてください。」
何も答えてもらえなかったけど、しばらくそのままだった。
涙が止まり、顔をあげた。
やっぱり優しいバージョンから始まった。
優しい人はたくさんいるらしい。
きっと他にもいるんだろう。
だって西坂さんだってそうだったから・・・・。
思い出した・・・・私は謝らないといけない。
忘れないように、今日中に・・・・。
「今さら遅い。」
「・・・飲ませたのは専務です。・・・・お休みなさい。」
暗がりに見えたベッドに図々しくもぐり込んで挨拶をした。
最高の寝心地はここにもあった。
やっぱいい寝具を使ってるんだろう、過去の彼女たちも満足だっただろう・・・・・。
そう思ったら目が開いた。
すごい顔の専務が真上から見下ろしているのに気がついて、びっくりした。
「・・・・どうしましたか?」
「今本気で寝る気だったな。」
「眠いって言ったじゃないですか。寝心地良さそうです。」
感想は言った、私だけの感想だ。他の人の言葉は知らない。
「昨日あれを準備して、今日もずっと電話を待ってた俺の気持ちが少しも分からないのか?」
「そこは知りませんでしたから。文句は林森さんに言ってください。」
「やっと連れてきて、想像とはまったく違う展開でもなんとか軌道修正してここまで来たのに。」
「どんな展開を想像してたんですか?」
「あの二人の前で見せるくらい素直に気持ちを言って泣きじゃくるお前を想像してたのに。ただの酒癖なのか?」
「それは・・・私に聞かれても。」
「可愛がるってさっき宣言したのに。」
「捨て犬と一緒にしないでください。」
「目が似てた、思い出す、見上げてくる目が似てたんだよ。」
丸い黒い瞳はたいていの動物が共通だ。
瞼が下から綴じるような蛇でも目は丸い、複雑構造のトンボだって一応丸かった・・・かな?
腰に手が来て体の側面がくっついた。
「後少しくらい起きてても死ぬわけじゃないから。」
当たり前だ。
首の下に手をいれられて、そのまま顔を固定されてキスをされた。
もはや押し返す気力もなく、そのままでいた。
ゆっくり自分の手が専務の腰にいって向きを変えて横向きで向き合った。
眠気は少し遠のいた。
そこは本当に簡単にそうなるらしい。
キスをするたびに印象が変わる。
今日だけでも三種類。
廊下での怒りのキスと優しいキスと、情熱的な今。
広いベッドなのに真ん中に重なるようにいるから、余った部分が多いだろう。
耳元で名前を呼ばれた。
「香月、好きだ。」
初めて言われた。
答えたくても言葉にならない。
落ち着かない手が触るところに熱を持つ。
腰にも、胸の下にも。
じらされるように動くその手がやっとパジャマの下にもぐり込んできた。
専務のパジャマもずり上げるように脱いでもらった。
先に脱がせてしまったら、じっと見られたから体を浮かせて同じように脱がせてもらった。
「やっとここまでだ。シャワーの後すぐにたどり着く予定だったのに。パジャマなんて着るつもりもなかったのに。」
ぼやく専務。その表情は怒ってる風にも見える。
「風邪を引きますから。」
そう言ったらじっと見下ろされた、明らかに体を、何もつけてない体を。
暗いだろうけど、急いで手を胸に当てるように隠した。
「しょうがない、暖めてやる。風邪を引いたら林森がこっちに理由を聞いてくるだろうからな。」
風邪をひくのは専務だ、シャワー後の半裸の話をしてたのに。
それでも体は暖かい手を心地よく思い、触れられたところから熱くなるからすぐに体は暖まった。
自分の手はとっくに胸を離れて専務の背中にあった。
その手を腰に下ろす。
本当に程よく引き締まった体に嫉妬しそうになる。
副社長ほど貫禄がある肉付きだったら、少しは魅力も削がれるのに。
しつこく腰のくびれを触り続けていたらしい。
「くすぐったい。」
手を動かされた。お尻に。パジャマのお尻だ。
こっちも引き締まってる。
専務の顔が胸におりてきて、お尻が遠くなった。
やっと胸を包まれてゆっくりゆすられる。
キスが下りてきて自分でも専務の頭に手をやって引き寄せた。
甘く漏れていた吐息に声が混ざる。
専務の頭に顔を寄せて声を小さくする。
押し付けるようにしていた専務の頭が激しく動くと大人しくはしてられなくて。
わざと音を立てるようにキスをされて、先端を転がされて、舐められる。
「せんむ・・・・・・。」
「やめろ、名前をよんで・・・・。」
「んんっ、ああっ・・・・。」
腰におりてきた手と巻き付けられた脚を感じる。
パジャマの中に入り込んできた手の熱を肌で感じて。
腰を浮かした。
放り投げられたものと、専務の脱いだもの。
パサッと音がした。
見つめ合うことしばし。
「最初からそんな顔を見せてほしかった。」
満足そうに笑う。
あの頃見てた笑顔じゃないけど、今は自分にだけ向いてると分かる。
引き寄せた顔にキスをした。
そのまま上にかぶさりキスをして、つい言ってしまった。
「大好きです。」
そう言ってしまって後悔した。
手を離してそのまま横になった。
「知ってる。」
そう言われた。
急に離れた私にくっついて、頭を撫でる専務。
「それが聞きたかった。知ってても、聞きたかった。」
自分が言った言葉にとらわれる。
自分の口から出た言葉が耳に戻ってきて私の心の中にしっかりと根付いた感じだ。
無視できない。
かなり無理をしないと、無視できないくらいしっかりとそこにある。
後悔する日が来るのを怯えて待つことになるんだろうか?
