内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)

羽月☆

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2 ちょっと思い出した懐かしい記憶につられて。

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金曜日、言われた時間に行くと浅井さんとうっすら見覚えのあるの女子が二人いた。
他はまだだけど先に行こうということでついていった。

会社から近いレストランの個室、といっても15、6人くらいは入れるだろう。

イタリアンレストランのパーティーパック。
飲み放題90分つき120分コース。

コースを確認された。
徐々に人が集まりほとんど着席した状態で乾杯用のワインが配られた。
当然の様に端の席を選んだら目の前にあのパシリ君がいた。

隣には浅井さん。
とりあえずホッとする席並び。
浅井さんと話をしながらワインを飲み。
時々パシリ君も一緒に話をした。
だって、ちょっと浮いていたから。
やはり端っこは同じ匂いのする者の席ということだろうか?


サラダが運ばれて、パスタが運ばれてきて。

そのうち席はぐちゃぐちゃになった。
浅井さんも呼ばれていなくなった。

仕事の愚痴を言いながら、少しプライベートな話をしていた。
といっても特に披露する話題もなく、ほとんど聞き役だった。

向こうの幹事席の周辺には盛り上がったグループがいた。
向かいにいたパシリ君は石神君らしい・・・いたかも、そんな名前。
研修中、存在した名前は記憶にあるのだが。顔との一致は難しい。
その石神君の目の前のサラダはほとんど減らず、誰かがドリンクの声をあげれば店員さんを呼んだり、料理を受け取ったり、そのたびに空いたグラスや皿を片付けたり。
よく見ると忙しそうだった。
さりげないから目障りにはならず、逆に気が付かれてない?

いいの?それでいいの?

どうせ暇だったので声をかけて座らせた。

私が代わろう。
大体誰もしゃべりに夢中でどうでも良さそうだったし。

「少し食べたら?全然食べてないし、飲んでないよね?」

ちょっときつい言い方になったかもしれない。

何で人の面倒ばかり見るのか。
お前は大家族の長男か!!
そんな気持ちだった。

「ありがとう。喉乾いたかも。」

ただお礼を言われた。
そういってグラスに口をつける。
最初に注いだ乾杯用スパークリングワインだ。

「何か頼む?」

「あ・・・・。」

「一緒に自分の分も頼むから。」

「じゃあ、オレンジジュースを。」

「えっ?」

思わず声が出た。

「飲めないの?」

「そうなんだよ、石神はあんまり飲めないんだよ。だからいつもフレッシュジュースな。」

「うん、そんなに強くないんだ。」

さっきスパークリングワインを一気に飲んでいたし、そうは見えないけど。
勧めたのは悪かった?

さっき話に割り込んで隣に来たのは・・・・誰か。

ちょっと声を張って他の人の注文を聞いた。
静かになってしまった。
誰も声を出さない。

自分の分のお酒と石上君のオレンジジュースを頼んだ。

席に戻るとさっきの隣の誰かが話しかけてきた。

「如月さん、初めてだよね、一緒に飲むの。」

「はい。」

誰だったかなあ。
思い出そうとしながら会話する。

「飲みたかったなあ、一緒に。今日はうれしいなあ。」

そうかいそうかい、どうでもいい。

ああ、無理だ・・・・、名前を思い出す努力も放棄した。

だって明らかにさっきまであっちのグループにいたのだ。
幹事の瀬野尾君が人気一番らしい。
名前は他の女子や男子が呼ぶので分かった。

きっとあの中の女子に目当てがいたんだろうが、あきらめたとか、まあ、そんな感じだろう。

名前も知らない、所属も知らない。話が出来ない。
だから、どうでもいいくらいの誰かさん。

「如月さんは飲めるの?」

「はい、普通くらい。」

「へえ、酔ったらどうなるの?」

「別に。」

何でどうかなるんだ。どうもならない。

「抱きつくとか、脱ぐとか、甘えるとか?」

「・・・・・・。」

下を向く。
やばい。最後の甘えるは出るかもしれない。
本当に心を許した人だけだ。
そういわれた事がある。
思い出すな、恥ずかしい、若い時代の過去のことだ。

下を向いて表情を引き締めて顔を上げる。

「どうもならない。どうかなるの?」

会話を切り返して誤魔化す。

「なる。全部。」

全部とはさっき言った・・・・抱きつく、脱ぐ、甘える・・・。
少し距離をとった。

「あ、今離れたよね、酷いなあ、冷たいなあ。」

何でそんなにうれしそうなんだ?