その時になったら大人っぽい態度で綺麗にさよならが言えるんだろうか?
「感動じゃないなら、どうして泣く必要がある?」
さっきまで体を駆け巡っていた熱が全部涙で出て行きそうになってる。
言ったすぐ後かから後悔してる、怯えてるとも言う。
結局専務の予想通り泣きじゃくり胸を借りることになった。
それがベッドの中だった。
言葉でなら何度でも慰めてくれるだろう。
だってさっき伝えたばかりだし。
まだまだ新鮮な二人の状態だし。
「信じろ。」
そう言われた。
うなずいた、言葉の分はうなずいた。
終わりが来るまで信じることにした。
その優しさが私に向いてると思ってる間は信じる。
そう決めた。
やっぱり優しいキスは廊下での二度目のキスと同じ感じだった。
さっきとは違う。
でも何度も繰り返されたら物足りなく思えて、自分から攻めた。
キスをしながら足を絡めて腰を合わせて胸をぴったりとくっつけた。
気がついたら仰向けになって重なって、体を揺らされて声をあげていた。
「本当に油断できないな。」
そう言って離れた専務が、準備をして抱き寄せられた。
ゆっくり指を沿わされた。
さっきので随分恥ずかしいことになってるのに、さらに奥まで行きゆっくりと指を動かされる。
さっきと同じくらい声を出して、自分の立てる音を消す。
「俺も入りたい。」
そう言って指を抜かれた隙間に専務が入りこんできた。
離れないように足を巻き付けたら腰を引かれた。
「待てっ。」
犬じゃないのに。
「待てない。」
そう言ったら分かったと言われた。
ベッドに沈むくらい押されるように突き上げられた。
思わず目が開いた。
暗い中でも目が合ったかもしれない。
でもすぐに目を閉じたからほんの一瞬だけ。
自分の音と専務がぶつかってくる音がする。
専務の声も聞こえる。
自分の声が細くなるころはもっと聞こえた。
一緒に行けたと思う。
体を離されて、もっとベッドに沈んだ。
抱きしめられて、上掛けをかけられて。
汗と涙でぐしょぐしょになったかもしれない。
それでも専務の匂いがする。
自分じゃない匂いがするその胸にくっついて眠った。
頭に優しい暖かさを感じて目が覚めた。
専務の首が目の前にあって。
目を開けた途端ビックリしたけど、すぐに力を抜いた。
何時だか分からないけど、お休みだから大丈夫だろう。
頭に専務の吐く息がかかってるのかもしれない。
まだ寝てるなら起こさないように動かずにいよう。
目を閉じてゆっくり昨日の事を思い出す。
始まったことは最後には終わりが来る。
それがどのくらい続くのか、分からない。
今は望んで近くにいる、それが許されるけど。
あれは単なる噂だと言った専務。
いろんな人に手を出す人、そして綺麗に別れられる人。
どんな事実があればそんな事が噂になるんだろう?
前の前の秘書も副社長から慣れない専務仕事のために手伝ってもらったと言った。
だから短い間に退職になったんだろう。
副社長の方が次の候補を早々と決めていたから、少しだけ専務の方の手伝いに行かせた。
そんなところだろう。
そして次の人は言われてる通り、噂通りみたいだ。
社内には相手はいないと言った。
確かに辞めることはない人だ。
だから社内に敵がいるよりは味方がたくさんいた方がいいだろうし、余計な噂なんて御免だろう。
じゃあ・・・私は?