「なんだかそんなクールなところがいいよね。綺麗だし。」

「そう。」

「ほら、だってそこは否定して照れるところでしょう?」

「別に何といわれても、自分のことは自分が一番分かってるから。」

「クールな美人ってこと?」

「どっちも違うってこと。」

不愛想、とっつきにくい、きつい感じの女、よくそう言われるし自覚もある。

「またまた~。」

軽く肩に手を置かれそうになり、さりげなく・・・ないかもしれないが
正面を向いて体を引いた。

当然びっくりした石神君と目が合った。

「ジュースまた追加する?」

「一緒に頼むけど。」

「じゃあ、俺は・・・・。」

聞いてないが隣の(酒癖悪い)誰かが自分の分を言った。

大人なので無視はしない。
お前が頼んでくれてもいいのだ!そうは思ったが顔にも出さず。

自分の分も入れて三杯追加。

パスタもまだ残ってる。
なのにピザまで来た。
冷えると美味しくないだろうに。

取り皿を持ってきて三枚配る。
空いていた石上君の隣に女子が来た。
皿をもう一枚持ってきた。


「佐賀君、こっちに来たの?ここは静かだね。」

「ああ、梓さん。あそこはうるさいよね。」

佐賀君らしい。梓さんナイスフォロー、一応助かった。
で、梓は下の名前でしたよね、見た気がします・・・、上の名前は・・・ああ、あと少しで出てくる・・・・・無理・・・・。きっとお酒のせいか、研修からずいぶん経ったせいだと思う。

ただ、私が思い出そうが、出せまいが気にされてないらしい。
梓さんがいい加減に酔ってとろんとした目つきになってる。
でもわざとかも。

これは明らかに佐賀君狙い?
分かりやすく漏れてますが、気のせいですか?


「ねえ、佐賀君、来月のライブの前、せっかくだから少しぶらぶらしてご飯食べない?」

「ああ、そうだね。」

ライブ・・・。
ちょっとつぶやいたのが聞こえたのか。

「如月さん、来月、梓さんとライブに行くんだ。すごいレアなライブなんだ。」

「へぇ~、誰?」

話はつなぐ。本当に静かだと自分の適応能力を疑われる。
男子はいいとして、女子には少しは友達が欲しいとは思ってるから。
佐賀君が話を続けてくれる。

「知ってるかなあ・・・・。」

そう言われたバンド、たまたま知っていた。


大学生の頃バイトでカラオケ屋で3年働いた。
あそこは最低限の愛想のよさでもいいのだ。
それぞれ自分たちの世界に集中してて、店員のことなんて気にしない。

中に同じ曲を振りつきで練習してる男子三人と女子一人のグループがいた。
何度か注文を受けて、全部私がそれに対応した。


女の人に話しかけられた。
昼すぎの空いていた時間帯。
話が止まらない4人。
結局そのバンドのことを早口で10分以上も説明された。
入ったときはまったく知らなかったのに、出てきたときはちょっとした連帯感さえ生まれたくらい。
本当に好きらしい。その熱量に感動もした。


「カラオケでバイトしてるときに聞いたことがある。」

控えめに言った。

「カラオケでバイトしてたの?ナンパされなかった?」

「ない。」

言い切れる、そんな漫画のような話は一度もない。

「え~、おかしいね。僕はうれしいなあ、こんな綺麗な人が来てくれたら。指名するかも。」

「そう。」

「ほら、やっぱりクールな対応。いいなあぁ。」

ライブの話が中断されて梓さんのほうを見れない。
佐賀君がドリンクを手にしたときに正面に向いた。

当然目が合った、また。

「石神君はどんな音楽を聞くの?」

話しかけられないように目の前の石神君を巻き込んだ。

「僕は・・・楽器が好きだから、あんまりボーカル入りは聞かないんだ。」

「何の楽器?」

「トランペット。ブラバンだったんだ。」

「本当?ペット、花形じゃない。上手なの?」

ちょっとテンションが上がる。

「うん・・・・まあ6年やったし、コンクールとかは無縁でも結構真面目に練習したよ。もしかして如月さんもブラバンだったの?」

「うん、私はホルンだった。」

「ああ、納得できるね。」

「なんで?」

「ホルンは金管でも顔が隠れないよね、だから綺麗な人が担当するから。」

てらいもなく言われて顔が赤くなる。
横を向く。
もちろん佐賀君のほうじゃない。

何の企みもないと分かるだけに適当にあしらえない。
私はそこまでクールにはなり切れない。
ちょっと落ち着いて正面を見る。
そんな私の反応もまったく気にしてないみたいだった。
佇まいごと自然だと思う。
パシリも自然、一人も自然・・・・。それはどんなキャラクター?
それでもこの部屋に満ちたにぎやかさの中、同世代にはない落ち着きを心地よくも思った。

「今でもやってるの?」

普通に会話を続ける。まだちょっと顔が熱いけど。

「うん、週末は必ず、平日も少しは。」

「そんなにカラオケルームとか河川敷とかに行くの?あ、スタジオとか?」

「ああ・・・・うん。」

「へえ、いいなあ、欲しいなあ。やっぱりかっこいいよね。」

ぐんと親近感が増す。

「ホルンも優しい音で僕は好きだけど。」

「でもやっぱりペットには負ける。サイレンサーつけた音も好きなんだ。」

「そうだよね、いいよね。」

「上手なら機会があったら聞かせて欲しいくらい。」

「そんな・・・恥ずかしい、普通だよ。」

「クラシック?ジャズ?」

「高校ではジャズもやったんだ。有名な曲は一通り。あとは音源聞いて適当にア
レンジしてる。」

「何、本当にうまいの?」

「ううん。そんな期待するほどじゃないよ。」

照れて否定する。

確かに高校のときブラバン部だった。
トランペットのイケメンが彼氏だった。
すごく好きだった。
いろんな『初めて』もそのトランペットの思い出とあって。
その影響もあるけど、本当にトランペットの音が好きなんだ。
楽器の形や人が持って吹く姿も。
石神君も上手く吹けるなら男ぶりが上がると思う。
本当に見てみたい、聞いてみたい。

「ねえ、神様の音源はコンプリート?」

「もちろん。やっぱりそこはね。」

「もしかしてすごいいいスピーカーで聞いてる?」

彼氏がそうだった。
そんなに広くない部屋に高性能のスピーカーを置いて、誰もが知ってる
トランペットの神様のCDを聞いていた。

「うん、そこは拘った。音楽にはわりとお金かけてる方かも。」

「やっぱり。ペットは自分で希望したの?」

「うん、絶対やりたかったから。」

「そうか。」

私の担当ホルンは先生が決めた。
背の小さい子は木管楽器に。
体が大きい子はもっと大きな金管楽器に。
そんな振り分けだった。

いいなあ~。

「一人暮らし?」

「ううん。家族と住んでる。」

「そうなんだ。」

「如月さんは一人暮らし。」

「うん、もちろん。楽だよ。自由だし。」

「あんまり器用じゃなくて。」

何となくわかる。1人、絡まった洗濯物を釣り上げて困る姿が思い浮かぶ。

「想像出来ちゃった。」

思わず笑顔になる。

「うん、多分想像の通り。」

何が違うんだろう、本当に人を緊張させない人だと思う。
相手に過剰に期待しない感じ。
自然体でいて、だからこっちもそのまま楽に向き合える。
数字で言うと『6』っぽい。
何でと言われても分からないけど柔らかいイメージ。
転がりそうだけど、起き上がりそうな。
『8』とは違う。優しい顔つきがなんとなくそれでもいい感じだけど違う。
まあ、個人的イメージの話です。
今まであんまり他の人の共感を得ない私だけの比喩論。

隣の佐賀君の気配を感じると、梓さんと他の人と喋ってる感じだった。
ちょっとまた楽になった。

『男の気持ちには鈍感でいいけど、女の気持ちは敏感に察しろ。』

私の生きてきた教訓だった。
味方が少ないから敵は作りたくなかったのだ。

何杯目か分からないけどお酒を飲む。
目の前では美味しそうにオレンジジュースからウーロン茶に変えた石神君がいた。

隣から気配が消えた時に聞いた。

「ねえ、本当は飲めるでしょう?」

ちょっと手が止まった。

「あ、別に訳があるならいいの。自由で。ほんと、ちょっと聞いただけ。」

「ううん、別に理由はないんだ。ただ結構皆飲むから誰か素面の人がいた方がいいかなって。そう思っただけ。」

それはすすんでお世話係になろうとしてるって事?
何故?
そう思ったけど聞けなかった。

「そうなんだ。だから他の人が盛り上がれるんだね。」

そう言ったら、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

その笑顔を見て、きっとすごく優しい音を出すんだろうなあって思った。




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