社外の人はそれなりにと言った。
それはそうだろう。
平社員だったとしてもそれなりに爽やかには振舞えるし、ここに連れてきたらちょっとお金持ちかなとはわかるかもしれない。
別にそれ以前でもアプローチはされそうだし。
それなりだったんだろう。
林森さんだって優樹菜さんに会うまでに何人も、優樹菜さんだって愚痴の数から行くと数人・・・・当たり前だ。
そう考えると専務が私の二人目になって過去になるのも当たり前だ。
誰もがそれなりの別れを経験する。
一度目の裏切りがつらかった記憶で、彼氏と友達の裏切りのような扱いにダブルのショックがあっていい思い出も吹き飛んだ時期があった。
でも今思い出しても優しい人だったのは覚えてる。
愚痴は言っても優しくていい人だった。
だから後輩も好きになったんだろう。
だから相談に乗ってるうちに・・・・。
もういい。誰にでも起こる事だからと思えば、乗り越えられない山はない・・・・過去にならない別れはないって思うしかない。
「何で朝からため息ばかりつくんだ?」
上から声がした。
離れて顔をあげた。
「すみません、起こしてしまうほどうるさかったですか?」
「先に起きてたけど。」
「私も少し前に起きてましたよ。」
「その前に起きてたけど。おでこにキスしたくらいじゃ起きないらしいな。」
そう言われておでこに手を当てた。
別にだからと言ってどうということもないけど。
「じゃあ、二番目に起きました。」
「だな。」
別に早起き自慢したいわけじゃない。
微動だにしないでいたら気が付かないし、起こさないようにじっとしてたんだから。
「で、ため息は何?」
「お腹空いたなあって思ってました。」
「で、本当は?」
「何で嘘だと思うんですか?」
「『それなり』とか『しょうがない』とか後は・・・何だったか。とりあえず『お腹空いた』なんて少しも聞こえなかったけど。」
つい口に出ただろうか?全部じゃないらしい。
「『昨日はそれなりによかったなあ、まああのくらいのレベルかあ、しょうがないかあ。』って言う感想じゃない事を祈る。」
「・・・何言ってるんですかっ?」
赤くなる。そんな感想を起き抜けに言うわけない。
「一応言っとかないと、さすがにその愚痴を言われてもあの二人も対処のしようがないだろう。あいつからそんな事を教えられたら俺が恥ずかしいからな・・・いや、情けないかな。」
「言いません、言うわけないです。」
むしろ三人で飲む必要もないから四人でもいいんじゃない?
でもそれはそれで・・・・・何だか恥ずかしいし。
「まあ、やっと起きてくれたんだが、まだまだゆっくりでいいだろう。」
「今何時ですか?」
「早朝。」
七時にはなってないくらいだろうか?
時間を聞いたのに。
それでも引き寄せられた腰の手に素直に近寄ってまたくっついた。
ゆっくり仰向けにされて唇が重なる。
優しいバージョンらしい。
何度か繰り返されるとお互いに息が上がりそんなバージョンじゃなくなった。
最初から体は隙間なくくっついてるから、お互いが欲しがって与えたがってるのは分かる。
専務の腰に手を当てて強く引き寄せて足を絡めたまま自分から揺れる。
キスはとっくに終わって、お互いの腰だけを突き出すように重なって揺れる。
二人で弾むように揺れて声が途切れる。
声をあげながらも手の力を緩めずに欲しがる。
専務の上に乗せられて、足を開いて抱えられる。
起き上がって自分でも腰を動かして勝手にいった。
脱力して、専務にどっしりとのっかり御免なさいとつぶやいた。
背中を撫でられてゆっくり下ろされた。
専務が準備をして待ってる間も下ろされたままうつ伏せでいた。
思ってることと全然違う。
昔の人のとき、たった一年前の事なのに、さっきみたいになったことはない。
もっと静かに愛し合っていた気がする。
それでも満足して幸せを感じて、最後は悲しかった。
大丈夫だろうか?
大人の女性らしく綺麗に『分かりました。』と言える自信が今でもないのに。
「どうした?」
そう聞いてきた声が優しくて、また胸に縋りついた。
全然大人にはなれない。
せっかく大人の隣にいるのに、全くだ。
昨日と同じことをまた繰り返してしまいそうになってる。
「後少しだけこのままでいてください。」
何も答えてもらえなかったけど、しばらくそのままだった。
涙が止まり、顔をあげた。
やっぱり優しいバージョンから始まった。
優しい人はたくさんいるらしい。
きっと他にもいるんだろう。
だって西坂さんだってそうだったから・・・・。
思い出した・・・・私は謝らないといけない。
忘れないように、今日中に・・・・。
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